三宅裕司&オーディションで大抜擢されたブレント・オリアンにインタビュー 劇団SET(エス・イー・ティー)が描く、1960年代の物語『愛と友情の大脱走~ラブ&ピースフォーエバー~』の見どころとは
(左から)三宅裕司、ブレント・オリアン
俳優の三宅裕司が座長を務める、劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)が、2026年10月29日(木)から11月8日(日)まで、東京・池袋にあるサンシャイン劇場で、本公演ミュージカル・アクション・ コメディー『愛と友情の大脱走~ラブ&ピースフォーエバー~』を上演する。吉井三奈子が脚本を手がける新作には、小倉久寛はもちろん、34歳のアメリカ人俳優、ブレント・オリアンも出演。三宅に大抜擢されたオリアンと、三宅に舞台の見どころを聞いた。
ーー毎回異なるテーマ、時代設定でオリジナルの作品を上演されています。今回は1955年から75年にかけて起きたベトナム戦争の時代が舞台になっていますね。脱走兵を務めるオリアンさんは、オーディションで選ばれました。抜てきされた理由から教えていただけますか。
三宅:今年に入ってから書類選考などでオーディションを進めていました。ベ平連の話ではありますが、恋愛ドラマでもあるので、女の子がスッと惚れちゃうような甘いマスクの2枚目がいいなぁと。あとは、日本の中にいる1人の米兵ですので、身長もある程度高くないといけない、求めていた全てを兼ね備えていたのがオリアンでした。オーディションの時から、彼自身が非常に一生懸命で、すごく熱意を持っていることが見えたので大丈夫だなと感じました。日本語もバッチリできるので、チームワーク的にも問題ないだろうと期待しています。
ーー取材の前にオリアンさんが、オーディションを受けている様子の映像を拝見しました。2015年に来日されてから数年間は、俳優業と並行して会社員をしていたと話していましたね。2年ほど前から声優と俳優の仕事で生計を立てているとも話されていました。俳優になろうと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
オリアン:長くなりますよ。
三宅:でも、面白いよね。
三宅裕司
オリアン:短くまとめてお話ししますね。僕は小さい頃、スポーツが大好きでした。マイケル・ジョーダンみたいなバスケットボールの選手になりたかったんですが、残念ながら身長が177センチで止まってしまって。NBAの選手は2メートルくらいありますから、ちょっと難しいなと思って、スポーツキャスターやラジオパーソナリティーなどに方向転換していました。大学在学中に、職業を体験する機会がありまして、その現場で見聞きする中で、自然と俳優の道を見つけたという感じです。あぁ、これは楽しいな。これをやりたいなと思いました。
ーー日本で俳優を目指した理由はありますか?
オリアン:自分の国でもいいですし、他のヨーロッパでもどこでも良かったとは思うんです。大学卒業後に韓国でインターンシップをしていたんです。その時は日本のことはあまり知らなくて、でも韓国から近いのでアメリカに帰る前に寄ってみようかなと思ったのが、来日するきっかけでした。
三宅:すごいよねえ。韓国では何をしていたの?
オリアン:韓国では、コーヒー業界のインターンを2カ月ほどしていました。ずっと昔から俳優をやりたかったのですが、俳優業について冷静に考えてみようと全然違う業界にチャレンジすることにしたんです。
ーー言葉はできたのでしょうか?
オリアン:いや、全く。アニョハセヨ(韓国語で「こんにちは」の意味)ぐらいで。日本語も「こんにちは」ぐらいしかできなかったんですけど、来てみたらみんなすごい協力的で、びっくりしました。日本は古い文化と、新しい文化が混ざってて、それが1番面白いと思いました。あと、日本人は自分がやってることにすごい誇りを持っている感じがしました。アメリカ人でも、ちゃんとしている人はたくさんいますが、僕自身の成長を考えた時、どんなことにも一生懸命な人と一緒に仕事をした方がいいんじゃないかなと思って、日本に拠点を置くことに決めました。
ブレント・オリアン
ーーオリアンさんは、SETのどのような部分に魅力を感じましたか?
