「自分だけじゃなかったんだ」患者や家族の思いを歌にーー現役医師2人のInsheartが音楽で届けたいもの

17:00
インタビュー
音楽

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現役の医師であるJyun(作詞・作曲、Gt)とToshi(Vo、バイオリン)による音楽ユニットInsheart(インスハート)。ユニット名には、“Inside Your Heart”(あなたの心に寄り添う)という彼らの想いや願いが込められている。

2015年に活動を開始すると、医師として日夜多くの人に寄り添うかたわら、依頼を受け、病気と向き合う患者や家族を亡くした人たちの話をもとに楽曲を制作。言葉にできない悲しみや痛みまでもくみ取ってメロディーに乗せるInsheartの歌は、病気の有無や世代、地域を超え多くの人の心に温かな火を灯し続けている。昨年、活動10周年を記念してリリースしたベストアルバム『どっこいしょ』には、そうして生み出され特に反響の多かった曲が収められている。現在はクラウドファンディングで開催にこぎつけた『Insheart Tour 2026』も終盤に差しかかり、残すところ9月12日(土)東京FMホール、10月17日(土)福岡スカラエスパシオとなった。「医療で体を、音楽で心を癒したい」との思いを胸に日々奮闘する2人に、ツアーへの思いや10周年の先に目指す未来についても語ってもらった。

医療だけでは届かないところに音楽で寄り添いたい

ーー現役の医師である2人がInsheartを結成するに至ったキッカケは?

Jyun:もともと僕たちは長崎大学の同級生で、軽音楽部で5年ぐらい一緒にバンドをやっていました。その頃は伝えたいメッセージを歌うとかじゃなくて、9mm Parabellum Bulletのコピーとか激しいタイプのロックをやっていましたね。

ーー9mm Parabellum Bulletとはちょっと意外です(笑)。

Jyun:(笑)。

Toshi:その後2人とも医療の道に進んだんですが、医者になってみて医学というのは万能じゃないな…と感じる現実に直面しました。たとえば、救急外来に運ばれてきた方が、手術や治療で体はよくなってきているのにどこか元気がなかったり、塞ぎ込んでしまっていたり。そういうときに自分にできることが何もないというもどかしさがあって。そういう経験を2人とも何度もしていて、医療だけでは届かないところに音楽で寄り添うことができたら……という思いが音楽を始めたきっかけですね。

ーーInsheartのプロフィールに、「医療で体を治すだけでなく、音楽で心まで癒したいという思いで活動を続けている」とある通りですね。Jyunさん、Toshiさん自身も音楽に救われた経験がありますか?

Jyun:はい。僕は実は大学を2つ卒業していて、医学部に入ったのは26歳のときなんですね。1つ目の大学では心理学系の勉強をしていたんですが、やっぱり医学部に行こうと思い立って受験しました。僕は高2のときに学年で成績が2番だったんですけど、上から数えてじゃなく下から2番だったんです(苦笑)。医学部に合格するためには、ものすごい努力をしなきゃいけなくて、Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKENを聴いて泣きながら勉強したこともありました。自分にとっても、音楽は心の支えだという感覚はずっとあって、言葉では届けられないことも、音楽なら心の壁を超えて相手に届けられるという思いをずっと持ち続けています」

ーー長崎大学病院から原爆をテーマにした曲を作って欲しいという依頼を受け、被爆者の方の声をもとに作った「おばあちゃんの のこしもの」。障がいのあるお子さんを育てる親御さんに話を聞いて作った「あなたが生まれて」など、Insheartの作品には、当事者の方に直接話を聞いて生まれた曲がたくさんあります。中には<あなたがうまれてよかったと 思うまでに時間がかかった>など、心をえぐる叫びのような思いを歌っているものもありますが、Insheartの曲になるとどれも温かく優しく響いてきます。自分たちの歌を、どんな人たちに届けたいですか?

