日野聡が語るスウェーデンの光「みなさんと一緒に展示を回っているような気持ちで」
東京都美術館開館100周年記念『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』ナレーション・日野聡
東京都美術館開館100周年記念『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』が、2026年1月27日(火)から4月12日(日)まで、東京都美術館(東京・上野公園)にて開催される。本展は近年世界的に注目を集めるスウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデンで生み出された魅力的な絵画をとおして、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性に迫っていくもの。この展示の音声ガイドのナレーションを、ナビゲーターの歌手・JUJUと共に担当するのが声優・日野聡だ。今回は音声ガイドの収録を終えたばかりの日野にインタビューを敢行、音声ガイドを担当するということ、そして今回の見所をじっくりと聞いた。
『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』
「JUJUさんの声から感じたものを、引き継いでいく思いで」
――今回、『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』の音声ガイドを担当されていますが、北欧、スウェーデンというものに対してどのようなイメージをお持ちかお聞きしたいです。またどのように音声ガイドに取り組まれたのでしょう。
スウェーデンというと、やはり北欧神話や、雄大な自然や美しい景色みたいなイメージが自分の中にあるのですが、今回はスウェーデンの持つ絵画の魅力を、自分の中でもいろいろと落とし込んで、解説として皆様にお伝えできれば、という思いで望ませてもらいました。
――日野さんはアニメや吹き替え、ナレーションなどで活躍中ですが、今回のような音声ガイドの現場に関して、どういう部分を意識してマイクに向かわれてますか。
今回に関しては、JUJUさんと共に音声ガイドを担当させていただいていますが、JUJUさんが絵画の持つ魅力を発信してくださるのに合わせて、自分はより細かい部分を皆様に届けていくという役割を担わせていただいています。絵の持つ歴史や、表現方法をより分かりやすくお伝えするような形で収録させてもらったので、アニメ作品や映画の吹き替え現場より、もっと感情を抑えた、皆様にフラットに伝えられるように意識しました。
――今回展示される作品群を見ると、展示会のタイトルにあるように、光の表現が特徴的な絵画が多い印象があります。そういう特徴的な部分などを日野さんも表現してみた、という部分はあるのでしょうか。
ベースとして、JUJUさんの作ってくださった世界観を引き継ぐ形でやらせていただいているので、特段自分のパートでそういう表現は強く打ち出してはいないですね。あくまで全体のバランスというか、JUJUさんとの心の引き継ぎというか、そういったものを意識しました。
――JUJUさんのナレーションをお聞きになってからの収録とお聞きしていますが、JUJUさんへの印象はいかがでしょう。
まず僕がJUJUさんの歌が好きなので、こういう形で共演させてもらえるのが嬉しかったですし、透き通る声色と、優しく包み込むようなナビゲーションにすごく癒されました。自分もJUJUさんの声から感じたものを、聞いてくださっている皆様に引き継いでいこう、というのが第一のテーマにして収録しました。
エウシェーン王子 《静かな湖面》 1901年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo: Anna Danielsson / Nationalmuseum
――収録の中で心に残った作品はありますでしょうか。またナレーションを担当された中で、ここは聞きどころ、などのポイントがもしあればお聞きしたいです。
個人的にすごく刺さったというか、好きだなと思ったものが《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》(マルクス・ラーション)ですね。
今だと、ゲームなどですごくクオリティの高いCGがあるじゃないですか。ああいったものを想像させるようなものが描かれていたので、《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》の世界観にものすごく引き付けられました。前後の物語が見えてくるというか。あともうひとつ、アウグスト・ストリンドバリの《ワンダーランド》ですね。描かれているメッセージを組み取りながら改めてこの絵を見ると、いろんな見方ができると感じたんです。
マルクス・ラーション 《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》 1857年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo: Nationalmuseum
――アウグスト・ストリンドバリは劇作家としても活動されていたんですよね。
そうらしいですね。彼はペインティングナイフを使って即興で描くという手法を使っていて、その都度見え方が変わる、と思ったんです。基本的には空の上から森と湖を見ているような構図なんですが、最初に解説を読まずに見たときは、小さな森の中の水たまりみたいなものにも見えたんですね。確かにいろいろな見方ができるし、それが面白いですよね。ぜひ皆さんにも、この絵を見てどう捉えたかの感想を聞きたいです。
アウグスト・ストリンドバリ 《ワンダーランド》 1894年 油彩、厚紙 スウェーデン国立美術館蔵 Photo: Erik Cornelius / Nationalmuseum
今回初めての試み「スロールッキング」とは
――展覧会の音声ガイドは、お客様の耳に寄り添って一緒に絵画を楽しんでいくものですが、お客様にどんな印象を残したい、と思われましたか。
今回の展覧会では、「スロールッキング」という恐らく初めての試みがあるんです。
――それはどういうものなのでしょうか?
