「少しずつ前に進めている」片平里菜の変化と成長ーー全国を旅して感じたこと、今だからこそ歌えるラブソングとは

インタビュー
音楽
2026.5.23
 撮影=ハヤシマコ

撮影=ハヤシマコ

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この数年、ライブを活動を主戦場として47都道府県3周した片平里菜。昨年は自己最多&最長の13ヶ月73カ所のツアー『風の吹くまま』を無事に完走し、最終地点の沖縄で紡いだ楽曲「夏の祈りのなかで」をデジタルリリースするなど、片平里菜の芯にあるメッセージを全国各地で伝えてきた。そしてアルバム『Redemption』から約2年半、待望のニューシングル「愛するたびに」をリリースした。同楽曲は、デビューから12年が経ち、少し大人になった片平里菜の渾身のラブソングだ。カップリング曲には、はかなく美しい夜を描いた「そんな夜を」、日本各地の民謡の囃子詞(はやしことば)を取り入れたフォークソング 「うたのふるさと」、そして彼女の代表曲「女の子は泣かない 弾き語り room ver.」のセルフカバーの4曲を収録。今回SPICEでは、片平とデビュー以来親交を深めてきた大阪のラジオ局・FM802のDJ 内田絢子がインタビュー。久しぶりのラブソングを制作するに至った経緯や、全国ツアーを経た彼女の心境の変化、そして現在敢行中のリリースツアーについて話を訊いた。

素の自分になれた、ラブソング「愛するたびに」
負けん気の強さから「強くなろうとしない強さ」へ変化

ーー前回、SPICEでインタビューさせていただいたのが2024年で、アルバム『Redemption』のリリースツアーの最中でした。あれから2年が経ちましたが、率直に今年の片平里菜さんはどんなモードなのかなというところから聞かせていただけますか?

今年に入ってすぐに、新しいアーティスト写真と「愛するたびに」のジャケットの撮影から始まりました。リラックスした安心感のある新曲なので、マインドは柔らかくて温かいんだけど、実際は新年から動き出したこともあり慌ただしいので、しっかりと「歩いていくぞ」というモードかもしれません。

ーー去年は13ヶ月73本にも及ぶロングツアー『風の吹くまま』を完走されました。ツアーを通してたくさんの場所を回られましたが、振り返ってみていかがですか?

『風の吹くまま』よりおもしろいローカルサイドを探して会場を決めたので、それまでよりもさらに踏み込んで地域のことを知ることができた旅だったと思います。

ーーいつもツアーの時は、その街の方と交流したりゆっくり散策するような時間もつくられているのですか?

そうですね。特に『風の吹くまま』のツアーは、移動日にできるだけいろいろ回らせていただいて。たとえば、四国に行った時はレモン農家さんの収穫を手伝わせてもらったりと、ゆとりを持って旅をしていました。

ーーいろいろな地域の方々との交流を、今回のシングル「愛するたびに」からすごく感じることができて素敵でした。今作のテーマとなっている、ラブソングを書こうと思ったキッカケは?

20代の頃にラブソングをたくさんリリースしてきたので、もう一度ルーツじゃないけど、自分の素の部分に立ち返りたいなと思ったのがキッカケです。というのも、シングル「予兆」やアルバム『Redemption』という社会的なメッセージが色濃く出た作品をリリースできたからこそ、今は素でいられている感じがしたんです。それと、30代の今だからこそ歌える等身大のラブソングが作れたら、世の中にどう響くのかなという好奇心もありました。

FM802 DJ 内田絢子

FM802 DJ 内田絢子

ーー今回の「愛するたびに」は、「愛」という大きなテーマで歌われているところが、とても今の里菜さんにフィットしているなと感じました。それはきっとこの楽曲の制作を通して、自分自身を知るキッカケになることもたくさんあったんじゃないかなと思ったり。

そうですね。「愛するたびに」は自分の内側を見つめたことで、日記のように書くことができたと思います。今までいろんな恋愛をしてきたし、親子の関係もそうじゃない関係も、誰かを、何かを愛するたびに自分が得たものがあったなとか。逆に、失敗を怖がって何度も同じ繰り返しをしてきたことも見つめ直したことで、実は同じように見えても少しずつ変化していて、少しずつ前に進んで成長できているようにも感じられました。なので、すべて受け入れて「大丈夫だな」「歩いて行ける」と前向きな気持ちで書くことができたと思います。

ーーまさに歌詞の<少しずつ変わってく 螺旋状に登っていく>の通りですね。聴くたびに胸にじーんとくる、希望のあるフレーズだなと思います。

ちゃんと上に登っているし進んでいる。しっかりと自分自身を形作れていると思えたら、傷ついてもいいし失敗してもいい。ただ、諦めなければ大丈夫、という思いを込めました。

ーー柔らかいイメージの中に、自分自身を認めてあげるような強さが芯にある曲だなと感じます。音も声も柔らかさがとても印象的だったのですが、今までと違ったアプローチもありますか?

