舞台『オーファンズ』大千秋楽レポート

2016.2.29
レポート
舞台

新神戸オリエンタル劇場『オーファンズ』


新神戸オリエンタル劇場にて上演していた舞台『オーファンズ』が2月28日に大千秋楽を迎えた。

先に行われた東京芸術劇場 シアターウエストでの公演は口コミで話題となり、日ごと動員を伸ばし続けると立ち見客も出るほど人気に。その評判を聞いてきたという、男女問わず幅広い年齢層の観客が数多く見受けられた。カーテンコールは5回にもおよび、鳴りやまない拍手と称賛の中、スタンディングオベーションでその幕を閉じた。

今作は1983年に初演後、映画化されるほどの人気を誇った。日本でも劇団四季時代の市村正親、椎名平や根津甚八などの名なだたる役者たちによって演じられ、いまなお世界中で愛され続ける、孤児の兄弟・トリートとフィリップ、ハロルドの奇跡の出会いと絆の物語である。

主演は俳優集団D-BOYSの柳下大。近年「真田十勇士」(宮田慶子演出)、「いつも心に太陽を」(岡村俊一演出)などに出演、舞台俳優としての評価を着実に高めている。この作品は宮田慶子の演出を熱望し、柳下自ら働きかけた意欲作。昨年は怪我に見舞われたが、役者デビュー10年目を迎え、自身が企画した作品で本格復帰を果たした。

柳下演じるトリートの弟・フィリップには、劇団プレステージの平埜生成。蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」のティボルト役で頭角を現し、9月には「DISGRACED」(栗山民也演出)に出演と、今後がますます期待される逸材だ。

ハロルドは映画「そこのみにて光輝く」他、様々な舞台での好演が印象深い高橋和也が演じる。次回作には「御宿かわせみ」(G2演出)、「紙屋町さくらホテル」(鵜山仁演出)と続々控えている。

アメリカ・フィラデルフィアの古びたアパートメント。
薄暗く雑然とした部屋で一人、TV番組をじっと見入るフィリップ(平埜)。
そこへ盗品を手に、慌てた様子のトリート(柳下)が帰宅する。
兄弟ふたりきりのいつもと同じ変わらない毎日。
ある日、トリートはバーで出会ったハロルド(高橋)とともに帰宅する。
ハロルドは孤児院での思い出を語りながら眠りこけてしまう。
トリートはハロルドを実業家と思いこみ誘拐を計画、フィリップに見張りをさせ出掛けて行く。
目論みが外れたトリートが帰ると、我がもの顔でふるまうハロルドの姿が。
激昂するトリートに、ハロルドは穏やかに問いかける。
「私のところで働かないか?私たちはきっとうまくいく」
ハロルドによってトリートは人とのつながりを学び、フィリップは外の世界を知る。
いつしか互いに温もりを感じる存在として、絆が芽生え始めるが……。


柳下は凶暴性をもって、自分の弱さを必死に守ろうとするトリートをデリケートに表現。暴力的な振る舞いの陰で弟への深すぎる愛情を垣間見せるが、その表情があまりに切ない。変化を受けとめきれない、複雑な心の機微を実に繊細に演じきっている。

平埜はトリートにおびえながらも、ひたむきに生きるピュアなフィリップを体現。兄が家に閉じ込めてでも守りたかった、無垢な少年をのびのびと演じ等身大でみせる。抑圧から解放されていく様は観る者の心を惹きつけ、物語に安らぎと希望をもたらしている。

ハロルドは高橋が演じることによって、謎の人物でありながら人情味あふれるキャラクターとなった。厳しさの中に優しさをもって父親さながらに兄弟と向き合う姿は、役に深みを与え、高橋自身にも重なって見える。

翻訳劇に定評がある作・演出家の谷賢一により会話が自然なものとなり、宮田の細部にわたる演出が随所に生きている。何より柳下、平埜、高橋が満身創痍になりながら見せる真に迫った演技が、心の奥底に突き刺さる。演劇作品として、またひとつ深く心に刻まれる舞台となった。

公演データ
『オーファンズ』
■翻訳:谷賢一
演出:宮田慶子
出演:柳下大 平埜生成 高橋和也 
東京公演:2016年2月10日(水)~2月21日(日)東京芸術劇場 シアターウエスト 
兵庫公演:2016年2月27日(土)〜2月28日(日) 新神戸オリエンタル劇場  
オフィシャルHP:  http://orphans.westage.jp/