蓬莱竜太と志田未来が語る『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
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『母と惑星について、および自転する女たちの記録』志田未来、蓬莱竜太 (撮影=原地達浩)
8月に建て替えのため閉館を迎えるパルコ劇場での最後の新作舞台となる『母と惑星について、および自転する女たちの記録』は、活躍が目覚ましい蓬莱竜太が書き下ろし、栗山民也が演出を担当。母を失い世界をさまよう三姉妹に志田未来、鈴木杏、田畑智子、生前奔放な言動で三姉妹を振り回してきた母に斉藤由貴という強力なキャスティングだ。台本鋭意執筆中の蓬莱と、三女を演じる志田に話を聞いた。
――まず、タイトルの心からお聞かせください。
蓬莱:演出の栗山さんから、女性の芝居をというオーダーがありまして、母と娘たちの話はどうかとなったとき、グローバルなスケールでやりたいなと思ったんですね。日本のある場所ではなくて、世界を放浪しているような。そして、三人姉妹の話と、亡くなったお母さんの追憶とが交差する構造はどうかなと。それでこういうタイトルになりました。
――蓬莱さん×栗山さん×女性だけのお芝居というと、岸田國士戯曲賞を受賞された『まほろば』を思い出します。
蓬莱:そうですね。栗山さんもそのイメージがあったようなんですが、あまり意識してしまうと同じになってしまうので、そこからどう離れるかだと思っていて。栗山さんとの仕事では、最初に栗山さんから小さなパス、観念的なワードが出てくるんです。やりたいイメージが感覚的におありになるので。例えば今回だったら、「女性の生き方」であるとか、「神話」であるとか。それで、そのイメージをたぐって考えて紡いでいくという作業になりますね。
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』蓬莱竜太 (撮影=原地達浩)
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』志田未来 (撮影=原地達浩)
――志田さんは、昨年秋のパルコ劇場での『オレアナ』が初舞台でした。
志田:毎日とにかく必死で、楽しいと思う余裕もなくて…。でも終わった後、毎日が充実していたなと思いました。同じお芝居を繰り返すという経験も初めてでしたが、とても刺激的でした。回数を重ねるとお芝居が変わるということもいろいろな方から言われていたんですが、こういうことなんだなって、経験してみて初めてわかりましたし。やっている最中は、「あと何回」なんて数えてたんですが(笑)、毎日が本当に濃かったですね。お稽古場では、好きに動いてみてと言われても何が正しいのかまったくわからない状態でしたが、演出の栗山さんに助けていただいて。本を読んでいて、この人どうしてこういうことを言うんだろうというのも、私が聞く前に丁寧に教えてくださって。
蓬莱:僕は『オレアナ』を観て、すばらしいなと。初舞台とは思えなかった。二人芝居って、究極的なところがあるじゃないですか。逃げ場もないし、しかも重いテーマの翻訳劇で。すごく大変だろうなって想像できますけど、でも、非常に力強いものが伝わってきた。うちの劇団で彼女より一つ上の女優にも、触発されるものがあるから観ておいでと勧めました。『オレアナ』では非常に強いメッセージ性をもつ女性を演じていたので、今回どう変化させようかなというのがありますね。主体性があるのかないのか、うまく表出できない、そんないずまいがもれてくるような感じにしたいなと思います。
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』志田未来、蓬莱竜太 (撮影=原地達浩)
――現段階で上がっている台本についてはいかがですか。
志田:すごく会話してるなと思いました。『オレアナ』は、会話になっていないというか、一人でずっとしゃべっている感じだったので、ああ、会話してるのっていいなあって(笑)。どんな役になるのか、まだまだわからないところがありますが、モノローグでお芝居が始まったり、このあとどうなっていくんだろうってすごく楽しみです。
蓬莱:どんどんおもしろくなっていく予定です(笑)。三姉妹それぞれが見ていたお母さんが違うんだなということが、観ているお客さんにも伝わっていくようにしたいなと。このお母さんはある意味、娘を差別化して扱っていたわけで、姉はこんなこと考えてたんだとか、妹は母とこんな経験をしてたんだとか、三姉妹が答え合わせをしていく感じで。そんな中で、自分が考えていた母とまったく違ったものに見えてくる。母には苦労させられたと思っているけれども、それぞれの苦労の質が違うというか。これまで母という巨大な存在、ある意味敵に立ち向かっていたのが、いなくなったから困ってしまって、糸の切れた凧のようになって世界を放浪しているわけで、最終的にどう日本に帰って来るのか、自分はこれから女性としてどう生きて行ったらいいのか、そんなことが見えてくる作品になればと思っています。女性の芝居を男性が書いて、男性が演出する上では、もちろん女性を書き切れるなんてことは思っていなくて、あくまで人間として描いていくんですが、ある意味誤解もある、それも含めて作品になっていればいいのかなと思いますね。
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』蓬莱竜太 (撮影=原地達浩)
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』志田未来 (撮影=原地達浩)
――作品の舞台としてイスタンブールをイメージされたのは?
蓬莱:紛争があって大変なことになっている場所に近いのに、観光地としてお祭りのようににぎわっている、そんなギャップを感じて。作品の中に、どこか惑星規模で生きていると体感する瞬間があればと思うんです。今の時代、日本だけでは切り離せない不安感とか、惑星がどこに向かっていくのかという思いがあるんですよね。世界も介入してくる体験をしてもらえたらと、この場所を選びました。
志田:蓬莱さんにお会いするのは今日が初めてなんですが、顔合わせや読み合わせの前にこうして作品についてお話を聞くことができて、タイトルの意味についても教えていただけてよかったです。
蓬莱:何かね、今回、こういうジャンルの芝居ですと分類できない芝居にしたいなと思っていて。変なコントがずっと続いていくみたいな。それで、お母さんの存在が入ってきて、芝居がぐっと締まったかと思いきや、そこも実はコントだったみたいな。そうして、三姉妹がたくましく豊かに見えていったらいいなと思いますね。志田さんにとっては舞台って大変だというイメージがあるとも思うので、また違う楽しみも見つけてほしいなとも思いますし。
志田:もっと硬い話を想像していたのですが、何だかとても楽しくなりそうで…。変なコントってどうなるんだろうって(笑)、楽しみになってきました。
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』蓬莱竜太、志田未来 (撮影=原地達浩)
撮影=原地達浩 インタビュー・文=藤本真由(舞台評論家)
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
※仙台、広島、北九州、新潟、大阪公演(予定)
■演出:栗山民也
■出演:志田未来、鈴木杏、田畑智子、斉藤由貴
■企画・製作:株式会社パルコ