「自分の作品を客席で観れるのが今から楽しみ」脚本・池田鉄洋がミュージカル『TARO URASHIMA』を語る!

インタビュー
舞台
2016.6.24
池田鉄洋

池田鉄洋


8月11日(木・祝)から、明治座にて上演される舞台『TARO URASHIMA』​は、おとぎ話「浦島太郎」をモチーフに、 個性とアクの強いキャラクターたちと紡ぐ、大人から子どもまで楽しめるオリジナルファンタジーミュージカルだ。主人公の浦島太郎を木村了が、乙姫を上原多香子が演じるこの舞台、肝心の脚本を手掛けるのは俳優、演出家、脚本家の顔を持つ“イケテツ”こと池田鉄洋。パンフレット撮影の合間を縫って、『TARO URASHIMA』が生まれるまでの裏話をたっぷり聞いてきた。

――脚本がとってもおもしろくて!何より主人公・浦島太郎が「絶望的にツイてない人」という設定が斬新でした。

あの浦島太郎は、演出の板垣(恭一)さんと、千葉プロデューサーと、何度も話をしながら作り上げたキャラクターなんです。
もともと浦島太郎って不思議な話ですよね。最初に亀を助けて、その後竜宮城でいい思いをして、最後は玉手箱でひどい目に遭う。冷静に考えるとここまでの話は、ツイてない男の「プロローグ」というか、すべてがツイてないことに結びついていく話なんじゃないかなって思ったんです。そこから「とことんツイてない、だけどメゲない男っておもしろいよね?」って展開になって。

じゃあ乙姫はどうする?という次の話へ。「どっちもツイてないキャラクターだったらどうでしょう?」ということになり。どうしても中身がスカスカな浦島太郎の話に向き合って中身を埋めるときに、とんでもなく個性的な感じにしてやろうかなと思ったんです。

――竜宮城と人間界の成り立ちも面白いと思いました。(※ネタバレにつき割愛)海と陸上を見比べてそういう発想に至ったことはなかったな、って。

よく考えてみると海の生物ってそんなに陸の生物を食べたりしないじゃないですか。その背景を考えてみたんです。以前、魚の干物を食べながら「これ、元の魚が見たらショックだろうなあ…解剖されて開かれて干されている訳だし。原型をとどめないくらい調理されているならまだしも、元の形がまるわかりだし!」…ってことをいろいろ考えていて。

今年の春から「海の風景」という草笛光子さん、串田和美さん、小島聖さんとの4人芝居をやっていたのですが、そこでは海から上がった海トカゲという設定だったので、全然題材は違うんですが、海について考える時間がたっぷりあったんです(笑)で、いろいろ考えて「ああこれおもしろいな」って考えていたものを全部脚本にぶち込みました。

今回出演する人数も私が手掛けた作品では最多なんです。これだけの人数がいるので、一人ずつの物語を考えていくと2、3時間じゃ終わらないだろうと。だから最後に話がまとまったときには「よくやった自分」と思いましたね(笑)

――そもそも、どんな形でイケテツさんに今回のお仕事の話がきたんですか?

「明治座でミュージカルで浦島太郎で」という話から始まりましたが、そこでなぜ私に話がくるのか?おかしいな、俺を抜擢してくださる理由はなんだろうと最初は思いましたね。でも、千葉プロデューサーたちと話をしていくうちに、おもしろがるポイントが私と近い方々なのかなと感じまして。そこからあとはとんとん拍子に決まっていきましたね。

――脚本を書いていていちばん大変だった場面はどこでしたか?

玉手箱の場面。本当に悩みましたね。元の話がよければそれを利用すればいいんでしょうが、割と残念な話なので(笑)なぜ浦島太郎が乙姫から玉手箱をもらい、それを開けちゃって老人になるのか…。どうしてもその箱を開けざるを得ないように仕向けるにはどうしようか、そこが悩みどころでした。千葉プロデューサーと話をしているときに「乙姫を守るために」開けるのがいい、という話になり、ならば、玉手箱をあげるときは、浦島太郎を守るためにあげるという、二人の愛の結晶として玉手箱が存在するといいな、と思ったんです。

――個人的には、もともとの浦島太郎の話でこの場面がくると、「開けないで!絶対開けないで!」というやりとりがダチョウ倶楽部のネタのように思えてくるんです。「やるなやるな」と言われるとやりたくなるあの展開が…。

おもしろいけどその展開だとクライマックスにはならないですよね(笑)とはいえ、本当の理由がわかるまで、一瞬お客さんを騙したいので板垣さんと相談してみるかな(笑)

――さきほど、登場人物が過去最大人数という話が出ましたが、それぞれの役名も楽しいですね。

お子さんも観に来るだろうと思って、名前にインパクトが欲しいと思ったんです。「セサミ・ストリート」に出てくる「クッキー・モンスター」とか、やはり覚えるじゃないですか。「ダイオウグソクムシ」という名前も覚えてほしいと思ったんです。キャッチーだけど子どもっぽくなりすぎない「境目」を探してましたね。「ダイオウグソクムシ」は最近ニュースにもなっているし、知っている子も多いんじゃないかな!

