橋本良亮と河合郁人が懸命に生きようともがく『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場レポート

レポート
舞台
2016.5.30
『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)


1980年に発表された村上龍・原作の『コインロッカー・ベイビーズ』。発表当時は、日本全体に衝撃を与えた話題作となった。SF小説のような近未来を感じさせつつ、その一方で今の若者が抱える「魂の叫び」が聞こえてくる…そんなイメージを抱かせる本作が、ついに2016年、音楽劇となって甦る。

コインロッカーに捨てられた二人の赤ちゃん、ハシとキクを主軸に現代を痛切に描写する物語。果たしてどのような舞台となるのだろうか。

先日、稽古場にて、その模様を1幕だけ見学してきた。

この日、初めての通し稽古とのこと。稽古場に入ると、ハシ役の橋本良亮がステージセットの階段にぶら下がり、懸垂のような動きで筋トレに励んでいる。そして、キク役・河合郁人は他のキャストとアクション部分の確認中。

やがて昆夏美シルビア・グラブ真田佑馬芋洗坂係長、そしてROLLYと、メインキャストたちが続々と稽古場に登場し、思い思いのやり方でウォーミングアップ、そして発声練習を続けている。徐々に室温があがっていく。

「今日は通しだけど、安全第一で。焦ることはない。通してほしいのは“気持ち”だけ」と演出の木村信司が全員に指示を出し、いよいよ通し稽古スタート。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

ステージ奥には一段高くなっているセットが組まれ、どうやら中央部分は前にせり出す動きができるようだ。そして両脇には可動式の階段。

場面は新宿の駅。駅員(真田)が日課の業務をこなしている。開けっ放しのコインロッカーを荒っぽく閉めると、これから起きる物語を予兆させるエレキギターのロックテイストな旋律がうるさいくらいに響き渡る。そこにアンサンブルのダンスが加わる。まるで狭い部屋に閉じ込められ、そこからもがき出ようとするような動きだ。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

アンサンブルの中から登場したのはROLLY。その後シルビア・グラブも登場。そしてこの作品の主人公、ハシとキクが姿を見せる。これまでの激しい音楽とは対照的にピアノの美しい音色に合わせて歌いだす二人。橋本は高音を活かした痛々しさ、繊細さを感じさせる歌声。河合は中低音の太い声で強さを感じさせる歌声。役柄の性格までもが見えてくる二つの声の共鳴。「赤ん坊」故にまだ何にも染まっていない二人の印象的な登場シーンだ。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

ハシとキクの幼児期。二人の脳に残るコインロッカーに遺棄されたという残酷な記憶は、治療で封印された…はずだったが、それから10数年後、とあるきっかけで封印が解ける。記憶が解放される瞬間、悪夢の強烈なビジョンに狂乱し、暴れだすハシ。それを止めるキク。そこから二人の人生は大きく変わりだす。

親に捨てられた嘆き、悲しみはおそらく二人共通の思いだと思うが、ハシは、ただひたすらに愛を求め、やがて音楽に身を投じる。一方、キクは悲しみを原動力にこの世界を壊そうとする。悲劇の「きょうだい」が運命にあらがおうとする姿は、見るものにどちらにも共感できる痛みを伝えてくる。

やがてハシはニヴァという女性と、キクはアネモネという女性と出会う。少し過激な部分もあるが、はじけんばかりに明るいアネモネを演じる昆夏美は、濁りのない伸びのある歌声でキクとともに物語にエネルギーを与えていく。一方ニヴァを演じるシルビア・グラブは、大人の女であり、そして母性を感じさせる存在でハシを包み込む。心のどこかで求め、もしくは全否定してきた「自分たちを捨てた母=女性」という存在を前に、二人がどう変わっていくのか、この後の展開が期待される1幕の通し稽古だった。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

ちなみに、この舞台にはさまざまな「音」がある。

波の音、ジェット音、エレキギターの音、ピアノあるいはチェンバロのような音、心臓の音、ハシの声、キクの声、ハシの歌、キクの歌…そして二人の叫び。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

ともするとキスシーンや男娼としてのエロティックなダンスといった、「視覚」に訴えるものだけに反応してしまう人もいるかもしれない。もちろんそれはそれで、あるがままを自由に感じてほしいが、それとともに聴覚に訴えてくる「音」にもぜひ耳を傾けてほしい。

暗く、狭く、閉ざされた空間で生まれたハシとキクにとって、唯一の光となる「音」はこの作品にとっても重要な要素。ぜひ二人と同じ運命を共有するために、そして「生きること」の意味と重さを感じるために、すべての「音」を全身で受け止めてほしい。

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

『コインロッカー・ベイビーズ』稽古場(撮影:阿部章仁)

公演情報
「コインロッカー・ベイビーズ」

■日時・会場:
2016年6月4日(土)~19日(日)赤坂ACTシアター
2016年6月24日(金)~25日(土)福岡市民会館
2016年6月29日(水)広島文化学園HBGホール   
2016年7月2日(土)~3日(日)オリックス劇場

■原作:村上龍
■脚本・演出:木村信司
■音楽:長谷川雅大
■出演:橋本良亮(A.B.C-Z)、河合郁人(A.B.C-Z)、昆夏美、シルビア・グラブ、真田佑馬、芋洗坂係長、ROLLY ほか
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/program/clb2016/

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