『双葉荘の友人』市原隼人×中村倫也インタビュー「やわらかい空気が流れる撮影現場です」
市原隼人、中村倫也「双葉荘の友人」
ドラマW『双葉荘の友人』が3月19日(土)WOWOWにて放送される。本作は「第8回WOWOWシナリオ大賞」にて応募総数482編の中から大賞を受賞した川崎クニハルの作品「双葉荘」を映像化したもの。監督を務めるのは、山田洋次作品の助監督を長年務め、自身も脚本家である平松恵美子だ。本作の主演は市原隼人。そして市原演じる川村正治が出会う不思議な存在・倉田誠司を演じるのは、中村倫也。同学年であり、まもなく30歳を迎える二人がどのような物語を紡ぐのか。撮影真っ只中の現場にお邪魔して話を伺ってきた。
<あらすじ>
舞台監督の川村正治は、妻で雑誌編集者の美江とともに神奈川・横浜の街を望む高台のテラスハウス「双葉荘」に移り住む。新しい生活になじんでいく中、舞台監督の仕事を辞めた正治は、美江の計らいで自宅でライター業を始める。ところが、ある日、家の中に不穏な気配を感じる。それは26年前、「双葉荘」の同じ部屋に住んでいた、倉田誠司という画家の幻影。二人はほどなく交友を結ぶようになるが、ある日正治は幻影の中で信じがたい光景を見てしまう。それは幻か?それとも過去に実際に起きたことなのか?驚くべき真相が明らかとなる――。
――今回、ご自身が演じる役どころを教えてください。
市原:2000年という設定なのですが、僕が演じる川村正治は、自分の中の人生観や将来向かう方向もアイデンティティも持たずに歳を重ね成長しきれていない、うだつのあがらない男です。引越先で出会ったちょっとファンタジーな体験とともに、自分のことや相手のこと、相手の見方や自分の心の置きようを考えていくようになるんです。
中村:倉田誠司は、1974年の双葉荘に住んでいる画家ですね。画家を細々とやり、嫁さんと幸せに、そしてささやかに生きている、そんなタレ目な男です(笑)
――タレ目って(笑) 本作について、初めて脚本を読んでみたときの感想はいかがでしたか?
市原:この本は何を思って書かれたのかな、と。それで(作者の)川崎さんに伺ってみたら「実体験をもとに書いた」とおっしゃるので、それを踏まえて改めて読み返すと鳥肌が立ってしまって。
すごいなあ、と。夫婦愛とファンタジー、絆、サスペンスがうまく交じりあっていて。名誉ある賞を取った作品に関わることができて光栄です。
中村:本を読んでみて、どうやって透明になろうかな、って考えましたね。役作りとして少しでも自分の体が透明にならないか、と最初に考えました。いっちー(市原)がこの作品の主演で、二人だけのシーンが多いなってことをワクワクしながら読み進めました。いっちーとは、一昨年に映画を一緒にやっていて、すごく楽しかったので、今回、こういう関係性で現場にいるのが楽しいですね。
――3月に公開される映画『星ガ丘 ワンダーランド』ですね。その時のことも踏まえつつ、お互いの印象を伺いたいのですが。
市原:(中村さんは)現場にいてもどこにいてもブレない世界観があって、やわらかい空気を送ってくれる存在で、自然と目の奥を見ることができる存在ですね。一緒にいてすごく気持ちいいんです。
中村:いっちーはまっすぐでいい人!一緒に仕事をしていて、役者としても、またこうやって話をしていても。すごく気持ちがいいし、罪がない。俺、腹黒いんで(笑)うらやましいくらいまっすぐ、というのが第一印象。
市原:以前、中村さんとご一緒した作品ですが、自分が役者を始めるきっかけになった生みの親でもある、「リリィ・シュシュのすべて」のプロデューサーに声をかけていただきました。前に現場でご一緒できていると、気持ちの入り様も違いますからね。
中村:(映画とは)役の関係性も違うから、楽しいですね。『双葉荘の友人』のほうが自分から率先して役に関わっていけているという気がします。
市原:今回、印象的なセリフがあって。「目には見えるんだけど、言葉は交わせない。その人と筆談するようになったんだ」…というのがすごく印象的で。だから二人の掛け合いもほとんど筆談なんです。
――先ほど撮影現場で、市原さんが白い紙に何か文章を書いて見せている様子を見ました。あれが二人のコミュニケーションの手段「筆談」だったんですね。
市原:(撮影の)段取り確認のために通していると、筆談ならではの間(ま)ができる空間ができ、その空間をどう埋めていくか、それは身体で表現していくのか、目で表現するのか…考えますね。
中村:この作品、「手ごわい」と思いました。段取りのときはお互い気持ちよく筆談しているんですけど、そのシーンの段取りを見ている監督が「…長いな」って。いやそりゃ「書いて」ますから(笑)だから台本を読んで想像していたことより、テクニカルな部分で「手ごわい」と思ったんです。でも、その分楽しくてやりがいがある…撮影初日にそう思いましたね。
市原隼人、中村倫也「双葉荘の友人」
――今ちらっと話が出ましたが、撮影現場の雰囲気はいかがですか?
