戦国を駆け抜けた豊臣兄弟の絆 江戸東京博物館リニューアル記念 NHK大河ドラマ特別展 『豊臣兄弟!』レポート
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』豊臣秀吉役の池松壮亮
2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』の放送に合わせ、東京都江戸東京博物館にてリニューアル記念・NHK大河ドラマ特別展『豊臣兄弟!』が開幕した。名古屋の徳川美術館、大阪歴史博物館を巡回し、東京が最終会場となる。
東京都江戸東京博物館では大河ドラマにちなんだ展覧会を継続的に開催してきたが、リニューアル前の『おんな城主 直虎』以来、実に9年ぶりの大河ドラマ展開催となる。これまであまり光の当たることのなかった秀長という人物の素顔と功績を、貴重な歴史資料から丁寧に紐解いていく構成が本展の大きな魅力。同館の学芸員・杉山哲治氏の解説とともに、見どころをレポートする。
『豊臣兄弟!』秀吉役の池松壮亮も登場
開幕前日には、ドラマで豊臣秀吉を演じる俳優・池松壮亮が一足先に展覧会を見学し、その感想を語った。展覧会の感想を聞かれると、「一点一点が非常に貴重で、あと1日かけてゆっくり見たいと思いました」と、展示内容の充実ぶりに感動した様子を見せた。
なお本展の音声ガイドを務めるのは、豊臣秀長役の仲野太賀だ。池松は「1年半、毎日聞いている声なので非常に馴染み深い」と笑いを交えつつ、「本当に聞き取りやすい。さすがは弟だと思いました」と、愛情のこもった言葉で称えた。
戦の時代に生まれた兄弟を、美術品で振り返る
冒頭を飾るのは、京都・禅林寺に伝わった秀吉と秀長の肖像画。向かって右が秀長、左が秀吉だ。秀長の肖像画は「秀吉の肖像画を参考にして描いたのか、あるいは同時期に描かれたのかは、はっきりしません。ただ、関連性のあることには違いない肖像画です」と説明した。
左:《豊臣秀吉像》、右:《豊臣秀長像》いずれも桃山~江戸時代 17世紀 京都・禅林寺蔵【前期】
第1章では、信長に仕えた兄弟が各地で戦を重ねていく様子を紹介する。中でも転換期となったのが賤ヶ岳の戦いだ。《賤ヶ岳合戦図屏風》は、左側に柴田勝家勢が秀吉方を攻撃する様子、右側に秀吉方が柴田勢を攻撃する様子が描かれている。杉山氏いわく、「書籍などではよく知られている作品ですが、実際に展示するのは久々と言ってもいい」という貴重な機会だ。
同章では槍の展示にも注目したい。「ライティングにもこだわっていて、ここまでしっかり刃文が見えるケースは中々ないと思います。ケースの角あたりから見ていただくと、比較的見やすいと思います」と杉山氏。その言葉どおり、ぜひ角度を変えて覗き込んでみてほしい。
池松も屏風の数々に魅了されたひとり。「賤ヶ岳の屏風は金地のスケールが圧巻でした。とても貴重なものだと伺いましたし、そこには秀吉や勝家をはじめ、さまざまな登場人物が描かれていて、本当に見事でした」と振り返った。
左:《平三角大身鎗 銘 兼上》室町時代 16世紀 愛知・徳川美術館蔵【通期】、奥:《賤ヶ岳合戦図屏風》江戸時代 長野・佐久市教育委員会蔵【通期】
天下人となる豊臣秀吉の人柄を知れる
続いて、秀吉が天下人になっていく過程を紹介する。東京会場限定の展示となるのが、池松も「本当に素晴らしかった」と語る《御所参内・聚楽第行幸図屏風》だ。
左側には秀吉が御所へ迎えに行く様子が、右側には天皇が聚楽第へ向かう様子が描かれている。百姓上がりで血筋としての権力基盤が弱かった秀吉は、天皇の力を借りることで自らの権威を高めていった。その一連の行事として行われたのが、この聚楽第行幸だったという。
《御所参内・聚楽第行幸図屏風》江戸時代 17世紀 小林英好氏蔵(上越市立歴史博物館寄託)【通期】
《羽柴秀吉書状 美濃守宛》は、小牧・長久手の戦いの際に秀吉から秀長へ送られた書状で、前線の指揮を執る秀長に対し、かなり細かな指示が書き込まれている。本展では古文書に釈文だけでなく口語訳も添えられており、歴史に詳しくない人でも内容をつかみやすい配慮がなされている。
この書状から秀吉という人物をどう感じたかを問われた池松は、「ちょっと冗談を交えたお手紙で、すごくユーモアがあった人なのかなと思います。今みたいにメールやLINEはできない時代ですから、本当にこまめに情報戦をやっていたんじゃないかなと。ドラマでは秀長がそちらの担当として描かれている場面が多いですが、とても知略があり、生きるエネルギーに満ちた人物だったのではないかと思います」と語った。
《羽柴秀吉書状 美濃守宛》天正12年(1584)6月18日 長野・田中本家博物館蔵【通期】
秀長の見せ場となる大和入国も
舞台は、秀長が入国した大和国へ。藤堂高虎、桑山重晴、小堀政一(遠州)といった秀長の家臣団にまつわる資料が並ぶ。小田原城天守閣の所蔵品や、豊臣家と命運をともにした名刀の絵図も見どころだ。
