『VIVA LA ROCK 2016』オフィシャル・クイックレポート 田中茉裕
『VIVA LA ROCK 2016』2016.5.29 さいたまスーパーアリーナ
GARDEN STAGE 田中茉裕
その声が放たれた途端、瞬く間に場の空気が変わっていった。少し陽が傾き始め、ド頭から暴れていたロックキッズ達が小休止を挟み始める16時20分。GARDEN STAGEにヴァイオリニストとふたりだけでステージに上がった田中茉裕は、彼女の弾くピアノとそれに寄り添うストリングスのみという音数の少ない編成ながら、自身の声の力であっという間に場を掌握していった。そのあまりに絶大な存在感を持って響き渡る、歌。忸怩たる思いや寂寞観、その果てにある孤独を、今にも壊れそうな張り裂けんばかりの熱唱で届ける彼女のライヴは、“5月の太陽”、“小さなリンジー”、“夕焼け色の風”と進んでいくにつれ、空の下で伸び伸びとくつろぐオーディエンス達に少しの緊張感をもたらしていく。しかし、その緊張感こそが、またとても心地いいのだ。
「見に来てくれてありがとう」と丁寧にお礼を伝え、ヴァイオリニストがステージを後にしてからは彼女ひとりのみでライヴを進めていったのだが、その後半のステージは、まさに圧巻だった。ひとりの生涯の中で受ける痛みのすべてが籠ったかのようなガラスの名曲“ゆるして”では、ステージの上で彼女の孤独が完成していくかのようにフラジャイルな深淵が深まり、聴き手に容赦なく存在証明を突きつけていく。彼女が描き出すあまりに美しいメロディと深い情念のコントラストは、独特の違和感と畏怖にも似た衝撃を静かにリスナーの心に広げていくと共に、不思議と深い安堵をも与えていく。それは、彼女の歌が、誰もが心の奥底に抱える誰とも分かち合えない感情や人知れぬ傷口にまでリーチしていくからだろう。
最後はこの夏に配信でのリリースが決まったという待望の新曲“4月のメロディー”を披露し、終幕。一時は体調不良などで活動休止も経験した彼女は、ここからまたその無二の音楽を羽ばたかせていくはずだ。田中茉裕にしか歌えない珠玉の歌を歌い上げ、彼女は静かにステージを後にしていった。
レポート・文=黒田隆太朗
GARDEN STAGE 田中茉裕
2.小さなリンジー
3.夕焼け色の風
4.ゆるして
5.4月のメロディー