【コラム】体育会系"パリピ"はなんでEDMが好きなの? 真面目に考えてみた
ULTRA JAPAN 2015
ここ数年のうちに、あちこちで耳にするようになったEDM。ほんの何年か前までは、「あんな派手な海外音楽が日本で流行るなんて無理でしょ」とささやかれていたというのに、わが国日本でも爆発的にヒットすることとなりました。そして今では、「EDM最高!」派のParty People……所謂"パリピ"と「EDMとかダサくない?」という否定派が熱いバトルを繰り広げる……ことはなく、否定派による批判がうずまくなか、パリピはあまり気にせずに日々楽しくパーリーナイしている、といった印象です。
それにしても、パリピはどうしてEDMが好きなのでしょうか。どうしてEDMのイベントにはパリピばかりが集まるのでしょうか。「パリピ EDM なぜ」でグーグル先生に聞いてみても、納得のいく答えが見つかりませんでした。そんなわけで、「なぜパリピはEDMが好きなのか」という根源的な問いについて、改めて真面目に考察していきたいと思います。
体育会系パリピは本当にEDMが大好きすぎる
みなさんのまわりに、EDMが大好きなパリピはいますか? これを読む方にはEDM否定派が多そうなので、日頃そういったパリピをあまり身の回りに寄せつけないのではないか、と勝手にイメージしているのですが、私の周りにはいっぱいいます、パリピが。
パリピというと、ニッチでオシャレなクラブシーンを好む美容師、読者モデルといった伝統的パリピを連想する方も多いと思いますが、ここで取り上げるのはあくまで「体育会系パリピ」です。体育会系パリピとは、学生時代は人数が多いオールラウンドの運動サークルに在籍し、ごくごく自然な流れで友好的かつ円満な対人関係を築きあげ、もちろん難なく恋人も作って幸せな日々を送り、大学卒業後は大手優良企業へと就職。バリバリと真面目に仕事をこなしながらも、通勤時にはEDMを聴いたり、週末は友人を自宅に招いてはパーティーなどでシャンパンを開けつつEDMを楽しむ……というような、もう本当に健康的かつ人生の覇者である!といった勝ち組ロードをひた走っている人物です。半分くらい私の勝手な妄想が入っていますけど。
これまでの人生で、それほど音楽にどっぷりハマることもなかったであろう彼らのような人材が、ことEDMに関しては何故かやたらとドハマりして情報を貪欲にむさぼるという様子を目の当たりにする機会が非常に多く、そのたびにものすごく不思議な心境になりました。具体的にいうと、
■「クラブミュージックが好き」といわれたので、よくよく話を聞いてみるとEDMだけが好きらしい
■コアなEDMアーティストとかは超詳しいのに、石野卓球は知らない、せめてDAISHI DANCEあたりは知っているかなとドキドキしながら聞いてみるものの、やっぱり知らないらしい
■フジロックとか興味ない、でもウルトラは何がなんでも行きたい、サマソニはまあ暇なら行ってもいいけどレベルらしい
おわかりいただけたでしょうか…? 彼らはどうしてか、音楽のなかでも、そしてクラブミュージックのなかでも、なぜか「EDM」のみにひたすら情熱を注ぎ続けているのです。これ、めちゃくちゃ不思議じゃないですか? 不思議ですよね。
というわけでようやく本題に入りたいと思います。ちなみに私はEDMが比較的好きなのですが(Avicii最高だぜ!)たまに嗜む程度で、クラブシーンにそれほど詳しいわけでもないので、今回はDJをやっている友人にいろいろお話を聞いたりもしました。
1.EDMの音楽的特徴
BPM(テンポ)
EDMに多いBPMは、およそ125~135程度。このBPM130前後というのは、軽く体を動かしたり、興奮状態になっているときの人間の心拍数に近しい数字でもあります。つまり、EDMによくあるテンポは、テンションアゲアゲ時の心拍数といい具合にシンクロしているというわけです。
EDM以外にもBPM130前後のアゲアゲソングはたくさんありますが、ロックやポップスなどの他ジャンルの場合、すべての曲を通してBPMが固定されているということはほとんどありません。アルバム1枚通して、つねに程よい興奮状態をキープして聴き続けられるのは、EDMが持つ特徴のひとつだといえます。
楽曲構成・展開
そして言わずもがな、EDMは構成が非常にわかりやすい。イントロでループしたメロディをそのままサビまで使っているような曲も多くあります。イベントで初めて聴く知らない曲でも、なんとなくその後の展開を予想できるため、「サビがくると思ったのに間違えてBメロで手を振り上げちゃって恥ずかしい思いをする」という、音楽ファンなら誰しもが通るあの赤っ恥リスクがほとんどありません。なんたる親切設計。
