森田剛「人間に生まれたら、愛したいし、愛されたい」~パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』ゲネプロ&開幕前会見レポート
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パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』が2025年9月23日(火・祝)から東京芸術劇場プレイハウスほかで開幕する。
ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナー(1813-1837)が遺した未完の戯曲『Woyzeck(ヴォイツェック)』は、今日まで時代を超えて様々な形で解釈され、観客に新たな驚きと感動を与えてきた。今回の脚本は、2017年にロンドンのオールド・ヴィック劇場で上演され、高い評価を集めた、ジャック・ソーンが翻案を手掛けたバージョン。ビューヒナーの原作を現代的に解釈し、冷戦下の1981年ベルリンを舞台に、政治的緊張と心理的・感情的な深みを強調したドラマでロンドンの観客を圧倒した新バージョンを、小川絵梨子演出、森田剛主演のもと、日本で初めて上演する。
開幕を前にした9月21日(日)、出演者による会見とゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。その様子をレポートする。
(左から)栗原英雄、冨家ノリマサ、伊原六花、森田剛、伊勢佳世、浜田信也
ーー初日を迎えるにあたっての意気込みをお願いします。
森田剛(以下、森田):ついに初日が来たなという感じです。あっという間に約1カ月の稽古を終えてワクワクしています。
伊原六花(以下、伊原):本当に幕が開いてみないと分からないなと思うことがたくさんありますが、演出の小川絵梨子さんはじめ、素敵なキャストとスタッフの皆さんと作り上げてきたので、まずは必死に生きようと思います。
伊勢佳世(以下、伊勢):本当にモンスターみたいな難しい作品に、ここまでみんなで一緒に来られたことが嬉しいですし、これから本番が始まるのが楽しみでもあります。
浜田信也(以下、浜田):今回一緒に作っている仲間は本当に素晴らしい方たちばかりで、毎日の稽古をとても楽しく朗らかに過ごすことができました。あとは本番をみんなで一緒に楽しく乗り切っていけたらいいなと思っています。楽しみにしています。
冨家ノリマサ(以下、冨家):稽古中から主演の剛さんが背中でみんなを引っ張っていて、とても素晴らしい稽古ができたと思います。僕は今ちょっと震えているんですけど、作品自体が震えるほどの作品なので、その震えが自分にも伝わって……震えながら初日を迎えたいと思います。
栗原英雄(以下、栗原):ついにここまで来たなという感じです。怒涛の舞台稽古をみんなでやって今日を迎えました。初日に向けてもっといいものになると思います。まずはゲネプロを頑張ります。
森田剛
伊原六花
ーー稽古場でのエピソードを教えてください。特に演出の小川さんからはどんな言葉をかけられましたか?
森田:たくさんの言葉をいただきました。その中でも素敵だなと思ったのは、「一緒にやっている仲間を信じる。自分では何もしない。相手に委ねる」。そんなことを言われました。だから100%信じて、自分も信じてもらって、そこで役として生きられたらいいなと思います。
伊原:(森田さんと)全く同じなんですが、それ以外に本当に宝物みたいな言葉をたくさんいただいて……。私が印象的だったのは、いただいた言葉をずっとぐるぐる考えていたときに「(舞台に)出てしまえば、私が言っていたことなんて、『うるさい、バーカ!』でいいから」と仰っていて、それで一気に力が抜けたというか、舞台上で起こることをビビットに感じたら楽しいなとさらに思えました。
伊勢:お二人と同じで、いつも目から鱗のことばかりで。相手を信じて、本当に今思っていることにとにかく反応して、それだけでいいと言ってくれるので、それだけで舞台に挑もうと思っています。そうなったことでいろいろなことが起こると楽しいなと思っています。
浜田:だいたいみなさんと同じなんですけど、前に前に進んで相手に委ねて、一人でやらずに、いつも舞台上にいる人と一緒に時間を過ごしてその場で生きていくということを大切にしたい——ということを、いろんな言葉で伝えてくださいました。いろんな言葉が印象に残っています。
冨家:皆さんが言われた通り、僕も相手を感じること、とにかく相手を感じること。これを一番にやっています。稽古場のエピソードとしては、稽古の終わった後の休憩時間がみなさんすごく仲良くて、これが癒しの時間でした。
栗原:ほぼほぼみんなが言った通りですね。忍耐強く、それを毎日アドバイスをいただきました。ハードルが高い、アドバイスやノートをいただいた日々でしたね。印象に残っていることは内緒です。
伊勢佳世
浜田信也
ーー最初に台本を読んだときと、稽古を重ねて、本番間近になった今で、演じる役の印象は変わりましたか?
