androp バンドの歴史とこれからの姿に迫るロングインタビュ―・第3回

インタビュー
音楽
2016.2.12
androp  撮影=菊池貴裕

androp  撮影=菊池貴裕

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3回にわたってバンド・andropのこれまでの歩みとこの先を紐解くインタビュー企画、その最終回となる。ある意味で危機的な状況であったというアルバム『one and zero』を経てリリースされた『period』、その後に代々木第一体育館で行われた初のアリーナ公演、そして記憶に新しいセルフタイトル作『androp』……過去を振り返る中で浮き彫りになる彼らの想いと、ミュージシャンシップは自ずとこの先のandropの進む道を示しているかのようだ。内澤は言う。「6~7年かけて土台を作ってきた」と。悩み、喜び、4人とファンたちが築き上げた土台の上には、なにが建つのだろう。本項が5月からのツアー、さらにはその先のandropに期待し夢想する手助けとなれば幸いである。

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──バンドとして危機ともいえる時期を迎えていた『one and zero』を経て、その次にリリースされた『period』(2014年3月)では前作に漂っていた閉塞感もなくなり、風通しのよいものになりましたよね。シングルとしてリリースされた「Voice」(2013年8月)という名アンセムも収録されているわけですけど、バンドとしてはどういう時期でしたか?

内澤:『one and zero』を出した後に、また曲が作れなくなってしまった時期があったんですけど、そのままホールツアーが始まってしまったんですね。でも、そこでお客さんの声を聴いたときに「お客さんと一緒に歌える曲を作りたいな」ってステージ上で思ったんですよ。自分たちが今このステージに立てているのは、お客さんがいるからなんだなって改めて思えて。そのときに「Voice」のワンフレーズができたんです。そこからかな。また曲が作れるようになっていって。ホールツアーのあの瞬間は本当に大事だったと思います。「Voice」っていう曲も、今までにないところに連れて行ってくれたし。

佐藤:「Voice」の頃って、メディアに一番出始めた時期でもあったんですよ。ミュージックステーションに出演させてもらったり、ラジオにもめちゃくちゃ出たりとかしていて、こんなの経験したことない!っていうことがいろいろあって。

前田:あの頃は、負のオーラが無くなってきてバンド全体が良い流れになっていったし……今までいろんなデモを聴いて来たんですけど、「Voice」を初めて聴いた瞬間に、これはきたなって。自分たちの中でも代表曲になるようなものになるんじゃないかって思えて。これを早くみんなに聴かせたい、ライヴでやりたい、レコーディングしたいっていう気持ちが強かったですね。すごく楽しかったなぁ。

佐藤:でもその後に「Missing」で、またちょっと大変な時期になって……。

内澤:なんか、こうやって振り返って行くと、俺らって楽しい時期が少ないね(一同爆笑)。

前田:ライヴをやってて楽しいとかはあるけど(笑)。

内澤:その一瞬の楽しさのために頑張るっていうか。それだけで今までのつらさとかが全部吹っ飛ぶっていう。

伊藤:でも、すごい覚えてるんですけど、俺、「Voice」のレコーディングのときに、内澤君にすげえダメ出しをされてたんですよ。それでめっちゃヘコんで。しかも曲が明るいから、そのギャップもあって、自分がどんどんダークになっていくっていう(一同笑)。みんな“これで俺らいけるぞ!”ってなってる中、俺だけずっと暗いっていう(笑)。

内澤:自分としては、自分が思い描いている100%のものをメンバーに強要することは自分のエゴなんじゃないかと思っていたんですよ。だからメンバーがそこに対して80%以上のものを出してくれればいいと思ってたんですけど、それじゃダメだと思い始めて。80%を超えたらOKを出している自分にも納得がいかなくなっちゃったし、100%のものをちゃんとメンバーと一緒に目指さないと、それを聴いてくれたお客さんに対して失礼じゃないかって。でも、すべてを押し付けてしまったらそれこそエゴだし、でも、それが音になったときに聴いてくれた人が感じ取れるのか、そんな些細なことを気にすることないんじゃないか、でもやってもらわないと困る!っていう(笑)。

伊藤:要するに、テクニカルな部分というよりは、ものの考え方の話だったんですよね。バンドを続けていくと、自分たちのやり方がある程度固まっていくんだけど、なんとなくこれぐらいで大丈夫だろうとか、この感じでやればいいかっていう思考になりやすいと思うんです。でも、たまに今話したようなことがやってきてくれるし、そういう意識で常に楽曲に臨んでいられるバンドだなって思うので、今思い返すとすごくいいことだったなと思いますね。あれがあったからこそ気づけた部分もたくさんあったし、そういうやり取りがないと……というか、バンドじゃないとそういうやり取りも生まれないと思うんですよ。ひとりのアーティストとミュージシャンとして関わっているのだとしたら、多分そういうことはないだろうし。人間として気づく部分がすべて音に反映されていくっていう、バンドとしての楽しみ方が出来るようになっていったのかなって。そうやってちょっとずつバンドになっていった時期でしたね。

