おっちゃん&ミンジュの怪しいK-Pop喫茶[第11話] 女の子打ち壊し!
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Kisum『尋常じゃない(You & Me)』より
ミンジュ「なぁなぁ、おっちゃん、ガールクラッシュて知ってるか?」
 おっちゃん「勿論やがな。江戸時代の民衆暴動の一種で、主に都市部で悪商人の家や店を襲って破壊して回ることを指し…」
 ミンジュ「はぁ?」
 おっちゃん「中でも若い娘が中心となって行われた打ち壊し…“女の子打ち壊し”を英語圏ではガールクラッシュと呼んでおる」
 ミンジュ「それ、ホンマやの?」
 おっちゃん「はっはっは、嘘に決まっとるがな」
 ミンジュ「(ぶー)人が真面目に訊いてるのに」
 おっちゃん「わはは。怒ると整形した鼻が崩れるぞ」
 ミンジュ「えっ、ヤバ…(あたふた)」
 おっちゃん「…(やっぱりイジってたんかい)
 あー、ガールクラッシュってあれやろ、女の子が同性のアイドルに憧れるとかゆう現象で、今流行ってるんやってな」
 ミンジュ「なんや、ちゃんと知っとるやないの」
 おっちゃん「そんで、ガールズクラッシュがどないしたんや?」
 ミンジュ「いやな、さっき事務所で歌手仲間の娘らと話しててんけど、女の子アイドルは男の子アイドルに稼ぎの点で全然及ばないのは何故かって話になって」
 おっちゃん「そら、男の子アイドルのファンは女の子で、女の子アイドルのファンは男の子やからや。
 一般にアイドルに金を使う額は女の子の方が断然多く、その差は3倍に及ぶゆう説もあるな」
 ミンジュ「そやねん。あの少女時代でさえ、売り上げではBIGBANGやEXOの後塵を拝してるんやから、他の女の子アイドルではまるで勝負にならん訳よ」
 おっちゃん「ま、そやろな」
 ミンジュ「てことは、女の子アイドルとゆえども、女の子ファンに支持されれば売り上げが伸びるんやないやろか?」
 おっちゃん「ははぁ、それでガールクラッシュの話になったと?」
 ミンジュ「ピンポーン! なぁなぁ、どおすれば女の子ファンが群がって、CDや音源やグッズを買うてくれるよおになるやろか?」
 おっちゃん「そらぁ、まず男役のトップスターになることやろな」
 ミンジュ「“愛を裏切ることよりも、愛に気付かぬほうが、もっと罪深い…アンドレ!” って、誰が宝塚の話をしとるか! K-Popアイドルの話やろーが!(がうー)」
 おっちゃん「(ふん)どおすりゃファンがつくかなんて判ってりゃ、誰かてスターになれるわ」
 ミンジュ「そ、それはそうやけど…」
 おっちゃん「そやけど、大まかな傾向としては、女の子が憧れる訳やから“かっこいい”方がええ。宝塚の話もあながち冗談やないんやで」
 ミンジュ「はぁ」
 おっちゃん「ワシの浅いK-Pop歴からすると、最初にガールクラッシュ現象を意識したのは2NE1やったな」
 ミンジュ「あー、2NE1ね。確かに女性の支持者が多いグループやな」
 おっちゃん「あれは2009年の夏やった…(ヴゥーン)」
 ミンジュ「お、回想モードに入った」
 おっちゃん「この年の正月に少女時代が『Gee』で歴史的なヒットを飛ばし、その勢いのまま6月には『願いを言ってみて(Genie)』でカムバックした。
 『願いを言ってみて』はたちまち音源チャートを席巻し、『Gee』の再演かと思われたんやが、これに待ったをかけたのが2NE1やった」
 ミンジュ「BIGBANGの妹って触れ込みで、鳴り物入りのデビューを果たしたばっかりやったね」
 おっちゃん「うむ。デビューシングルの『Fire』も流行ったけど、2曲目の『I Don't Care』はもっと売れた。
 当時のミュージックバンクの記録を見ると、7月第2週に少女時代の『願いを言ってみて』が1位になったものの、たちまち2NE1に引きずり下ろされてこの週限り。翌週からは2NE1の『I Don't Care』が5週連続1位ちゅう新人離れした快挙を成し遂げた」
