日本舞踊家・藤間直三「日本の文化、日本の芸能はこんなにおもしろかったんだと体感していただける公演にします」~『第四回 直三の会』を開催
藤間直三
「⻘春ごっこを今も続けながら旅の途中 ヘッドライトの光は⼿前しか照らさない」
フラワーカンパニーズの『深夜⾼速』の⼀節を引き合いに、芸道に⽣きる⾃分と重なる、と思いを語ったのは、2026年5⽉に⾏われた第56回舞踊批評家協会賞の授賞式でのこと。藤間直三は、2025年度の舞踊批評家協会新⼈賞を受賞した、気鋭の⽇本舞踊家である。
その直三による四度⽬の⾃主公演『第四回 直三の会』が、2026年12月12⽇(⼟)、⽇本橋公会堂で開催される。今回は、中村橋之助を迎えての常磐津『粟餅』と、⻑唄・常磐津『奴道成寺』の⼆演⽬を上演。⾐裳や鬘、⼤道具、⽣演奏を揃え、⽇本舞踊の華やかな魅⼒を存分に味わえる舞台となる。
公演にかける思いや、それぞれの演⽬への意気込み、さらに⽇本舞踊家としてこれから⽬指すものについて、直三に話を聞いた。
ーー今回、四度⽬の⾃主公演ということですが、企画されたきっかけを教えていただけますか?
前回は、国⽴劇場が閉場する前のタイミングで、⺟・千代三との⼀⾨会『藤弥会』とともに⾃主公演ができれば、と開催しました。今回は率直に「今やるべきだ」というモチベーションが上がってきたことが⼤きいです。
2023年開催『第三回 直三の会』での『春興鏡獅⼦』より
ーーこの公演は、⽇本舞踊の古典作品で構成される公演ですね。この記事を読まれる⽅には⽇本舞踊を観たことがない⽅も⼤勢いらっしゃると思いますが、⽇本舞踊の魅⼒について伺えますか?
⽇本舞踊というものは歌舞伎を⺟体にして、最終的には独⾃のものも育てながら、江⼾時代から歴史を歩んできた芸能です。今回やらせていただくのは歌舞伎舞踊の古典の名作⼆演⽬ですが、他のジャンルの舞踊とは違い、ダンスの要素もありながら、お芝居的な部分も多い。これが歌舞伎舞踊、⽇本舞踊の⼤きな魅⼒だと思います。踊りながら芝居を進⾏していく、芝居を進⾏しながら踊る……そういったところにあるおおらかさ、また古典の作品になるといい意味での⼟臭さや当時の⽇本⼈の⽣活というものが随所に感じられたりもします。それを、現代に⽣きる⾃分たちがどのように体現することができるか。それこそ現代に⽣きる⾃分らしさみたいなことも交えながら、出すことができればいいですね。
『第三回 直三の会』での『うかれ坊主』
ーー⾃分らしさですか。
はい。それから、今回の公演は「歌舞伎舞踊」というだけあって、歌舞伎でもよくかかる演⽬です。その中で⽇本舞踊家である藤間直三らしさみたいなものが出せればいいなと思います。中村橋之助さんと踊らせていただく時は彼らしさだし、僕らしさ、さらに歌舞伎と⽇本舞踊の表現の違いも⾒ていただければ。
ーー中村橋之助さんは歌舞伎の⽅ですね。今回、どういうきっかけで共演されることになったのですか?