androp・内澤崇仁  撮影=菊池貴裕

androp・内澤崇仁  撮影=菊池貴裕

──そして、『period』の発売後には、初のアリーナ単独公演を代々木第一体育館で開催して。

佐藤:代々木でやることは1年前から決めていたので、みんな集中してそこに向かっていいものを持って行くぞって意識ではいたんですけど、その最中は……。

内澤:ピリピリしてたね。

佐藤:そうそう。リハーサルはあまり明るい感じではなく、内澤君もひとりで考え込んでいたりしていて。

前田:俺、ぶっちゃけ代々木のライヴで、内澤君がなんか言い出すんじゃないかと思ってた。

佐藤:リハのときにあんまり喋ってなかったもんね。だから、これから本当にどうなるんだろうと思ってて。

──内澤さんは、代々木第一体育館という大規模な会場に対してピリピリしていたんですか?

内澤:それもあったし、あとは『period』という作品を、自分たちにとって一番大きな作品にしたいという想いもあったんですよ。自分たちが今まで出してきたアルバムの頭文字を順に並べると「a-n-d-r-o-p」になるようにしていて、『period』がその最後の一文字だったんですよね。

──『anew』『note』『door』『relight』『one and zero』『period』っていう。

内澤:だから、このアルバムでひとつしっかりとしたものを提示しないといけない、そういうライヴにしないといけないっていう気負いもあったし、ここで一区切りだっていう想いもあって。だから、「p」まで来ちゃったから、これからどうなるんだろうって思ってたんでしょ?(笑)

佐藤:そう。でも、代々木のライヴが始まって、内澤君が最初にMCで一言喋った瞬間に、もう大丈夫だって思えたことはすごく覚えてますね。ライヴが終わってから4人だけで軽く打ち上げをしたんですけど、そのときにみんな、“いやぁ、一言目喋ったときにもう大丈夫だと思った!”って。

内澤:その話を聞きながら俺だけずーっと飯食ってて。

佐藤:“マジで!?”って言いながらね(笑)。

前田:マジでじゃねえよ、全然喋ってなかったじゃんって(笑)。

佐藤:でも、あのライヴでより4人が固まったし、よりバンドになれたと思いますね。

内澤:打ち上げのときめちゃくちゃ怒られたよね?(笑)  なんか、オーダーを紙にボールペンで書いて渡すお店だったんですけど、ペンが1本しかなかったから、みんなで“ボールペンくださーい!”って言ってたら、“ちょっと静かにしてもらえませんか!? 1本あれば書けますよね!?”って。すみませんでした……と(苦笑)。なんか、俺らがちゃんと出来るのってステージの上だけだな!って。

佐藤:ね?(笑) 音楽やっててよかったよ。人間としては完全にクズだから(一同爆笑)。

androp・佐藤拓也  撮影=菊池貴裕

androp・佐藤拓也  撮影=菊池貴裕

──グっとくるエピソードでした(笑)。そして、「androp」という文字を完成させた後、昨年セルフタイトルアルバム『androp』をリリースされました。作品全体の熱量がものすごく高くなったし、バンドになれたというお話もありましたけど、より4人の音が前に出たものになっていて。そういうサウンドになっていったのは、流れ的にはすごく自然なことだったんですか?

内澤:そうですね。今までで一番自然に作れたのが『androp』でした。今までは、自分たちはこんな方向性の曲も出来ますよ?とか、それ以外にもまだまだこんなことも出来ますよ?っていうものを含ませながら曲を作ったりしていたんですけど、『period』を出したことで、ひとつ肩の荷が下りたというか。それまでは、とにかく俺は「a」から「p」までのアルバムを完成させなきゃいけないんだと思って、変に気負っていた部分もあったんだけど、それが全部なくなって、自然と産まれてきた曲をそのままレコーディングしてたんですよ。

──曲を作るときのイメージみたいなものも変わりましたか? たとえば、より4人のことをイメージしながら作ったとか。

内澤:それもありますね。あとは、ライヴにきてくれた人たちをこういう顔にしたいと思って作った曲もあって。『anew』の頃から比べると、とにかくいろんなものがイメージしやすかったです。

前田:『androp』は、バンドとして作っているのを感じたアルバムでしたね。たとえば、今まではアルバムタイトルを完成してから教えてもらってたんですよ。だから、(制作中は)辞書を見ながら“「o」から始まる単語ってなんだろうね?”って3人で予想してたりとかしていて。

内澤:辞書見てたの?(笑)

前田:見てた(笑)。

佐藤:「open」じゃない?とかね(笑)。

前田:そしたら「one and zero」……文章!?(一同笑)

伊藤:それもありなんだ!って(笑)。

前田:そうそうそう。でも、『androp』に関しては、『period』ツアーの名古屋のときに、“まだ誰にも言ってないんだけど、次のアルバムタイトルを先にみんなにだけ伝えておこうと思っている”って、制作に入る前に教えてくれて。そこで自分たちでこのアルバムを作っていく決意や覚悟を決めてから作り始めたんですよね。今の自分たちがかっこいいと思う音、最高の音を鳴らすアルバムを作ろうって。

androp・前田恭介  撮影=菊池貴裕

androp・前田恭介  撮影=菊池貴裕

──最高の音というと?

