『エヴァ歌舞伎』尾上左近&上村吉太朗インタビュー 若き二人が古典の技で挑む、エヴァンゲリオンの新境地とは——。
(左から)上村吉太朗、尾上左近 撮影=山口真由子
1995年に放送開始したTVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』は、14歳の少年・碇シンジが汎用人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」に乗り「使徒」と呼ばれる未知の生命体と戦うなかでの葛藤と成長を描き社会現象となった。2021年に公開し興行収入100億円を超える大ヒットとなった完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を経て、今もなお世界中で新しいファンを生み続けている。
放送開始30周年を飾るアニバーサリー企画の集大成として横浜アリーナで2月21日から3日間に渡り開催されるフェスイベント『EVANGELION:30+; 30th ANNIVERSARY OF EVANGELION』(以降『エヴァフェス』)では、「STAGE AREA」で多彩なエンターテインメントが予定されている。
最終日の23日には『歌舞伎交響曲第急番 エヴァンゲリオン』が上演されることになった。本作は謎多き少年渚カヲルと碇シンジの交流を、藤間勘十郎振付による歌舞伎舞踊と山田文彦作曲による邦楽のオーケストラ、そして大型LEDに映し出される映像を交えながら描く意欲作である。作・演出は『風の谷のナウシカ』『流白浪燦星(ルパン三世)』などの新作歌舞伎を手掛けた戸部和久、映像演出は『サイバーパンク:エッジランナーズ』『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』など数々の話題作に携わったクリエイティブエージェンシー「SIGNIF」の荒牧康治と、歌舞伎のみならずアニメファンからも注目を集めている。
主演のカヲル役には近年次々と大役を勤めこの5月に三代目尾上辰之助襲名を控える尾上左近、シンジ役には一般家庭から歌舞伎界に入り上方歌舞伎の新星として期待が高まる上村吉太朗が起用された。インタビュー時は稽古が始まりまだ2日目だったが、二人の掛け合いは絶妙なシンクロ率を示してくれた。
歌舞伎舞踊で描くシンジとカヲル、古典の技で挑む新たなエヴァの世界
(左から)上村吉太朗、尾上左近
――今作の上演にあたり、左近さんは「インパクトが強く、独特な世界観を持つこの作品をどう歌舞伎で表現できるのか、今からとても楽しみです」と述べています。
尾上左近(以下、左近):お芝居として歌舞伎化することは難しい作品と思いますが、今回は舞踊劇として踊りと立廻りの表現が多くなっております。日本舞踊は振り一つ一つに物語がありますし、世界中の方々に歌舞伎を分かりやすく伝えることができると思うんです。今回このお話をいただいてから『エヴァンゲリオン』シリーズをすべて観させていただきました。シンジは人間らしく地に足がついていますが、カヲルはどちらかというと“もののけ”に近い印象です。そういった登場人物が出てくる作品は歌舞伎にはいくらでもありますから、二人の関係性は歌舞伎らしいと思っているんです。カヲルとシンジを二極化することで『エヴァンゲリオン』の世界観をわかりやすく、美しく表現できればいいなと思っています。
――吉太朗さんは「大勢の人々を魅了し、どこか共感できるような人間味溢れる」シンジを演じたいそうですね。
上村吉太朗 (以下、吉太朗):『エヴァンゲリオン』は思春期真っ只中のシンジの大人への成長を描いていると思います。シンジの気持ちは直線的なところもあれば波もあり、彼の複雑な内面を舞踊でどこまで表現すればいいのかと考えています。シンジはカヲルと出会い独特の関係を築き、やがて対立しなければなりません。「この音はシンジのこの気持ちを表現しているのか」「この動きはこのシーンを表現しているのか」などと考えながら、体で表現してまいります。歌舞伎をご覧になったことがないお客様も多くいらっしゃると思いますので、歌舞伎ならではの表現方法や音楽で『エヴァンゲリオン』の世界を落とし込み、今後につながるような作品になればいいなと思っています。
――近年はアニメを題材にした作品が増え、それをきっかけに新しいお客様が歌舞伎をご覧になる機会が多くなっています。作・演出の戸部和久さんや振付の藤間勘十郎さんらとどのように作品を作り上げていきたいですか。
左近: 勘十郎さんは古典や新作といろいろなお仕事をされていらっしゃるので、胸を借りて踊らせていただきたいと思っています。舞踊だけでなく演出や音楽などについてもお考えになる方ですから、新作に取り組むうえでとても頼りがいがあります。戸部さんとは今回初めてお仕事をご一緒させていただくのですが、お稽古場で創作意図を教えていただきながら一緒に作っていけたらいいと思っています。今回は立師に長年スーパー歌舞伎にご参加されている市川猿四郎さんに入っていただいています。僕は新作の経験が多くないですから、作り慣れている方々が座組にいらっしゃることは心強いです。
吉太朗: 左近ちゃんが全部言ってくださったんですけど(笑)、その通りだと思います。新作歌舞伎といっても元となる古典歌舞伎があり、皆さんとの共通認識で「この作品のこの場面のようなことをしたい」と伝えるとわかってくださいます。歌舞伎を観ることが初めてのお客様に「あ、この演出面白いな」って思っていただき、歌舞伎に興味を持っていただきたいです。そうすれば、いつか古典歌舞伎を観た時に「これは『歌舞伎交響曲第急番 エヴァンゲリオン』でやっていたやつだ」とリンクすると思うんです。戸部さんやご宗家(藤間勘十郎さん)、猿四郎さんや市川新十郎さん、演奏家さんたちも入っていらっしゃるので、いままでの新作歌舞伎とは全く違う新たな表現になると思います。