森田:変わっていますね。ものすごく変わっていますね。ものすごいスピードで、生きている感じがしますね、今。それはやっぱり日々の稽古の中で毎日発見があって、発見は今もずっと続いていて、日々進化していくのかなと思います。
伊原:パッと受ける印象はあまり変わっていないんですけど、稽古していく度に言ってもらえる言葉とかで、マリーという役だったり、生きている場所がすごく鮮やかになっていったので、解像度が高くなったという感じはします。
伊勢:特に私は母親の役があまりセリフが書かれていないので、森田さんが演じるヴォイツェックを見ながら、いろいろ母親はああなんじゃないか、こうなんじゃないかと想像させてもらったので、稽古中も、森田さんが変わるごとに自分もすごく影響を受けて膨らませていったので、本当にどんどん違う感じになっていった気がします。
浜田:僕はガラッと変わりました。180度変わったと言ってもいいかなというぐらい変わりました。それは、森田さんと一緒のシーンが僕は多いんですが、だんだん仲良くなっていく過程、描く人物としてもそうなんですが、普段、稽古のコミュニケーションを通して、お互いのことを少しずつ知っていく過程、役としてのつながりが深くなっていくことがリンクしていて、結果的に、こんなに最初の印象と今とで役の印象が自分の中ではかなり変わりました。
冨家:自分の役もそうなんですけど、最初に台本をいただいて読んだときに、なかなか理解できなくて。この物語の中で、自分という歯車がどう作用していけばいいのかなと。でも稽古が始まってみると、どんどんみなさんがいろいろなものを立ち上げて、そこに小川さんの演出が加わって、最初の印象とは随分変わって、自分のポジションというか、歯車がどう動けばいいのかというのがだいぶ見えてきた。1ヶ月かかって見えてきたものがあります。
栗原:最初は脳で考えるというか、どうなんだろう、ああなんだろうと悩んでいたものが、日々時間が経って、感覚的なことが分かってきて、自分も含めて人物が立ち上がってきて、交わって、こういう物語が、感覚的に分かってきました。あとはこれがどうなるのかなと思っているところです。
冨家ノリマサ
栗原英雄
ーー役を演じるにあたって、共感できた点、苦労した点はありますか。
森田:みんなあると思いますし、やっぱり人間に生まれたら、愛したいし、愛されたいし、認められたい。自分の居場所を探し、諦めない。そういう強い気持ちは共感と言いますか、憧れと言いますか、あると思います。
伊原:とにかく必死に生きているところは共感できるところだと思います。また、環境や時代は全然違うんですけど、とにかく楽しいことは楽しい、喧嘩するときは喧嘩する、泣くときは泣くみたいな、ちゃんと生きているみたいなのは、すごく私もそう生きていきたいと思っているので、そういう部分は共感できるなと思っています。
伊勢:マギーは上流階級の役なので、私とは生活がかけ離れていて、嫌な女にも見えるんですけど、よりよく生きたいという欲望であったり、自分より弱い人をいじめたいという気持ちって、強いものを持っていると生まれるんだなと感じながら。私は六花ちゃんの役をちょっといじめているんですけど、ちょっと楽しかったり(笑)、自分にもそういうところがあるんだなと感じています。
浜田:自分の弱いところとか、人に見せたくない弱み、コンプレックス、そういうものから目を背けることで、楽しく生きていこうというところが僕の役にはありまして、そういうのは誰しも無意識に多少は持っているところなのではないかなと思っています。自分にもそういう要素があって、弱さを持っているという部分はすごく共感できる部分だなと思います。
冨家:僕はまるっきりの軍人の役なので、共感というよりは。今、日本は平和ですが、世界を見れば本当にたくさんの戦争が起こっている中で、あそこに従事している軍人の思いというのは理解できるという。共感とはまたちょっと違うんですけど、そんな感じです。
栗原:私の役も冨家さんと同じで、共感というか……ただ、その時代を生きた人間が必死に生きようとしたら、どういうふうな行動をとって、それが正しいかどうか分からずとも、必死に生きるためにこの人はこう生きているんだなと。そこは現在にも通ずるし、3%でも、5%でも(自分と)役とが同じ部分かなと思います。
ーー観客へのメッセージをお願いします。
森田:とにかくやるだけという感じです。本気でやります。観に来てください。観に来てくれた方はその場で起こっていることを素直に感じてもらったらいいなと思います。楽しみにしていてください。
さらに、演出・小川絵梨子よりコメントが到着したので紹介する。
小川絵梨子(演出) コメント
無事初日を迎えられることを大変にありがたく幸せに感じております。
素敵なスタッフ・キャストの方々と作り上げてきた、この『ヴォイツェック』の世界を、ぜひお客さまに楽しんでいただけましたら大変に幸いです。
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
舞台は冷戦下のベルリン。軍事占領下の緊張が渦巻く街で、イギリス人兵士ヴォイツェック(演:森田剛)は、幼少期のトラウマとPTSD、そして貧困の記憶に苛まれながら生きていた。薬物投与による幻覚とフラッシュバックが彼の心を蝕み、現実と過去の境界が崩れ始める。愛するひとへの狂おしいほどの執着と嫉妬が彼を予想だにしない運命へと導いていく——というストーリー。
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
主人公のヴォイツェックはほぼ舞台上に出ずっぱり。観客は、ヴォイツェックと他の登場人物とのセリフの応酬から、ヴォイツェックの環境や苦しみや愛や執着を感じ取っていく。現実なのか妄想なのか。過去なのか未来なのか。愛なのか執着なのか。誰が正しく誰が悪なのか。簡単には分からない。ただ、それでいいと思う。
人によって演劇の面白みはさまざまだろうが、普段生きていて想像もしないような人の“生き方”や“想い”を生々しく追体験すること。それが演劇の大きな面白みであると個人的に思っている。この追体験が、私たちの想像力を大いに刺激し、私たちの視野を広げ、私たちの感情を揺さぶると信じている。この舞台は多くの人にとって分かりやすくもないし、心地も良くないかもしれない。でも、常に肉の嫌な臭いを感じて、森田が演じるヴォイツェックの狂気に心が痛みながら、確かに愛を感じるところもあって、そしてヴォイツェックでもそれ以外でもどこか自分を見ているような瞬間があって……そんな体験は、この“クソみたいな世界”を生きている私たちにとってとても貴重なことだと思う。
上演時間は1幕70分、休憩20分、2幕60分。ヒリヒリするような演劇体験をぜひ味わってほしい。
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』のゲネプロの様子
取材・文・撮影=五月女菜穂