中車と團子、歌舞伎町で三代猿之助屈指の人気作に挑む!歌舞伎町大歌舞伎『獨道中五十三驛』会見レポート

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2026.2.6
歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』会見

歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』会見

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シアターミラノ座で、5月3日~26日に開催される「歌舞伎町大歌舞伎」を前に、2月5日、市川中車、市川團子が会見にのぞんだ。二世市川猿翁ゆかりの演目、三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』への思いや、見どころを語る。

■劇場を代表する公演になれば

会見には、株式会社東急文化村代表取締役社長の嶋田創氏、松竹株式会社副社長の山根成之氏も登壇。嶋田氏は、東急文化村の歌舞伎への取り組みが、1995年に渋谷Bunkamuraのシアターコクーンで始まったことに触れ、2024年に始まったシアターミラノ座の「歌舞伎町大歌舞伎」も、「コクーン歌舞伎がそうであったように、劇場を代表する公演に育ってほしい」と語った。

左から、山根成之(松竹株式会社副社長)、市川中車、市川團子、嶋田創(株式会社東急文化村代表取締役社長)。

左から、山根成之(松竹株式会社副社長)、市川中車、市川團子、嶋田創(株式会社東急文化村代表取締役社長)。

山根氏は、作品の見どころに言及。

一つは、化け猫騒動を描く二幕目「岡崎無量寺の場(以下、岡崎の猫)」。初役の中車が「重たい十二単を着て、同劇場では初めての宙乗りを披露されます」。

もう一つは、大詰の舞踊「写書東驛路(うつしがき あずまのうまやじ)」。團子が、十三役早替りで勤める。「團子さんは『義経千本桜 四の切』や『ヤマトタケル』で、早替りは経験なさっていますが、13役もの早替りは初めて。澤瀉屋の早替り舞踊を皆様にお見せできれば」と語った。

そして新たな試みとして、この2場面を「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎」が繋ぐ。「歌舞伎を初めてご覧になるお客さんに、作品を身近に感じていただきたい」と説明した。

■澤瀉屋一門一丸となり、5月歌舞伎町で

『獨道中五十三驛』は、1827年に四世鶴屋南北が初演。1981年に二世猿翁が復活上演した作品。

中車は「1980年代、父(猿翁)は、江戸時代から100年、あるいはそれ以上も埋もれていた古狂言を残そうと、躍起になり復活し上演をしておりました。その頃の演目の一つです。それを息子の團子で上演。本当にありがたく思います。我々にとっては毎月が正念場ですが、5月のシアターミラノ座は、本当に大きな正念場。多くの方にご覧いただけますよう、澤瀉屋一門一丸となりがんばってまいります」と意気込みを語る。

團子は「初めて、早替り舞踊を勤めます。歌舞伎を見たことある方にも、ない方にもお楽しみいただける舞台を」と意欲をみせた。

背景には歌舞伎町の景色!

背景には歌舞伎町の景色!

■「演目については、團子から」

ここで「演目については、おそらく團子から」と、中車からの突然のパス。一同は笑いに包まれ、團子も笑顔で応じた。

「四世鶴屋南北、晩年の作品です。今回父が勤める『岡崎の猫』は、南北の初演以来、たびたび上演されました。しかし『獨道中五十三驛』という形での上演は途絶えており、それを祖父(猿翁)が1981年に復活しました」

「東海道五十三次」といえば、出発が日本橋で終点が京都三条大橋。

「それを逆手にとって、『獨道中五十三驛』は京都三条大橋から出発し、終点は日本橋。そこに御家騒動を絡めています。南北の狂言では箱根までで終わっていたのですが、祖父はさらに日本橋までを舞踊にしました。それが『写書東驛路』です」

市川團子

市川團子

1981年に復活して以来、猿翁の『獨道中五十三驛』は人気を博し、再演を重ねている。

「そのたびに祖父は、かなりの改変を加えています。原作が複雑なので、改変の余地が多いのだと思います。ただ『岡崎の猫』と『写書東驛路』の二場面は、ほとんど変わりませんでした。祖父自身、“この二つの場面だけは本当に良くできている”と芸談にも残しています」

今回の公演では、選び抜かれた“良くできた”2場面を、見どころたっぷりの歌舞伎として上演。「残りの場面を、初心者の方にも分りやすい『こえかぶ』でお伝えいただく構成は画期的」と團子。中車も「1人の声優さんが、老若男女を義太夫のように語り分けるそうです」と、新たな試みに言及した。

