堀ちえみ 「もっと歌っていればよかった」という後悔はもうしたくない――大舞台に臨む思いを語る
堀ちえみ
「もっと歌っていればよかった」という後悔はもうしたくない――。昨年のライブハウスツアーに続き、2026年も歌手・堀ちえみは元気いっぱいに活動中だ。2019年のがん発見、舌の切除と再建、血のにじむリハビリのエピソードは、あえてもう触れない。触れたいのは、2月に59歳を迎えた彼女の歌手人生は、今が最も充実しているということだけだ。
『堀ちえみ ライブツアー ”59だョ!全員WA・ショイ!”』は、7月4日の東京・なかのゼロホール公演の成功を受けて、次は8月9日の大阪・なんばHatch公演を残すのみ。生まれ故郷・大阪への深い思いを胸に、今年の活動のハイライトと言える大舞台に臨む彼女の思いを、ぜひ受けとめてほしい
――まずは、7月4日の東京公演の感想を聞かせてください。昼夜2回公演で、大盛況だったと聞いています。
昼の公演も夜の公演も皆さんの熱量が高くて、ステージの上からお一人お一人の顔を見させていただいていると、本当に青春時代に戻ってくれているんだなと感じて、とても嬉しかったです。去年はライブハウスでツアーを回ったんですが、今までレッスンを積み重ねてきて――やっぱりこの病気をしたことによって、後遺症に随分悩んで、人よりも劣ってしまった自分を克服するにはどうすればいいかと考えた時に、自分でたどり着いた方法というか、自分の心を克服する方法は、「この病気をしたからこそ長けたと思える部分を作ること」だったんです。本来は年齢とともに下がってくるものを、逆にレンジを広げて、キーを上げて、テンポ感も80年代の原曲のテンポに戻しました。
――なるほど。
今まではやっぱり、大人にならないといけないと思ったりしていて、そこ(原曲)へ戻るのが難しかった自分がいたんですけど、声は出るから、声量とキーを当時以上に広げるということだったらできるんじゃないか?と。そこで滑舌の部分をカバーして、当時の歌に近くなればファンの皆様も納得というか、喜んでくださるかなと思って、去年のライブハウスツアーからキーを元に戻して、テンポも戻してということを、アレンジャーの方に作り直していただいたんです。
――そうだったんですね。裏側ではそんな凄い努力が。
そして今年のコンサートでは、SS席の方はお見送り会に参加していただいて、意見を直接聞くことができる機会があったんですが、皆さんがおっしゃってくださったのが「昔にタイムスリップできました」ということと、「キーを元に戻したのはわかってたよ。頑張ったね」という言葉をいただいて、すごく嬉しかったです。
――ちゃんと伝わっていますね。そして昼夜2回公演、体力は大丈夫でした?
全然大丈夫です! 歌は喉を使って歌うものではなくて、やっぱりお腹なので。声のダメージもなかったですし、体力も全然大丈夫で、「もうワンステージ、ツーステージできるね」と言っていたぐらいでした。去年のライブハウスツアーでも、連日2公演を経験していたので、そこの自信はついていました。
――東京公演、衣装も素敵でした。ミニスカートを履かれたりとか、かっこよかったです。
ありがとうございます(笑)。もうエイジレスで、年齢関係ないと思ってますから。今回、5月に配信された『月に祈りを』というEPの全曲の作詞を私が手がけたんですけど、その中の1曲に「アラカン!なんて素敵♡」というタイトルの、年齢関係なくして元気で頑張っていこうよ、という歌を作ったあとのライブだったので。今までだったら躊躇していたかもしれないミニスカートだったり、生足だったり、そういうことにもあえてチャレンジして、もう年齢関係なく元気に行こう!と思ったんです。
――それ自体がメッセージだと思います。本当に。
微妙な年齢までは、「こういうことしたら若ぶって見えるんじゃないか」「痛々しいんじゃないか」とか、そういうふうに思ったりもしたんですけど、やっぱり病気の時ほど痛々しいものはないと思ったので、「元気であれば、どれだけ若く見せたっていいんだ」と思ったので。ボーカルも、過去に戻った歌い方はしたくないとか、自分のキーが出ないことを理由にそういうふうに思った時期もあったんですけど、そうじゃなくて、あの時の私の歌を好きだと言ってくださるファンの方の気持ちを大事にしたいと、病気になってからそう思ったので。もう当時の自分に戻らないのではなくて、ちょっとでもそこに近づけるように頑張るのがファンサービスかなと思ってやっています。
