アーティスト・山下良平独占インタビュー 作品に込められた「心の躍動」を語る

インタビュー
アート
2016.3.4
山下良平

山下良平

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アート作品の制作スタイルの一つに、「ライブペインティング」というものがある。アーティストが観衆の前で即興で絵画を描く、パフォーマンス性の高い制作方法だ。ライブペインティングは多くの場合、イベント会場やギャラリーなど制作現場を見ることを目的にした観客の前で行われる。しかし、イラストレーター・山下良平はそれを望まない。2016年2月下旬より、渋谷・道玄坂にあるカフェ「LIVING ROOM CAFE by eplus」にて、山下良平とLIVING ROOM CAFEがコラボレーションした個展「ALIVE!」が開催中だ。この個展では、山下の作品を展示するだけでなく、彼自身ともゆかりのあるミュージシャンの音楽ライブと併せたライブペインティングを実施。また、期間中はカフェ内にアトリエを設置し、アート作品の実演制作も行っている。山下作品を目当てにしていない、飲食店の客に向けた展示・パフォーマンスを行うその意図は一体なんなのか。山下本人にたっぷり語ってもらった。そこには、彼の作品制作のポリシーや、アーティスト活動の原点ともいえる「ストリート絵師」での原体験が隠されていた。

 

--まずは、山下さんの作品制作の原点からお伺いできればと思います。山下さんは「躍動」という一貫したテーマに基づいて制作されていますが、そのようなテーマを意識し始めたのはいつ頃からでしょうか?
10年くらい前から、気が付いたらみんな僕の絵を見て「躍動感がある」って言ってくるようになりました。ただ、こういった色使いや、筆の運び方に関しては、自分で意識していつから描き出したということはないですね。そういったものは、子どもの時から培われたものだと思うので。生まれてからずっと見てきたものだとか感じたものが、いまの絵に繋がっていっていると思います。

--子どもの時から培ってきたものが今に繋がっているという話が出ましたが、かつて影響を受けたり、心を動かされたりした作品はあるのでしょうか?
絵でそういったものはあまりなくって、僕の場合は映画ですね。『スターウォーズ』を4歳の時に観たんですが、それが初めて観た映画だったんです。その時の印象がすごく強くて、爆発するものとか光るものとか、そういったものが多分インプットされたんでしょうね。 “光”っていう存在のが僕の中では大きいんですよ。“躍動”っていうのは表のテーマですけど、“光”っていうのも裏のテーマで持っています。僕の作品には必ず“光”がどっかに存在しています。紙とかキャンバスは光るものじゃないんですけど、そこに“光”を描いていくということは意識しています。

山下良平

山下良平

--アーティストとしてのキャリアは「ストリート絵師」から始められたとのことですが、どういった活動をされていたのでしょうか?
福岡の天神っていう繁華街で活動を始めました。まだ学生だった頃です。街行く人の似顔絵を主に描いていました。制作している際は、結構人が集まって、お祭りみたいに盛り上がったりすることもありました。

--その頃の体験は今のアーティスト活動にも反映されてますか?
今のエンタメ性を持った制作スタイルに繋がっていると思いますね。人前で描いて、その場でのお客さまの反応を直接見ることで、どういった風にすれば人が湧くかっていう感覚が自分の中で出来上がっていったと思います。


--その感覚が、現在行われているライブペインティングの中でも生かされているということですね。
そうです。お客さんって変化を求めるんですよ。例えば、1時間の制作の中でも変化がないと最初の10分くらいで飽きてしまうんです。それをさせないためにも、先が読めない展開を意識してライブペインティングをしています。でも、あまりにも先が読めないと人はまた飽きてしまう。なので、1時間の制作の中でも、山場を2~3回作るよう心がけています。

