久石譲を芸術監督に迎えた長野市芸術館が始動!

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2016.5.11

世界初演の祝典序曲『TRI-AD(トライ・アド)』で、まさに幕開け

 長野県の県庁所在地で、善光寺が鎮座する長野市で、『世界と長野市を芸術で結ぶ、新しい創造拠点へ』のコンセプトのもと、長野市芸術館が5月8日に、グランドオープニング・コンサート「久石 譲 指揮 読売日本交響楽団」でメインホールのこけら落としを行った。スタジオジブリのアニメ映画や北野武監督映画の作曲で知られる久石譲同館芸術監督(長野県中野市出身)の指揮により、この日のために芸術監督が作曲し、世界初演となった祝典序曲『TRI-AD(トライ・アド)』、アルヴォ・ペルト『交響曲第3番』、チャイコフスキー『交響曲第5番 ホ単調作品64』を読売日本交響楽団が演奏した。満員の客席は、およそ2時間のコンサートに酔いしれた。

 『TRI-AD』について、久石芸術監督は「作曲にあたって、最初に決めたことは3つです。明るく元気な曲であること。トランペットなどの金管楽器でファンファーレ的な要素を盛り込むこと。6〜7分くらいの尺におさめること。『TRI-AD』とは3和音の意味です。ドミソに象徴されるようなシンプルな和音を複合的に使用すると結果的に不協和音になったりするのですが、どこか明るい響きは失われない。ファンファーレ的な扱いも3和音なら問題無い。すべてのコンセプトを3和音に置いて、それを統一する要素の核にしたのです」と語っている。

 メインホールは座席数1292席の、音楽主目的の多機能ホール。私は音楽にものを言えるほど詳しくはないが、美しい音色がやわらかく、よく響いていたのはわかった。まったく関係ない話になるけれど、長野市芸術館への道すがら、山下達郎がホールについて語っているのを聞いた。「スピーカーやヘッドフォンもそうだけれど、買ったばかりではいい音が出ない。どんどん音を鳴らしていかないと本当にいい音は出ない。ホールも同じ。本当にいい音が鳴るようになるには最低5年はかかるもの」と。劇場に演劇の神様が宿るようになるのと同じかもしれない。本当に愛し、愛されて、使われていくのが大事なのだとつくづく思う。これから長野市芸術館にもたくさんの汗や涙、思いがホールに染み込んでいくことを期待したい。

 「アートは人間が創造した遺産です。もしかしたらそこに生きるヒントや勇気があるかもしれない。アートと言ったって所詮同じ人間が作ったものです。我々が作ったものです。ありがたがる必要もないし、構えて見たり聞いたりする必要もありません。何回か足を運んでいただいて、実際に音楽や演劇に接していただくと、その面白さが分かってきます。その精神活動をする人が“心の豊かな人”なのです」(久石芸術監督)

専門性に特化した空間で、さまざまなコンサートから演劇まで幅広く

 5月11日・12日には、演劇・ダンス主体の可変型多目的ホールである「アクトスペース」が、20代の市民を出演者オーディションで選び、小池博史ブリッジプロジェクトを主宰する小池博史(元パパ・タラフマラ)が演出するアクトスペースチャレンジ2016『KENJI』でこけら落としを行う(入場無料)。『KENJI』とは宮沢賢治のこと。善光寺の門前には、かつて数多くの劇場(芝居小屋)が存在した時代があり、時を経て現在は空き店舗や空き家をリノベーションして演劇やアート活動を行うスポットが増えている。賢治が提唱した「農民芸術概論」を現代に置き換え、まずはアクトスペースも含めたこの門前のスポット群やそこで活動している才能たちと協力して、演劇やダンスを中心とした文化を市民に浸透させていく、その初心表明とも言える公演だ。

 さらに、生の音の響きを重視した音楽専用のリサイタルホール(293席)では、5月14日にオープニング・コンサートとして、長野市出身の山本貴志によるピアノリサイタルを行う(チケットは完売)。山本は2005年ショパン国際コンクール第4位入賞、ワルシャワ・ショパン音楽アカデミーを首席卒業。「ポーランドの魂(こころ)を伝えるピアニスト」として注目を集めているピアニストだ

 そして夏には、長野市から発信する夏の音楽フェスティバル「アートメント NAGANO 2016」や「Summer Kids Days Nagano」を開催したり(これはまた改めて記事にしたいわ)、館が特別編成する室内オーケストラ「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」では久石監督が敬愛するベートーヴェンの交響曲全曲とライフワークとするミニマルミュージック、中世ポリフォニー音楽、バロック以前の古楽作品を織り交ぜたプログラムで2年間・全7回の演奏会を実施するなど、今年度は約180もの自主事業を開催していく。

 長野県には、俳優・演出家の串田和美が芸術監督を務める松本市の「まつもと市民芸術館」、扇町ミュージアムスクエアや伊丹アイホールを立ち上げ、北九州芸術劇場の館長兼チーフプロデューサーを務めた津村卓氏が館長を務める上田市の「サントミューゼ」、そして長野市芸術館と、県を代表する3地区に創造事業を柱にする公共ホールがそろった。全国的にも珍しいことでもあり、それらの切磋琢磨、連携がどんな文化都市を作り出してくれるのか楽しみだ。

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