小田原市指定文化財《本小札紫糸素懸威腹巻》室町時代 16世紀 神奈川・小田原城天守閣蔵【通期】
重要美術品《刀絵図 本阿弥光徳筆》文禄4年(1595) 石川県立美術館蔵【前期】
特に注目したいのが、「瓦の兄弟」として紹介される大坂城と郡山城の瓦だ。杉山氏は「渦巻きの模様や、その周辺に見える丸いポツポツに注目してください。距離感や形がほぼ同じであることから、同じ技術、あるいは同じ工房で作られた可能性が高いなど、何らかの関連性があることがわかります」と解説した。瓦という素朴な資料から兄弟のつながりが浮かび上がってきて、実に興味深い。
左:《郡山城跡出土瓦》16世紀 奈良・大和郡山市蔵【通期】、中央:《大坂城跡出土瓦》16世紀 大阪市教育委員会蔵【通期】
金色に花ひらく武士たちの文化
桃山文化の華やかさを伝える第4章では、権力者たちが文化的な側面を発揮することで、自らの権力を補完していった様子がうかがえる。
第4章 時の権力と美 会場風景より
ここで必見の美術品が、秀長の所持品として唯一確認されている茶入だ。「秀長の茶会で使われた記録も残っており、秀長が確実に使用し、所持していたことがわかる茶入です。これまであまり日の目を見ることはありませんでしたが、本展でほぼ唯一、秀長の所持品として展示されていて貴重だと思います」と杉山氏。
池松にとっても、最も心に残った一点だったという。「秀長が確実に使っていた本物だとわかるものが、本当に小さな茶入れで。見たときにちょっと泣きそうになりましたね。感動しました」と、率直な言葉で語った。
《肩衝茶入 銘 薬師院 豊臣秀長ほか所用》中国・南宋~元時代 13~14世紀 兵庫・香雪美術館蔵【通期】
浪速のことは夢のまた夢、されど語り継がれる兄弟の歴史
やがて秀長の没後、栄華を極めた秀吉も世を去り、豊臣家は没落へと向かう。大坂城が焼けた際に刀剣も焼失したが、再刃によって研ぎ直され、現在まで伝わっているものも数多い。本展では徳川美術館所蔵の鯰尾藤四郎など、ゲーム『刀剣乱舞』のキャラクターとしても知られる名刀が特別に出品されている。後期展示では、同じくキャラクター化されている南泉一文字が目玉として登場する予定だ。
《脇指 銘 吉光 名物 鯰尾藤四郎》鎌倉時代 13世紀 愛知・徳川美術館蔵【通期】
プロローグで兄弟の肖像画を展示した本展は、エピローグで再び二人を登場させる。並べられているのは秀長と秀吉の木像だ。大阪・大宮神社蔵の秀吉像は横幅80センチ以上という、現存する中でも最大級のもの。秀長像は1630年に制作され、奈良の壷阪寺に伝わったものだという。関西圏で豊臣がいかに親しまれてきたか、という部分も想像させられる。
左:大阪市指定有形民俗文化財《伝豊国大明神坐像》室町~江戸時代 大阪・大宮神社蔵【通期】、右:《豊臣秀長公像》寛永7年(1630) 奈良・壷阪寺蔵【通期】
農民の家に生まれ、信長の家来となり、天下統一まで駆け上がった秀吉。その隣には常に秀長がいた。兄弟の関係性について問われた池松は、「兄弟でも滅ぼし合うような時代ですから、ずっと一緒に歩んだのは本当に稀なケースですよね。秀吉は難しい面もある人物だと思いますが、秀長がどれほどの誠意や人柄で秀吉に接していたのか、二人がどれほど深く結びついていたのか、それが現代へのメッセージになればと思いながら演じています」と語る。
最後に杉山氏は、「なぜ“江戸”博が豊臣兄弟?というのはありますが」と笑いを誘いつつ、「本展を見てから5・6階の常設展を巡れば、その後の江戸時代から現代までを一通り楽しめると思います」と、今回の会場ならではの楽しみ方を伝えてくれた。
江戸東京博物館リニューアル記念・NHK大河ドラマ特別展『豊臣兄弟!』は11月8日(日)まで、東京都江戸東京博物館にて開催中。
文・写真=さつま瑠璃
イベント情報
◆会期:2026年9月15日[火]~11月8日[日]
《主な展示替》
前期展示:9月15日[火]~10月12日[月・祝]
後期展示:10月14日[水]~11月8日[日]
※会期中、一部の作品は上記以外も展示替を行います。
◆休室日:毎週月曜日、10月13日[火]、11月4日[水]
※ただし、10月12日[月・祝]、11月2日[月]は開館
◆開室時間:9:30~17:30(土曜日は9:30~19:30)
※最終入室は閉館の30分前まで
◆会場:東京都江戸東京博物館 1階特別展示室(〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1)
◆主催:東京都江戸東京博物館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、NHK、NHKプロモーション
◆協賛:ライブアートブックス
◆お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)