オリアン:過去の映像を数本見ましたが、みんなが作りたい作品を作ってる感じがしました。これを作ったらいろんな人が見に来る…じゃなくて、自分たちが作りたいものを作ることが先にあって、それを面白いと一緒に空間を楽しみたいと思う人が、会場に集まっているんじゃないかなと。僕もそれに参加したいと思いました。
ーーSETは、ひとつの作品の中に、歌・ダンス・アクション・笑いなどが織り交ぜられています。大変かなと感じている部分や、楽しみにしていることを教えてください。
オリアン:僕はアメリカ人なので、日本で外国人が生活する…という日々がすでにチャレンジングな事があるので、舞台に関してはちょっと大変な事があってもちゃんと向き合います。
三宅:うちは歌って踊って、コメディもアクションもあるけど、「うわ。ここ、やばいな、怖いな」というのはないの?
オリアン:やばいな、ですか…。うーん。ちょっと歌は心配かなぁ。でも歌もやりたいです! できるという気持ちがあります。
ーー物語はベトナム戦争に突入し、日本でも反戦活動が盛んだった1960年代が舞台。戦争反対のデモ活動をしている、ベ平連のメンバー・永井(三宅)のもとに、脱走兵のトミー(オリアン)が駆け込んでくるところから始まります。トミーと日本の女性との間に芽生えた恋、友情などが描かれます。
三宅:アメリカという国を背負ってるトミーと恋に落ちる女性。オリアンには、大きく言えばアメリカを背負ってやってほしいなと思っています。そうすると、日本の文化との差が出て面白くなる。あとは恋愛をするんだけど、国のことを考えると葛藤もあって、そういう人間味は、役者を目指してる人ならばできると信じています。
ーー過去のSETの劇中では、昔流行ったギャグなどが出てくる場面もあると思います。オリアンさんとだからやりたいお笑いはどのようなことがありますか?
三宅:お客さんが思わず笑っちゃうような、アメリカと日本の文化の違いにまつわるギャグはやっぱりやりたいですね。
(左から)三宅裕司、ブレント・オリアン
ーーオリアンさんは、先ほど「歌が心配」とお話しされていましたが、お笑いはいかがですか?
オリアン:三宅さんや、小倉さんと過ごす中で、お笑いのセンスをちょっとずつ吸収していきたいと思います。
三宅:アメリカの人は、スピーチには必ずユーモアを入れていますしね。それがエだというところがありますから。
オリアン:確かに。
三宅:アメリカンジョークって言う言葉もありますからね。そこは心配していません。
ーーオリアンさんは、今回脱走兵を演じられます。1975年にベトナム戦争が終結してから約51年。半世紀が経って、日本でベトナム戦争にまつわる話しが舞台として上演されることについてどのように感じますか。
オリアン:ベトナムの戦争はアメリカ人でもはっきり“悪かった”と感じている人が多いんです。自分たちが犯してしまったことに対して後悔をしていて、今後同じ事はしてはいけないと思っている人が多い。僕はテキサス出身で、今34歳なんですけど、小さい頃は近所に戦争に行った人が多くいました。その人達からも「アメリカは凄かった」ということを聞いたことはありませんし、あまりにひどすぎて話してくれない人が多いんです。ベトナム戦争をテーマのひとつにした作品に出演することについては、ちょっと複雑な気持ちもあります。でもSETはコメディーでもあるので、お客さんには笑ってもらいたいと思っています。そして、現実に脱走兵として生きた人もいらっしゃるので、その人達の人生がふざけていて、くだらないということにはしたくないので、そのバランスを見つけていくことが僕のチャレンジだなと思っています。
三宅:物語に出てくる米兵も当然、複雑な気持ちだと思うんですよね。大統領と握手をして、勲章をもらって戦地に向かおうとするんだけど、どうしてもそこを裏切らざるを得ないことがあった。相当、揺れているでしょうね。僕らが出演する作品はフィクションですが、似た経験をした人がいたということを考えてほしいなって思ってはいます。
オリアン:お芝居では脱走兵として、一歩踏み出した勇気とそして臆病な部分を持っている両方を同時に見せたいと思っています。