――コンサート会場にはかつての親衛隊やファンの方々、僕と同世代だと思いますが、たくさん来ていたと思うんですが、どうですか。いいおじさんたちになってましたか(笑)。
なってました(笑)。でも皆さん最初からスタンディングで、私は無理してスタンディングをしてくださいとは思っていなくて。どうぞ座って見てくださいと言ったんですけど、東京公演では皆さんがずっと立って応援してくださるのを見て、座っていられないんだなというのを感じて、すごく嬉しくなりました。
――それはちえみさんのパワーをもらったせいもありますし、こっちからもパワーを送ろうとしたんだと思いますよ。きっと。
そうですね、お互いに。年齢的にも、アーティスト側もファンの方も、お互いに支え合って時を過ごさないといけないなと思っていて。10代の頃は、アーティスト側のほうがお客さんを引っ張っていくものだという気持ちでステージに上がっていましたが、今はファンの方に支えていただくことも多々あって。ファンの皆様の空気で会場も変わっていくので、よりステージが楽しいなと思うようになりましたし、一回一回がこんなにも違うんだって、この年齢で実感できるのは非常にありがたいなと思っています。
――素敵なお話です。セットリストは、この後大阪があるので、詳しくは明かさないほうがいいと思うんですけど、どんな曲を歌っていますか。
80年代のアイドル時代の曲が中心です。私は10代の時から、レコーディングのディレクターさんやプロデューサーさんに、「歌詞を大事にして歌うように」と叩き込まれてきたんです。昭和の歌というのは、3分間や4分間の1曲の間に、物語の始まりがあって、半ばではいろんなことがあり、最後に物語の最終章があるという、そういうドラマがあるので、メドレーはやらずに、一曲一曲全部フルで歌っています。そして今回は、ほぼシングルの中から歌っていますが、ファンクラブの方からリクエストをいただいて、今回は「夏」をテーマにして、アルバムの中からも少しだけ、夏の歌を選曲してお届けしています。
――そしてもちろん「Wa・ショイ!」は、7月に配信リリースされたばかりの2026年バージョンですよね?
そうです。花火が打ち上がってます(笑)。今までだったら、やりすぎかなと思って躊躇していた花火も、私の方から「打ち上げましょうよ」って提案をして、思いっきり派手にやりたいとお伝えして、ああいうふうになりました。
――「Wa・ショイ!(2026 ver.)」は、昔のバージョンを知っている人にもぜひ、あらためて聴いてほしいですよね。ちょっとだけ昔話をしたいんですけど、1985年に「Wa・ショイ!」が出た時って、それまでの曲と路線が違う印象があったんですけど、最初に歌うことになった時って、どんな気持ちだったんですか?
当時の私のスタッフは、曲を作るにあたってものすごく楽しんで作ってくださっていて。たとえば私が歌った段階では入っていなかったのに、あとからすごく面白いコーラスがついていたりとか、ちえみワールドの中で大人の方々が目一杯遊んでくれていたという感じだったんです。で、この「Wa・ショイ!」も、こういう曲があったら楽しいよねというスタッフの意見があって、あるロボットメーカーとのタイアップも決まって、ロボットと一緒に歌うという企画があったので、じゃあちょっとテクノっぽい曲にしようということになって。未来をテーマにして作った曲だったんですが、出来上がった曲があまりにも未来すぎて、当時のファンの方には全くもって受け入れてもらえなかったんです(笑)。
――えっ。そうでしたっけ。
好きと言ってくれるファンの方もいましたけど、その一方で、メロディアスなバラード調とか、切ないマイナー調とか、私の哀愁ソングを好んでくださっていたファンの方にとっては、「なんでこんな曲にしたの」みたいな(笑)。今までも、アルバムの中にはそういった感じの曲があったので、そんなに違和感ないのかなと思っていたら、皆さんそういう反応で、「時代が早かったのかな?」とか思っていたら、何年後かに「のりピー音頭」がヒットしたのを見て、やっぱり早かったと思ったんですけど(笑)。
――あはは。先を行きすぎましたね。
スタッフの皆さんもそう思ったみたいです。なので、ちょっとタイミングは悪かったけども、作品としては非常に、当時の評論家の方とか、そういった方々には高評価をいただいて。私自身も、あの妙な明るさが“から元気”みたいで切ないなと思っていたので、だから今回花火を打ち上げて、もっと刹那的というか、悲しく仕上げたかったんです。子供の頃から、夏休みには宿題もあって、嫌だなとか思いながらもいい思い出がたくさんあって、それが花火大会の花火とともに散っていくというか、やっぱり夏の終わりってすごく寂しいなと思うので。「Wa・ショイ!」も、そういう感覚におちいる部分がある歌だなと思っていたんですけど、当時は奇抜な歌というイメージがあったみたいで。
