桑田佳祐、あいみょん、桜井和寿、竹内まりや、原 由子、吉井和哉が日本武道館で歌った“大衆音楽としてのフォークソング”、ライブ盤『九段下フォーク・フェスティバル’25』から聴こえる言葉たち
LIVE ALBUM『九段下フォーク・フェスティバル25』
LIVE ALBUM『九段下フォーク・フェスティバル'25』ディスクレビュー
本作は、昨年10月に東京・九段下の日本武道館で行われたスペシャルライブの模様を収めたライブアルバムである。この作品から得られる利益は、熊本をはじめとする各被災地への支援を目的に日本赤十字社に全額寄付される。
もっとも、ライブ自体のそもそもの趣旨は桑田佳祐がパーソナリティを担当し、TOKYO-FMをはじめとするJFN全国38局ネットで現在も放送中の番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』の放送開始30周年とTOKYO-FM開局55周年のダブルアニーバーサリー企画ということだから、まずは“30年”とか“55年”という時間の積み重ねをことほぎ、愛でることになる。だから、「わたしは今日までいろんな人に力を借りたりしがみついたりしながらやってきたし、これからもそうだろうと思います」という歌から始まるのは、番組ならびに放送局の関係各位に対する桑田一流のチャーミングな謝意の表明にも思えるけれど、このライブはもちろん番組の、ひいては音楽のファンにも開かれた場だから、彼ら、彼女らの“30年”とか“55年”をそれぞれに味わうことにもなる。その意味では、《わたしにはわたしの生き方がある/それはおそらく自分というものを知るところから始まるものでしょう》という、ある種結論めいたフレーズが歌われる「今日までそして明日から」を1曲目に配したのは、このライブに通底する主題の音楽的な提示であるかのようであるし、子供が食べ物をしっかり噛んでから飲み込むようにその歌詞の言葉を一つひとつ発話していく桑田の歌い方は、この日のライブで歌われる言葉に耳を澄ますことを促しているように思われる。
ちなみに、このライブを“フォークソング”のお祭りにしようというのは桑田の発案だそうだが、そこで言う“フォークソング”とは「大衆音楽としてのフォークソング」ということらしい。だから、ここで聴こえてくる音楽は、いわゆるフォークのサウンドイメージに縛られてはいない。桑田が掻き鳴らすアコースティックギターがサウンドの中心にありハーモニカの音色がフォーキーな風味を運んではくるけれど、演奏の土台はギター、ベース、ドラム、2キーボードにサックス、コーラスという編成のフルバンドが支え、実直なビートがそれぞれに独自の味わいを感じさせるボーカルの共演を後押ししている。
例えば、桜井和寿(Mr.Children)とが歌うBUZZの「ケンとメリー~愛と風のように~」は70年代アメリカのフォークロックやブルーアイドソウルを連想させるし、浜田省吾「悲しみは雪のように」をあいみょんがその愛らしいアルトの声で歌うと浜田省吾的憂いはそのままにポップ感が増すように感じられる。あいみょんと同様、女性ならではの高音よりも中低音を魅力的に聴かせる竹内まりやは、例えば「涙のキッス」で歌詞に効果的に織り込まれた促音を印象的に響かせ、この曲が「涙のキス」ではなく「涙のキッス」である理由をロマンティックに知らしめてくれる。ただし、ロマンティックでありながら、抒情に溺れないから音楽がベトつかない。彼女がデビューした頃は日本のフォークソングの多くは歌謡曲に飲み込まれて、良くも悪くも日本的情緒の表現になってしまっていたけれど、その次の時代の日本のポップスの誕生に先鞭をつけた彼女がこの日のステージでも桑田流フォークを見事に表現してみせた。原 由子のボーカルも同じく抒情に溺れないから、ストレートな青春ソングとも言える「いちょう並木のセレナーデ」がすっきり垢抜けて聴こえ、和風な「花咲く旅路」にオリエンタルな味わいが残るのは周知の通りだ。そうした個性の共演のなかにあって、個人的には吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)が桑田の曲「東京」で濃厚に漂わせたエレジー感に深く感じ入った。人から見れば幸せそうでも深いやるせなさを抱えた日々。そして、東京という街が象徴する現代社会の不条理。そんなあれやこれやを、会場のオーディエンスも、そしてこのライブアルバムを楽しむ人たちも、それぞれの“30年”や“55年”を振り返りながら、反芻することになるだろう。その上で、実体験として重い病を得た先に見出した未来を歌う吉井の歌声に救われる思いを共有する人は少なくないはずだ。
その「みらいのうた」までで19曲。5人のゲストとの共演も一通り楽しむと、桑田が自分流のフォークソングに“大衆音楽”という注釈を添えた気持ちの在処がほの見えてくる。フォークソングてぇのは、大衆の暮らしに根ざした生活歌ってことじゃないですかねぇ、なんて。
先に、「言葉に耳を澄ますことを促している」と書いたが、収録曲29曲のうち2曲、英詞で歌われている曲がある。その一つ「Two Of Us」には《君と僕には思い出がある/目の前に伸びている道よりもずっと長い思い出が》という一節があり、もう片方の曲「California Dreamin’」では《もし僕がLAにいたら/安らかで暖かく過ごせたのに》と歌っている。そして、最後は《野暮でイナたい人生を/照れることなく語ろう》と桑田が歌う「祭りのあと」締めくくられる。「振り返れば、誰だって山あり谷ありでしょけど」とでも言うように。