Jyun:いろんな人に届けたいんですけど、その曲ごとに届けたい相手は違うかなと思っています。僕らが曲を作るときって、病気の方や障がいのある方にお話を聞かせてもらって作ることが多くて、さっき挙げていただいた曲の他に、たとえば「どっこいしょ」はダウン症のあるご本人やご家族にお話を聞かせてもらって作りました。そうやって作った曲は、もちろん皆さんに聴いてほしいんですが、同じような環境、状況にいる方に特に伝えたいなと思っているんですね。

ーーそうなんですね。

「あなたが生まれて」

Jyun:たとえば障がいのあるお子さんを育てている方は、子どもの障がいが分かったときに「私のせいで子どもに障がいが……」と自分を責めてしまったり、「産んでよかったのか?」と悩んでしまったりする。でもそれをなかなか口にできないし、そう思ってしまう自分を責める気持ちもある。ただ、その方の言葉をもとに音楽にしていくことで、同じような状況にいる方が聴いてくれたときに、「自分だけじゃなかったんだ」と思えたり大変な中でお子さんを育てている姿に曲を通して触れて、「自分も頑張ってこの子を育てていこう」と思ってくださったりする。そうやって、1人の想いが同じような状況にいる人を救っていくことがあると思うんですね。

Toshi:そうだね」

Jyun:そういう曲もあれば、「瞳の中のあなた」という曲は自分が接している精神科の患者さんたちに贈る想いで作った曲です。もう消えてしまいたいという思いに押しつぶされそうになっている主人公の歌ですが、病気の方に限らず、生きているとどうしても苦しい出来事、理不尽な出来事がたくさんあって、生きることが苦しくなるという場面は誰にでもあると思うんですね。そんな中で、僕たちの曲がどんな形であっても誰かの生きる支えになれたらいいなという思いもありますね。

ーーそうなんですね。

「どっこいしょ」

Jyun:「どっこいしょ」も同様で、ダウン症のある方と一緒に作ってコーラスにも参加してもらった曲ですが、この曲は、<あなたの決めるあなたの幸せに向かって、一歩ずつ歩いていきましょう>ということを歌っているんですね。僕もインスタとかで、他人のキラキラした投稿を見ると自分はイマイチだなとか思っちゃったりするんですが、周りと比べてどうこうじゃなく、自分の幸せは自分が決めるものなんですよね。そこに向かって、自分やあなたのスピードで一歩一歩進めばいい。それはダウン症のある方に限らず誰にでも当てはまることなんじゃないかなって。

ーーたしかに「どっこいしょ」を聴いていると、なんとなく息苦しさを感じている人にも、ゆっくりでもいいんだと思わせてくれる力があるように感じます。私も<人が優しくなれるのは 人の優しさに触れたとき>という歌詞が特に沁みました。

Jyun:良かったです。

泣いたり笑ったり、歌ったり踊ったり、Insheartのライブはまるでジェットコースター!?

ーー挙げていただいた曲に限らず、Insheartの曲をお守りのようにして日々を生きている人や、自分の進む先を照らす光のように感じながら聴いている人もいると思います。他にも「チラシを入れないで」や「ビールの歌」のようにライブで一緒に盛り上がれる曲もありますが、実際ライブ会場にはどんな空気が流れていますか?

Jyun:僕たちのコンサートによくいただく感想は、「笑ったり泣いたり、心がジェットコースターに乗ってるみたいで忙しかった」です(笑)。

Toshi:そうだね(笑)。

Jyun:最初の頃は「ビールの歌」とか「チラシを入れないで」のようなコミカルな曲はまだなくてバラードが多かったんですね。MCも今ほどはしていなくて、以前西日本新聞の元編集局長の方が見に来てくださったときに、「すごいいい音楽だったけど、お通夜みたいなコンサートやったな」と言われたことがあって(苦笑)。

