SUAI フルートという楽器の可能性を最大限に広げるポップフルート奏者に訊く、その独特な表現スタイルの背景にあるものとは?
SUAI 撮影=大橋祐希
ポップフルート奏者として活動しているSUAI。前作に続き、シライシ紗トリをプロデューサーに迎えたニューアルバム『Swingin' Doll』には、ジャンプブルース、エレクトロスウィング、ラテンミュージックなど、多彩な音楽のエッセンスを取り入れた8曲が収録されている。フルートという楽器の可能性を最大限に広げる意欲にも溢れた作品だ。彼女の独特な表現スタイルの背景にあるものとは? 予定されているワンマンライブについても語ってもらった。
――フルートを始めたきっかけは、アニメの登場人物だったんですよね?
はい(笑)。10歳からフルートを始めたんですけど、『ミルモでポン!』に世界的な天才フルート奏者の女の子が出てきたんです。“この楽器、私もやってみたい”と思ったのが、フルートを始めたきっかけでした。
――同じようなきっかけで始めた人は、結構いるんですか?
どうなんでしょう? 吹奏楽の部活でフルートを始める人は多いと思いますが。私はフルートを始める前にお琴を習っていたんですけど、2年くらいでやめてしまって。その後に習ったヴァイオリンも1ヶ月ぐらいでやめてしまったんです。でも、フルートはここまで長く続けることができています。
私がモットーにしているのは“聴いても楽しく。観ても楽しく”なんです。
――習い始めたフルートは、自分に合っていると感じました?
練習は嫌でした。吹けた時は楽しいんですけど、嫌になってしまって全然吹かない時もありましたね。音を出せるようになるまでに時間がかかる楽器でもありますので。でも、小学生の頃から“この楽器をお仕事にするんだ”と思っていました。なぜなのか理由はわからないんですけど。それまでも“お花屋さんになりたい”とか、漠然とした夢みたいなものはあったんですけど、“これで行く!”と決めたのは、それが初めてでした。中学生の時には、音楽系の高校に進学すると決めていましたね。
――フルート以外の道を考えたことは?
あります。高校、中学とクラシックの勉強をしていたんですけど、スランプで“やりたくない”となったのは、音楽大学の3年生の時でした。それでもやめなかったのは、意地だと思います(笑)。子供の頃はお琴やヴァイオリンをやめてしまったのに、なんでだったんでしょう? やめなかった理由は……やっぱり、意地になってたんだろうなあという言い方しかできない感じですね。
――クラシック以外の方向で活動することへの周囲の反応は、いかがでしたか?
やっぱりたくさん反対されました。ポップスを吹くことに関してはそんなに言われなかったんですけど、私がモットーにしているのは“聴いても楽しく。観ても楽しく”なんです。そこに対しては、いろいろ言われましたね。私は踊りながら吹きますし、今は歌ったりもしますから。他にもこういう活動をしていらっしゃる方々はいますけど、やはり新しいことに対しては、様々な意見があるんです。
――音大在学中から、学外での演奏は始めていたんですか?
はい。大学4年生くらいからレストランとか、学校の外で演奏するようになっていました。そういう場所で演奏するのは、学校で勉強しているようなクラシックの曲ではなくて、「愛の挨拶」や「カノン」とか。勉強しているものと求められているものの違いに衝撃を受けて、“私が今、学校で勉強している音楽とは何なんだろう?”という葛藤が生まれました。
――オーケストラの団員になろうと思ったことは?
最初は、オーケストラに入るのが夢だったんです。海外に留学することも考えました。でも、楽器で食べていくのはかなり大変なので、“留学して戻ってきても、仕事はあるのだろうか?”と、現実的に考えました。オーケストラに入るのを目指すとしても、フルート奏者のポジションが空くこともなかなかないですし。“どうしようかな?”と考えていた時期にリンジー・スターリングさんのYouTubeをたまたま観たのが、今思えばとても大きかったと思います。
――アメリカのヴァイオリン奏者ですね。
はい。リンジー・スターリングさんはものすごくエンターテイナーで、観ても聴いても楽しくて、私もこういう演奏をしたいんだなと気づいたので。それがきっかけとなって、今のような活動にチェンジしていきました。でも、クラシックをやらなくなったわけではなくて。もともとクラシックも好きなジャンルですから、今でも時々、生音のピアノとフルートでクラシックを演奏するコンサートもやっています。
――ソロ名義での1stアルバムは、2024年9月25日にリリースした『Funky Kitty Cat』でしたね。シライシ紗トリさんがプロデュースを手掛けた経緯は?