前田:音にも熱量をしっかり込めたかったんですよ。たとえば、ライヴでは熱量を感じるんだけど、音源では熱を感じないって言われるのが癪だったんで(笑)、それを覆すものにしたくて。

佐藤:代々木第一体育館のライヴの一番最後に「Image word」をやったんですね。元々セットリストに入ってなくて、誰にも何も言わずにやったから、ステージをバラす準備が始まってたくらいで、まったく予定してなかったからリハもしていないし、音も何も作っていなかったんですけど。それがなんか、一番最初に4人であわせた曲だったのもあって、あの頃と同じような感覚で1万人以上の人たちの前で鳴らすことができて。自分的には大丈夫だったかな?とも思ってたんですけど、いろんな人達が「あれがすごく良かったよ」って言ってくれたんです。それってなぜだろうって考えると、きっとそこに想いだったり、熱が入っていれば人に届くんだなって。それをあのステージで、みんなで感じることが出来たんですよね。その熱量をアルバムに入れたいんだって話し合ってから本格的に制作に入ったので、ジャッジもすごく明確だったし、よりバンドらしくなれたなと思えたアルバムでしたね。

伊藤:それこそ「Voice」のときに内澤くんに言われたことでもあるんですけど、この4人でバンドをやっている以上、それぞれが自分の100%を持ち寄らなければ意味がないわけであって。そこでどう自分がバンドにコミットしていくのか?っていうのをちゃんと考えるようになったというか。自分がしたいプレイと、内澤君が考えていることを戦わせる作業も発生してきたし、曲順も今まで任せっきりなところもあったけど、4人でこういう風にしようってじっくり話し合えたし。そういうところでもバンドとして作ったアルバムだったんじゃないかなって思います。

androp・伊藤彬彦  撮影=菊池貴裕

androp・伊藤彬彦  撮影=菊池貴裕

──「a」から「p」までのアルバムを経て、バンドとして作り上げたセルフタイトル作をリリースしたと。そうなると、ここからandropはどうなっていくのか?というのが気になるところなんですが。

内澤:僕はここまではandropっていう土台というか、家を建てるときの基礎をずっと作っているような感覚でやってきたんです。そもそもandropっていうバンド名が造語であって、頭文字から始めるアルバムを作ろうと思ったのも、その造語であり、まだ何の意味を持っていないものに、自分たちの音楽で意味をつけていきたいなと思ったからで、だからこそそういう活動をしてきていて。そうやって1枚1枚作ってきてセルフタイトルまで出したときに、やっとバンドの土台に意味をつけられた感覚が、今はあるんです。だから、ここからはその礎となっているものの上に、家を建てるというか。その土台の上に立派なものを作りたいなと思って、今まさにそれを作ってる最中ですね。

──ものすごく頑丈な土台が出来ましたね。

内澤:頑丈ですよね。6~7年かけて土台だけ作ってきましたから(笑)。

──でもすごい土台ですよ。バンドとしての結束も強くなっているし、音楽性もかなり広くなっているわけですから。そして『Image World』と題したワンマンツアーが決定しています。先ほどお話にも出てきた「Image word」という曲に「L」が入っているものになってますけど。

内澤:今までの僕らのツアータイトルって『angstrom』だったり、アルバムのタイトル名だったりしたんですけど、今回初めて今までの法則とは違ったものにしてるんです。勘の鋭い人だったら、なんでなんだろうって思うかもしれないんですけど、言っていただいた通り「Image word」が元になっていて。さっき話にも出ましたけど、「Image word」は、4人で初めてあわせた曲なんですね。下北沢のスタジオから始まった自分たちの音が、長い期間をかけて土台を築き上げてきて、自分たちがイメージしていた言葉や世界観をやっと作ることが出来た。そうやって作り上げた自分たちの世界から、より良い音楽を発信して行きたいなと思っていて。

佐藤:5月のツアーはその決意表明というか。もっともっと良いものを届けていきますっていう気持ちを、直接伝えに行くツアーにしようと思っています。

内澤:自分たちの考えていることや自分たちの想いを、よりしっかりと、今まで以上に大切に伝えていきたいですね。


撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=山口哲生 

ツアー情報

one-man live tour 2016 ”Image World”

2016.05.08(日) 愛知・Zepp Nagoya
2016.05.11(水) 福岡・DRUM LOGOS
2016.05.13(金) 大阪・なんばHatch
2016.05.15(日) 東京・Zepp Tokyo
2016.05.22(日) 宮城・仙台PIT
 
 

 

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