さらに、EDMを語るうえで外せないのが、サビ前などでドラムのビートが細かく刻まれていくアレ、専門用語では「ビルドアップ」というそうです。ビルドアップが入ることで、曲の構成を知らなかったとしても、盛り上がりを事前に察知して緊張感なく踊ることができるんですよね。親切すぎるよEDM。
こうした、リスナーの意を細部まで汲んで設計された懇切丁寧な楽曲構成と、先ほどの程よく気分アゲアゲになる一定したBPMという条件を兼ねそろえている音楽は、そうそう見つかるものでもありません。とはいえ、体育会系パリピがEDMを好む理由としては、まだまだ弱い。
2.EDMが持つファッション要素
EDMフェスがほかの音楽フェスと比べて大きく一線を画している点の一つに、参加者の高いファッション性があります。EDMのフェスにはある種のドレスコードのようなものが存在していますよね。レインボーカラーやネオンカラー、ボヘミアンルックのお揃いコーデのギャルとか。インスタ投稿でよく見かけませんか? あとは、ブラトップで踊り狂うセクシーなお姉さん。
流行に敏感な若い層には、こうしたファッションテーマがあることで、音楽以外にも楽しみが増え、フェスへの参加につながっているのではないでしょうか。フジロックには行かないけど、EDMのフェスにこぞって足を運ぶパリピ層においては、「おそろコーデで友達と参加するだけで、オシャレ気分に浸れて楽しい!」といった部分も大きいのだと思います。
それにしても、海外発祥の音楽でテーマカラーがレインボーといったら…LGBTとの関連が?と思って調べてみたら、やっぱりそうだったみたいです。
3.EDMスピリット「PLUR(プラー)」
EDMスピリットとして提唱されているのが、「PLUR」という言葉。PLURとは、「Peace Love Unity Respect」から頭文字を取ったもので、直訳すると、「平和、愛、団結、尊敬」となります。戦争反対、差別反対、マイノリティ解放という思想のもと、EDMファンはLGBTカラーであるレインボーをファッションに取り入れていたのでした。
PLURは、EDMが生まれる以前、レイヴが流行していた時代から提唱されていたものの、その頃はまだまだマイナーな思想だったようです。しかし、EDMの世界的な流行により、PLURという言葉も一躍日の目を見るようになります。
グローバル思考が強く、友達を大切にしてコミュ力も高い体育会系パリピには、このPLURの精神がぴったりハマったのではないでしょうか。小学校の校長先生が式典で語っていそうというか、すごく明るい職場の社訓にありそうな文字列。
逆に、根暗な音楽ファンであれば、「平和、愛」まではうなずけるとして、「団結、尊敬」という言葉を見た途端に逃げ出してしまう人が続出しそうです。「EDM、曲が嫌いというわけではないけどなんか苦手」という人は、このPLURの精神が醸し出す前向きすぎる雰囲気に拒否反応を起こしているのかもしれません。
4.EDMが持つ飲み会要素
とはいえ、EDM好きの体育会系パリピが総じてそういった世界平和的な思想を抱きつつEDMを聴いているわけでもありません。特に日本においては、「PLUR」という概念を知らないようなEDMファンも多いのだそうです。そういった、本気EDMファンからすると「にわか」に思えるようなタイプも、やっぱり体育会系パリピ率がものすごく高い。なぜなのか。
それは、EDMのフェスやイベントには「飲み会要素」がかなり色濃くみられるという点にあります。EDMをみんなで聴いて、お酒を飲んで、盛り上がって踊ろう!といったスタンスです。いろいろ話を聞かせてもらった友人DJには、「EDMのイベントに行く人は、音楽を聴くんじゃなくて、飲んではしゃぐために行ってるんじゃない?」という、"お前、EDMファンからフルボッコくらうぞ"という感じのコメントをもらいましたが、あながち間違ってもいないと思います。
つまりEDMは、純粋に個人で楽しむ“音楽作品”としてではなく、親しい他者との“コミュニケーションツール”としての側面が非常に大きいのではないでしょうか。だから、その他のジャンルの音楽ファンとは様相の異なる、体育会系パリピに激しく愛されているのです。そして、EDM以外にもさまざまな音楽があふれているなかで、体育会系パリピはEDMに集中してフォーカスを合わせていたのです。
EDMブーム後、体育会系パリピはどこへいくのか
そんなEDMも、「そろそろオワコンじゃないか」といった声をチラホラ耳にするようになってしまいました。Aviciiもツアー等からの引退を発表し、なんだか色々とザワついていますよね……。EDMの流行が過ぎ去ったのちに、体育会系パリピたちはいったいどんなジャンルの音楽を消費するようになるのでしょうか。引き続き、興味深く観測していきたいと思います。
文=まにょ