石井琢磨「人生の宝物になるように」 初披露曲やレア曲を織り交ぜ贈る5大都市ツアー『音楽の宝箱』その想いとは
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石井琢磨
ピアニストの石井琢磨が2026年9月より全国5都市を巡るリサイタルツアーを開催する。石井といえば、今年5月に47都道府県ツアーのファイナルを沖縄の地で迎えたばかり。新たなスタートともいえる今回のツアーはどんな内容になるのか。イル・ド・フランス国立管弦楽団との公演を終えたばかりの石井に聞いた。
――この7月はパリの名門オーケストラ「イル・ド・フランス国立管弦楽団」とともに各地を巡られていましたね。まずはツアーを終えられての感想をお聞かせください。
イル・ド・フランス国立管弦楽団とは9公演共演しました。パリでのリハーサルを経て、団員のみなさまとは3週間一緒に過ごし、親密に音楽を作り上げることができたツアーだったと思います。このあと9月と10月には、パリでの公演も残っていますので楽しみですね。
――グリーグの「ピアノ協奏曲」を舞台で演奏したのは、初めてだったそうですね。
初めてゆえに不安もありましたので、ツアーの前に追川礼章さんと2台ピアノ版の演奏もしました。今回取り組んでみて、この協奏曲は作品の持つ力がとても強いと感じました。だから、自然に身を委ねて音楽にのっていく方が、作品の良さを最大限に活かすことができるんですよね。
――石井さんとツアーといえば、『47都市で回るツアー~ウィーンからあなたの街へ』を思い出します。その壮大なツアーは、2022年11月に始まり、この5月に沖縄で終わりました。
ウィーンから音楽をお届けするというコンセプトのツアーで、3年半かけて、最後の沖縄公演まで駆け抜けました。
クラシック音楽をより身近に感じてほしいとの気持ちで曲目を考え、47都道府県それぞれの場所でプログラムを変えながら回りました。自分がもう一度弾きたい曲だったり、「あの地域のお客様は聴いていない曲だから、ここで弾いてみようかな」などと思いをめぐらせながら、そのエピソードとともにプログラミングしていました。
その固定ではないプログラム、それが今回のピアノ・リサイタルツアーにも結びついています。
――そのリサイタルツアーは今秋、『音楽の宝箱』と題して新たに始まります。
47都道府県を回ったあとの、「ありがとう」の気持ちを込めたリサイタルツアーでもあります。ツアーでは、初めての出会いがさまざまありました。自分の人生にとって宝物だと感じる瞬間もたくさんあったのです。
リサイタルツアー『音楽の宝箱』では、新たな曲として、ヨハン・シュトラウスⅡ世の「宝のワルツ」やショパン「バラード第3番」などを入れる予定です。自分の人生で、新たに発見した作品や、過去に出会っていたけれどずっとあたためていた曲を初めて披露します。自分にとって「お宝だな」と思うエピソードもお話しする予定です。
みなさまにとって、このリサイタルツアーが今後の人生の宝物になるように願っています。
――ヨハン・シュトラウスⅡ世の「宝のワルツ」(ドホナーニ編曲)って、ライヴではあまり演奏されませんね。
プログラムを締めくくる“お宝のようなワルツ”を探していたところ、ウィーンでローランド・ケラー先生とティータイムを過ごしていた際、「『宝のワルツ』があるよ!」と教えていただきました。確かに、オペレッタ『ジプシー男爵』の中のワルツでドホナーニが編曲した曲があったか!と。素敵な作品だけれど、演奏される機会はほとんどない激レア作品です。ドホナーニの華やかな音階や和声感を織り交ぜたワルツですね。
知らない曲を聴くことも、コンサートの楽しみのひとつだと思います。「こんなに良い曲があるんだ」という新たな出会いが、みなさまの宝物になりますよう、メインディッシュに「宝のワルツ」を入れました。
――ショパン「バラード第3番」を舞台で演奏するのは、今回は初めてだそうですね。
ショパンのスペシャリスト、アンナ・マリコヴァ先生のレッスンで学んだ曲で、学生時代には演奏していました。
先生は、ショパンについてさまざまなことを教えてくださいました。「ショパンを弾く時はノーブル(高貴)であること」とよく言われました。それを心がけて演奏しています。
――イル・ド・フランス国立管弦楽団との共演に続き、今回のリサイタルツアーでもグリーグの作品を演奏します。「君を愛す」を選曲した理由をお聞かせください。
「君を愛す」は4年前、ウィーンでミュージック・ビデオの撮影をした曲です。その時から、「いつかこの曲を舞台で演奏したい」と思っていました。その4年前の「君を愛す」の演奏と、いまの演奏とはまったく違います。映像は僕のYouTubeチャンネルで見られますので、当時のミュージック・ビデオをご覧になって、このコンサートで聴くと、違いがはっきりとわかると思います。
