The Rev Saxophone Quartet、サックス・アンサンブルで描いた邦人作曲家たちの多彩な音世界~『息吹―Japanese Composers』レポート
2026年7月12日(日)、東京・浜離宮朝日ホールでThe Rev Saxophone Quartetによるリサイタルが開催された。『息吹—Japanese Composers』と題され、邦人作曲家の作品を集めての極めて意欲的な内容だ。ラインアップされた6作品のうち、冒頭で演奏された山田耕作の作品以外は現在も活動中の気鋭の作曲家たちによるもので、The Revというサックス・アンサンブルならではの醍醐味が感じられる刺激的な演奏会となった。
主に邦人作曲家による現代作品ばかりを集めた演奏会ながらここまで会場を埋め尽くせるのはThe Revだけだろう。その作品の多くはサックス・アンサンブル用のものという極めてエッジの効いたプログラミングなのだ。いかに、この精鋭グループがコツコツと積み上げてきたものが正当に評価されているかということがよく感じられる瞬間だった。
現代作品ばかりのプログラム冒頭を飾るのは、唯一、近代作曲家の部類に属する山田耕作による「弦楽四重奏曲 第2番」。当日配られたプログラム上に掲載されているメンバー自身の手記によると、皆、口を揃えて「日本における西洋音楽発展の黎明期の初々しさや、当時の音楽家たちが西洋音楽をいかに自分たちのものとしようと務めていた時代の瑞々しい息づかいがそのままに感じられる作品」と述べており、聞く前から興味をそそられる。
単一楽章のこの作品はあたたかみのあるハーモニーで始まったかと思うと、突如、アレグロ・ピィッツィカートと思しき流れる旋律が展開するというユニークな作品だ。しかし、新たに出現するモチーフはやはり山田耕作らしい情緒あふれる“歌”の旋律。4人はそのメロディを朴訥に伸びやかに聴かせた。各パートによるソロ演奏が突出するというよりも、4人が一体となったアンサンブルの良さが際立つ作品で、今日のこのテーマにおける演奏会を始めるにあたっての挨拶がわりのような愛あふれる一曲だった。
ここから邦人作曲家たちによる一連の現代作品が続く。まず始まりは 藤倉大「Reach Out」。楽器編成がユニークで、ソプラニーノ一本に対してソプラノサックスが三本という楽器構成が基本になっている。(ただ、後にアルト/テノール/バリトンは、ソプラノサックスと自らのパートの楽器を適宜、持ち替えて演奏する。)
以下はあくまでも筆者がアンサンブルの演奏を聴いて得た所感ゆえにかなり主観的だが、ご容赦頂きたい。
まずは4人ともに尺八奏法のような響きを聴かせ、擬態音的なものを聴かせるところから始まる。この数秒にしてこの作品が持つ世界観が一曲に呈示されたかのようだ。次第に和声を伴う音列が徐々に現れてはくるが、そこでもグリッサンドに限りなく近いトリルや尺八奏法的なものが無機質な音列の中で展開してゆく。そのような意味ではやはり無調の音楽なのだろうが、ある意味ではその中で光の輝きを求めて生成される有機的な音の交わりとも考えられ、あたかも分子が融合するプロセスであるかのような生命感さえも感じさせる不思議な力を宿していた。
ソプラノ+ソプラニーノだった楽器構成も、次第にソプラノ、アルト、テナー、バリトンへと持ち替えられ、核融合中だった分子が力強く生成され、三次元的な世界でのダイナミクスを意識し始め、音列もまた3D的な空間意識を持ち、蠢き始める。それは、決して人間が介在するような感情や情緒のある世界ではないが、原始的な地球生命誕生の力強い蠢きを感じさせるもののようにも思えた。そして、最後にはもう一度、すべてが泡と消えゆくかの如く、冒頭の無機質な世界を彷彿とさせるような音列が現れて曲は終わってゆく……。
続いては、長生淳「サクソフォン四重奏曲」。25年程前に世に出たこの作品はメンバーにとっては幼少期から親しんできた作品の一つで、いわばバイブル的作品のようだ。4楽章構成で20分を超える大曲だ。
第一楽章では、アルト・テナー・バリトンの三声が織り成す重厚なハーモニーに乗せてソプラノが高らかに、しかし妖艶な旋律を歌い上げる。カンタービレの抒情的なくだりでも各パートの縦割りの厚い響きが厳かに感じられ、サックスカルテットならではの深みを思う存分に感じさせてくれた。
第二楽章は第一楽章と対照的なトッカータ風の流れるような作品。4人は息をぴったりと合わせて走るようなパッセージを鮮やかなテクニックで聴かせる。洒脱で諧謔的な要素もありながら、4人から醸しだされる響きはかなりドラマティックだ。
第三楽章はテナーのソロで始まると、アルトがその旋律を追い、次にバリトンが続き、三人でしっとりとしたカノンを聴かせる。するとソプラノも加わり、次第に4人で情緒あふれる歌声へと変わってゆく。その歌声は、歌詞をつけたくなるような格調高い“詞”と情景美にあふれていた。それはノスタルジックでもあると同時に、未知なるものへの憧憬でもあるかのような不思議な感覚の世界だ。はたまた、その両方へと想いを馳せる“今”なのだろうか?
