サカナクション 自らの進むべき道を切り拓いたツアーファイナル

レポート
音楽
2016.4.14
サカナクション  Photo by 山本マオ

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SAKANAQUARIUM 2015-2016“NF Records launch tour” 2016.4.10 幕張メッセ国際展示場 9-11ホール

サカナクションの全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2015-2016“NF Records launch tour”』のファイナル、幕張メッセ国際展示場ホール9-11公演。台湾公演を含む全35公演、15万人を動員した全国ツアーのラストを飾るこのライヴ(2日間で約4万人を動員!)でサカナクションは、半年間に及ぶツアーの集大成を体現するとともに、新たな音楽体験を生み出していく意志――最後のMCで山口一郎(V&G)は「(ライブ活動休止中に)いろいろ考えましたけど……音楽はやっぱり楽しい、という結論に達しました!」と語った――を力強く表明してみせた。

Floating Points、Genius of Timeなどのエレクトロ系アーティストの楽曲がゆったりと流れるなか、まずは12名の和太鼓奏者とディジュリドゥ(オーストラリアの先住民、アボリジニの伝統楽器)からなる“GOCOO+GoRo”のパフォーマンスが始まる。日本の伝統的な打楽器によるトライヴァルなグルーヴが巨大な会場を包み込み、手拍子が自然と起きる。約20分に及ぶセッションの後、会場の照明が完全に落とされ、ついにサカナクションのライブがスタート! ステージの上3~4mの位置に設置された白い幕にツアーのタイトルが映された後、その真ん中にひし形の窓が開き、メンバーの姿が視界に入る。5人が横一列に並ぶDJスタイルで放たれた最初のナンバーは「N.F.I.G REMIX」。最新鋭のエレクトロとどこか抒情的なメロディがひとつになったこのインスト曲によって、約2万人のオーディエンスが気持ち良さそうに身体を揺らし始める。ビートを繋いだままバンドスタイルに移行し、2010年のシングル曲「アルクアランド」へ。ディープなシンセサウンドと高揚感に満ちたバンドグルーヴ、<嘆いて 嘆いて 僕らは今うねりの中を歩き回る>という歌詞が響き渡り、ステージとフロアの一体感が一気に増していく。さらにポストパンク直系のギターリフを軸にしたロックチューン「モノクロトウキョー」(山口が“東京 モノトーン”を“幕張 モノトーン”と言い変えて、大歓声が巻き起こる)、端正でストイックなバンドサウンド、“つまりは心と心 絡み合って切れた”言葉の響きとメロディの起伏が気持ちよく絡み合う「表参道26時」、「さあ! 手を挙げろ!」という山口の声によって観客が両手を掲げ、直線的なビートがどこまでも突き抜けっていった「Aoi」が続けて披露される。

サカナクション  Photo by 山本マオ

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ツアーのスタートとなる昨年10月の日本武道館のライヴのときも感じたのだが、サカナクションの演奏と音響は、ベースの草刈愛美の産休に伴いライヴ活動を休止する前に比べても格段に向上していた。バンドサウンドとダンスミュージックを独自のセンスで融合させた音楽性、派手なレーザービーム、映像、オイルアートなどを交えた演出で知られる彼らだが、根本にあるのはロックバンドとしての地力の高さなのだ(ライヴ終演後に山口と会ったとき「ワイヤレスをやめて、ぜんぶシールドで(楽器とアンプを)繋いでるんですよ。グルーヴが甘いところもあったから、しっかりリハもやったしね」と嬉しそうに話してくれました)。また、会場後方にもスピーカーを設置するなど、すべてのオーディエンスが優れた音響を体感できる工夫も凝らされていた。