--ライブペインティングだと、音楽と一緒に制作を行う場合と行わない場合があるかと思います。音楽の有無によって、どのようなところが大きく変わってきますか?
さっき言ったような、1時間の中で山場を3回くらい作るとか、ショーとしての面白さが音楽のあるライブペインティングだとありますよね。もちろん制限時間があるので、細かい書き込みができないっていう犠牲ももちろんあります。ですが、それを補う感動はやはりあります。対して、1週間かけて仕上げるような制作の場合は、ゆっくりとお客さんとお話ししながら制作していきます。「どんなの描いてるんですか?」とか、コミュニケーションしながらですね。あと、1週間制作時間があるっていうことは、1日描き終わってから一旦家に持ち帰って、アイデアをもう1回ゆっくり熟成させる時間があるっていうことなんです。熟成させた結果、作品が劇的に変化していくんですよ。この作品(「LIVING ROOM CAFEにて制作中の作品)も、初日は女性のダンサーが10人くらいばーっと並んでいたんですけど、全部消して「ライヴをしている2人」を描きました。これは、たまたま僕がLIVING ROOM CAFEで描いてる時にライヴをしていた2人なんですよ。最初から何を描くかは決めていなくて、そこで出会う人などによって、その場その場で変わっていくという感じです。

LIVING ROOM CAFEにて実演制作中の作品。山下自身の体験をもとに日々刻々と変化していく。

LIVING ROOM CAFEにて実演制作中の作品。山下自身の体験をもとに日々刻々と変化していく。

アウェイの方が、普段ギャラリーでは得られない刺激もあるし、お客様からの貴重な反応がある

--LIVING ROOM CAFEで作品展示・制作を進める中で、通常のギャラリー展示と異なるのはどのような点ですか?
通常、ギャラリーで絵を飾る際はお客様はみんな絵を目的で来ますよね。でも、こういった飲食店は飲食しに来る人が95%くらいです。絵を見に来る人は5%もいない。正直、アウェイですよね。でもアウェイの方が、普段ギャラリーでは得られない刺激もあるし、お客様からの貴重な反応があります。

--例えばどういった反応がありましたか?
コースターがさりげなく絵になってるとか、お客さんが会話してる中でふと見上げたらすごくデカい絵があるとか、そういう思いがけない驚き、感動を感じていただけているっていうのはありますね。ギャラリーの場合は思いがけない感動ないですからね(笑)!絵を目的に来てるから。あと、ギャラリーは売れてナンボなので、お客さんが買って帰りやすいようなサイズのものを優先して展示していくんですよ。でもここではその真逆!売る買うは無視して、この空間をどう演出するかを考えて展示しています。この場に埋もれないような、インパクトのある大きな作品を制作しました。あそこにある長い侍の作品(《samurai 4+》《samurai 5》)みたいな。こういったことはギャラリーではありえないですよね。

《samurai 5》

《samurai 5》

--「山下良平 X LIVING ROOM CAFE by eplus “ALIVE!”」のメインビジュアルはどのようなコンセプトで描かれましたか?
暖炉の上という、あの場所にふさわしい絵を描こうと思っていました。LIVING ROOM CAFEのテーマである「音楽」のモチーフと、火の上ってことで燃えるようなイメージを作品にしました。

--こちらの≪ALIVE!≫もそうですが、音楽をモチーフにされた作品が多く見受けられます。ご自身でも音楽がお好きなのでしょうか?
音楽かけながら絵を描いたりなどはします。映画のサントラから始まり、ロック、クラシック…リズムがあるものは描く時によく聴きますよ。今度一緒にライブペインティングをやる明星/Akeboshiさんなどは、すごくメロディが綺麗で、声も素敵なんです。筆と聴いた音が一緒にシンクロできるので、すごく楽しみです。

