4年ぶりの平成中村座、名作&初役揃い 勘九郎×七之助×勘太郎×長三郎の取材会レポート
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右から中村勘太郎、中村勘九郎、中村七之助、中村長三郎。
10月1日(木)より25日(日)まで上演される平成中村座「十月大歌舞伎」。平成中村座は、江戸時代の芝居小屋を模した大きな仮設劇場だ。4年ぶりに、浅草寺境内に登場する。7月28日に都内で会見が行われ、中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、松竹株式会社の山根成之取締役副社長演劇本部長が出席。
山根氏からは概要とともに、初役での活躍が多い「フレッシュな公演」であること、そして後半3日間に片岡仁左衛門が出演することに触れ、「非常にスペシャルな企画」とも語った。出演者の4名からは、公演に向けて意気込みが語られた。会見レポートとあわせ、SPICE読者へのコメントもお届けする。
■父が遺してくれた財産
平成中村座は、2000年に十八世中村勘三郎(当時勘九郎)によって始められた。
4年ぶりとなる浅草での公演を前に、4人は感謝と喜びを述べた。昨今の物価高の影響を受け、仮設劇場をイチから建て、興行を行う平成中村座のスタイルは、1ヶ月のみの公演だと全席完売であっても厳しい事情があるという。勘九郎は「それでも浅草寺さんをはじめ、浅草の皆様のご協力のもと、また中村座をやらせていただける。中村座は父が残してくれた財産。お客様をワクワクさせられる芝居を、役者陣もワクワクしながら勤めたい」と力を込めた。
中村勘九郎
古典の名作が並ぶ演目について、七之助は「発表があったときに、友達や界隈がザワつきました」と笑う。「第一部、第二部とも、女方の大役を勤めさせていただきます。皆様のご期待をひしひしと感じております。ご期待に倍以上、三倍、四倍で応えられるよう一生懸命つとめます」と意気込む。
中村七之助
勘太郎は、4年ぶりの中村座を「とても楽しみ」だと喜び、「『連獅子』は3人で踊るのが初めてです。振りも違いますので、がんばりたいです」と語った。長三郎も、「祖父が残したこの大きな芝居小屋で、またできることがうれしいです」と喜びを語った。
■中村座初の連獅子、「3人で振れるのか!?」
第一部には、『初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)』、『仮名手本忠臣蔵』「九段目 山科閑居」、『連獅子』が並ぶ。
成駒屋の三兄弟、中村橋之助、中村福之助、中村歌之助による舞踊『初帆上成駒宝船』は、3人が2016年に襲名をした時に作られた作品。勘九郎は「とても面白い作品です。ずっと『あれ、やりなよ』と言っていた踊りが中村座で。楽しみにしてます」と期待を寄せる。
「九段目」では、七之助が初役で戸無瀬を勤める。『忠臣蔵』を通して上演する時にも、時間の問題でかからないことが多い場面の一つだが、七之助は、「その中でも、もっとも素晴らしいのは九段目だと思っています」と語る。父・勘三郎も、戸無瀬の初役は、中村座だった。その際は、祖父の七世中村芝翫のもとへ、ふたりで習いにいったという。「祖父がすべての役、義太夫まで、ひとりで口で全部やったんです。DVDやビデオがない時代の役者の底力を見た思い出があります」。祖父、父との思い出の役に、「一生懸命勤めたい」と決意を語った。
そして、勘九郎、勘太郎、長三郎の『連獅子』だ。親子三人で踊るのは今回が初めて。平成中村座で『連獅子』が上演されること自体初だという。客席と舞台が近い中村座だけに、勘九郎は「あの狭い空間で、3人が毛を振れるのか」と楽しそう。
勘太郎は、「前回父と踊った時に、『連獅子五カ条』というものを作ってくれました。映像を見ながら踊ったことも記憶に残っています」と振り返る。長三郎は3年ぶりの連獅子で、「祖父(勘三郎)と父(勘九郎)、叔父(七之助)がやっていた『三人連獅子』を、こんなにも早くできるのは驚きです。一生懸命やりたいです」と語った。
中村長三郎
勘九郎にとっても、かつて父と弟と3人で勤めた作品だ。