「“NF Records launch tour”にお越しのみなさん! 今日は一緒におどりましょう!」という山口の挨拶からはさらにディープなサウンドが広がっていく。蓮の花の絵がスクリーンに映し出され、美しくも儚ない音のグラデーションが描かれた「蓮の花」、シューゲイズの進化形とも言えるノイジーなギターサウンドからスタート、照明をすべて消し、完全な暗闇のなかで演奏された「壁」――“僕は壁さ”というフレーズが真っ直ぐに伝わってきて、1対1で音楽と対峙しているような感覚に包まれる――グリーンのレーザーライトが山口を照らし、穏やかで切ない旋律、サイケデリックな揺れを含んだアンサンブルがゆったりと広がった「years」、星空、宇宙を想起させるライティング、生命の始まりのイメージとも重なるオイルアートを取り入れ、オーガニックな手触りを持った音像を増幅させた「ネプトゥーヌス」、そして、人力ドラムンベースと形容すべきリズムアレンジを軸にしたグルーヴとドラマティックなボーカルライン、<僕は行く/ずっと深い霧の 霧の向こうへ>という決意を込めた歌詞がひとつになった「さよならはエモーション」。楽曲の世界観、サウンドイメージとリンクした演出を施すことで、音楽との新しい出会いを創造するサカナクションのライヴは、このツアーによって確実な進化を果たしていた。その大きな要因になっているのは、1年半に及んだライブ休止期間中の活動だろう。この期間も山口は、一瞬も立ち止まることなく新しい創造を続けていた。まずはカップリング&リミックス集『懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~』のリリース。メンバー自身のリミックスに加え、Qrion、agraphといった気鋭のトラックメイカーを起用した本作は、ダンスミュージックからの影響を大きく受けてきたサカナクションの音楽性をさらに進化させたはずだ。さらにクラブイベント『NIGHT FISHING』を開催したこと、ファッションデザイナーの森永邦彦(ANREALAGE)とともにパリコレに参加したこと、映画『バクマン。』の劇中音楽を手がけ、日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞したことも話題となった。新レーベル「NF Records」の立ち上げ、ニューシングル「新宝島」のリリースを含め、サカナクションの表現はこの期間も確実に前進を続けていたのだ。そこで得た成果は、今回のツアーにも強く反映されていたと思う。

サカナクション  Photo by 山本マオ

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岡崎英美(Key)がシンセのイントロを奏でた瞬間にフロアから「ウォー!」という声が上がり、「一緒に踊ろう」という山口の言葉によって、その歓声がさらに大きくなった「ネイティブダンサー」からは、ダンスミュージックの奥深い快楽を強く押し出したステージへと移行。「踊ろう、自由に。自分のステップで」(山口)という声も印象的だった「ホーリーダンス」、和服に身を包んだ女性ダンサーが登場、艶やかなダンスで彩りを加えた「夜の踊り子」(歌舞伎の“ミエ”みたいなポーズで歌う山口の姿も印象的だった)。当然、オーディエンスもさらに激しく踊りまくっていたが、それを支えていたのはやはりメンバーのアンサンブルだった。近未来的な雰囲気を醸し出す岡崎のシンセ、ブラックミュージックの要素を感じさせる草刈のベースライン、正確性を増したプレイでグルーヴを支える江島啓一(Dr)のドラム、エフェクティブかつエモーショナルなフレーズを放つ岩寺基晴(G)のギター。もう一度繰り返すが、サカナクションは今回のツアーによって、バンドとしてのポテンシャルを大きく上げてみせた。最近のインタビューで山口は「サカナクションのメンバーはすごい。僕がバンド以外のことをいろいろやれるのは、みんながいてくれるから」とコメントしていたが、その言葉通りの光景が目の前に広がっていた。

サカナクション  Photo by 山本マオ

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「みんな一緒に歌って。この会場、幕張を思い切り揺らしましょう! SAKANATRIBE!」という山口のシャウトから始まった「SAKANATRIBE TRANCEMIX With GOCOO+GoRo」も、このツアーの大きなポイントだったと思う。トランス、エレクトロ、テクノを融合させたかのようなトラックと日本の伝統的な打楽器である和太鼓を組み合わせたパフォーマンスは、他のバンドにはない、サカナクションの独創性を端的に示していた。以前から山口は日本のクラブミュージックの可能性に言及していて、「現状の日本のクラブミュージックは“いかに海外でウケるか”というアプローチが中心。そうではなくて、日本に古来から伝わる伝統的な音楽、楽器とダンスミュージック、クラブミュージックを融合することができれば、純国産の音楽を海外に発信できる唯一のツールになるのではないか」という趣旨の発言をしているのだが、「SAKANATRIBE TRANCEMIX With GOCOO+GoRo」はまさにそのコンセプトを体現していたのだと思う。