ブレント・オリアン
三宅:ベ平連の時代の本を読むと、脱走する米兵は母国に対して申し訳なさも持っているんだけど、自分の国がやってるこの戦争を許せない。ダメなんだっていうことを、脱走することによって国に訴えたいという気持ちもあるんです。その揺れ動く部分の表現をうまく出せればいいよね。
オリアン:そうですね。アメリカが嫌いだから脱走するんじゃなくて、国が好きなので、この戦争は辞めるべきだと訴えたいという気持ちを持っているんですよね。
ーー複雑なお芝居になりそうですね。三宅さんは、ベ平連のメンバーを演じます。当時、ベトナム戦争についてはどのように見ておられましたか。
三宅:開戦した頃、僕は中学2年生ぐらいでした。ベトナム戦争をきっかけに、日本もそうですが、世界中に反戦ムードが広がっていったと記憶しています。音楽ではたくさんの反戦歌も生まれましたし、当時はそういう印象でした。ベトナム戦争は僕が20代半ば頃まで続いていて、僕自身は割と青春を謳歌していました。高度成長期が青春時代なので、他の国のことを考えて運動するというよりかは、バンドと落語研究会と、自分の青春を楽しいものにすることに夢中でした。そういう意味では、反戦運動をしている同窓生から、随分怒られましたよね。
ーーそうなんですね。
三宅:そう。反戦運動に力を入れている学生達が先生に「今日、討論会をやりたいので、ちょっと授業を中断してやらせてほしい」と言うと、先生は「分かった」って言って帰るんです。僕は討論会をやりたくないから、先生と一緒に帰るんですけど、そうすると「なんでお前も帰るんだ!」って止められていましたね。「バンドと落語の稽古しなきゃいけないから帰る」って言うと、「君は何も感じないのか!」と罵られた。そういう時代でしたね。
ーー今回、小倉さんはどのような役どころなのでしょうか?
三宅:トミーを無事に脱走させるために潜伏するヒッピー村の村長です。公演ポスターに描かれている、この癖がある感じそのまんまです。ほら、もうみんな顔が浮かんじゃった(笑)。
三宅裕司
ーーSETは三宅さんと小倉さんの掛け合いも楽しみのひとつです。
三宅:小倉は三重県の山奥で育ってますからね。家の前に川が流れてて、そこでウナギの仕掛けをしておいて、ウナギが獲れると昼にお母さんがうな重にして学校に持って来てくれるっていう生活をしていた。僕は東京の神田神保町生まれですから、それだけでギャップがあるんです。コントっていうのは、コントラストが大事。その違いの中から生まれる笑いを楽しんでほしいです。
ーーオリアンさんは、小倉さんに会われましたか?
三宅:まだ会ってないよね。小倉と会ってたら、今のように落ち着いてはいられませんよ(笑)。劇団SETは今から47年前にその当時よく上演されていたアングラ芝居のような難解な演劇を否定するように、解りやすくてエンターテインメント性に富んだ舞台を上演しようと旗揚げしたんです。昔のお芝居は、観客にテーマをガンッと打ち立てる固いものが多かったんですけど、そうじゃなくて、テーマはあるんだけれども、全面に出すのではなくそれを知ってもらうため、分かってもらうために、笑いや音楽を取り入れているのがSETなんです。今回はベトナム戦争という非常に重いテーマを取り上げますが、あえてフィクションにして、史実なんだけれども、大笑いしながら音楽とともに見ることができる。当時のヒット曲もいっぱい出てきますから、楽しみながら劇中で描かれるストーリーを通して、いろんなことを感じてもらって、最終的には、今の日本について考えてもらえれば1番いいなと思っています。堅苦しく考えるのではなくて、しっかりと舞台を楽しんだ後、最後に自分で1人になった時に真剣に考えてほしいなと思います。
(左から)三宅裕司、ブレント・オリアン
取材・文=翡翠 撮影=池上夢貢
公演情報
ミュージカル・アクション・コメディー
『愛と友情の大脱走~ラブ&ピースフォーエバー~』
会場:池袋・サンシャイン劇場
脚本:吉井三奈子
演出:三宅裕司
S席8,500円 A席(⼟⽇祝)7,000円 A席(平⽇)4,500円