 ミンジュ「ひゃー」
 おっちゃん「この年、その後に複数週1位になったにはG-DRAGONやSHINee、SS501、2PMなどどれも男子やから、2NE1の活躍が女子としてはどれほど並外れていたかがわかるっちゅうもんや(註)」
 ミンジュ「確かになぁ。で、その活躍を支えていたのが女の子ファンやったと」
 おっちゃん「そうや。当時の2NE1なんかにこんな顔してたんやで。男の子ファンがつく訳ないがな」
2NE1『I Don't Care』
ミンジュ「ま、まぁいわゆるアイドルのルックスとは違うね(汗)」
 おっちゃん「そやろ? 男は逆に引いちゃうっちゅうの(笑)。
 2NE1は、男の子に媚を売るような衣装や歌やなく、ちょっと突っ張った今どきの女子の姿をそのまま見せたのが斬新やった。
 つまり、従来の“妹にしたい”とか“守ってあげたい”みたいなアイドルとは違う、女の子から見て“カッコええ!”、“こんな風になりたい!”ちゅう存在で、狙い通り女子に大受けした」
 ミンジュ「なるほど」
 おっちゃん「2NE1を崇拝する女子の勢いはすさまじく、『願いを言ってみて』が1位やった週にも少女時代ファンはまったく安心出来なかった。
 少女時代の代表的なファンサイトSosiz.netでも“もっとミュージックバンクに投票してください。このままでは2NE1に抜かれます”と焦りまくった様子で掲示されていた程や」
 ミンジュ「へー」
 おっちゃん「てな訳で、今チマタでゆわれとる“格好良く強い女子像”に憧れるガールクラッシュとして、2NE1は最初の例とゆうてええやろ。
 この路線を拡張し、男にも支持される要素を加えたのが4Minuteや」
 ミンジュ「4Minuteが?」
 おっちゃん「例えば2NE1は女子にとって“強く格好良く”であって、男が好むようなセクシーな要素は少なかった。
 じゃあ女子は色っぽい女が嫌いなのかとゆうたらそんなことはない。女子が好むセクシーはちゃんとあって、それは“強さ”や“格好良さ”と共存出来る種類のものでもある」
 ミンジュ「はぁ。それを4Minuteが体現したと」
 おっちゃん「その通りや」
4Minute『嫌い(Hate)』
ミンジュ「こりゃまた不思議なMVやな」
 おっちゃん「去年流行った『狂って(Crazy)』はもっとストレートに強さや格好良さをアピールした作りやったけど、この作品では女性らしさも充分に盛り込んである。
 もともとメンバーのひとり、キム・ヒョナはK-Pop界を代表するセクシーアイコンやから、色気の点で不足はない」
 ミンジュ「ヒョナの色気に食いつくのは男だけやと思うとった」
 おっちゃん「ソロやトラブルメイカーやったらそうかも知れんけど、4Minuteのグループ活動では過剰な露出を抑えて、女子が受け入れやすいセクシーを追求しておるようや。
 色っぽくて格好いい、それが4minuteで、今ではガールクラッシュの代表格みたいにゆわれとる」
 ミンジュ「そおかー」
 おっちゃん「そやけど、ワシはここで“待てよ”と思うた。女子に支持されるアイドルやったらもっと以前からおった。ただガールクラッシュゆう言葉がなかっただけや」
 ミンジュ「そのグループって?」
 おっちゃん「2007年のWonder Girlsや」
 ミンジュ「あー(ぽん)」
 おっちゃん「あの年、Wonder Girlsが歌うた『Tell Me』はまさに社会現象と言うべき大ヒットとなった。その人気を支えていたのが女子中高生やったんや」
 ミンジュ「そおやったなぁ」
Wonder Girls『Tell Me』
ミンジュ「あら、懐かしぃ」
 おっちゃん「当時はJYPが作ったこの曲がレトロブームを呼んで、それでヒットしたとゆわれとった。それも間違いやないやろうけど、現在の目で見るなら、やはりメンバーの等身大な魅力も大きかった。
 特に可愛くもなく、上手くもない女子中高生グループが、テレビに出て活躍するその身近さに、少女たちは自分を重ね応援しておったんやろう」
