分断と対極にある、GEZANの美しいメッセージ『47+TOUR「集炎」』最終公演ーーBRAHMANと確かめ合い、いよいよ武道館へ
撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase)
GEZAN『47+TOUR「集炎」』2026.2.23(MON)神奈川・CLUB CITTA'
GEZANが昨年から始めた47都道府県ツアー『集炎』の最終公演、あとは日本武道館での単独公演『独炎』を残すばかりとなったこの日。川崎クラブチッタに呼ばれたゲストはBRAHMANであった。
もともと仲良しの舎弟関係はない。2階席から見下ろしたフロアが見事なくらい赤と黒に分かれていたように、世代や価値観や相関図はそれぞれ違っている。いや、違うけれど音楽を使って表現したいものが似ているからこそ、どこか愛憎に近い感情があったのではないか、とも思う。
たとえばマイナーコードのハードコアとアジア・オリエンテッドな音像を選んできたBRAHMANに対し、GEZANはメジャーコードのパンクとアフリカのダンスビートを選択。震災以降、東北の現場に通いながら生と死を見つめてきたTOSHI-LOWには頼れる父性が宿っているが、イマジネーションの中で羽を広げるマヒトゥ・ザ・ピーポーには、永遠の子供、もしくは何かのキャラクターめいた偶像視がつきまとう。自主性を重んじる活動方針は同じでも、メジャーレーベルと肩を組んでここまでやってきたのがBRAHMANなら、GEZANはマネジメントも持たないDIYでふわふわと風に吹かれている。どちらもオリジナリティとカリスマ性があるがゆえに、水と油、簡単に混ざらないし混ぜないでくれという主張が先立っていたわけだ。
空気が変わったのは、3度目の共演となった昨年11月の『尽未来祭』だろう。BRAHMAN30周年を祝う祭りではあったけれど、当時はマヒトのSNS発言が大炎上に発展していく渦中でもあった。シャレにならない炎の先に、GEZANは新作『I KNOW HOW NOW』を生み落とした。優しい歌のアルバムだ。そのうえで、2バンドは再び向かい合う。違うけれど、音楽を使って表現したいものが似ている、そのことを確かめ合うように。
まずはBRAHMAN。今も続く『tour viraha 2026』とはセットリストを大きく変えての1時間だ。2013年リリースの「超克」からの1曲目、「初期衝動」が押し寄せる波となりフロアを襲う。緊張感は今も変わらない。いつ死ぬか、いつ殺されるかわからない時代になってきたことをTOSHI-LOWはことさら強調する。MCが一回きりではなかったこともこの日の特徴で、「鼎の問」の前には「もっと世間を問え、社会を問え、政治を問え。そして、もっともっと深く己自身を問え」という一言が出てくる。さらに後半、昨年末の炎上と今の窮屈な世相に触れ、「銃なんていらねぇんだ。こっちは中指あれば戦えるんだよ!」と叫んでから怒涛のハードコアナンバー「不倶戴天」へ。社会に生きている限り無関係とは言えないこと、それでも口に出すと煙たがられるようなことを次々と言葉にしていく。本人いわく、「それがレヴェルミュージックやパンクの根本にあるもの」だからである。
それゆえ、このライブがイデオロギーに固まった集会のようになったかといえば、全然そんなことはないのである。アルバム『viraha』を出してひとつの答えが出たのだろうが、BRAHMANがやっているのはパンクやハードコアを土着の踊りに変換することである。モーターヘッドの名曲が阿波踊りになっていく「Ace Of Spades」に顕著だが、ただ我を忘れ、人の目も忘れ、ズンチャズンチャと続くビートに乗って踊り狂うことが飼い慣らされない反抗の仕方であると音が教えてくれる。そしてその反抗は、黒い怒りに焼かれてしまうものではなく、もっと生き生きとした喜びであることを肉体が理解する。続く「Slow Dance」のイントロではTOSHI-LOWが赤いタオルを頭にかけて踊りだす。間違いなくGEZAN『狂(KLUE)』のジャケットを模していたのだろう。ひょっとこ踊り一一と書いてしまえばロックカルチャーに憧れるバンドとしてサマにならない気がするが、お前はどこに立っている誰なんだ?という表現において、これほど格好いいものはないと思えたワンシーンだった。
GEZANへのエールは続く。そんなに上手くいかないし、漫画みたいに次から次へと強い敵が出てくるのもわかっている、と前置きしたうえで。
「でも立ち向かっていくんじゃねぇの? 赤い奴らが中指立てて戦っていくんじゃねぇの? 武道館、頑張って!」