「『連獅子』を通して、歌舞伎で目上の人と踊る時にどうしたらいいか等、踊りの中の礼儀を教わった。それは伝えていきたいです」と答える。また、15歳の勘太郎に身長を抜かれたことも明かし、「父の気持ちもちょっと分かるようになった」という。勘太郎の身長は、現在約176センチ。身体の変化にあわせて「踊りで腰を折るとき等は、今まで以上に折らなければ」とも語っていた。
■ 悔しがっていると思います
第二部は、『御存 鈴ヶ森』と『助六』。
『鈴ヶ森』では、勘太郎が白井権八を勤める。戦後の本興行では最年少となるという。「憧れていた役。小さい頃から、ずっと立廻りを(真似て)やっていました。だんまり(暗闇を、手探りで動く様式的な表現)での立廻りも初めてです。家族がよく、じじちゃま(中村勘三郎)の権八、(中村)吉右衛門のおじさまの幡随院長兵衛の話をしていました。『観てみたかったな』と思っていた作品をやれることが、すごくうれしいです」。今回は、中村芝翫が長兵衛を勤める。
中村勘太郎
そして『助六』では、勘九郎が初役で助六を勤める。揚巻を勤めるのは七之助だ。勘九郎は「華やかで、芝居自体も面白い。古風でありながら、新しく見える不思議な感覚にいざなってくれる舞台」だと、作品の魅力を語る。
ただ、勘九郎は「自分が勤めることになるとは思わなかった」といい、七之助も「やらないだろうと思っていた」と頷く。
その気持ちが、「やる。やろう。やりたい」へ変わったのは、2018年、勘三郎七回忌追善興行の『助六』だった。仁左衛門が助六を勤め、七之助が傾城の揚巻を、そして勘九郎が白酒売で出演した。「おじさまの助六をみて、やっぱりかっこいいなと思って。そこからです」。
仁左衛門は、自身が初めて助六役を勤めた時、十七世勘三郎から役を教わった。1991年には、仁左衛門の助六に、十八世勘三郎が白酒売で共演。勘三郎自身、「いつかやりたい。やるときには兄ちゃん教えてよ」と仁左衛門に言い、七之助には「俺が助六をやるから、揚巻をできるようにしておきなよ」と話していたという。残念ながら、それは叶わなかった。
その七之助を揚巻に抜擢したのが、仁左衛門だ。今回は、勘九郎の指導にあたる。さらに仁左衛門は、10月は歌舞伎座で『盛綱陣屋』に出演しているが、千穐楽を終えたあと、平成中村座のラストの3日間は、白酒売りを勤める。
「中村座で助六をやるのは、父の夢のひとつでした。たぶん悔しがっていると思います(笑)。父の遺志を継ぎ、僕の肉体を通して、父の思いをぶつけることができたら」と勘九郎。七之助も「初日は、僕も揚巻の出番が終わったあと、楽屋に戻らず舞台袖から、花道から出てくる兄の助六を目に焼き付けたい」と期待を語る。
■“100メートル歩けば、花川戸”の地で、助六になる
助六は、立役の大役であるだけでなく、江戸一番の色男という役どころだ。
記者から、気負うところはあるかと問うと、「もちろん」と答えつつも、「中村座から100メートル歩けば、花川戸(現在も残る地名)。そんな場所で“花川戸の助六”をやれるんです。中村座も仲見世も、浅草という町の皆さん、町全体が、江戸のきっぷのよさをまとっている。助六という空間に、自ずと入っていれば大丈夫では」と答えた。
また『助六』は、どの家、どのやり方で上演するかによりタイトルや、演奏が変わる。祖父は音羽屋の型で清元で上演。今回は仁左衛門にならい、『助六曲輪初花桜』として、長唄での上演だ。準備も着々と進んでおり、ビジュアル撮影では、黒羽二重の衣裳、帯、刀、印籠、傘など、一通りを仁左衛門に借りたことを明かす。
「小道具はお家ごとに、自前のものを使うんです。私自身のは、現在、小道具さんと話し合いイチから作っております」
仁左衛門から借りたことの嬉しさ、自前の小道具の準備の楽しさが伝わってくる。なお、ポスターに使われている帯の柄が「CGでございます」と正直すぎる証言も。製作サイドからの「言っちゃった!」「言っちゃダメ!」のリアクションにも、「いいじゃないの(笑)。『助六』ってそれだけ大変だってことなんです」と大らかに返し、会場にも笑いと期待が広がった。
助六も揚巻も、大役中の大役。それを兄弟で勤めることとなる。お互いをどのように思っているのか、という質問もあった。
