2年ぶり、コクーン歌舞伎第十五弾『四谷怪談』中村勘九郎インタビュー「若い自分たちがコクーンでやる意味を大切にしたい。」

インタビュー
舞台
2016.4.21

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2年ぶり第十五弾となる「コクーン歌舞伎」で上演されるのは『四谷怪談』。亡霊となったお岩の復讐劇として有名な作品だがそれがこの物語のすべてではない。お岩・伊右衛門、お袖・直助権兵衛という2組の男女が重要人物となるこの芝居で、直助権兵衛を演じる中村勘九郎に話を聞いた。

――『四谷怪談』は記念すべきコクーン歌舞伎第一弾(1994年)で上演された作品ですね。

 当時、自分はまだ中学生で一観客に過ぎませんでしたが、あの時のそれまで味わったことのない熱気と興奮は忘れられません。コクーン歌舞伎ではその後も『四谷怪談』を上演(2006年)しているんですが、その時は第一弾の舞台を踏まえた「南番」と斬新な演出の「北番」と2つのバージョンでした。今回は「北番」をさらに発展させたものになると思います。

――ということは、直助権兵衛とお袖の身の上に起こる悲劇を描いた「深川三角屋敷の場」も観られる貴重な機会になるのですね。

 そうです。上演されることが少ない場面ですから僕たちも非常に楽しみにしているんです。

――勘九郎さんが演じる直助権兵衛というのはどのような人物でしょうか。

 人を殺してしかも顔の皮を剥ぐという残忍なことをしてしまう悪い奴なんですが、とてもかわいそうでかわいい人だと思います。

――かわいそうでかわいい?

 お岩さまの妹であるお袖のことが好きで好きでたまらなくて、言い寄っているんだけどぜんぜん相手にしてもらないんです。それがある時、お袖が今でいう風俗で働いていることを知る。さっそく客としてそのお店へ行くんだけど、そこで死んだと思っていた彼女の夫が現れて、すっごい悔しい思いをさせられて……。その思いが殺人事件に発展してしまうんですが、事件を引き起こす心情として現実にもありそうな話だと思います。

――そしてその殺人事件を利用して、直助は「肌には触れない」という約束のもとお袖と形だけの夫婦となり三角屋敷での暮らしが始まるのですね。

 直助って人を殺しちゃうような悪い男なのにお袖との約束はちゃんと守るんです。そこがかわいいところで、本当にお袖のことが純粋に好きなんだと思います。そしてついに約束を破って思いを遂げたその日に、とんでもない悲劇が起こる。

『四谷怪談』というと、おどろおどろしい物語を想像される方が多いと思いますが、(四世鶴屋)南北の原作を読むと登場人物ひとりひとりがとても深く描かれています。だからその悲劇に向かっていく人物の思いがストレートに伝わってくるんです。それだけにお客様にとってはドラマのなかに入りやすい作品だと思います。それを今のこの年齢で、コクーン歌舞伎としてできるのが嬉しいです。

――等身大の若者のドラマとして胸に響きそうですね。

 前回のコクーン歌舞伎(2014年)で『三人吉三』を若いメンバーでさせていただいた時も思いましたが、大先輩の舞台と違って貫禄がないのがある意味では僕たちの強み。この公演がスタートした頃はいくつもの劇団がひしめき合う小劇場ブームだったけれど、今はそうではありません。若者が舞台離れしつつあるなかで、歌舞伎もコクーン歌舞伎も演劇そのものさえ、ご覧になったことのない方にも衝撃を与えられるような作品にしたいと思っています。

――コクーン歌舞伎での上演は3度目となる『四谷怪談』ですが、2016年の今だからこそ、の舞台になりそうですね。

 自分たちの若さで何ができるのか、ここでやる意味というのをちゃんと考え大切にしていきたい。そしてお客様には江戸時代に行ってそこで起こっている事件を目撃しているような感覚を味わっていただきたいと思っています。

 人の気持ちはリアルなんだけれど、目の前に現れるビジュアルはどこでもない非現実。そういう不思議な演劇的空間で、事件を起こしたり被害に遭ったりする人の脳のなかに入っていくような感覚を味わっていただけるのではないでしょうか。演出の串田(和美)監督がどんな世界をつくりだしてくれるのか、僕たち出演者も楽しみにしています。

取材・文=清水まり
撮影=平田貴章

公演情報
コクーン歌舞伎 第十五弾「四谷怪談」

日時2016年6月6日(月)~29日(水)
会場:Bunkamuraシアターコクーン (東京都)
出演者:中村獅童/中村勘九郎/中村七之助/中村国生/中村鶴松/真那胡敬二/大森博史/首藤康之/笹野高史/片岡亀蔵/中村扇雀 

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