いちファンとしての目線を大切に――原作へのリスペクトと歌舞伎表現の融合
(左から)上村吉太朗、尾上左近
――原作がある作品にはすでにファンの方がそれぞれにキャラクターのイメージを持っていることと思います。
左近: 僕は昔からアニメやゲームが好きなので、好きな作品であればあるほど舞台化や実写映像化に対して複雑な気持ちになることがあります。一番必要なことは役や作品に対するリスペクトですから、歌舞伎の手法で表現すると役としては成立しなくなってしまいそうなところは相談させていただきます。僕は二次元の舞台化、いわゆる2.5次元化で大事なことはビジュアルだと思っていますので、そこは絶対に曲げたくないんです。役者目線と同時に作品のファンの目線で観ることができないと新作はダメになってしまうので、常に心がけていかければならないと思っています。
吉太朗: 原作へのリスペクトを守りながらも、歌舞伎ならではの表現方法を大事にしたいですね。衣裳や鬘などアニメでは出てきていないものが『歌舞伎交響曲第急番 エヴァンゲリオン』には出てきますが、それが何を表現しているのか、どういう意味があってそれを使っているのかということを想像しながら観ていただけるといいのではないかなと思います。
(左から)上村吉太朗、尾上左近
――左近さんは2025年に歌舞伎座の『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』三大名作一挙上演の全てにご出演されました。近年は『妹背山婦女庭訓 吉野川』の雛鳥のような大役をお勤めになりました。今年5月にはお父様(四代目尾上松緑)とお祖父様(初代尾上辰之助)が名のられていた辰之助をご襲名されます。
左近: 舞台に穴を空けず襲名興行を無事に終えられるよう、健康第一で精一杯に勤めたいと思っています。そんななか今回『歌舞伎交響曲第急番 エヴァンゲリオン』をさせていただくことは、役者としてかけがえのない財産になっていくと思います。古典、新作、舞踊とすべて役者の成長につなげられるように、勉強して頑張っていきたいと思っています。
――吉太朗さんは1月に大阪松竹座で『菅原伝授手習鑑 車引』の桜丸を勤められ、これまでも『平家女護島 俊寛』の千鳥や『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』のお三輪、橘姫といった大役に取り組まれています。また上方歌舞伎を盛り上げていくことに強い意欲を示されています。
吉太朗 :シンジのような立役もさせていただいているのですが、基本的には女方を勉強したいと考えています。上方では(中村)壱太郎のお兄さんの下の世代で立女方がいませんから、そこを目指したいんです。また上方で座頭を張れる若手俳優が少ないので、将来的には僕自身がそういう存在になりたいと思っています。
『どんなことをしでかしてくれるのか』という期待とともに。肩肘張らずに楽しむ新たな歌舞伎体験を
(左から)上村吉太朗、尾上左近
――最後にお客様にお誘いの言葉をお願いいたします。
左近: お客様が不安な気持ちはよくわかりますし、どんなことをしでかしてくれるのだろうと思われているでしょう。僕もそう思っています(笑)。作品に関わっている全員が『エヴァンゲリオン』に対してリスペクトを持ち、いい作品にしたいと思っています。ですから肩肘張らず、色眼鏡なく観ていただきたいです。そして『エヴァフェス』を盛り上げ楽しんでいただきたいという気持ちで頑張っていますので、ぜひ観に来ていただければと思います。
吉太朗: みなさんのなかで「歌舞伎は難しい」「歌舞伎ってこういうものだ」というイメージがあると思うのですが、そういうものを一回取っ払い「あ、これ歌舞伎やったんや」ぐらいの気持ちで観ていただければいいかなと思います。『エヴァンゲリオン』という大作の30周年を盛大にお祝いして、お客様に満足して帰っていただけるように勤めたいです。
取材・文=深沢祐一 撮影=山口真由子
公演情報
日程・会場:2026年2月21日(土)~23日(月・祝)横浜アリーナ
『EVANGELION:30+; 30th ANNIVERSARY OF EVANGELION』公式サイト:https://30th.evangelion.jp/fes
『エヴァンゲリオン』公式サイト:https://www.evangelion.jp/
『エヴァンゲリオン』シリーズ30周年記念サイト:https://30th.evangelion.jp/
『エヴァンゲリオン』公式X:https://x.com/evangelion_co
『歌舞伎交響曲第急番 エヴァンゲリオン』 「EVANGELION:30+; 30th ANNIVERSARY OF EVANGELION」2月23日(月・祝)「STAGE AREA」で上演 (C)カラー
※「STAGE AREA」にご入場いただくには、該当日の「STAGE AREA Ticket」または「ALL AREA Pass」が必要となります。
日程:2月23日(月・祝)17:30〜(予定)
出演:尾上左近・上村吉太朗
作・演出:戸部和久
振付:藤間勘十郎
音楽:山田文彦
企画・製作 松竹株式会社 株式会社カラー
※実施内容・スケジュールは変更になる場合がございます