KERA×古田新太『ヒトラー、最後の20000年』レギュラーの山西惇に直撃!
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山西惇 [撮影]吉永美和子
「役者として、余所では使わないような技術が求められる世界です」
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と古田新太という、数々の受賞歴を持つ名作家・演出家&名俳優──しかも50歳を過ぎた大の大人同士が、デタラメ・凶悪・不謹慎な笑いにあえて挑むユニット、通称「古KERA」。その第3弾となる『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』を前に、この舞台に3回連続で出演する俳優・山西惇に話を聞くことができた。古田とは関西小劇場時代からのつき合いで、KERA作品の常連でもある彼から見た「古KERA」の魅力とは?
「古田君は“半分の人は怒って帰るけど、半分の人は大絶賛するような作品をやりたい”と、若い頃から周期的にずっと言ってるんですよね。でも演劇の持つ凶暴さ…唐(十郎)さんや寺山(修司)さんとかの芝居を観に行った時に感じる“あ、何か怖くなってきた。最後まで観てられるかな?”っていうような、ゾワゾワっとするもの。それを演劇は与えることができるし、そういう作品をたまには作りたいっていう気持ちはすごくわかります。でもまあ、僕としてはできれば帰ってほしくない(笑)。せっかくお金払って観に来てもらったのに、ねえ?」
第1回公演『犯さん哉』より [撮影]田中亜紀
実際前回の『奥様お尻をどうぞ』は、東日本大震災直後に世相を反映したネタをやったりと、相当キワキワな内容だった。脱力系の笑いの連続に、東京公演では途中で帰る客も少なくなかったそうだが、逆に大阪ではビックリするほど歓迎されたという。
「カーテンコールになってもみんな帰らなくて、大倉(孝二)君が最後に“もう帰れ!”と言ったぐらい(笑)。人気バンドのコンサートみたいな状態で、あまり他の舞台では見られない現象でした。(第1回公演の)『犯さん哉』の時はまだ(お客さんが)笑いどころを探ってとまどっている感じだったけど、『奥様…』では“通じてるやん!”っていうのを肌で感じました」
とはいえ演じる側にとって古KERAの世界は、かなり高度で特殊なスキルが求められるそうだ。しかも稽古の最中に「全然面白くない」と感じる段階にまで到達しないと、本当の意味で面白くはならないという。
「自分ではまともだと思って、こんな(デタラメな)ことをしゃべっている…という風に思い込んでいかないといけないので、役に入り込めば入り込むほど“この面白さがわからなくなってきた”と思う時期が来るんです。でも他の人がやっているシーンを観たら腹抱えて笑うし、周りも僕の出ているシーンを観て笑うので、多分大丈夫なんだろうっていう(笑)。でもこういう、会話のズレやストーリーが横滑りしていく様を面白がるというのは、俳優にしかできない笑いの提供の仕方じゃないかなあと思うんです。キャラクターの強さで笑わせるのは、お笑いの人には敵わない部分があるので。そのズレていく感じをいかにお芝居としてキチンとやって、お客さんに届けるかという、その究極のことをやっている世界だと思います」
第2回公演『奥様お尻をどうぞ』より [撮影]引地信彦
しかしその一方、稽古始めの段階では過去2回とも、山西は読み合わせだけで「涙が出るほど笑った」そうだ。
「届いた脚本は冒頭の6ページぐらいだったんですが、その部分だけでも笑ってしまって台詞が読めなかったぐらい。そんなこと、なかなかないんですよ。今回も稽古始めに、何がしかのものを書いて来てくださると思うので、それを楽しみにしておこうかなあと。ヒトラーがどう扱われるかはまだわかりませんが、もしかしたら最後まで出てこないかもしれない(笑)。多分今回も、劇場に来てみないとわからないし、人に“どんな劇でしたか?”と聞かれても説明のしようがないものになるでしょうね。でもある意味、それがまさに【演劇】なのではないかと思います」
映画でも何でも、シリーズ物はだいたい3部で完結するケースが多いことを考えると、古KERAもこれが打ち止め? などとささやかれているが…。
「こればっかりやるという気持ちにはならないけど(笑)、年を取れば取るほど、こういう“演劇に不謹慎なんてなくていい”というようなことをやった方がいいと思うし、演劇として1つ残していかねばならない遺産じゃないかと。若い人に“あんなこともやっていいんだ”と感じてほしいし、それは古田君もKERAさんも考えている部分ではあると思うので。せっかくみんな50代に突入して“いい年こいて”っていう冠が付くようになってるから、もうちょっとやった方がいいという気はしています」
■東京公演
2016年7月24日(日)~8月21日(日) 下北沢 本多劇場
※5月21日(土)
■福岡公演
2016年8月27日(土)、28日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
※6月12日(日)
■大阪公演
2016年9月1日(木)~4日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
※6月5日(日)
■新潟公演
2016年9月10日(土)、11日(日) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
※6月25日(土)
■作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■出演:古田新太、成海璃子、賀来賢人、大倉孝二、入江雅人、八十田勇一、犬山イヌコ、山西惇
■公式サイト:http://cubeinc.co.jp/stage/info/kera-furuta16.html