紗トリさんは仕事でご一緒させていただいたことがあって、「私、こういうフルーティストになりたいんです」という相談をしていたんです。そこからいろんなことを教えていただくようになり、プロデュースをしていただくことになりました。
――1stアルバム『Funky Kitty Cat』は、どのような作品になったと感じていますか?
紗トリさんにお伝えしたのは、「お客さんと一緒にステージを作っていきたい」ということだったんです。なので、コール&レスポンスが曲に組み込まれていたりするんですよね。やりたかったことが形にできたアルバムです。「ステージで演奏するのを観て元気になったよ」とかお客さんに言っていただくのが本当に嬉しくて。もちろん音楽を聴いていただけるのもとても嬉しいんですけど、生のステージを観ていただくことに大きな喜びがあります。
――幅広い音楽の要素を取り入れていますよね?
はい。ジャズやクラシックとか、家で1日中音楽を流して暮らしているんです。管楽器の中ではトロンボーンが一番好きなので、トロンボーンのインストもよく聴きますね。なんでフルート吹いてるの?ってなっちゃいますけど(笑)。洋楽も大好きです。コールドプレイ、エド・シーランとか、ライブにも行っています。
――エド・シーランみたいにルーパーを使って演奏するのとか、フルートでもやったら面白そうです。
今、まさにそういうことをやろうとしています(笑)。エフェクターのペダルを踏んで音色を変えて演奏することは、既にやっています。私はもともとシンセサイザーの音が好きで、フルートでも電子楽器的なことを取り入れてみたかったこともあって。
――エレキフルートってあるんですか?
まだないので、楽器メーカーのみなさんに「エレキのフルートを作ってください」と、お伝えしたことはあります(笑)。ちょっと自分でトライしてみよう!となって、足元にエフェクターボードを置いて、音を変えてみたりしています。フルートでこんなこともできるんですよ、というのも、みなさんに楽しんでもらえたらなと思います。
――未開拓の演奏スタイルですから、新鮮なことをいろいろできそうですね。
そうですね!!フルートにマイクを付けたり、ちょっとした改造を加えています。どんどんやってみようと思っています。
――興味を持つ楽器メーカーもあるでしょうね。
楽器メーカーのローランドさんと仲よくさせていただいていて、いろいろご相談すると、「面白いですね」とおっしゃってくださっているので、今後、何かを形にできたらいいなあと思っています。去年の11月末にローランドさんからフルート型の電子管楽器が発売されたんですけど、「こういうのが欲しかったんです!」と色んな会話をさせて頂いています。
私、歪んだ音が好きなようでして(笑)。実はイングヴェイ・マルムスティーンのライブに行ったりもしています。
――新しい試みをする中で、難しさを感じるのはどのようなことですか?
今は直接楽器にマイクを付けているんですけど、初期は普通の楽器用のマイクで音を拾っていたんです。その時はシンセの音だけが聞こえなくなったり、音作りで苦戦しました。ライブでドラムの音とかがマイクに乗って、フルートの音が消えてしまったりとかもありましたね。上手く行くようになるまでには、たくさん時間がかかりました。
――エフェクターもいろいろ試しています?
はい。私、歪んだ音が好きなようでして(笑)。実はイングヴェイ・マルムスティーンのライブに行ったりもしています。
――多彩な要素を吸収しながら独自のスタイルを育んでいるんですね。前作の『Funky Kitty Cat』ではファンクを取り入れていましたし、バンド編成で演奏することに関しても新鮮さがあるんじゃないですか?
バンドでのライブはソロでの活動を始めてからなんですけど、こんなに楽しいんだ!と思いました。ただ、イヤモニに慣れるまでには、ちょっと時間がかかりました。直に耳に音が入ってきながら演奏するというのは、体験したことがなかったので。慣れるために、家でもイヤモニをしながら練習しましたね(笑)。でも、そういうのも楽しいんです。
――踊りながら演奏するのも、大変さがあるのではないかと想像するのですが。
フルートは口と指の3点で押さえて吹くので、踊ると揺れますし、音程を保つのも大変なんです。その大変さは、ぜひみなさんに知っていただきたいです(笑)。踊りながら吹けるようになるまでは、かなり練習しました。
――振り付けは、振付師さんにおねがいしているんですか?