「最近は、誇らしいなと思ってます」と切り出したのは勘九郎。古典だけでなく、新しい作品の時の台本を読み込む力、それをどう見せるかの演出、そして皆を引っぱっていく力を挙げて、「憧れでもあり、誇らしくも思います。お互いに何がしたいかの意思疎通ができている。そんな2人で新しいものを作り上げられる。祖父の遺言であり、父からも言われていた『兄弟仲良く』とは、こういうところに活かされていくのだなと思います」
七之助も「私も誇らしく思っています」とマイクをとった。「舞台で、一番安心できる、芝居を引っ張っていってくれる」存在だという。「名優と言われる人は、自分だけでなく、周りの皆も引っぱりあげる力というのが、すさまじいんです。それは今、兄がピカイチだと思っています。私はそこに乗っかっていけばいいな。負けないように、互いに高め合っていかなくてはと思います」。
■「もうね……やってみて!」
平成中村座は、江戸時代の芝居小屋を思わせる仮設劇場だ。七之助は、「大人の事情を考えると、絶対にやらない興行」だと笑う。それでも受け継がれている。
七之助は「私たち歌舞伎役者だけでなく、松竹の皆さま、携わってくださる皆さまが、楽しむことが好きだから、やるんじゃないかと思うんです。皆で、これを成し遂げようと、思いをひとつにしている。それを強く感じられる劇場です。そして、その先には、お客様に楽しんでもらおう!という精神がある」と語った。
勘九郎は「江戸時代にタイムスリップできるような芝居小屋で、お客様に歌舞伎という文化に触れていただく。1人でも多くのお客様にそれを感じていただきたい」と語る。実際に、演者目線で通常の劇場との違いを問われると、勘九郎は「もうね……やってみて!」と満面の笑み。
「古典を、演出もセリフも何もかえずに中村座で上演すると、ご覧になった方から『中村座仕様で、分かりやすかった』なんて感想をいただくんです。でも、こちらは何も変えていない。ただただお客様の『歌舞伎は分からない』という感覚が、吹っ飛んじゃうのでしょうね。楽しもうという思いで観てくださるから、分かるし面白い。役者としても『役者をやったらやめられない』という言葉がありますけれど、中村座で芝居したらね、……堪らないですよ!」
勘太郎、長三郎も笑い、七之助も「最高の空間」だと頷く。
「揚巻で花道を出て、ふっと振り返る時の、中村座の景色は痺れるだろうなと、今、想像してしまいました。劇場と比べれば、当然楽屋は不便です。でも皆がひとつになっている空気が、楽屋からも出ている。あと、父がよく言っていました。『ダメ出しがしやすい』(笑)。わざわざ別の楽屋へ行かなくても、オイ!と言えば聞こえるんです。そのような意味でも、我々もひとつになり、舞台と客席、お客様も含めて家族のようになれるのが中村座だと思います」。
「SPICE」スペシャルコメント
イープラスでは、10月23日(金)に、第一部、第二部ともに全館貸切公演を行う。イープラスの平成中村座貸切公演は、このたびが初。平成中村座を初めて訪れる人に、その楽しみ方を聞いた。
勘九郎:イープラスさんの貸切公演では、歌舞伎は初めてであっても「演劇が好き」という方々が、観に来てくださるんですよね。とても励みになりますし、お客様の反応が違うことで、我々には新しい発見もあります。どんな化学反応が起こるのか、楽しみです。演劇が好きな方たちに、「歌舞伎も、ジャンルが違うだけで演劇なんだ」と感じて、楽しんでいただけたらうれしいですね。シェイクスピアを観るように、鶴屋南北を観にきていただけるよう一生懸命やりたいです。
七之助:平成中村座は初めてという方も、多くいらっしゃるかと思います。江戸時代の芝居小屋を再現した劇場で、その周りには、職人さんたちの技をご覧いただける「五軒長屋」というものがあります。中へ入ると、まず靴を脱ぐ。場内は、江戸時代にタイムスリップしたような気持ちになっていただける空間で、後ろを見上げると「御大尽席」という立派な席もございます。いよいよ幕が開くと、なんと幕の中にまで席がある(桜席)。始まる前から、たくさんの魅力がつまっていて、芝居が始まると演者の距離がめちゃめちゃ近い! 舞台と客席の垣根がほとんどございません。芝居の幕間には、中村座名物の……。
勘九郎:お茶子(ご案内係)さん!