第四楽章の冒頭、性急に飛び込んだ4人が奏でる旋律は時に不協和音を醸しだしながらも、未来主義的で何か新しいものの芽吹きを感じさせるような律動の美しさやフォルムの輝きのようなものが感じられた。4人がそれぞれにその律動の美しさを情熱的に際立たせるごとに、さらに輝きは増してゆく。その規則的で機械的ともいえる動き呑み込まれてゆく心地よさを我々は感じているのかもしれない……。
後半プログラムは稲森安太己「ふるさと狂詩曲」。2018年リリースのThe Revのセカンドアルバム『Fun!』に収録された作品で同年に委嘱されたものだ。「ふるさとをはじめ、日本各地の民謡が巧みに用いられており、むしろそれはメロディというよりも響きやリズムによって懐かしい日本の原風景を感じさせるものへと昇華されている」とメンバーたちは手記で語っている。
ロングトーンやトリル、そして上下行型の音型を洒脱に散りばめた何とも魅力的で妖艶なイントロダクションを経て、「ふるさと」をテーマにした日本各地の民謡が姿を変え、少しだけ尖ったかたちで次々と現れる。すべての旋律はあたかもヴェールを纏ったかのように美しく神秘的にデフォルメされており、心地良い空気感をまとったメンバー全員の軽やかな演奏に、聴き手も癒しを感じずにはいられない。民謡的旋律を支える基調の旋律では、何となくガーシュインを思わせるジャジーでラプソディな音の世界が展開しているかのような感覚もあり、東洋的なものと西洋的なものの対比的な世界が同時進行するダイナミックな面白さをメンバーたちは見事に描き出していた。
続いては 板東祐大「Mutations:A.B.C. 」。この作品も『Fun!』に収録されている。
「アルバム収録当初は難解な譜面を正確に演奏するだけで精一杯だったが、今、時を経てみるとこの作品の本来の凄みが理解できるようになった」と満を持して語れるようになったというこの作品(メンバーたちの手記による)。音の“点”が織り成す摩訶不思議な世界は、紛れもなくあの「きらきら星」のテーマだ。確かにテーマは明確だが、実際そこにかたちとして耳に飛び込んでくる印象は、時報だったり、救急車のサイレン(?……、しかし、どうしてもこの印象がぬぐえなかったのだ!)だったりと、何となく我々が普段の生活の中で耳にしている電子音にも似た、しかも我々が日常聞き流してしまっているありふれた生活音たちのようにも思えるのだ。
作曲家はそのような他愛のない音たちにもあたたかいまなざしを注いでいるのでは……、と想いに耽っていると、バリトンがファンクビートのようなベース音を鳴らし続け、各パートが思い思いにスケールやアルペッジョのような規則的な音型を演奏し続ける。しかし、それらの音たちも次第にダイナミクスという不連続的な波にのまれ、少しずつ姿を変容させてゆく……。音の“強弱”という運動性を見出した音たちは、あたかも次第に自我に目覚めたようにそれぞれの“意志”を主張しだす。その一つひとつの音は色彩までも持ち出したのだ。こうして感情の揺らぎをも覚えた音たちが奏でるきらきら星は最初に耳にしたものとはまったく違う輝きを放っていた……。
ここでPRタイム。来年1月17日開催の次回コンサートについての予告だ。メンバーたちによるとムソルグスキーの組曲 展覧会の絵 を主体としたプログラムが予定されており(コンサートのタイトルにもなっている)、多種多様なレンジのサックス(恐らく)18本ほどを駆使してのダイナミックなステージが期待できそうだ。
プログラム最後を飾るのはメンバーたちが”5人目のREVメンバー”と称してやまない作曲家 旭井翔一による「サクソフォン四重奏曲」。The Rev結成10周年を記念して旭井がメンバーのために書き下ろした作品だ。「何年にもわたって我々4人の音を側で聴き続けてきた旭井しか描けない作品」とメンバーたちは手記で語り、手放しの称賛を贈っている。確かに、Revのメンバー一人ひとりのキャラクター性がつぶさに描きだされている作品といえるだろう。
ミニマリスティックで技巧的な洗練された音の響きと、日本的な抒情性の融合が何とも秀逸な作品だが、ミニマリズム的な律動と官能的ともいえる“歌”の美しさにも心動かされる。鮮やかで冴えわたるパッセージの連続の中にもメンバーの描きだす骨太で質感のある音楽づくりを前提としたような曲づくりもさすがだ。例えば、アンサンブル一体となって醸しだす“揺らぎ”の奥義も、もちろん奏者一人ひとりの引き出しと経験値の豊富さによるものではあるが、やはり旭井の絶妙な筆致が功を奏していることも間違いない。
フィナーレで聞こえてくるそこはかとない祝祭的な雰囲気は、旭井からメンバーへのエールなのだろうか? いずれにせよ、この中身の濃い演奏会を両者ともにオマージュを捧げ合う美しい作品で華麗に締めくくったのは、何とも感慨深い。メンバーたちの喜びも最高潮に達していた。
アンコールは再び 山田耕作 「からたちの花」。清々しくあたたかみに満ちた花の姿は何よりも清楚で美しく、希望に満ちあふれいていた。
取材・文=朝岡久美子 撮影=池上夢貢
今後の公演予定
日程:2027年1月17日(日)14:00開演
会場:浜離宮朝日ホール 音楽ホール
曲目・演目
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(編曲:旭井翔一) *世界初演
ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」(編曲:旭井翔一) *世界初演
ほか
日程:2027年2月21日(日)13:30開演
会場:あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
曲目・演目
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー(編曲:旭井翔一)
デザンクロ:サクソフォン四重奏曲
ほか
会場:日立シビックセンター 音楽ホール
出演:上野耕平(サクソフォン)、山中惇史(ピアノ)、The Rev Saxophone Quartet(サクソフォン四重奏)
▼The Rev Saxophone Quartet Official Site
https://www.therevsq.jp/