 ミンジュ「当時は可愛いってゆわれてたんやって」
 おっちゃん「いやー、同期の少女時代やKARAに比べてもだいぶ落ちるやろう。大体JYPのアイドルなんて、2015年のTwiceまで美形はひとりもおらんかったで」
 ミンジュ「失礼やな(ぷんすか)」 ←JYPエンタ出身
 おっちゃん「その反証に美形揃いで歌もダンスも上手かった少女時代には女子のアンチファンが多かった」
 ミンジュ「それは東方神起やSuper Juniorの同僚やから、彼らのファンから妬まれてたせいや」
 おっちゃん「その通り。そやけど『Gee』の大ヒットやユナのドラマ出演をきっかけに、少女時代も徐々に女の子ファンを増やして行った。
 今じゃ老若男女あらゆる世代から愛される国民的アイドルグループに成長したんやから大したもんや」
 ミンジュ「それは、まぁ、そやね」
 おっちゃん「それが韓国内の認識やったと思うけど、実は日本では状況が違って、少女時代こそガールクラッシュの代表と言うべき存在となっておった」
 ミンジュ「そ、そおなの?」
 おっちゃん「忘れもしない2010年8月25日、有明コロシアムで行われた少女時代のShow Caseに行った時、ホンマにビックリしたんやけど、詰めかけたファンの9割以上が若い女の子やった。
 日本では最大のヒット曲『Gee』やなく『Genie』をデビュー曲にし、制服ルックや長い脚で、女の子が憧れる美形グループという売り方をした。それが当たったんやな。
 ガールクラッシュ現象を利用した上手い戦略とゆえる」
 ミンジュ「ぴゃー」
 おっちゃん「そこで韓国はどうかとあらためて見てみると、韓国でもやはり少女時代の女子ファンは非常に多い。相当額の売り上げに貢献しとることは間違いない」
 ミンジュ「そおなの?」
 おっちゃん「いくら国民的アイドルゆうたかて、おじんやおばぁが音源やグッズ買うてくれる訳あらへんからな」
 ミンジュ「あー、そおかぁ」
 おっちゃん「どんなアイドルにも女子ファンはついとるし、それを持ってすべてガールクラッシュとゆう訳にはいかんけど、少女時代規模になると立派にガールクラッシュの一形態とゆうてもええやろ。
 実際リーダーのテヨンは、ガールクラッシュを語る時よく引き合いに出されるようになった。
 端正な美しさと白い肌、小柄ゆえの愛らしさ、抜群の歌唱力、機転の利いたトーク力…、強くも格好良くも身近でもないけど、女子が憧れる理想像のひとつではあるな」
 ミンジュ「性別を超えて崇拝される存在か、こわーい」
 おっちゃん「最近破竹の勢いで音楽番組の1位を総ナメにしとる女友達(GFriend)の連勝を阻んだのもテヨンのソロ曲やった」
テヨン『Rain』
おっちゃん「テヨンの場合、ソロ曲の売り上げが少女時代のそれを上回るくらい人気があるし、その気になったら立派に新興宗教の教祖になれるで」
 ミンジュ「かつて同じステージに立って互いの歌を歌い合った仲やのに、いつのまにかえらい差ぁつけられてしもうたなぁ(とほほ)」
 おっちゃん「女性美を極めて、同性の魅力で女子を引きつける…強く格好良くとは対極にある存在やが、これも立派にガールクラッシュのひとつとゆえるやろう」
 ミンジュ「そやねぇ。少女時代、少女時代-テティソ、テヨンねえさん、みんなその路線やね」
 おっちゃん「ところが、最近ではまたそれとは別の、新しいガールクラッシュ現象が起きて来ておるのじゃ」
 ミンジュ「えー? 男らしくでも、女らしくでもなく?」
 おっちゃん「そうや。ま、新しいゆうよりWonder Girlsが受けてた現象の現代版みたいなものやねんけど、雲上の存在やなくて、いつも隣にいるお友達のような歌手が今スゲー受けてるの。その代表がKisum(キソム)や」
 ミンジュ「Kisum?」
 おっちゃん「2013年デビューのラッパーやけど、去年Mnetの『Show me the money3』や『Unpretty Rapstar』などのヒップホップ番組を通じて大人気となった。