もしかすると、今の心境が出ているのかもしれませんね。20代の頃は、ちょっとロックだったり、負けん気の強さや自己主張ができる女の人への憧れがあったので、歌い方も自然と力強いハイトーンボイスだとかアッパーな曲が多くて、わかりやすく「強い女の子」だったと思うんです。でも、今の私がなりたい強さはまた違ってきていて。なんだろう……「強くなろうとしない強さ」なのかな。

ーーなるほどなるほど。

それがとても心地がいいし、今の私が世界に届けたい強さだなと思います。強く見せなくてもいい。柔らかくて弱くても、傷ついた自分をそのまんまで受け入れられる強さ、みたいなものがとても大事なんじゃないかなと。

ーーとても素敵です。等身大の中に宿る強さですね。また、音や声に余白があり、聴く人の心が一緒に混ざりあっていくような感覚がありました。だからこそ、早くもたくさんの方に届いて響いているんだなと思います。楽曲のアレンジの部分では、特にどんなところにこだわりましたか?

去年の夏に久しぶりにバンド編成でワンマンツアーをしたのですが、その時に組んだメンバーでアレンジとレコーディングをしました。そこにいるだけで「バンドマン」だなと思わせカッコよさがある、浜田将充さん(IdolPunch、LEARNER BOYS、Riddim Saunter)に、THOMAS MARQUARDTのギターの高橋飛夢さんとドラムのマコトU.S.Aさんの4人編成です。彼らは余白も音楽にしてしまう引き算と色気があってとても魅力的なんですよね。今までは私がギターで歌うという核があって、そこにどんどん音が足されていくイメージだったんですけど、彼らの音楽を聴いていると引き算の中にボーカルが埋もれず、はっきりと存在できる絵がすごくイメージできたんです。だから今回はなるべく無駄のない削ぎ落としたアレンジで心地の良い浮遊感がある楽曲をやりたいなと思いお願いしました。

ーー私が音の余白に委ねるように聴けたのは、里菜さんにとっても穏やかな感覚で挑めたからなのかもしれませんね。

そうかもしれません。曲の中で「恐れ」という言葉がキーワードとしてあるんですけど、自分を愛せている世界も他者を愛せている時も「恐れ」がない状態に近いなと感じていて。自分が自分でいられている、自由を感じられている状態こそが「愛」なのかなって。だからこそ、自分もみんなも、少しずつ「恐れ」を抱きしめて安心していけるような、そんな曲になったらいいなと思って作りました。

引き算の美学で辿り着いた自分らしさ
全国各地を旅したことで生まれた楽曲たち

ーーまさに、自分の中にある大切なものに気づかせてもらえる1曲だなと思います。今回のシングルには、他にも3曲収録されていますね。「そんな夜を」は、どこか昭和歌謡のような哀愁が漂いながら、聴き終わってみると余韻には希望を感じる、そんな不思議な感覚の楽曲でした。

この曲は去年の夏に作りました。『風の吹くまま』で全国津々浦々を旅して、東京に帰っていざ制作だとなった時に、なぜか全然曲が書けなくて……。いろんな気持ちを持ち帰ってまとめることはできると思うんですけど、東京では集中できない、気分が制作に向いていない感じがしたんです。その時に、ツアーの最後の場所である沖縄では、現地での空気感を感じながら「夏の祈りのなかで」を作ってリリースすることができたこともあり、思い切っていろんな地域で曲を作ってみるとおもしろいかも、と思いついて。沖縄で曲を作った時は、ORANGE RANGEのYOHさんが三線で参加してくれたので、次は大好きな街の札幌で、いつも対バンしてくれるBENBEに声をかけて、一緒に作り始めました。

ーー札幌に行ってから制作がスタートしたんですね! 