ここから始まるのは「順風満帆」。突き放すような乱暴さと、絶対に大丈夫だと抱きしめるような包容力を感じるラストナンバーだ。真っ白のライトに染まるステージに、最後はピースサインが残されていた。
続いてGEZAN。SEもなくマヒトゥ・ザ・ピーポーが現れ、即興の朗読が始まっていく。何が起こるのかと身構えていれば、どこからともなく笛の音と金属的なリズムが聴こえてくる。どこから……2階席だ。そこにはバグパイプを奏でるイーグル・タカと打楽器カルカバを手にしたヤクモアがニコニコと並んでおり、演奏しながら二人はPA卓につながる階段を降下、そのままモーゼの十戒よろしくフロアを分け進んでステージへ上がっていくのだ。こんなクラブチッタの使い方を初めて見た。マヒト即興の詩はいつしか「さよなら、すべての戦争」という言葉になり、新曲「BEST DAY EVER」が始まっていく。ニューアルバムの中で最もロマンティックな、すべての諍いが終わったあとの景色を描く歌だ。これが新しいGEZAN。何もかもが透明で、満たされたように穏やかである。
と、思ってからの展開が凄まじい。獣じみた咆哮からノイズが吹き荒れる「忘炎」へ。静と動の表現ならBRAHMANが得意とするところだが、GEZANのそれも相当な落差であり、特定のパターンがないから余計にスリリングだ。脈絡なく何度もフロアに飛び込むマヒト。もしかすると、エールをくれた先輩バンドに対して一緒にするなと中指を立てる意思もあるだろうか。一瞬だけ考えたそのイメージは、しかし、あっさりと融解していく。
激しい曲は「忘炎」のみ、あとはほとんど新譜『I KNOW HOW NOW』の曲で構成されていたことが大きい。小さな声で自由の気配を歌う「TRANSIT」、ダンスビートにユーモア溢れるオマージュが乗っかってくる「HAPPY HIPPIE」など、どの曲も驚くほど風通しがいい。攻撃的な棘、威嚇から始まる武装は意図的に排除されており、想像力、つまりファンタジーの力で世界を塗り替えようとするGEZANの本質が露わになっていく。そうしないと耐えられないほど現実が歪んでいるから、いつ殺されるかわからない時代になりつつあるから、という実感が表裏一体だからめでたい楽観には決して見えない。レヴェルミュージックやパンクの根幹はまったく同じ。表現の仕方が違うだけである。
最大の違いは、「いかつい男たちが一丸となり、全員で腕組みをしている」ようなBRAHMANのイメージを、GEZANがハナから持っていないことだ。服装こそ全員赤だが、MCで好き勝手違うことを喋っているように、緊張の下にビシッと引き締まる何かがこのバンドには欠落している。あえて持たないようにしているのかもしれない。だからこそ隙もあれば愛嬌もあるのだが、そういう風来坊バンドが見せる景色として、新曲「Beat」はたまらないものがあった。マヒトひとりがアコギを持ち、他のメンバーはそれぞれの持ち場を離れるところから始まる曲である。
まずマヒトは旅の始まりを歌う。それを聴きながらふらふら手足を動かしていた3人は、中盤、マヒトのマイクに走り寄り、ロスカル、イーグル、ヤクモアの順にそれぞれ違う方向を見ていることを歌い出す。そして、調子っぱずれなバラバラの歌声をなんとも幸せそうに重ねていくのだ。強固な一枚岩には見えない集団が、一瞬だけひとつになる。違いをあげつらっては分断していく行為の対極にある、これが今のGEZANの最も美しいメッセージだ。
この曲からつながる「Amrita」も讃美歌のような輝きで、全員で歌いあげるおまじないのような歌詞は、武道館で響いたとき、とんでもない奇跡を呼び込むのだろう。予感ではなく確信だった。近年はノイジーな爆音、聴き手と差し違えるほどのアジテートを続けてきたGEZANが、今、武道館を前にして愛の歌を歌い出したことは偶然ではない。名曲「DNA」で踊りながら迎えた大団円、最後にマヒトが残した言葉を繰り返し書き記すことで終わりとしたい。
「見たい景色がある。3月14日、武道館で待つ」
取材・文=石井恵梨子 撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase)
ライブ情報
日程:2026年3月14日(土)
会場:東京・日本武道館
時間:OPEN 17:30 / START18:30
料金:指定席¥8,000
ライブ情報
日程:2026年5月15日(金)
会場:東京・ガーデンシアター
時間:OPEN 18:00 / START 19:00