あの熱狂をプレイバック!初のピアソラレパートリーでメンバーの”愛”がさく裂!? フェスティブ・シーズンを華やかに飾った『The Rev Saxophone Quartet Recital 2025』レポート

2026.5.1
レポート
クラシック

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暮れも押し迫る2025年12月28日の日曜日、東京の浜離宮朝日ホールでThe Rev Saxophone Quartet(以下、The Rev)による今年最後のリサイタル『The Rev Saxophone Quartet Recital 2025』が開催された。会場はほぼ満席。フェスティブ・シーズンにふさわしい華やかで大人の色香漂うプログラムの内容もあるのだろうか、いつもよりしっとりとした年齢層の女性が多かったのが印象的だ。

初のピアソラ レパートリーによる前半プログラム

この日の演奏会はThe Rev(上野耕平/宮越悠貴/都築惇/田中奏一朗)のメンバー4人によるアンサンブルに、ピアノの高橋優介を迎えての計5人によるステージ。前半はオール  ピアソラ作品で構成されていたが、意外にもThe Revが公の場でピアソラ作品を演奏するのは今回が初の試みだそうだ。

ではステージを振り返ってみよう。前半オール ピアソラ プログラムの第一曲目は「Decarisimo」(高橋編曲)。わずか数分にも満たないコンパクトな尺に編曲されていたが、ムーディなピアノ・ソロによる序奏に続いて何となく4人のサックス・アンサンブルがあたたかみのあるメロディを奏で始める……という粋な演出も加わり、年の瀬の高揚感に満ちた演奏会にふさわしいオープニングだ。

二曲目は「Oblivion」。この作品も髙橋編曲による。「Oblivion」とは “忘却” と訳されることが多い言葉だが、冒頭からバリトン⇒テナー⇒アルト⇒ソプラノと各楽器特有の色調でソロ旋律を歌い紡ぐ様は、それぞれに映画のワンシーンを思わせ魅了的だった。そして、それらを導くピアノが轟かせる超低音(バス)のしっとりとした深い響きが美しかった。

高橋はこれらの二作品(DecarisimoとOblivion)の編曲にあたって、「バンドネオンとコントラバスの “ユニゾン的な響き” というピアソラ特有の効果を4本のサックス・アンサンブルとピアノ一台でいかにバランスよく表現できるかにエネルギーを注いだ」という談話を披露しており、なかなか興味深かった。

ここでメンバーたちのトーク。企画・構成等の中心的存在であるアルトサックスの宮越が、「個人的にピアソラにあまり興味がなかったので、今まで企画しなかったのですが、内に秘める情熱をサックス4本で表現するのは実にマッチしているな……と今思い直しています」と語りだすと、上野をはじめ、メンバーが次々とピアソラ愛を語りだし、「この日を待っていた!」と言わんばかりの喜びのトークが繰り広げられた。

続いて組曲「ブエノアイレスの四季」(啼鵬 編)。春~バンドネオン特有の歯切れのよいリズム感と響きをサックス4本が見事に再現。火のような激烈な情念と哀愁漂う情緒感の二面性を4人のアンサンブルが一糸乱れぬ呼吸感で聴かせた。

夏~哀愁を漂わせる曲調の中に、アルト、ソプラノが奏でるメロディラインが夏の南米大陸の輝かしくも、気だるい陽射しを感じさせていた。合間にソロ・カデンツァも披露しつつアンサンブル全体を牽引する高橋のピアノも聴きごたえ充分。

秋~それぞれのパートが自由奔放に奏でる旋律一つひとつが妖艶さを漂わせるとともに、芳香のようなものをも感じさせていたのが印象的だった。秋の夜長の妖しい気配を感じさせながらも、それでいて品格のある歌心もまた美しかった。ピアノ・コンチェルトのそれを思わせる華麗なカデンツァがよりいっそう曲全体を格調の高いものにしていた。

冬~冒頭、ピアノが奏でるバッソ・コンティーヌオ的な響きに乗せて、物憂い低音でモノローグ的なメロディラインを奏でるバリトン、テナーの各ソロが、4曲の中で最も抒情性にあふれるこの作品の個性をひと際、印象付けていた。コンパクトな構成の中で、アンサンブル全体がゆったりとしたメロディにおいても、速いパッセージにおいても変幻自在に変容する身のこなしの良さを披露しつつ、一貫して情感あふれる歌を歌い上げたのはさすがだ。

多才さ光る後半プログラム

休憩を挟んでの後半プログラムは、ピアソラよりも半世紀ほど先に生まれたブラジル出身の作曲家 エイトル・ヴィラ=ロボスの「弦楽四重奏曲 第一番」で始まった。上野の解説によると数あるヴィラ=ロボスの弦楽四重奏曲の中でも最も若書きの作品だそうだ。標題が与えられた6つの小作品(楽章といってもよいのだろうか)から構成されるユニークな形式の弦楽四重奏曲だ。