人生、と言うと重くなるけれど、でも竹内まりやも歌っているじゃないですか。
《人生はあなたが思うほど悪くない》 (「元気を出して」)
文=兼田達矢
リリース情報
『九段下フォーク・フェスティバル’25』
CD/配信 2026年11月3日(火・祝)発売
アナログ盤 2026年12月16日(水)発売
特設サイト https://southernallstars.jp/feature/kudanshitafolkfes25_album
配信URL https://taishita.lnk.to/kudanshita25
アルバム試聴トレーラー映像 https://youtu.be/hmdZuVgiJFI
<形態>
■CD
2CD+ブックレット / VICL-66200〜66201 / ¥4,180(税込)
■アナログ盤
<収録内容>
※全29曲(CD/アナログ盤共通) ※()内に歌唱アーティスト記載 ※以下はCDでのDisc分けを表記
▼Disc1
1. 今日までそして明日から/吉田拓郎(桑田佳祐)
2. 明日へのマーチ/桑田佳祐(桑田佳祐)
3. 君はロックを聴かない/あいみょん(あいみょん,桑田佳祐)
4. 悲しみは雪のように/浜田省吾(あいみょん,桑田佳祐)
5. 偽者/あいみょん(あいみょん,桑田佳祐)
6. 白い色は恋人の色/ベッツイ&クリス(桑田佳祐,あいみょん)
7. SEA SIDE WOMAN BLUES/サザンオールスターズ(桑田佳祐)
8. ケンとメリー〜愛と風のように〜/BUZZ(桜井和寿,桑田佳祐)
9. HANABI/Mr.Children(桜井和寿,桑田佳祐)
10. 慕情/サザンオールスターズ(桜井和寿,桑田佳祐)
11. 奇跡の地球(ほし)/桑田佳祐&Mr.Children(桜井和寿,桑田佳祐)
12. 夜空の星/加山雄三(桑田佳祐)
13. いちょう並木のセレナーデ/原 由子(原 由子,桑田佳祐)
14. 花咲く旅路/原 由子(原 由子,桑田佳祐)
15. 風に吹かれて/Bob Dylan(桑田佳祐,原 由子)
16. ヨイトマケの唄/美輪明宏(桑田佳祐)
▼Disc2
1. 太陽が燃えている/THE YELLOW MONKEY(吉井和哉,桑田佳祐)
2. 東京/桑田佳祐(吉井和哉,桑田佳祐)
3. みらいのうた/吉井和哉(吉井和哉,桑田佳祐)
4. 悲しくてやりきれない/ザ・フォーク・クルセダーズ(桜井和寿,桑田佳祐)
5. あの素晴しい愛をもう一度/加藤和彦, 北山 修(桜井和寿,吉井和哉,桑田佳祐)
6. なごり雪/イルカ(あいみょん,桑田佳祐)
7. 元気を出して/竹内まりや(竹内まりや,桑田佳祐)
8. Two Of Us/The Beatles(竹内まりや,桑田佳祐)
9. 涙のキッス/サザンオールスターズ(竹内まりや,桑田佳祐)
10. 静かな伝説(レジェンド)/竹内まりや(竹内まりや,桑田佳祐,原 由子)
11. California Dreamin’/ママス&パパス(あいみょん,桜井和寿,竹内まりや,吉井和哉,桑田佳祐,原 由子)
12. 今日の日はさようなら/森山良子(あいみょん,桜井和寿,竹内まりや,吉井和哉,桑田佳祐,原 由子)
13. 祭りのあと/桑田佳祐(桑田佳祐)
<ブックレット>
ここでしか見られないカットを含む、当日のライブ写真をふんだんに収録したブックレット。CDとアナログ盤それぞれのパッケージサイズに合わせたレイアウトで構成され、各フォーマットならではの見え方で楽しめる仕様となっています。“伝説の一夜”の熱気と感動を、音と写真の両方で手元に残すことができる作品です。
<寄付について>
この作品から得られる利益は、熊本をはじめとする各被災地への支援などを目的に日本赤十字社へ全額寄付させていただきます。被災地への早期支援のため、寄付対象期間は現時点で2027年3月31日までを予定しております。
配信情報
あいみょん、桑田佳祐「なごり雪」
2026年10月7日(水)より先行配信中 ※ストリーミングのみ
配信URL https://taishita.lnk.to/nagoriyuki
YouTubeオフィシャルオーディオ https://youtu.be/IAE3qyw5m7c
第2弾先行配信
吉井和哉、桑田佳祐「みらいのうた」
2026年10月14日(水)より先行配信中 ※ストリーミングのみ
配信URL https://taishita.lnk.to/mirainouta
YouTubeオフィシャルオーディオ https://youtu.be/kpY1jkEwjVI
第3弾先行配信
桜井和寿、桑田佳祐「奇跡の地球(ほし)」
2026年10月21日(水)先行配信スタート ※ストリーミングのみ
配信URL https://taishita.lnk.to/kisekinohoshi_live
YouTubeオフィシャルオーディオ https://youtu.be/jU2yuq3hopg
第4弾先行配信
竹内まりや、桑田佳祐「Two Of Us」
2026年10月28日(水)先行配信スタート ※ストリーミングのみ
配信URL https://taishita.lnk.to/twoofus
YouTubeオフィシャルオーディオ https://youtu.be/yG54vNuCqZE