東京で曲が書けなかった時期は、なんだか自分自身に飽きていたんですよね。曲作りや思考の癖、言葉選びやメロディラインの全部に飽きていて、もう自分から逃げたいとさえ思っていました。

ーーなるほど。この曲を聴くと、里菜さんから溢れてくるものがわーっとさらけ出されているようにも感じたのですが、それは「逃げ出したい」「投げ出したい」という心境からきていたのですね。

「もう壊したい!」という気持ちがありながらも、自分で自分を壊すのってなかなか大変だから……誰かに手伝ってもらいたかったんだと思います。実際に、札幌で一緒に制作できたことがとても新鮮でやってよかったです。私はこれまでに作ってきたポップな曲では7〜8コードを使っていたのですが、BENBEは2コードとか、なんなら1コードで完結させているバンドなんですよね。そういうテクニックを教えてもらってなるべくシンプルにしていく過程で、逆にいろんな制限から解き放たれていく感覚になれました。なのでこれまでの曲作りとは全く違っていたからこそ、とても楽しかったですね。

ーー今回は引き算をしていく要素が、肩の力を抜けせてくれるキーワードなのかもしれませんね。

確かにそうだと思います。「愛するたびに」では素になれて、「そんな夜を」では一度自分自身を壊して、どちらも自然体の自分を出せたと思います。

ーー長く続けていくことで自身の個性を色濃く出せることもあるけれど、それがかえって窮屈になってしまうこともありますよね。いろんな場所でいろんな人と出会い、歌を通してカタチを変えるキッカケになったのかもしれませんね。

そうですね。いろんな場所で出会った人たちに影響を受けて、その人たちのことを歌っていますが、自分のフィルターを通して歌うからこそ曲が写し鏡となって、自分自身のことを見つめ直せたのかなと思います。

ーー「うたのふるさと」は、まさにいろいろな場所を旅したからこそ歌える曲ですよね。この曲は、旅の途中で生まれたのですか?

そうですね。去年の『風の吹くまま』に限らずなんですけど、各地を歌いまわっていく中で、その場所に根付いている民謡だったり、そういった歌を通して見える生活や風景、想いにすごく感銘を受けています。最近では、民謡や伝統芸能や職人さんのお仕事の継承が難しくなくなっていく地域が多いので、私が各地の文化からインスパイアされた要素を取り入れることで、私にも何かできないかなと思い作りました。

ーー全部ひらがなの歌詞にされているのは、子どもたちも歌えるようにという思いがあってですか?

そうですね。なんとなく民謡や童話とか日本昔話のようなノスタルジックなイメージがあったので、子どもに伝わるようなひらがなにしたいなって。

ーー爪弾くようなギターの音色も優しくて、これからそれぞれの街で歌われることでまた違った表情を見せてくれそうですね。

この曲を通して、いろんな土地で交流ができたら嬉しいですね。「これがうちの民謡でね」「こんな囃子詞(はやしことば)があるよ」と教えてもらえたりすると嬉しいな。この曲に新しいフレーズが、どんどん足されていくかもしれない。

「今の私が歌うラブソングは、どう伝わるかな」
再び全国各地で、生の歌を音をどける旅へ

ーーそして4曲目は「女の子は泣かない」の弾き語り room ver.です。2014年にリリースされた里菜さんの代表曲ともいえる楽曲ですが、今この曲をアレンジして届けたいと思った理由というのは?

「愛するたびに」の話にも通じるんですけど、この曲の女の子ってすごくかっこいいなと思っていて。わかっちゃいけない恋に、情に流されてやっぱり失敗しちゃって、それでも泣かない女の子を歌っていて。いや、泣いてはいるんだけど涙を拭いて、なりたい自分になるために、輝くために歩いていくかっこいい女の子なんですよね。あれから時が経ち、今の私だからこそ歌える『女の子は泣かない』で、包み込むことができたら……という思いで再録しました。ちなみに収録も「愛するたびに」と同じレコーディングスタジオで録っています。

ーーまた全然違った音ですね。聴いていると、ソファーの隣で里菜ちゃんが歌ってくれているような、あるいは話を聞いてくれているように思うぐらい寄り添ってくれている感覚がありました。

まさに全く同じイメージを、エンジニアさんに伝えました。小さな同じ部屋の空間で、歌っている距離感を音像にしてほしいと。

ーー「女の子は泣かない」を当時から聴いている方にとっては、これまでの自分自身の恋を重ねてまた感じるものがあるのではないかなと思いました。

「女の子は泣かない」と一緒に人生を歩んできた、と言ってくださる同世代の女の子のファンがたくさんいて。そうすると今は結婚したり子どもがいたりで、なかなかライブからは足が遠のいている方もいると思うんです。だからこそ、そういった同世代の女性たちに、もう一度この曲を聴いてもらうのもいいなと、思ったり。その上で、今の私のラブソングも聴いてもらえたら、どんなふうに伝わるのかな、とかも考えてみたりしました。

ーー大人になって、愛の形が少しずつ変わっていく、里菜さんの人生が感じられる4曲ですね。「女の子は泣かない」には<そんなこともあったなんて 笑える日がくるのかな?>という歌詞がありますが、今、どうでしょう? あれから月日が経ち、今、笑える日が来てますか?