「こえかぶ」は、現代語にした歌舞伎の物語を、声の表現に特化した声優が朗読で演じるシリーズだ。人気・実力を兼ね備えた声優が日替わりで登場。従来の「作品解説」とは異なる、歌舞伎への新たな橋渡しに期待が高まる。

■猿翁の宙乗りに見る、蜷川幸雄の「欲望の距離」

『岡崎の猫』で、中車は猫の怪(あやかし)を勤める。

「仇討ちと御家騒動からはじまり、ガラッと変わって『岡崎の猫』。奇怪な演目であり、不思議な役だなと思いました。父は『黒塚』や『骨寄せの岩藤』など、得意とする演目で老婆・鬼女をやっていましたが、私にはそれがございません。初役として挑戦せねばならず、それ自体はとても難しいこと。ですが、おそらく父はこの役に、不気味さの一方でチャーミングさもポイントにしていたと思う。そこをとっかかりに、研鑽を積んでいきたい。なんとか父のスピリットを、多くの方にお見せできるよう努めます」。

市川中車

市川中車

宙乗りへの思いを問われ、「5000回以上宙乗りをした父には、溢れる思いがあったと思います」と中車。宙乗りの演出自体は江戸時代からあったが、1980年代当時は衰退傾向にあった。「それを復活させたのが父でした。何よりも、お客さんに喜んでいただきたい、思い出を作っていただきたい、という思いがあったのでしょう。『ヤマトタケル』でも、白鳥となり翔んでいく主人公の思いが、宙乗りによって3次元で立ち上がります。“夢見る力”、“天翔ける心”といった父の言葉にも重なりますし、ヤマトタケルの思いを遠くまで届けたい、という思いを感じます」。

中車は、歌舞伎界に入る以前の2003年1月、シアターコクーンで上演された、蜷川幸雄演出のチェーホフ『櫻の園』に出演していた。「蜷川さんの一言一言が血となり肉となり、毎日毎日命を費やした」という思い出とともに、ふと蜷川の言葉を振り返る。

「蜷川さんは、『役者の欲望の距離が見たいんだ。どこまでお前が欲望があるのか。君の欲望はそこで止まってしまうのか。そんなものでいいのか。僕は、遥か向こうまで迸る欲望の距離が見たい』とおっしゃっていました。父の宙乗りも、その欲望の距離のあらわれではないでしょうか。お客さまの喜びと一つになりたい、という思いがあったのだと思います」。

■ケレンが1なら、心理は10

記者から、宙乗りの最中の景色を問われると、中車は「僕はただもう一生懸命で。すでに100回以上宙乗りをしている私の息子に」と笑顔をみせ、再び團子にバトンタッチした。

團子は、宙乗りでは「自分自身ではなく、役としてどういう景色を見るかを意識」すると切り出した。

「『ヤマトタケル』であれば、最後に白鳥となって翔んでいく時、僕の中では夕日の景色のイメージなんです。なので客席に、夕日の景色を重ねています」

また、『写書東驛路』が「『お染久松』の早替り舞踊をベースに、様々な踊りのパロディー」とも説明する。

「 たとえば(十三役のうちの1つ)土手の道哲は、『浮かれ坊主』が元です。元の作品が全部できた上で、それぞれの美味しいところをお見せする構成なので、今回の場合、僕は身に余る大役をいただきました。お稽古では、元の舞踊をしっかり押さえるところからはじめたいです。それぞれの作品の本質を(身体に)入れた上で演じることで、それぞれの役にメリハリをもって演じ分けられるようになると思います」。

宙乗りも早替りも、ケレンと呼ばれる歌舞伎に古くからある演出だ。観客が驚くような仕掛けや視覚的な効果で楽しませる演出のこと。本公演は、その両方を楽しむことができる機会となる。そして團子は、ケレンの難しさについて、「祖父は『ケレンという派手な演出は、心理を伴わないとただ派手なもので終わってしまう。ケレンを1やるなら、心理を10、11と突っ込んで作らなくては良い舞台にならない』とも話していました」とも語っていた。
 