 普通ラッパーゆうとアクの強い外見に、身の回りのモノをやたらとディスりまくる攻撃的なイメージがあるやろ?」
 ミンジュ「あるなぁ」
 おっちゃん「それはそれでガールクラッシュの対象になりそうなわかり易さがあるけど、Kisumの場合、ふんわり柔らかな印象で、ずっと少女っぽいんや」
Kisum『尋常じゃない(You & Me)』
ミンジュ「この娘がKisum本人なん?」
 おっちゃん「左様。1994年生まれちゅうからまだ20歳をちょっと超えたくらいで、見た目はいたって普通。クラスで6~7番目くらいの、中の上的な可愛さがリアルやろ?」
 ミンジュ「確かに何処にでもいそうな感じはするね」
 おっちゃん「これまでのラッパーに共通する攻撃的なスタイルやなくて、メイクは童顔を強調した可愛らしい路線で、ファッションもそこら辺の少女が好みそうなもの。キャップやアクセでヒップホップなイメージを演出してるけどな」
 ミンジュ「歌詞も何かをディスった内容やないようね」
 おっちゃん「(かくん)無理にボケんでもええ、ヘタクソか。
 そお、歌詞も年頃の少女の恋心を素直に綴ったモノで、これまでのラッパーの方向性とはだいぶ違う。
 プリティラップちゅうか、癒し系ラップちゅうか、日本で言えばハルカリみたいな存在とゆえるかも」
 ミンジュ「ふーん。で、その普通さが今女の子に支持されとるっちゅうことなんやね?」
 おっちゃん「そおそお。Youtubeでライブ映像観たけど、観客は若い女の子ばっかりやった。Kisumもピンクの服着て、ピンクのフワフワがついたサンダル履いとった。とてもラッパーのライブとは思えん光景やったで」
 ミンジュ「なにがそんなにウケるんやろね?」
 おっちゃん「やっぱ身近にいそうな普通な感じ。メイクもファッションも特別なモノはないけど、Kisumのセンスがええんやね。そやから、そのセンスを真似れば自分もああなれるんやないかと、みんな思うとるんやろ」
 ミンジュ「そおかー、強力なリーダーシップやカリスマがなくても、庶民的な魅力で票を稼ぐ政治家のようなもんやね」
 おっちゃん「なんでわざわざそんなもんに例える?」
 ミンジュ「お年寄り読者のために、念のため」
 おっちゃん「いらんお世話や」
 ミンジュ「とにかく、ひと口でガールクラッシュゆうても、いろんなパターンがあることは判ったわ。
 そんで、ウチの曲が売れるとしたら、どれで行けばええと思う?
 “男顔負けに強く格好良く”か、“女性美を極めた崇拝の対象”か、“身近でセンスのええお友達”か?」
 おっちゃん「(どれも無理やって)そーねー、どおせなら新しいガールクラッシュのパターンを作り出してみたらどやねん」
 ミンジュ「新しいパターンやて?」
 おっちゃん「そおや。デビューして8年もたつのに出したCDはたったの2枚。5年ぶりにカムバックしてもなんの話題にもならへんバラード歌手。そんな存在は女の子たちの同情を引くやろ。
 “なんか見てるだけで可哀想になっちゃうんですけどー”、“ウチが音源買ってあげないと廃業するかもー”、“あのダメっぷりが愛おしいのー”ゆうて、アホな少女ファンが応援してくれるかも」
 ミンジュ「それが新しいパターンゆうんかい?」
 おっちゃん「うむ。憧れやなく同情によるガールクラッシュやな。これは新しいど!」
 ミンジュ「よーし、ほんじゃウチは今日からどんどんネガティブなことゆうて、世間の同情を煽っていくで~って、それで売れる訳ないやろ、ボケ」
 おっちゃん「やっぱあかんか?」
 ミンジュ「売れる前に自分が可哀想すぎてクビ吊るわ。ええ加減にしなさい!」
註:とは言え、この年の前半に少女時代の『Gee』が9週連続1位を記録しており、2009年の年間1位も獲得している。
 これは2013年にPSY『江南スタイル』に抜かれるまで、ミュージックバンクの最長1位記録であった。
 ここでは、あくまで2009年後半の話に限定して書いている。