そうですね。お願いしたりする楽曲もあります。自分でも試行錯誤を繰り返したりしています。吹いているリズムと、ダンスのステップのリズムが異なったりすると、ものすごく苦戦します(笑)。
――(笑)。ライブに来るお客さんの層は、幅広いんですか?
幅広いです。20代くらいから60代くらいの方々までいらっしゃるので。
――ダンスや歌を交えた演奏は、ちびっ子も楽しんでくれると思いますよ。
お子さんも来てくれたら、とても嬉しいです。
――「あのお姉さん、かっこいい!」と憧れてフルートを始める子供たちがいるかも。
それも私が目指しているところなんです。ショッピングモールとかでのリリースイベントでお子さんが来てくださることはあるんですけど、もっと聴いてもらえる機会を作っていくのも楽しそうですね。
――最新作の『Swingin' Doll』は2枚目のアルバムですが、どのような作品にしたいとイメージしていました?
1stアルバムは盛り上がる系の曲が多かったんですけど、今回はじっくり聴いていただける曲も多めに入れたいと思っていました。
――『Swingin' Doll』というタイトルの“Swingin'”は、ジャズとかのスウィングですか?
そういう要素の意味もありますし、フレンチポップス、ヨーロッパの古いキャバレーみたいなイメージも込めてつけたタイトルです。
――一つの物語を描くように8曲が並んでいるという印象です。
まさにそういうイメージです。1枚を通して一緒に音楽の旅をしていく感じになっているので。
――1曲目の「Swingin' Doll - Prelude」は、物語の幕開けという印象がします。
クラシック×ジャズという感じで作っていて、シネマっぽい雰囲気もあると思います。どことなくアストル・ピアソラみたいな感じなんですかね? 哀愁が漂う、少し妖しげなメロディの曲になっています。
――この曲からスタートして、2曲目の「Kick Up the Sky」でいきなり熱いサウンドが鳴り響くのは、意表を突かれる展開でした。
雰囲気が突然変わりますよね(笑)。ジャンプブルースで、音も歪ませている曲なので。ライブではキックをしながら演奏をしています。
――キックするんですか!?
はい(笑)。私、結構、脚が上がるんですよ。とてもかっこいい曲になって、お気に入りです。ライブでは、バンドのみなさんもキックしながら演奏をしてくださっています。
いつかSUAIモデルのエフェクターとか作れたら嬉しいな。
――フルートの演奏に対して“情熱的”という表現はあまり使わないと思うんですけど、SUAIさんの曲を聴くと“情熱的”という言葉が頭に浮かびます。
ありがとうございます。吹きながら、“行くぞ!”みたいな気持ちもあるのかもしれないです。
――ライブでは、お客さんを積極的に煽りながら巻き込みますよね。
そうですね。やっぱり、そういうのが好きなので。
――「Kick Up the Sky」は、シライシさんのエレキギターとフルートがバトルしているような雰囲気も感じます。
もともとはギターソロが2ヶ所になる予定だったんですけど、「ギターじゃなくてフルートがいいな」ということになり、最終的には全部フルートソロにさせていただきました(笑)。
――(笑)。パワフルなフルートの音色が、とても新鮮です。様々な機材を試しながら使える音色を探しているんですか?
はい。レコーディングではプラグインでエフェクトをしているんですが、いろいろ教えていただきながら試しています。
――エレキギター用のエフェクターは、フルートにも上手い具合にエフェクトがかかるんでしょうか?
そこは少し悩みもあったりしますね。お気に入りで使っているエフェクターが、高音のFから上が出ないので、まさにローランドさんと相談しているところです。いつかSUAIモデルのエフェクターとか作れたら嬉しいなと思っているんですけど(笑)。そういう課題があるので、ライブでは違うメロディにしてエフェクターの効果がかかるように工夫することがあります。
――ワウは、フルートで使えます?
次のライブかレコーディングでやってみようと思っていることの一つですね。
――「Kick Up the Sky」のようなエネルギッシュな曲は、ライブで楽しいでしょうね。「Dupie Dupie」も盛り上がるんじゃないですか?
