山田和樹(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団 20世紀の作品に光を当てた鮮やかなプログラミング

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クラシック
2015.7.22

20世紀の作品に光を当てた鮮やかなプログラミング

 日本と欧州を股に掛け、快進撃を続ける山田和樹。首席客演指揮者を務めるスイス・ロマンド管との昨年の華麗な来日公演に続き、今年からは正指揮者職にある日本フィルとの武満&マーラー・プログラムもスタート。2016年からのモンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督就任のニュースが伝わるなど、相変わらず話題に事欠かない。

 山田の演奏会の魅力はいくつかあるが、中でも目を引くのがプログラム・ビルディングだ。自身の得意とする現代音楽を、古典的な名曲やなじみやすい作品と組み合わせ、ストーリーを組み立てる。難しい曲でもするっと聴ける工夫がうれしい。

 日本フィルと共演する9月の2プログラムも山田らしいホスピタリティがあふれている。9月4日・5日のサントリー定期は、1961年に作曲された別宮貞雄の交響曲第1番を軸にしたもの。別宮は戦後前衛音楽の難解さとは一線を画し、オーセンティックなスタイルで創作した。日本フィル・シリーズ(日本フィルによる邦人作曲家への委嘱プロジェクト。多くの名作が生まれた)の第7作にあたるこのシンフォニーも、4楽章の定型的なスタイルにのっとった、がっちりとした音楽だ。62年の初演時には別宮が理想としたベートーヴェンの交響曲第2番とカップリングされていたが、今回は同じくベートーヴェンからは第1番と番号を揃えてチョイス。別宮がフランス留学時に影響を受けたモダン・フレンチの瀟洒な2作品「世界の創造」(ミヨー)、「アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲」(イベール)へとつなげ、創作の背景が押さえられるようになっている。イベール作品でサクソフォン・ソロを務めるのは、まだ20代前半ながらめきめきと頭角を現している上野耕平だ。

 9月12日の杉並公会堂シリーズは、「山」がテーマ。富士山の勇姿は日本人の美意識を象徴するものとして、一昨年世界遺産にも登録された。テレビ静岡開局20周年を記念して作曲された三善晃の「連祷富士」(1988)は、そんな富士に捧げられたもの。単純なオマージュに終わらず、マッシブなエネルギーを噴火のように爆発させる一筋縄ではいかない曲だが、山田の透徹した解析力はむしろ存分に発揮されるはずである。ドイツ生まれでクラシックのみならず、ジャズ、ゲーム音楽など幅広く活躍するピアニスト、ベンヤミン・ヌスを独奏に招いたガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」を挟み、後半はアメリカの雄大な山脈(グローフェ「グランド・キャニオン」)が活写される。グローフェは「ラプソディー・イン・ブルー」の管弦楽アレンジも担当した作曲家で、大峡谷の見事な情景描写は音楽の授業で触れた人も多いだろう。懐かしい選曲だ。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)

公演情報
日本フィル演奏会

日本フィル 第673回 東京定期演奏会 日時:9/4(金)19:00、9/5(土)14:00
会場:サントリーホール
問合せ:日本フィル・サービスセンター 03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp

日本フィル 杉並公会堂シリーズ 2015-16 第3回
日時:9/12(土)15:00
会場:杉並公会堂
問合せ:杉並公会堂03-5347-4450
http://www.suginamikoukaidou.com

 
 
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