さらに「アイデンティティ」「ルーキー」というヒットチューンを連発、幕張メッセが巨大なクラブへと変貌していく。ギターのカッティング、ベースライン、リズムアレンジ、シンセの音色に細かい変更を加え、2016年バージョンにアップデイトされたサウンドも鮮烈だ。本編ラストは「改めてまして、僕たち私たちサカナクションです」という山口の挨拶にリードされた新曲「新宝島」。ノスタルジックなムードと近未来感が交差するこの曲は、サカナクションの最新モードをストレートに示していた。

サカナクション  Photo by 山本マオ

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アンコールはDJモードによる「グッドバイ(NEXT WORLD REMIX)」からスタート。バンドスタイルに移り「ミュージック」、資生堂「アネッサ」のCMでオンエア中の新曲(80'sテイストを取り入れたアレンジと爽やかなメロディラインが印象的なアップチューン。これ、シングルになったら絶対にヒットする)、そして「懐かしい曲もやろうと思います」(山口)と1stシングル「セントレイ」(2008年12月)に収録されている「Ame(A)」が披露された。

ここで山口は改めて今回のツアーで感じたことを話し始めた。
「正直ね、僕のなかだけのことだけど、このツアーでサカナクションは終わるんじゃないかなって思ったりしてたんですね。愛美ちゃんはお母さんになったし、みんな、それぞれ音楽の部分でプロフェッショナルだし、次の道があるのかなって。でも、ツアーを回って今日を迎えて、そんな気持ちは微塵もなくなったし、みんなからもらったものを全部音楽でしっかり返して、行けるところまで行ってみようと思います!」
さらに山口はサカナクションの立ち位置について、こんなふうに言葉を重ねた。
「僕の目の前には真っ白な線が走っていって、それを跨いでるんですよね。(左右を手で示しながら)こっちがマジョリティ、こっちがマイノリティ。その線を跨いで音楽をやっているというか、ただ重心を動かすだけ、どっちにも行かず。中途半端といえば中途半端だけど、サカナクションはどっちの気持ちもわかるし、どっちの通訳にもなれる。そういった音楽だったり、空間を、サカナクションとチーム・サカナクションで作っていこうと思います」

ライヴのラストは1stアルバム『GO TO THE FUTURE』(2007年5月)の収録曲「白波トップウォーター」。クラブミュージック、ロックサウンド、和的なメロディを組み合わせたこの曲は、サカナクションの原点と言っても過言ではない。バンドの出発点となった楽曲を2016年のサカナクションが大きくバージョンアップした状態で演奏し、約2万人のオーディエンスが熱狂する――そのシーンは、メンバー5人がサカナクションというバンドを自分たちの手に取り戻した瞬間に他ならない。そう、今回のツアーによってサカナクションは、これから進むべき道を自ら切り開いたのだと思う。

この日、山口は「年内にアルバムを出します! 年明けにはツアーもやります!」と宣言した。このツアーで得た経験が、サカナクションにどんな表現をもたらすのか、いまから楽しみでならない。


撮影=山本マオ レポート・文=森朋之

サカナクション  Photo by 山本マオ

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セットリスト
SAKANAQUARIUM 2015-2016“NF Records launch tour” 2016.4.10 幕張メッセ国際展示場 9-11ホール

1. N.F.I.G REMIX
2. アルクアラウンド
3. モノクロトウキョー
4. 表参道26時
5. Aoi
6. スローモーション
7. 壁
8. years
9. ネプトゥーヌス
10. さよならはエモーション
11. ネイティブダンサー
12. ホーリーダンス
13. 夜の踊り子
14. SAKANATRIBE TRANCEMIX With GOCOO+GoRo
15. アイデンティティ
16. ルーキー
17. 新宝島
[ENCORE]
18. グッドバイ(NEXT WORLD REMIX)
19. ミュージック
20. 新曲
21. Ame(A)
22. 白波トップウォーター
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