一曲目の「Cantilena」(“口ずさむような歌” の意)は、柔らかな和声感の中にコラール風の聖歌も思わせる独特の曲調だが、子どもの歌のような純朴さを感じさせる演奏が印象的。二曲目のBrincadeiraは “冗談” を意味する言葉。茶目っ気たっぷりのいたずらっ子の様子が音で楽しく表現されていた。

三曲目の「Canto Lirico」は “抒情的な歌” という意味だが、抒情性よりもむしろクリスマスキャロルか讃美歌のような清らかな静謐さの中に、時折、ドキッとするような官能的な和声が入り交じる面白さがある曲だ。4人のアンサンブルが終始あたたかな空気感を醸しだしており、特にソプラノサックスが奏でるボーイソプラノのようなノンビブラートの響きがよりいっそう神聖な雰囲気を引き立たせていた。

四曲目の「Cançoneta」は “小さな歌” というタイトルどおり、序奏のあとに伸びやかで明るい歌が奏でられる。恐らくブラジルの民謡にもとづく旋律だろうが、いかにもヴィラ=ロボスらしい陽気で溌溂としたもので、アンサンブルが奏でる生き生きとした快活なリズムは客席の聴衆をも高揚感へと誘った。

転じて、五曲目の「Melancolia」は “メランコリー(憂鬱)” というタイトルの小作品。各楽器がそれぞれに物憂げで、何となく性格的な描写を感じさせる旋律を弾きあげてゆく面白さは、ある種のストーリーを感じさせ、幻想の世界へと引き込まれてゆくような感覚だった。

最終曲の六曲目は、“跳ね上がる豆のように” というユニークな標題が与えられている。タイトルが表現するとおり、一同、鋭い、しかし軽やかなアクセントを効かせ、カノンのように生き生きと旋律を紡いでゆく。4人のサックス奏者がミニマリスティックに旋律の追っかけっこをしてゆく様は聴いていて微笑ましかった。

6曲全体を通して純朴であたたかみがあふれでており、フェスティブ・シーズンの演奏会にふさわしい、しかし渋いセレクトにThe Revのメンバーの視野の広さと多才さを改めて感じた。

”等身大”の渾身の名演!

後半プログラム最後を飾ったのは、ガーシュイン「パリのアメリカ人」。こちらもThe Revファンにはお馴染みの作曲家・ピアニストの山中惇史による編曲版。それぞれのパートの特性を生かしたソロによる性格的描写の妙ももちろん興味深いが、ピアニストの山中ならではのピアノ・パートの充実ぶりも見事なアレンジだ。この作品の持つ近代性とダイナミズムが、ピアノとサックスというカップリングで思う存分に表現されていた。

演奏する側の5人もその良さとスケール感をストレートに引き出していたのはさすがだ。もともとの原曲オーケストラ版にサックス三台が起用されてはいるという親和性はあるものの、この壮大な作品をサックス4本とピアノで演奏するのは、本来ならば至難の業だろう。それをマジックのように華麗に聴かせてしまうのがこの5人なのだ。

中間部のブルース的なシーンへの移行の間もさすがだ。緩やかな中間部から再び強烈なプレストの旋律を聴かせる後半部では、アンサンブル一人ひとりが冴えわたるテクニックとビートの効いたリズム感で聞かせ、客席を一挙に惹き込んだ。アドリブ的な要素も感じさせるコーダ的なくだりでは、これでもかというくらいにアンサンブル一体となった個性が感じられ、現在の5人の「等身大の演奏が聴けた!」という喜びを感じさせてくれる渾身の名演だった。

全曲演奏が終わると、5人がそれぞれに2026年の抱負を述べつつ、7月12日に浜離宮朝日ホールでのリサイタルについて客席に告知。そして、アンコールの一曲 ピアソラ「アレグロ・タンガービレ」(高橋編曲) で一年の最後を飾る演奏会を終えた。全員、最初から最後までフルスロットルでスリリングさも感じさせる “攻める” 演奏で最後の最後までThe Revらしい情熱あふれる演奏を聴かせてくれた。

取材・文=朝岡久美子 撮影=池上夢貢

公演情報

The Rev Saxophone Quartet リサイタル 2026
「息吹 - Japanese Composers」
 
日程:2026年7月12日(日) 14:00開演(13:30開場)
会場:浜離宮朝日ホール
 
(全席指定・税込):一般¥5,500、学生¥2,500(25歳以下※数量限定)
 
出演:上野耕平(ソプラノサクソフォン)、宮越悠貴(アルトサクソフォン)、都築惇(テナーサクソフォン)、田中奏一朗(バリトンサクソフォン)
 
演奏予定曲
山田耕筰:弦楽四重奏曲 第二番
藤倉大:Reach Out
稲森安太己:ふるさと狂詩曲
坂東祐大:Mutations:A.B.C.
長生淳:サクソフォン四重奏曲
旭井翔一:サクソフォン四重奏曲
 
【主催】朝日新聞社/浜離宮朝日ホール/イープラス
 
▼The Rev Saxophone Quartet Official Site リニューアル!
https://www.therevsq.jp/
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