カリスマ的人気を誇る劇団ナカゴーが7月25日から1年半ぶり本公演
上段左から篠原正明、高畑遊、鎌田順也、下段左から川崎麻里子、日野早希子、鈴木潤子
鎌田順也(かまたとしや)の率いるナカゴーが新作『率いて』を7月25日より上演する。ナカゴーは上演のたびに「面白すぎた」「凄すぎた」といった評判がネットを駆け巡る、いま最も“勢い”の感じられる笑劇系の小劇場劇団である。SPICEが心の底からプッシュする劇団のひとつだ。
今回の上演、プロパーの劇団員だけでおこなう「本公演」としては実に1年半ぶりとなる。…と書けば何やら久しぶり感を覚えるかもしれないが、ナカゴー界隈の興行としては「ナカゴー特別劇場」であるとか、鎌田が外部で作・演出する公演などがけっこう頻繁に行なわれているため、そんな中での「本公演」という形態に実質的な有難みというものがどれほどあるのか、そこは何とも説明し難い。が、少なくとも初心者がデフォルト状態のナカゴーを確認するうえでは最良の機会には違いないだろう。
前述のとおり、ナカゴー界隈の上演は珍しくない。しょっちゅう、と言ってもいい。ただ、一度観た者の多くは彼らを高く評価し、ハマるケースだって珍しくない。とくに小劇場業界に棲息する同業者、つまり小劇場の俳優やスタッフの中に熱狂的支持者が多く、その人気は「カリスマ的」とも言えるほどだ。しかし、結成して9年が経つにしては、一般的な認知度はさほど高いとはいえない。神秘のヴェールに覆われているとさえいえる。
その理由のひとつは上演場所の問題だろう。町屋、王子、浅草といった東京北部の、しかも会議室や催事場のような、劇場感の稀薄なスペースが会場として選ばれることが多いのだ。下北沢に代表される東京小劇場演劇界のメインストリームをあえて避けているフシがある。主宰の鎌田が住む北区王子に近いから、という便宜上の理由もあるようだが、それにしても「北」への尋常でないこだわりには戦略的な匂いもプンプン漂う。当然のこととして「そこ(会場)まで行く」ということが演劇客にとって最初の高いハードルになっていることは否めない。言い方を変えれば、それだけ劇団側が観客を選んでいるのだろうか。
それにしても、一度観た者の多くを惹きつけてやまないナカゴーの魅力とは何なのだろうか。まずは、登場人物の人間性の屈折から滲み出る可笑しみがジワジワと観客の心を掴んでゆく。が、いつしか破壊性や暴力性が唐突に牙を剥き、客席全体を、唖然と爆笑を渾然一体化させたような状態に陥らせる。全体として、きめ細やかでありながら、強度が圧倒的なのだ。そんな独特の鎌田ワールドを完璧に現すことのできる俳優陣の捨て身で豊かな演技力も見ものだ。また、ストーリーにおいては、しばしば霊的もしくは超自然的ともいうべき要素が大手を振る。その意味ではファンタジーだが、人智を超えたものは道理をわきまえないから、たいていホラーやヴァイオレンスにまで発展してしまう。よって、その種の映画が好きな人なら、すぐ目の前で生々しく繰り広げられる凄絶な光景に異常な興奮を覚えるかもしれない。
このほど上演される新作『率いて』も、幽霊とコミュニケーションできる一人の少女とその周りの人々が体験する恐怖の一夜を描く一幕劇とのことだ。「本公演」としてのデフォルトがここでも確認できるようだ。
なお、今回は東京だけでなく、初めての名古屋公演も決定している。これはナカゴーを観て衝撃を受けた、名古屋在住の俳優・プロデューサーである小熊ヒデジ(KUDANプロジェクト等)がコーディネイトしたもの。SPICE編集部が小熊に経緯を訊ねたところ、次の回答が寄せられた、
<僕は野鳩という劇団を主宰する水谷圭一さんと以前から知り合いで、その野鳩とナカゴーが合同公演をしたことがあるという程度の知識しか当初は持ち合わせていませんでした。しかし「野鳩と合同公演をする劇団?!」ということ自体に強い興味を持ち始め、昨年6月、上京する日程がナカゴーの公演『ノット・アナザー・ティーンムービー』の日程と合うことがわかり、さっそく出掛けることにしました。初見だったナカゴーの衝撃は凄まじく、僕は観劇の間中、前のめりで歓喜し続けることになりました。とてつもない熱量で俳優と共に疾走する物語はとんでもない破壊力を持ち、それでいて緻密で繊細で愛おしく、なおかつ爆笑の連続なのでした。「今すぐ名古屋に呼びたい!」 観劇後僕は同行した知人にそうつぶやき、二ヶ月後には『ベネディクトたち/ミッドナイト25時』観劇のために再度上京、その旨をナカゴーに伝えたのでした。そして今年のお盆にめでたくナカゴー名古屋初上陸。この機会が名古屋演劇界に大きな刺激をもたらしてくれたなら、そして僕が感じた喜びを多くの人たちと共有できたならとても嬉しく思います。>
小熊のコメントから感じる熱いものを共有したいと思う中部地方の演劇ファンなら、小熊に感謝しつつ、今回の機会を最大限に活かすべきだろう。なお、8月15日(土)夜の回には名古屋演劇界の鬼才・天野天街(少年王者舘)を招いたアフタートークも予定されいる。
そしてSPICEは開幕直前、彼らの稽古場に突撃取材をかけて劇団員の皆さんから貴重な動画コメントをいただいた(下記参照)。質問に対して淡々と答えてくださっている彼らが舞台の上ではどう変貌を遂げるのか、それを確かめるためにも、東京都荒川区のムーブ町屋や、名古屋市中村区のアクテノンに足を運ぶことは充分に意義深いといえる。
ナカゴー稽古場インタビュー
作・演出 鎌田順也
出演:川崎麻里子、篠原正明、鈴木潤子、高畑遊、日野早希子
【東京公演】
期間:2015年 7月25日(土)~8月8日(土)
会場:ムーブ町屋(4階)ハイビジョンルーム
【名古屋公演】
期間:2015年 8月15日(土)・16日(日)
会場:名古屋市演劇練習館アクテノン(5階)リハーサル室
*8月15日(土)19:00 …アフタートーク/ゲスト:天野天街(少年王者舘)
詳しくは、ナカゴー公式サイト http://nakagoo.com/
外国文学好きにはどこか既視感を覚える今回のチラシ