ーーお客さん達もしんみりと聴き入っていたんでしょうね。

Jyun:そうですね。聴いてくれてる人みんなが泣いて、どんと心が重くなって帰っていく……初期の頃はそんな感じのコンサートが続いてました。でも僕たちには届けたい曲も想いもあって、それを届けるためにはどうしたらいいかなって考えて。最近のライブでは「ビールの歌」は、僕もToshiも仮装して歌ってるんですよ。お客さんも一緒に踊って、合いの手を入れたり、客席のお客さんと乾杯したりしながら。そうやってリフレッシュしてもらう時間もあったり、じっくり聴いてもらいたいときは曲に集中してもらったり。そんな感じでやれていますね。だから、泣いたり笑ったりがすごい激しいコンサートになってます(笑)。

ーー感情の行ったり来たりの落差がジェットコースターのようなんですね。

Toshi:僕たちの届けたい曲を届けるために、曲の間はJyunちゃんが爆笑トークを繰り広げてくれるので、見ている方はすごく忙しいと思います(笑)。

Jyun:それに僕らは事務所に所属していないから、スタッフもいなくて仮装の着替えとかも全部自分たちでドタバタしながらやっているんですね。そういうところも皆さん温かい目で見てくださっていますね。演奏して届けているのは僕たちですけど、ファンの方から「生きるパワーをもらいました」みたいに言っていただくこともあるんですが、その言葉に僕たち自身もパワーをいただいているんですよね。

ーーInsheartは2025年に結成10周年を迎えられました。医師として奮闘しながらこれまで音楽を通してたくさんの人に寄り添ってこられた2人がこの先目指していること、挑戦してみたいことはありますか。

Toshi:今の活動を淡々と続けていくことが、僕たちの目標ですね。医者として働きながら、医療だけでは足りないところを音楽で表現していく。そうした中で、僕たちのことや僕たちの曲を必要としてくれて、支えだと思ってくださる方が一人でもいてくれたら、それはものすごく幸せなことで。そうやって今の活動を続けていくのが目標ですね。

ーー『Insheart Tour 2026』も残すところ9月12日(土)の東京FMホール、10月17日(土)の福岡スカラエスパシオの2公演となりました。Insheartは一曲一曲をとても丁寧に作られていますが、それとともにライブも大切にしている印象を受けます。2人にとってライブの場で歌や演奏を届けることにはどんな意味がありますか。

Toshi:音源を聴いていただけることももちろんすごく嬉しいんですが、ライブにはこだわりがあります。僕らがステージで演奏するときに心がけているのは、僕たち自身がどれだけその曲に心を震わせられるかということ。それが見てくれる人にも伝わって、心と心が繋がり、音源だけでは伝えられないような心と心のやり取りができるんじゃないか。僕たちが心を震わせて、その場で聴いてくれる皆さんと目と目を見合わせて作り上げる演奏を、皆さんが受け取ってくれる――それがライブの醍醐味じゃないかなと思っています。

Jyun:活動を始めた頃は、病気の方や障がいのある方やそのご家族に向けて歌うことやコンサートをすることが多かったんですね。さっきお話ししたことと重なりますが、病気じゃなくても、生きづらさを感じることは誰にでもあると思うし、そういう方の支えになるような音楽ができたらいいなと思っていて。

Toshi:そうだね。

Jyun:なので、皆さんがお住まいの街に僕らが行ったときは、ぜひ会場にお越しいただきたいです。「ビールの歌」や、「はじまりのうた」という曲も好評なんですが(笑)、一緒に歌って笑って、また次に会うときまで皆さんの生きる力になるようなパワーを、僕らは音楽で注入します。今年も仙台や長崎、広島に行かせてもらったんですが、一回一回のライブをそういう思いでやっているなと最近は特に感じますね。

ーーわかりました。東京、福岡のライブも素晴らしいものになりますように。

Toshi:たくさんの方に来ていただけるのを待っています!

取材・文=梶原有紀子 写真提供=Insheart

ライブ情報

『Insheart Tour 2026』
・2026年9月12日(土)
 東京FMホール
 開演:15:00~(開場 14:00~)

・2026年10月17日(土)
 福岡トヨタホール スカラエスパシオ (福岡県)
 開演:14:00~(開場 13:00~)

公式サイト:https://insheart.net/
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