通常の音声ガイドはナビゲーターとしてJUJUさんが喋られた後に、絵の詳しい知識などをナレーションとして追加しています。「スロールッキング」は、ボーナストラック的なものになるのですが、今回作品をお借りしているスウェーデン国立美術館で行われている鑑賞方法の名前です。これは「今日は好きに作品を見てください」というもので、その取り組みをちょっとでも追体験していただけないか、ということで僕だけがナレーションしているガイドになります。
――なるほど「スロールッキング」するためのガイドが用意されているんですね。
これは絵の知識とか文化とか、そういう背景は全然関係なく、何が見えますか、それをどう感じますか、というような、展覧会に来られた方が絵と対話する際にちょっとだけガイドというか、寄り添いつつ、誘導をするような感じになっています。
――台本を拝見いたしましたが、これは非常に面白いですね。
面白いですよね。僕もちょっと前に息子と展覧会に行ったときに音声ガイドを借りて一緒に聴いたんですが、作品の歴史が自分の中に入ってくるのでとても楽しかったのですが、今回の「スロールッキング」は、一般的な音声ガイドとは違う楽しみ方ができそうです。
――芸術ってある意味、答えがないものだと思うので、こういう取り組みがあると無限に解釈が広がるので面白いと思います。またそういった解釈を広げるきっかけになりそうですし、それも日野さんが音声ガイドとして一緒に回ってくれるのは楽しいですね。
僕自身も音声を収録させてもらいながら楽しかったです。
グスタヴ・フィエースタード 《川辺の冬の夕暮れ》 1907年 油彩、カンヴァス Photo: Nationalmuseum
――そして、声優としてのお話もお伺いしたいのですが、これまで沢山のキャラクターや、作品に触れ続けていらっしゃいますが、今回のような音声ガイドのお仕事は、ご自身の声優としてのキャリアの中で、どういうものなのでしょう。
すごく頻繁に音声ガイドのお仕事をいただいているわけではないので、非常に貴重な機会だと思っています。以前『イサム・ノグチ 発見の道』展の音声ガイドを担当させていただいたんですが、こういった作品一つひとつを見てくださる皆様に、魂のこもったものを伝えていくという非常に重い責務があると思ったんです。それにご来場いただく皆様に、貴重な体験を届けられるのか、というところも非常に大切に考えているので、とても大切な現場のひとつを担わせてもらっている、という思いはあります。
――日野さんほどの声優としての長いキャリアを重ねられた方でも、こういう展覧会の音声ガイドという現場を経ることで、成長を感じられる部分もあると。
日々いろいろなナレーションの現場を経験させていただくことで、自分の中でも成長できている部分があると思うので、こういった御縁をいただいた素敵な場所、展覧会にお返ししたいというか、経験をさせてもらったものへの感謝を返していけたらいいな、という考えはありますね。
――担当されている作品も多いですからね。今回はスウェーデンの絵画の展示ですが、スウェーデンに行けるとしたら行かれてみたいですか。
もちろん! でもありがたいことに多忙でして、海外のアニメのコンペティションなどのお話をいただいても、なかなかお伺いできず……。海外に行けても近場のアジア圏くらいなんですよ。ヨーロッパにも行ってみたいんですけどね。
――一週間位のお休みを取るのは難しそうですね。
年末年始ぐらいですね……。
エウシェーン・ヤーンソン 《首都の郊外》 1899年 油彩、カンヴァス Photo: Nationalmuseum
日野聡的“音声ガイドのチェックポイント”とは?
――最初にもお聞きしましたが、日野さんのスウェーデンの印象をさらにお聞きしたいです。
スウェーデンの印象としては、美しい景色や自然、あとサッカーとか……ヴァイキング時代とか、歴史的なものが多いイメージですね。
――先程今回の音声ガイドの収録を終えられましたが、改めて収録を終えての感想もいただけないでしょうか。
非常に楽しく収録させていただきました。JUJUさんのナビゲートの思いを引き継ぎながら、自分もこの絵画展を回っているような気持ちで音声を吹き込みましたので、皆様も共に楽しんでいただけたら嬉しいなと思っております。あと裏話として……収録の大変だった部分として、作家の名前が非常に難しくて(笑)。イントネーションとか、そういったところで苦戦はしたんですけれども、スタッフの皆様と楽しく笑いながら何度もチャレンジして素敵なものができたと思っております。ぜひ僕が作者の名前を言っているところもチェックしてもらえたら。「日野はここを苦労したのかも?」というのも楽しんでもらえたら嬉しいです。絵画とは別の目線になってしまうんですけどね(笑)。
――では、最後にこのインタビューを読まれている方にメッセージをお願いいたします。
自分自身も最初はそうだったのですが、今回の『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』のような展覧会に初めて行かれる、そしてどうやって回っていいのか分からないという方もいらっしゃると思うんです。ぜひそういう方々のために、この音声ガイドで、作品一つひとつの知識であったり、奥行きであったり、歴史であったり……どういう想いで絵画たちが制作されたのかを感じてもらえるものになったと思っています。ぜひJUJUさんのナビゲートと、そして私の解説のナレーションを共に楽しんでいただければ嬉しいです。そして「スロールッキング」という形で、作品と、絵画と向き合っていただければと思います。
インタビュー・文=加東岳史
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東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき