柳下大、平埜生成、高橋和也が熱演、舞台『オーファンズ』
舞台『オーファンズ』ゲネプロより
東京芸術劇場シアターウエストにて上演中の舞台「オーファンズ」が、口コミで大変話題となっている。
思いもよらないラストシーンと役者たちの演技の評判が高い作品とあって、客席は男女問わず幅広い年齢層の観客が見受けられる。
1983年にロスアンゼルスで初演後、映画化もされるほどの人気作となったこの作品。日本でも市村正親、椎名桔平、根津甚八などの名だたる俳優たちによって演じられ、いまだに色あせることなく世界中で上演され続けている名作戯曲である。
アメリカ・フィラデルフィアにある古びれた長屋に住む、孤児の兄弟・トリートとフィリップ。ふとしたことから同居することになった中年男性・ハロルドの3人による再生と絆の物語。
主演を務めるのは近年「真田十勇士」(宮田慶子演出)、「いつも心に太陽を」(岡村俊一演出)などに出演し、舞台俳優としての評価を高めている俳優集団D-BOYSの柳下大。自ら宮田慶子に演出を依頼し、「この作品のラストを観たいと思った」という理由で作品を選んだという。
舞台『オーファンズ』ゲネプロより
柳下演じるトリートの弟・フィリップ役には、劇団プレステージの平埜生成。若手ながら蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」の演技で頭角を現し、9月には「DISGRACED」(栗山民也演出)に出演が決定している、今後が期待される存在だ。
ハロルド役には映画「そこのみにて光輝く」他、様々な舞台での好演が印象深い高橋和也。次回舞台出演作に「御宿かわせみ」(G2演出)、「紙屋町さくらホテル」(鵜山仁演出)が控える。
薄暗く散らかった部屋、TV番組をじっと見入るフィリップ(平埜)。
そこへ盗品を手に慌てた様子のトリート(柳下)が帰宅する。
兄弟は、いつもの変わらぬ日常を過ごしていた。
ある日、トリートはバーで出会ったハロルド(高橋和也)を家へと招き入れる。
ハロルドは孤児院で過ごした思い出を語りながら、眠りこけてしまう。
彼の手荷物から実業家と思いこんだトリートは誘拐を企て拘束すると、フィリップに見張りを命じ、また一人出掛けて行く。
しかしトリートの思惑は外れ苛立ちながら帰宅すると、そこには声高らかに歌い我が家のようにふるまうハロルドの姿が。
激昂するトリートをハロルドは意に介さず、問いかける。
「私のところで働かないか?私たちはきっとうまくいく」
ハロルドとの暮らしは、ふたりに変化をもたらしていく。
教養とお金を与えられ、トリートは人とのつながりを学び、フィリップは外の世界を知るようになる。
いつしか3人は互いに寄り添い、温もりを分かち合う存在になっていくが……。
柳下は暴力的な愛情でしか弟を守ることができないトリートをデリケートに表現。不器用なまでに弟を想う温かさを時折垣間見せつつ、ハロルドによって自身も気づかぬまま変わっていく微妙な心の機微を丁寧に演じている。
舞台『オーファンズ』ゲネプロより
平埜は、フィリップを繊細に体現。粗暴な兄と二人きり、幼き時の母の記憶を胸に生きるひたむきで純真な少年を好演している。抑圧されてきた彼が幸せをつかんでいく様をのびのびと演じ、観る者の心を心打つ。
舞台『オーファンズ』ゲネプロより
そんな兄弟を包み込むハロルドを演じる高橋は、まさにはまり役。豪放で愛きょうあるキャラクターとともに、父性をもって二人と向き合う姿は高橋自身にも通じるものがあり、どこか優しさを身にまとっている。
舞台『オーファンズ』ゲネプロより
3人のやり取りに笑っていたはずが、その心情の変化に共感し、強く惹きつけられていく。“奇跡の出会い”が織りなす濃密な会話劇。
ラストシーンは心を揺さぶられ、重く静かに響いてくる。幕が閉じてからも彼らの未来を想ってしまう、そんな余韻を残す作品だ。
“人はふとしたきっかけでこんなにも変わることが出来る”。
翻訳劇に定評がある作・演出家の谷賢一が翻訳を手掛けたことで現代風な新しい作品に生まれ変わっており、宮田の細やかな演出も随所で生きている。何より翻訳の谷、演出の宮田と3人の役者が、この作品を心から大切にしているのが伝わってくる。
覚悟を持って演じる役者たちの渾身の演技を存分に味わえる良作だ。