――そのお話はすごく深いです。でも今となっては代表曲の一つですし、とても息の長い曲になったと思います。
好きな方にはたまらない曲で、あとになって「あの曲ってこんなに良かったんだね」「1回聴いたらハマってしまう」とか、そういう声はいただいています。
――「リ・ボ・ン」もあって、「Wa・ショイ!」もあって。全部あって。それがちえみワールドの幅広さだと思います。
そうですね。それはもう本当に、スタッフが楽しんで音作りをやってくださっていたからこそで。私にいろんな洋服を着せたいという、親心みたいなものだったと思います。
――そしていよいよ8月9日、なんばHatchでのコンサートが近づいてきました。地元、大阪ですね。どんな思いで臨みますか。
大阪は、自分自身が14歳の時に「将来ここを出てこういう仕事につくんだ」という決意をした場所でもありますし、育ててもらったという思いもあるし、デビュー当時から応援してくれた同級生も、今回はたくさん応援しに来てくれますので、素晴らしい歴史がその時その時であったから、今の私がいるんだなと思うと、「泣かないようにしっかり歌わないと」と思います。
――「郷愁」(EP『月に祈りを』収録)、ぜひ歌ってください。
歌います! あの歌詞はもうそのまま、幼い頃の思いを書いていますから。大阪に、特に(出身の)堺に戻るたびに思っていたことを書いた、とても大事な曲です。
――最後に一つ、聞いてもいいですか。大変な病気をされて、後遺症もあって、それでもどうしても歌を歌いたかった、歌っている自分でありたかった、その原動力はどこから来るものですか? 何がちえみさんを、そうさせたんですか?
それはやっぱり、ファンの皆様の「待ってるよ」という言葉と、家族に対して、前の状態を取り戻すことによって、この方法を選んで良かったと安堵させたかったという思いと。あとはやっぱり自分自身が、できなくなってしまった自分ではなく、こういう状況になっても「自分はやれたんだ」ということを、人生の中でそういった状態を作りたかったという、いろんな思いがありました。何よりも、病気のステージが進んでいて、早く手術をしないと危なかったので、いろんなことを考える時間がない中で、最後の最後に手術室に入る前、病室の中で自分が思ったのが、「もっと歌っていればよかったな」と、それが一番の後悔だったんです。だから、自分の人生の本当に終わりの時に、手術した後の自分の状態に負けてしまって、「もっと歌っていればよかったな」とはもう思いたくなかった、そこも大きかったかなと思います。
――そのメッセージは、『月に祈りを』の楽曲にも、最近のコンサートにも、何よりもちえみさんの生き方そのものを通して、ファンのみなさんには伝わっていると思います。
やっぱり応援してくださる皆さんの思いは、ステージ上に絶対届いていて、どんなにしんどいレッスンや、どんな困難があっても、皆さんが待っていてくれるから、皆さんが求めてくれているからという思いがあって。一人一人が生で応援してくださるシンパシー、思いというものはすごく強いんです。だから皆さんにはぜひ、SNSを通じてでもいいですけど、やっぱりステージで、生きている力というものを感じてもらいたいなと思います。やっぱり生命力が吹きこまれているから、生歌には力があると思うんですね。私はそういう思いで歌っています。
――その思い、ファンの方にしっかり伝えます。8月9日のなんばHatch、頑張ってください。そしてこれからも、できるだけ長く歌い続けてください。
ありがとうございます。頑張ります!
取材・文=宮本英夫
ライブ情報
8月9日(日)なんばHatch
開場 16:00 / 開演 17:00
<Support>
Bandmaster & Guitar.Manip:白山タカシ
Guitar:白山力丸
Bass:田中翔太朗
Drums:山口陵
Keyboard:森光明
Chorus:恒岡琳
<
A席 ¥11,000
※先着順につき、販売予定枚数に達し次第受付終了します。
リリース情報
2026年5月27日配信
配信URL:https://lnk.to/tsukini_inoriwo
<収録曲>
1. 月に祈りを
2. 郷愁
3. ネモフィラの花言葉
4. 上野不忍物語
5. アラカン!なんて素敵
6. シャララキララ