壁から足?キャンバスを折り曲げただけ?前代未聞の日本画展『日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970』の魅力を学芸員が解説
「これが日本画!?」の言い回しに間違いなし――。日本画の印象を大きく覆すどころか、概念の再定義を求めたくなる驚きの作品の数々が展示される『日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970』が2月7日(土)から5月6日(水・休)まで、京都市京セラ美術館にて開催される。
ちなみに古くから知られる日本画の題材はいわゆる「花鳥風月」が中心。主に墨で描かれる、繊細なものが多かった。しかし戦後、日本画界では伝統的な日本画に滅亡論が飛び出していたのだという。
そんななか、新たな表現を模索しながら作品に「日本画は死なない」という情熱をぶつけ続けたのが、創造美術(1948年創立/現在は創画会として存続)、パンリアル美術協会(1949年創立/2020年解散)、ケラ美術協会(1959年創立/1964年解散)の3つの美術団体。いずれも1940年代以降の京都で誕生し、前衛的な試みに積極的に取り組んだ。同展ではこの3団体の画家と作品にクローズアップ。現代へと連なる日本画のもう一つの系譜を紐解くものとなっている。
●「もしかすると怒られるんじゃないか」という挑戦的な企画
森光彦学芸員
企画した京都市京セラ美術館の森光彦学芸員は、同展について「たとえば創造美術とケラ美術協会の作品を同じ会場に並べるということは、これまであまり見られなかったはず」と挑戦的な内容であるとを話す。
「なぜなら創造美術は、日展(国内最大規模の総合公募展『日展』などを開催する団体)の保守的な審査体制への反発で立ち上げられ、パンリアル美術協会は創造美術以上の前衛的な表現を目指して作られました。続くケラ美術協会ができた頃には、創造美術は主流の大きな団体となっていたため、これもまた反抗の対象になっていました。そういった背景もあり、作品を並び立たせることは敬遠されていたように思います」。
そして森学芸員は、「もしかすると、どなたかに怒られるんじゃないか……」と思ったと苦笑いを浮かべる。それでも企画を前に進めたのは、「日本画の歴史において、アヴァンギャルド運動が戦後に活発化していたことはほとんど知られていません。京都市京セラ美術館は近代の京都の日本画を包括的に展示・研究している美術館のため、どこかで、誰かがやらなければならなかったのです。この規模で日本画の前衛作品を展示することはこれまでなく、この先もそうできるものではないと思います」との使命感からだと語る。
●描かなくても“日本画”と解釈できるワケ
それにしても、どういう部分が「これが日本画!?」と口にしたくなるのか。
私たちが考える「絵(画)」は、筆やペンを使って、キャンバスや紙になにかを描くもの。しかし『日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970』の展示作品のなかには、その範疇におさまらない“日本画”も数多い。折り畳んだ麻袋を貼り付けて背景を赤色で塗った大野俶嵩の「緋 No.24」をはじめ、石膏、石、バッテリーなどを使って作品が生み出されていった。つまり「描くこと」に捉われていないのだ。
大野俶嵩「緋 No.24」1964年 京都市美術館蔵(通期展示)
森学芸員は「自分たちの身のまわりにある日用品を使い、想像できる範囲での現実を反映した絵画を作ろうとしたのではないでしょうか。特に日本画の画材は高価ですから、1950年代、1960年代の作家には縁遠かった気もします。そこで『自分たちが作る日本画はこういうことだ』ということを、画材にも求めたと推察されます。榊健さんの「Opus.63-4」にいたっては、キャンバスをギュッと折り曲げたもの。なにも描いていませんし、貼ってもいない。どうやら『純粋を突き詰めたらこうなる』と話していらっしゃったそうです。ほかにも壁から足が飛び出た立体作品の“日本画”もあります」と解説する。
しかし、物を貼ったり、なにも描かなかったり、そもそも平面ではなく立体作品だったり、そういう作品は「日本画」と位置付けられるのだろうか? 森学芸員は「これはあくまで私個人の解釈なので、それを答えにはしないでください」と断りを入れた上で、こう説明する。
榊健「Opus.63-4」1963年(1990年再制作) 京都市美術館蔵(通期展示)
「この「Opus.63-4」は京都市京セラ美術館の所蔵品なのですが、日本画のカテゴリに入れるかどうかはいつも迷います。工芸に近いのではないかと思いますから。でも日本画にカテゴライズされています。ではなぜ日本画なのか。それは、今回紹介する3団体の画家のみなさんは大学で日本画を学ぶなど、日本画をオリジンとしていらっしゃるから。いずれの作品も、引き継ごうとしていた日本画の伝統を見つめ、それに対してリアクションしているのです。だったら日本画として解釈しよう、と」。
●前のめりで描かれた新しい日本画の数々
秋野不矩「少年群像」1950年 浜松市秋野不矩美術館蔵(前期展示)
もちろん、平面の「絵(画)」として描かれている作品も見応え十分だ。秋野不矩の「少年群像」は裸体に見える人々が色濃いタッチで描かれている。森学芸員は同作について、「前のめりで新しい日本画が描かれた作品。野生的で生命力にあふれています。日本画は鶴、池、桜などを描くものではなく、もっと荒々しくてもいいんじゃないかとし、自分の子どもをモデルに燃えるような黄色を塗りたくり、勢いのある筆跡で命が表現されました」としている。
画家自身が、自分が抱える状況を作品として前衛的に表現したものも。その一つが三上誠「灸点万華鏡1」。学生時代は伝統的な日本画の描き手として将来を嘱望されたが、病に冒されて療養を余儀なくされる。外に出られず、花や鳥などを題材とする綺麗な日本画を描くことができなくなったのだ。そこで、自分の病気と向き合った前衛作品に着手する。その1作が「灸点万華鏡1」だ。
三上誠「灸点万華鏡1」1966年 福井県立美術館蔵(後期展示)
森学芸員は「三上誠さんは前衛的かつ先鋭的なものを求めたという意味で、重要人物です。彼は、戦前に一度盛り上がりかけた前衛表現を戦後に復活させました。三上誠さんが出てこなければ、そこで前衛表現は終わっていたかもしれません」と特に注目してほしいと語る。
日本画に限らず、多くの物事は伝統的な文化があるからこそ、その枠組みから外れたおもしろさを追求するものも登場する。そのようにして互いの分野が強化され、発展していく。
森学芸員は「たとえば映画『国宝』(2025年)がヒットした要因の一つは、伝統文化の良さに目が向けられたと同時に、伝統を踏襲しながら自由さも求めた人たちの存在が受け入れられたのだと思います。それが今を生きる人たちの勇気に繋がったのではないでしょうか。この『日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970』でも、伝統の枠組みに対してどのようにリアクションされているのか、作品から感じ取っていただきたいです」と見どころをアピールした。
森光彦学芸員
取材・文=田辺ユウキ
イベント情報
※会期中一部に展示替えあり
前期:2月7日(土)~3⽉1日(日)
中期:3月3日(火)~4⽉5日(日)
後期:4月7日(火)~5⽉6日(水・休)
休館日 :月曜日(祝日の場合は開館)
※すべて前売価格の設定はありません。
※20名以上の団体料金(一般1,600円、大学・専門学校生・高校生1,100円)
※障がい者手帳等ご提示の方はご本人及び介護者1名無料(障がい者手帳等確認できるものをご持参ください)
※学生料金でご入場の方は学生証をご提示ください
協賛:株式会社長谷ビル
特別協力:株式会社藤井大丸
協力:京都薬品工業株式会社
放送情報
【再放送】毎週土曜 午前5:25~5:55