はい。エレクトロスウィングで、お客さんが手拍子をしながら踊ってくださっています。結構な量の歌も入っているんですけど、こういうのは初めてですね。歌うのは好きで、家でも1人でよく歌っています(笑)。
――(笑)。歌声もすてきです。
ありがとうございます。ファンのみなさんからは、「声、低いよね」と言われるんですけど(笑)。歌は、これからも歌いたいです。フルートの演奏は音を聴いて想像していただくことになりますけど、歌には歌詞があるので、みなさんの気持ちに寄り添うことができるんですよね。そこに魅力を感じています。
フルート奏者という枠にとらわれないライブをいつもしているので、そこをぜひ楽しんでいただきたいです。
――「EDP - When My Top Note Fades」は、じっくりメロディに浸れる曲ですね。「EDP」は、どういう意味ですか?
“EDP”は“Eau de Parfum(オードパルファム)”の略なんです、その後の“When My Top Note Fades”の“Note”は、香水の香りの種類、香りの段階を表す言葉なんです。それを音のノートという意味と掛けているタイトルです。元気な私をお届けすることが今まで多かったので、この曲で色香みたいなものもお届けできたらいいなあと考えています。
――「Love in a Pod」は、力強いバンドサウンドですね。
この曲は、エレクトロスウィングですね。まだライブであまりやっていないので、今後、ステージならではのものを作り上げていきたいです。
――歌でも楽しませてくれます。
フルート奏者は普通は歌わないですけど、歌う人もいていいのではないかと(笑)。お客さんも「歌、いいよ!」と言ってくださっているので、歌も頑張っていきたいです。
――ラテンミュージックの要素が入っている「Lovombo」も楽しいサウンドです。
“Love”と“mambo”を合せて「Lovombo」なんです。私はラテンミュージックも大好きで、前作でもラテン調の曲があったんですけど、今回もやってみたくて。
――ラテンミュージックがお好きですし、演奏スタイルも力強いですし、やはりSUAIさんには情熱的な部分がすごくあるんでしょうね。
どうなんでしょう?(笑)。でも、感情表現は豊かな方だと思います。普段から喜怒哀楽のそれぞれを思いっきり出すキャラクターなので。
――今作の各曲も豊かな感情表現をしているのを感じます。「Swingin' Doll」は、喜怒哀楽の「哀」ですね。
「Swingin' Doll」と「EDP - When My Top Note Fades」は、まだお客さんの前でやっていないんですよね。ライブでどういう感じになるのかが楽しみです。
――そして、このアルバムを締めくくるのは、「I Want All, Everything」。明るい華やかなムードです。
イメージとしては「Swingin' Doll」で物語が終わって、「I Want All, Everything」はエンドロールみたいな感じですね。
――今回のアルバムを振り返って、どのようなことを感じます?
新しいSUAIの一面を表現できたと思います。ぜひ、楽しみながら聴いていただきたいですね。
――3月13日に渋谷eggman、6月7日に心斎橋CLAPPERでワンマンライブが開催されますが、どのような公演にしたいですか?
1stアルバムの時とはまた別のSUAIが全開になると思います。フルート奏者という枠にとらわれないライブをいつもしているので、そこをぜひ楽しんでいただきたいです。そして、お客さんと一緒に作り上げていきたいです。
――バンド編成のライブですよね?
そうです。バンド編成なので、生でメンバーのみなさんと合わせながら音を作り上げていくのも楽しんでいただきたいです。6月7日は、初めての大阪でのライブなんですよね。今後、さらにいろいろな街に行けたらいいなと思っています。
取材・文=田中大 撮影=大橋祐希
リリース情報
CD発売日:2026年3月19日
<収録曲>
1. Swingin' Doll ‒ Prelude
2. Kick Up the Sky
3. Dupie Dupie
4. EDP ‒ When My Top Note Fades
5. Love in a Pod
6. Lovombo
7. Swingin' Doll
8. I Want All, Everything
ライブ情報
リリースワンマンライブ『スアイ大作戦』
日付:2026年6月7日(日)
場所:心斎橋CRAPPER
開場 18:00/開演 18:30
出演 SUAI with BAND
詳細&前売はこちら https://livepocket.jp/e/ln_fx
追加公演
日付:2026年8月9日(日)
場所:渋谷eggman
開場 18:00/開演 19:00
出演 SUAI with BAND
詳細&前売はこちら https://livepocket.jp/e/i3-8l
SUAI情報
台湾台南市親善大使。
ジャンルの枠にとらわれず、エフェクターを取り入れた表情豊かなサウンドでライブを彩るポップフルート奏者。
常に“踊れる音楽”を追求している。犬と猫をこよなく愛する。
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