橋之助さんとは、⽇本舞踊協会の⽇本舞踊 未来座=裁=の公演『カルメン 2018』でご⼀緒させていただいたのが最初の出会いです。その時から、いつか⼀緒にやりたいねと話していました。それが、前回の『直三の会』を終えたあとに、湯河原観光協会さんのご縁で、橋之助さんら成駒屋の⽅たちとご⼀緒に『湯河原歌舞伎舞踊公演』というのをやらせていただくチャンスをいただきました。じゃあ今度は⾃分で作り上げる公演に橋之助さんに出ていただきたい、とお声がけしたところ、本当に快く引き受けていただいて、今回のご出演が叶いました。今までそういうことができるような⾃分を⽬指してきた部分もあったので、実現してとても嬉しく思いました。
2025年12⽉開催の『湯河原歌舞伎舞踊公演』より(前列中央=中村橋之助、右=藤間直三/撮影:⽯井廉幸 @yas.ishii)
ーー粟餅売を題材にした常磐津『粟餅』をともに踊られるのですね。
はい。⼆⼈で踊り⽐べることができるような演⽬を選びました。その中でも、僕も30代半ばになり、エネルギッシュに突っ込んでいくだけではない年代にもなってきたので、おおらかさや、物売りとしての柔らかさがあり、それでいながら明るいものをと。今の僕たちの年齢なりの若さと熱量がある踊りをお⾒せしたいです。橋之助さんは歌舞伎役者さんで、⾃分⾃⾝は⽇本舞踊家。それぞれが積み上げてきたものは、同じ舞台で同じ演⽬を踊ったとしても違うと思います。そこをいい意味で戦わせたいですね。こうしてご⼀緒させていただけるありがたい機会を橋之助さんに頂戴しましたが、それだけで終わらず、⾃分⾃⾝が真に楽しんで踊ることが、本当に⼤事なことだと考えています。それをお客さまに感じ取っていただければ嬉しいです。
ーーもう⼀演⽬は⻑唄・常磐津『奴道成寺』。映画『国宝』で話題になった『京⿅⼦娘道成寺』の主⼈公を男性に置き換えた演⽬ですね。
『奴道成寺』は、⼩さい時からいろいろな先輩⽅、先⽣⽅の舞台を観ていました。とにかくカッコいいイメージで、いつか⾃分もできたらと頭の⽚隅にずっとあった憧れの演⽬です。そういう演⽬に挑戦する機会はたまたま巡ってくるわけではなく、⾃分でチャンスを作らなくてはいけません。今ここだったらと選びました。この年代で初めて挑むからこそ⾒えてくるものもあるのではないかと思います。家元や⾃分の流儀の先⽣⽅もよくかけられたものでもありますので、先輩⽅、先⽣⽅をはじめたくさんの⽅に⽀えていただきながら、⼤事な演⽬をやらせていただくという想いを持って挑みます。強⼒は、藤間流勘右衞⾨派の男性舞踊家で⽴ち上げた“黎明の会”で同⼈としてご⼀緒させていただいている、藤間之宏さんと藤間豊彦さんにお⼒をお借りします。前回の『直三の会』でもご出演いただき、今回も流儀の先輩⽅に出ていただけるのは⼤変⼼強いです。今回は先⽣⽅に伺って、所化を強⼒でやらせていただきます。おそらく『奴道成寺』では初めてではないでしょうか。こういう形もありなのではないかというような、提案の⼀つになればいいと思っています。
ーー今回の公演は、⾐裳をつけて鬘もかけて、⼤道具もしっかり飾ってという形で本格的にやられるのですよね。
そうですね。⼤道具、⼩道具、⾐裳、鬘、そして⽣演奏……そういうものが全部ある世界観というのが、幼い頃から僕にとっては⾃然なものでした。⽇本舞踊や歌舞伎は、やはり総合芸術なので、舞台の全部に⼯夫があって、さらに⽇本舞踊らしさ、歌舞伎舞踊らしさというものがあってというところがとっても魅⼒だと思うんですね。⼤道具ひとつとっても⻄洋の芸能のものとは全然違う。国⽴劇場が閉場して以来、⼤道具を本格的に仕込んで、⾐裳・かつらをつけてといった、すべてが揃った世界観をお客様に感じていただく機会が減ったように思います。伝統芸能に馴染みがある⽅々には「やっぱりこれだよね」と思ってほしいし、馴染みのない⽅にも⽇本の芸術の華やかさを感じていただきたい。将来的には素踊りで、様々な要素を削ぎ落とした上での表現にも挑戦していきたいんですけれども、今回は⽇本舞踊の華やかな部分にスポットを当てて楽しんでいただきたいです。
『第三回 直三の会』での『春興鏡獅⼦』より
ーーいずれは素踊りでもおやりになりたいと。