市原:平松組は独特な空気感があります(笑)
中村:あははは。ずっと言っているね、それ(笑)
市原:やわらかい時間が多く流れる組で、例えるなら親戚の方とご一緒しているような感じです。スタッフの中もそんな空気感ができていて。声を荒げる人もいないし、何かを言い合う人もなく、スーッと入ってスーッと抜けていく。その独特の雰囲気がなんか人間くさいなと。これ、映像にも映っているんじゃないかなって、最初からずっと感じていました。それがすごく気持ち良かったです。
中村:(穏やかな口調で)「じゃあ、やってみましょうか…はい。」って感じ。
市原:今日も雲の中をスーッと抜けていく感じの撮影でした。
――これまでの作品で経験した現場とは違う雰囲気なんですか?
中村:そうですね…ナチュラルですね。「何かやろう!」って気合いを入れる感じではなく、ナチュラルに…みたいな雰囲気が。空間の色もナチュラル…SUPER NATURAL!(※流暢な発音で)
市原:今、それ言いたかっただけでしょ(笑)
中村:原稿に“(流暢に)”って入れておいてください(笑)
市原:平松監督は、すごく細かく演技をつけてくれる方で、動きもたくさんつける方です。僕にとって初めての経験です。ドラマを観ている人にとってわかりやすいように丁寧に、ニュアンスとか雰囲気で伝えるより、ストレートな言葉で作品を届けようとするのが新鮮でしたね。
――お二人ともこれまでに映画・舞台・TVドラマと多くのお仕事をされていらっしゃいますが、役者として、TVドラマならではの魅力や他との違いはなんだと感じていらっしゃいますか?
市原:僕はどこでも変わらないですね。もちろん演技の見せ方は変わりますが、映像でも生でも僕は変わることはないですね。
中村:「リモコンを押したら観ることができる娯楽」というのはTVドラマならではですよね。出演している側としての違いは…スターにいっぱい会える、かな(笑)
市原:(笑) この『双葉荘の友人』が長い間放送するドラマだったら、時代のニーズとかトレンドとかを取り入れていくと思うのですが。
中村:どっちかというと映画寄りだよね。
市原:そう、撮り方も映画寄りだね。感覚も映画っぽい。
中村:今回のチームだからってこともあると思うけど。あとWOWOWなんでいわゆる地上波のTVドラマとも違う毛色ですね。
――最後に…この作品の中でも描かれていますが、お二人は「不思議な体験」をしたことがありますか?
市原:そもそも不思議な体験…例えば「金縛り」って身体が寝ていて脳が起きているときになるという意見もあり、心理的なもので脳が観てしまうという意見もあり。霊も日本独特の考え方で、アメリカだと霊なんていないと思われていたり。答えはわからないですが、僕はそういう不思議な体験があっていいと思います。で、僕の場合は、小さい頃、歩いていたら自分の近くで公衆電話がやたら鳴ることが多かったり…。
中村:怖い(笑)
市原:あと、「デジャブ」っていうのかなあ、今回のロケでもこの風景と全く同じのを見たことがあるとか…あの感覚ってなんだろう。でもそれがわからないからこそ美しく見えたりする。今回のドラマではロマンにつながっていますが、自分の中でずっと疑問になっていてわからないものが、いろんな方向につながっていく。なんて言葉にしたらいいかわからないけど、それはずっと付き合っていける感覚なんだと思います。
中村:俺、十代のころ、祖父がお寺の住職をやっているという女性と付き合ったことがあって。代々そういう霊感のようなものがある家系らしくて、その子とつきあってた頃は…まあいろいろありましたね。
市原:どんな?
中村:それはね…シャレにならないから言わない!これ、僕が話したら苦情がきますよ。記事を読んだ人たちから「怖すぎるぞ!」って苦情がくるのでここでは言いません!もし街で僕にあったら「あの話、聞かせてください」って声かけてください(笑)
市原:(笑)
++++
これまで熱血で野性味あふれる役が多かった市原が、本作ではあえて「静」の部分を見せる。30代を目前にして、役者の幅を広げていこうとしている「動き」のかもしれない。そして映画、舞台、ドラマで個性的な役どころを演じてきた中村も、さらに大人の俳優として自らを深めていこうとしているのかも…。『双葉荘の友人』で、二人がどのような演技を見せるのか、OAを楽しみに待ちたい。
放送日:3月19日(土)よる9:00
放送チャンネル:WOWOWプライム
出演:市原隼人 臼田あさ美 中村倫也 陽月華 中嶋朋子 中原丈雄 吉行和子 ほか
脚本:川崎クニハル
監督:平松恵美子
音楽:寺嶋民哉
公式サイト:http://www.wowow.co.jp/dramaw/futabasou/