笑ってます。でもこの曲を書いた時の私は、どういう自分を想像していたかはわかりませんが、きっと理想通りになっていると思います。これまで立ち止まったり迷ったり、転んだりしてきたことは想像していなかったと思うけど、だけどすごく幸せだから。それこそ今は失敗しても、当時に比べると恐れることなく、自由で自分らしく、いいマインドでいられているので。笑顔も増えたと思います。

ーーぜんぶ繋がっているんですね。そんな里菜さんの歌を生でもぜひ感じていただきたいですね。ツアーは各地でゲストを迎えて開催されますね。

私とスタッフさんで「この場所にこの人と行けたらおもしろいね」と話しながら決めました。今まではその土地土地を拠点にされている方をお誘いすることが多かったんですけど、今回はどちらかというと「私がここに連れていきたい」という思いがあります。あの大好きなライブハウスのスタッフさんは、絶対にこの人のことを好きになるだろうから一緒に行きたい、とか。

ーー先ほどお話しにもあったBENBEは、札幌だけでなく6月9日(火)に愛知・安城rock bar Neverland や6月12日(金)越谷EASYGOINGSにも出演されますね。

そうなんです。楽曲にも参加してもらっているので、関東の方も一緒に回りたいなと。他にもたくさんのゲストの方に出演していただき、前回のツアーから本数も厳選しているからこそ、一本一本がより濃いツアーになるのではないかなと思っています。今まではその場所にお邪魔している立場でしたが、今回はその場所を私が選んでゲストに来ていただくので、いつもとはまた違った責任感と刺激もあります。場所によってセトリを変えたり、セッションを予定していたりするので、何ヶ所来ていただいても全然違ったライブになると思うので私自身も楽しみです!

ーー旅先によってさまざまな歌声とギターに出会えるライブを楽しみにしています!

取材=内田絢子 撮影=ハヤシマコ
文=SPICE編集部(大西健斗)


ツアー情報

『片平里菜 “愛するたびに”Release TOUR 2026』
(終了した公演は省略)
5月23日(土)熊本NAVARO w/関取花
5月24日(日)鹿児島Live HEAVEN w/関取花
5月26日(火)福岡LIVE HOUSE OP’s w/Predawn
5月28日(木)広島ALMIGHTY w/花男
5月30日(土)周南LIVE rise SHUNAN w/花男
5月31日(日)出雲APOLLO w/花男
6月2日(火)神戸VARIT. w/林萌々子 (Hump Back)
6月3日(水)京都LIVE HOUSE GATTACA w/ザ・バクマイズ
6月9日(火)安城rock bar Neverland  w/BENBE(Vo&Gt Accoudion)
6月12日(金)越谷EASYGOINGS w/BENBE(Vo&Gt Accoudion)
6月30日(火)仙台ROCKATERIA w/おおはた雄一
7月1日(水)盛岡the five morioka w/おおはた雄一 
7月3日(金)水戸LIGHT HOUSE w/FUNNY THINK 
7月4日(土)宇都宮HEAVEN’S ROCK VJ-4 w/FUNNY THINK
7月7日(火)千葉LOOK w/とまとくらぶ
7月19日(日)札幌KLUB COUNTER ACTION w/BENBE
7月20日(月祝)旭川CASINO DRIVE w/BENBE
7月23日(木)心斎橋Music Club JANUS w/locoflank (アコースティクセット)【片平里菜TRIOで出演】
7月25日(土)名古屋TOKUZO w/関取花×岡田梨沙 【片平里菜TRIOで出演】
7月30日(木)渋谷duo MUSIC EXCHANGE w/NakamuraEmi【片平里菜TRIOで出演】
8月8日(土)郡山Hip Shot Japan w/ 竹原ピストル

リリース情報

10th シングル「愛するたびに」
2026 年 4 月 1 日(水)リリース
1,800 円(税別)品番:BCH-0007
発売元:BUCHI.RECORDS/販売元:PCI MUSIC

<収録曲>
1.愛するたびに
2.そんな夜を
3.うたのふるさと
4.女の子は泣かない 弾き語り room ver.

「ロックバンドがやってきた」アナログレコード(7inch)
価格:2,500円(税別)、2,750円(税込)
​品番:BCH-0006 発売元:BUCHI RECORDS
https://katahirarina.base.shop
通信販売と会場物販(3月29日〜)のみで販売予定

<収録曲>
ロックバンドがやってきた
風の吹くまま 

■X(Twitter) https://x.com/katarina_81
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