イル・ド・フランス国立管弦楽団と共演するために、グリーグについてしっかりと勉強してきました。また、この3月にはヴァイオリニストの石田泰尚さんと(グリーグの)「ヴァイオリン・ソナタ第3番」を演奏しましたし、自分にとって今年はグリーグ・イヤーだと思っています。「グリーグの音楽ってこうだよね」と提示できる自信も育っているので、今回のツアーにグリーグ作品を演奏するのは良い機会だと思っています。
――グリーグはピアノ曲を数多く作曲していますね。
グリーグは、生涯通じてピアノの「抒情小曲集」を書いています。1曲目の「アリエッタ」のメロディは、その曲集の最後の曲「余韻」にも用いられていて、30年以上を経て同じメロディで結ばれる構成になっています。ここで感じるのは、起承転結の大切さ。グリーグもそれを考えていたのではないかと思います。
――グルンフェルト「ウィーンの夜会」とシューマン=リスト「献呈」は、石井さんにとって、とても大切な作品だと以前にうかがいました。
「献呈」はYouTubeを始めてから演奏するようになった曲で、YouTube配信と共に歩んできた曲です。
一方の「ウィーンの夜会」は、YouTubeを始める前から勉強していた作品で、ウィーンの市立図書館のイベントで出会った曲です。「まだ見ぬ作曲家を掘り出そう」という企画に出演させていただいた際に演奏しました。当時、日本ではほとんど演奏されていなくて、自分の“持ち曲”にしたいと思い、YouTube開始直後に投稿したんです。こちらも自分にとって思い入れのある作品です。
「ウィーンの夜会」や「献呈」のように、自分の大好きな曲たちを毎公演弾くのもアリだなと思っていて、特にこの2曲は「石井琢磨の十八番」とか「石井琢磨といえばこの曲だよね」という位置づけにしていきたいと考えています。
――リサイタルツアーが行なわれる5つのホールは、非常にすぐれた音響を誇ることでも知られています。
こんなに大きなホールで演奏できるなんて、足を運んでくださるお客様のお陰だと思っています。
――全都道府県を制覇し、国内外のオーケストラとの共演やツアー、ほかにも公演がさまざまあり、濃密な音楽人生を歩んでいますね。
旅人のような生活です。この2ヶ月で、東京の家に帰ったのは5、6日だけ。久しぶりに家にいると、「自分の家って、こんな感じだったんだ」と思います(笑)。
――お忙しいなかだと思いますが、今後企画されていることなど、今お話しできることはありますか?
『スタクラ2026 in 横浜』で一つ大きな発表をしたところですが、今個人的にうっすら考えているのは……『たくおん生配信祭り』をしたいなと!
僕は応援してくださる方々とリアルタイムで一緒に過ごす時間を大切にしています。なので、YouTubeライブなどの生配信で交流することが多いのですが、最近はあまりできていなくて。『生配信祭り』は、何日か、毎晩8時半とか時間を決めて30分間生配信をするスペシャル企画のような。やるとしたら、8月中旬あたりかな。そこで宝物ツアーのプログラムの残りの楽曲発表だとか練習報告だとか、さまざまな話をみなさまと共有したいと思っています。……これ、言ってしまったらやらないとですね(笑)。
生配信祭りはともかく、ツアーの残りのプログラム発表はインスタライブでできればとは思っているので、楽しみにしていただければと思います。
――いま、音楽以外のブームってありますか?
ハマりそうなゲームがあります! 「ディクシット」というカードゲームで、明日、初めてやる予定なんですが、その人の深層心理がわかるゲームだそうです。
――カードの絵柄から連想される言葉からカードを当てるゲームみたいですね。
もしも、それが面白かったら、8月に男8人で『PIANO CLOVER』に向けて合宿するので、そこでやってみようと思います。みんなの深層心理を知るの楽しそうじゃないですか?(笑)
――2025年から現在にかけて、ミュージカル「のだめカンタービレ」シンフォニックコンサートへのご出演や、「ウィーン協奏曲」をはじめとする編曲への挑戦、『PIANO CLOVER』のスタートなど、さまざまな新たな試みに取り組んでいました。今改めて、ご自身がめざす演奏家像を教えてください。
例えば編曲ってひとりで淡々とやっていく作業ですが、まわりの人を巻き込むと、何倍もの力になります。僕は、それが好きだということを改めて認識しました。クラシック音楽に主軸を置きながら、まわりを巻き込んでいくクラシック・ピアニストでありたいですね。
取材・文=道下京子