この個展のために制作された《ALIVE!》 カフェ中央に位置する暖炉の上の壁に掲出されている

この個展のために制作された《ALIVE!》 カフェ中央に位置する暖炉の上の壁に掲出されている

快適な環境では良い絵って思い浮かばない

--スポーツのテーマの作品も多いですが、ご自身でもジョギングなどをやられるとお伺いしました。
元々陸上部で短距離やっていたので、制作に煮詰まった場合は走ったりすることもあります。走ると、生きるための最低限のことしか考えなくなるんです。脳にエネルギーが使えないので。生きるための最低限の発想をする状態にすることで、普段の無駄な考えが全部消えていくんです。そこで考えられるアイデアっていうのは、生きるために重要な本質のアイデアが思い浮かぶことが多いですね。自分で自分をいじめる…って言ったらおかしいな(笑)!要は、快適な環境では良い絵って思い浮かばないんですよ。思い浮かぶ必要がない。どこか不満とか、今の現状を脱出しようという意思がないと新しいものって生まれないと思っています。


--サマーソニックなどの音楽フェスでもライブペインティングを実施した経験のある山下さんですが、今後挑戦してみたい制作スタイルやイベントなどはありますか?
今回のイープラスさんのライヴはやりたかったことだったんで、まずはそれをこなすことが第一です。僕の好きなアーティスト・好きな音楽と制作をやりたかったんですよね。。明星/Akeboshiさんと松崎ナオさんていうのは、僕がぜひ一緒にやらせていただきたかった方たちです。だから、今後も「この人とやってみたい」と思うアーティストが出てくるかもしれないですよね。ステージの大小は関係ないです。もちろん、アーティストのドームツアーとかに同行してやるとかも面白いかとは思いますが、大きければ良いってもんじゃないですからね。狭い方がお客さんが見やすいし、LIVING ROOM CAFEくらいがちょうどいいなと思います。

実演制作に使用されている絵の具も間近で見ることができる

実演制作に使用されている絵の具も間近で見ることができる

--この記事を通じて「山下良平 X LIVING ROOM CAFE by eplus “ALIVE!”」や山下良平さんのことを知った方に対してメッセージをお願いいたします。
絵そのものというのは言葉を発しないんですけれど、こうやって絵を描くことによっていろんな人が動いて情報を発信することができます。その大元になるというのはすごく素晴らしいことで、そういう環境にすごく感謝しています。だからこそ、もっと作品の本質に迫って、”動き”や”光”っていうものをとことん磨いていくつもりで頑張っていきますので、応援をお願いできればと思っております。


「躍動」「光」をテーマにした力強さが印象的な山下良平の作品。そこには、人とのコミュニケーションや出会いを元にした山下の繊細な心の揺れ動きが秘められていた。彼が作品を変化させてゆくまさにその現場に立ち会うことができるということは、彼が日々感化されていることを追体験するということでもある。見た目のパフォーマンスだけでなく、作品に刻み込まれた彼の感情も含めて体感しに来ていただきたい。「山下良平 X LIVING ROOM CAFE by eplus “ALIVE!”」は、2016年3月21日(月)まで開催。

 
 
イベント情報
山下良平 X LIVING ROOM CAFE by eplus “ALIVE!”

 日時:2016年2月19日(金)~3月21日(月)
 会場:LIVING ROOM CAFE by eplus (東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F)
 

 

山下良平
「躍動」を一貫したテーマに絵画作品、イラストレーションを制作。マガジンハウス「Tarzan」 表紙をはじめ、ナイキなどのビジュアル制作や、音楽フェス「SUMMER SONIC」でのライブ・ペインティング、 横浜マラソン2016公式ビジュアル作成などアート・ディレクションを含めた活動にも力を入れる。 画家としての活動も本格始動し、自身のアートブランド「LIKE A ROLLING STONE」を立ち上げ絵画作品の 発表、販売を行う。 2015年、大阪で開催されたアートフェア「UNKNOWN ASIA」で「イープラス賞」受賞。

イラストレーター公式HP:http://www.illustmaster.com
画家公式HP:http://www.artmaster.jp
facebookページ:http://goo.gl/gfqES
Amazon作品通販ページ:http://goo.gl/cw1lQ
 
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