最終的に、⽇本舞踊ならではということになりますと、素踊りというところはあると思います。ただ、⾐裳をつけての舞台を経験することでつく匂いみたいなのもがあると思ってもいます。最終的にそれが感じられるようになってこその素踊り。今の年代としては、とにかくその修⾏というのでしょうか、⾐裳をつけて、⼤道具を本格的に飾ってということを多くやっていきたい。たとえば男性ですと、素踊りは紋付き袴だけで「表現する」わけですが、それはとても上等なものといいますか……いつかそこに⾏けるように、今はまず経験を重ねていきたいです。
(公財)⽇本舞踊協会関⻄⽀部『第63回 舞踊の会』での⻑唄『春調娘七種』曽我五郎
ーーさきほど「⻄洋のものとの違い」というお話しがありましたが、⽇本舞踊の舞台はもちろん、バレエや太⿎など、さまざまなジャンルの⽅とのコラボレーションもされていますね。
⽇本舞踊とは違う芸能の⼈との機会を、コロナ禍から特に多くいただいてきました。そういうところに⾏けば、⽇本舞踊の代表として⾒られますから「⽇本舞踊はこうです」という話をしたり、それを体で⽰さなきゃいけない部分があるわけですね。じゃあ⽇本舞踊って何なんだろうということも、⽂章や⾔葉だけではなく、実地で考えなきゃいけない、やらなきゃいけない、匂わせなきゃいけない。⾃分たちの強みはどこなのか、良さは何なのか、どうやってそれを⾒せるのか、どうやって発していくのか…そういうことを考えるいい機会になり、また、いろんなものに触れるからこそ、⾃分の芸能の良さが⾒えてもきました。そういったところで経験させていただいたものを糧に、また⾃分の芸能のところに戻ってきて、これが⽇本舞踊です、歌舞伎舞踊ですというものを表現していきたい。今回の公演に対しての思いのひとつでもあります。
⽇本舞踊はエンターテインメントの要素もたくさんあってけっして地味ではないし、⾼尚すぎるわけでもない。今の⼈たちにその魅⼒を伝える橋渡しの役割となれるように様々発信していくというのは、これからもやっていきたいことです。
和太⿎との競演(2026年8⽉開催『ヨロズノリズム 2026』より)
ーーこの公演だけでなく、これから将来に向けて⽬指していきたいことはありますか?
まず、もっとどんどん広い世界を⾒ていきたいです。⽇本舞踊という⾃分のバックボーンというものを活かして、既存の劇場だけでなく、チャンスがあるんだったら、例えばドームで演出だとか振り付けだとか、全然違うものの振り付けだとか、そういうものに関われても⾯⽩いと思います。違うジャンルの⽅々のところで⽇本舞踊の良さを体感させていただいて、あらためて魅⼒を感じているからこそ、それをより広めていくためにできることは何かなと、そういうことを考えるとワクワクします。同時に、⾃分の好きな芸能を守っていくために、どうつないでいくかというところも⼤事なことだなと思います。⾃分⾃⾝、20代、⼤学を卒業した頃など、思ったようにできず苦しかった部分や悔しかった部分がたくさんありました。私も30代もなかばに差し掛かる年齢にもなりましたし、今の⽴場でどう、下の世代の⼈たちに刺激を与えられるか。⾃分⾃⾝、上の先輩たちに憧れたので、そういった背中を⾒せられるような存在にならなくてはいけないし、具体的に⽅法を⾒つけていかなくてはいけないなと思っています。
ーー読んでいらっしゃる⽅にメッセージをお願いいたします。
読んでいらっしゃる⽅には、⽇本に⽣まれながらも、⽇本の昔からの芸能に対して思いがけず⾷わず嫌いになっている⼈もいると思うんです。そういった⽅に「なんで今まで⽇本舞踊を⾒てなかったんだろう」と思わせられるくらいの公演を、今、⾃分の⾝体を通して皆さんにお届けしたい。その上で、⽇本の⽂化って、⽇本の芸能ってこんなにおもしろかったんだと体感していただける公演にしますので、まずは⼀度劇場でご覧いただければ嬉しいです。絶対に後悔はさせません。
公演情報
昼の部 13:30 開演
夜の部 17:30 開演
(開場は各回開演の30分前)
藤間直三
藤間豊彦
中村橋之助
ほか
〈常磐津〉 常磐津和英太夫社中
〈⻑唄〉 杵屋五助社中
〈囃⼦〉 望⽉秀幸社中
⼀、常磐津『粟餅』
SS 席(指定席/⼀階前⽅)10,000 円
S 席(指定席/⼀階)8,000 円
A 席(⾃由席/⼆階)6,000 円
※消費税込
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