七之助:そうです(笑)。おトイレへの誘導がもう見事で! ここでも熟練の技をお楽しみいただけます。
勘太郎:僕は平成中村座だからできる、演出があって、面白いと思います。舞台の後ろが開いて、外の風景が見えるようになったり、舞台から降りて客席の近くでお芝居したり。お客様との距離が近いので、お芝居を近くに感じていただけて、江戸時代にタイムスリップした感じを楽しんでいただけると思います。
長三郎:僕は、祖父が芝居をしている時の目が、シールになって、中村座の中や外の色々なところに隠れているのが面白いと思います。
勘九郎:何か所あるんでしたっけ?
長三郎:祖父は十八代目勘三郎なので、18カ所、目があります!
七之助:別に見つけたところで何もないですけども(笑)
勘九郎:祖父が、ディズニーランドが大好きだったもので、隠れミッキーならぬ“隠れ勘三郎”を始めたんです。それをきっかけに、お客様同士で「全部みつけられました?」なんて会話をされたり。芝居はもちろん、平成中村座は、始まる前から幕間までワクワクしていただける。本当に、夢の国なんです。お待ちしております!
貸切公演に向け、イープラスのポーズをしていただきました!
平成中村座『十月大歌舞伎』は、10月1日(木)~25日(日)までの公演。
取材・文・写真=塚田史香
公演情報
平成中村座『十月大歌舞伎』
■日程:2026年10月1日(木)~25日(日)
第一部:午前11時~/第二部:午後4時~
休演日:10月8日(木)、19日(月)
※10月13日(火)は第一部のみ
※10月23日(金)は第一部・第二部とも貸切
■会場:平成中村座
浅草寺境内 本堂裏 仮設劇場
≪イープラス貸切公演≫ おかげさまで満員御礼!
壱富楽寿御贔屓様総見猿若櫓~いーぷらすごひいきつどうえどやぐら~
\プラみちゃんご挨拶/
「東西東西(とざいとうざい)
此度は金龍山浅草寺境内に建てられし平成中村座にて江戸の賑わいを再現仕り候
壱富楽寿(いーぷらす)の御贔屓いずれも様におかれましては
数多賑々しくお運び賜りますよう隅から隅までずずずい~っと希い(こいねがい)上げ奉りまする」
■日程:10月23日(金) 開演:11:00~/18:00~
詳細はこちら
【第一部】
山口晃 作
寛徳山人 作
一、初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)
橋彦:中村橋之助
福彦:中村福之助
歌彦:中村歌之助
二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
九段目 山科閑居
戸無瀬:中村七之助
大星由良之助:中村勘九郎
大星力弥:中村歌之助
小浪:中村鶴松
お石:中村扇雀
加古川本蔵:中村鴈治郎
河竹黙阿弥 作
三、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精:中村勘九郎
狂言師左近後に仔獅子の精:中村勘太郎
狂言師左近後に仔獅子の精:中村長三郎
法華の僧蓮念:市川男寅
浄土の僧遍念:澤村宗之助
【第二部】
四世鶴屋南北 作
一、御存 鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)
幡随院長兵衛:中村芝翫
白井権八:中村勘太郎
二、助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)
花川戸助六:中村勘九郎
三浦屋揚巻:中村七之助
髭の意休:中村芝翫
くわんぺら門兵衛:中村橋之助
傾城浮橋:市川男寅
朝顔仙平:中村福之助
福山かつぎ:中村長三郎
傾城胡蝶:中村鶴松
三浦屋白玉:中村芝のぶ
揚巻付番頭新造巻絹:中村梅花
傾城八重衣:澤村宗之助
母満江:中村歌女之丞(1日~22日)/中村扇雀(23日~25日)
通人里暁:中村鴈治郎
白酒売新兵衛:中村扇雀(1日~22日)/片岡仁左衛門(23日~25日)