■3つの「S」×誠実さと情熱

会見の中で、中車からも團子からも、しばしば名前の上がる二世猿翁。猿翁のスピリットを、ふたりはどのように捉えているのだろうか。

中車は、「1980年代、父は色々な狂言を復活させ、1986年2月に初めて『ヤマトタケル』を上演しました。これをスーパー歌舞伎として確立させた時、父が打ち立てたのが『3S(スリーエス)』という概念です。ストーリー、スペクタクル、スピード。「S」ではじまるこの3つが、歌舞伎には乏しいと思われていた。そう思っていらっしゃるお客様に対し、歌舞伎にも、これだけストーリー、スペクタクル、スピードを打ち込むことができるんだ。これだけやっても、なお歌舞伎の精神を貫くことができるんだ、と見せた。そこに父のスピリットがあったと思っています」。

うなづき、耳を傾けていた團子は、「精神的なところで言えば、とにかく舞台にかける情熱が凄まじくて。どの舞台においても、それを感じることができます。大汗をかき、走り回ってでも、とにかくお客さんに楽しんでほしい。その誠実さと情熱に、祖父のスピリットを感じます」と続いた。

記者からは、目覚ましい成長を遂げる團子を、中車はどのように見ているかの質問も。

「彼の成長は、努力の賜物だと思います。もちろん親子でございますが、我々は2012年の6月5日初日をともに迎えた同輩。でも、子供は覚えが早いですね(苦笑)。13年半が経ち、どんどん差がつけられました。とはいえ私自身は澤瀉屋の年長組として、息子とともに澤瀉屋の公演をさせていただけることを、本当に嬉しく思っています。先ほど嶋田社長から、『歌舞伎にがあまり馴染みがない新宿という土地に、お客様をお呼びし、根づかせたい』という熱い思いをうかがいました。その一端となれるよう責任も感じ、息子とともに歩むことへの重みも感じます」と中車。

「努力の賜物」との言葉を受け、團子は「僕は全然そんなことないんです」と自覚がないことをうかがわせつつ、「努力の人というのは、本当に父のことだと思う」とも返した。

團子は、3月で大学を卒業する。

「昨年は祖父がライフワークとしていた『四の切』の狐忠信を勤めさせていただきました。その前年にはヤマトタケルも。『本当にしっかりしなきゃいけない』という意識を、常にもっています。4月以降は学生という立場が終わります。舞台のクオリティを上げるということに集中していきたいです」

会見後のフォトセッションでは、報道陣から「ふたりでポスターのポーズを」とのリクエストも。すかさず中車が「團子は二枚目なので(勘弁してやってください)。僕がやりますから!」とサービス精神旺盛に、いくつものポーズをみせた(冒頭の写真もその1枚)。笑いに包まれる中、会見は結ばれた。

本公演は、THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6F)にて、5月3日(日・祝)~5月26日(火)の上演。

※「瀉」のつくりは、正しくは「ワ冠」です。

撮影・取材・文=塚田史香

公演情報

歌舞伎町大歌舞伎
三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』

 
作:四世鶴屋南北
出演:市川中車、市川團子、市川笑也、市川笑三郎、市川寿猿、市川青虎
 
「こえかぶ」出演(日替り・出演日順):
置鮎龍太郎<3日(日・祝)11:00開演回、4日(月・祝)11:00/16:30開演回>
福山潤<3日(日・祝)16:30開演回、10日(日)11:00開演回>
小林裕介<6日(水・休)11:00開演回、10日(日)16:30開演回>
櫻井孝宏<9日(土)11:00/16:30開演回>
蒼井翔太<13日(水)11:00/16:30開演回、16日(土)16:30開演回>
野島健児<14日(木)11:00開演回、16日(土)11:00開演回>
山口勝平<15日(金)11:00開演回、22日(金)11:00開演回>
速水奨<17日(日)11:00/16:30開演回>
関智一<22日(金)16:30開演回、26日(火)11:00開演回>
岡本信彦<23日(土)11:00/16:30開演回>
森久保祥太郎<24日(日)11:00/16:30開演回>
※ほか「こえかぶ」出演者とスケジュールは決定次第お知らせします。
 
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6F)
公演日程:5月3日(日・祝)~5月26日(火)
※5月13日(水)11:00公演には学生団体様がいらっしゃいます。
 
料金(税込・全席指定):1等席 13,500円、2等席 8,000円、3等席 4,000円
一般販売:2026年2月28日(土)10:00~
 
主催:Bunkamura、TSTエンタテイメント、東急
企画・制作:松竹株式会社
製作:Bunkamura
後援:新宿歌舞伎町大歌舞伎祭実行委員会
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