池田鉄洋

池田鉄洋

――サブキャラで個人的に好きなのが「アンコー」なんです。「あの」有名人の真似をするキャラが!

しつこいくらいやってますよね。1回2回じゃサムイからしつこくやるのがいいと思って。途中でわかると恥ずかしいので最初から元ネタがわかるようにしておきたいですね(笑) 一応アンコー役を演じる土屋シオンさんには「あの声は出るのか?」という確認はしましたね。…出るらしいですよ(笑)

――キャスティングについてどのくらいリクエストしたんですか?

千葉プロデューサーにお任せしました。この人はこの役のほうがもっといい味が出る、とかわかっていらっしゃるし。

今回アテ書きはしてないんですよ。木村了くんの出演が決まったときに、もっといろいろやれるだろうと加筆はしましたが、そもそも「アテ書き」はしてないんです。その後続々とすごい人たちがこの作品に参加してくださることになって、だったら…と、嬉しい書き直しをしましたね。

――木村了さんが浦島太郎に決まったときのお気持ちは?

「了くんだったら間違いはない」と思いました。「帝一の國」シリーズの2と3、そして「ライチ★光クラブ」を拝見していますので、木村さんのすごさは知っていますから。これ、結構難しい役だとは思うんです。主役で、巻き込まれるだけじゃなく、本来だったらツイてない役だから「華」は出ないんでしょうが、木村くんならそんな設定でも華に変えられる不思議な力を持っている。ネガティブパワーをおもしろく華に変えられる人だと思っています。あと、どんな球でも受けるよという度胸がある人ですから。

――斉藤 暁さんの名前もあって、思わず嬉しい悲鳴が出ちゃいました!

斉藤さんの出演、本当に嬉しかったです。亀が斉藤さん…かわいいよなぁ、もうすでに。あと和泉元彌さんが帝役をやってくださるのも嬉しかった。帝ってかなりハードルが高い役ですが、もう完璧なキャスティング。浮世離れした感じもピッタリですし。豪華ですよね!千葉さんの意気込みが伝わったんだと思います。ディズニーに負けない、宮崎アニメに負けない内容にしたいっておっしゃっていて。「で、俺でいいの?」とは思ったんですけど。

――タカアシガニ将軍も舘形比呂一さんですし、本当に贅沢極まりないですね。

舘形さんにはぜひ筋肉を見せつけて踊ってほしいですね。板垣さんはエンターテイメントを突き詰めている人なので、すべて役者さんの持てる華は全部見せたいという欲張りな人なので。俺も華を見せたいと思って書いてますが、板垣さんはさらに欲張りに仕上げてくると思いますよ。

池田鉄洋

池田鉄洋

――実はイケテツさんが脚本だけでなく、ご自身も出演されるんじゃないかと思っていたんですが。

僕は『こち亀』(舞台『こちら葛飾区亀有公演前派出所』)に出るので!(笑)  でもこっちにも出たかったなぁ。とはいえ、お客さんとして自分の作品を観に行くことができるので楽しみです。これまで自分で大きな舞台をやらせていただいたときは、出演もしていたので観ることができなかったしね。

――この登場人物が多い「TARO URASHIMA」ですが、ご自身に一番近いキャラクターは?

僕、とことんツイてなかったんですよ。厄年からずっと。それこそパワースポットに行こうとあちこち調べたくらいツイてなかった。何をやっても裏目になり、一昨年くらいに結婚して「もう、どうでもいいや!家族が大事だ!」って思うようになってからはすごく楽になった。バリに行けば台風がやってきて、ハワイに行けば年に一度の大嵐に遭う…本当にそんな年があって。撮影に行っても必ず雨になって「これ、池田のせいじゃないか?」と言われてその場では猛烈に否定していたんですが、心の中では「すみません、私のせいです」って思っていましたね。

――「ツイてない」自覚があったんですね(笑)。

ありましたね。「はい、本番!」って声がかかった直後にヘリコプターがバラバラ飛んできたこともあるし、これは何かあるかも……と思ったけど、それを超えたら強くなれたような気がします。

……ということで、ツイてないけどメゲないキャラクターという浦島太郎の中に僕が入っています。ハワイで嵐に遭っても俺、動じなかったんですよ。当然雨が降ると思っていたので。そうしたら雨が降ってもイライラしないので、そんな姿を素敵だって今の奥さん…当時の彼女に尊敬されました(笑) いやいや、この雨は俺のせいなんだけど…と内心思っていたんですけどね。

基本、浦島太郎の物語はハッピーエンドじゃないので。鶴になっちゃったって結末もあるようですが、「鶴になって果たして幸せか?」と思うし。大人が見ても子どもが見てもわかりやすく「ハッピーエンドだった!」っていう終わりにしたいです。そのためには「玉手箱」というアイテムが何か機能してないと…いじめられた亀の話も入れておきたいですし…タイやヒラメの舞い踊りも入れておきたいし…漁師は漁師でいてほしいし。もともとの浦島太郎の話を子どもたちが知っている話と大きく変えたくなかったんです。「全然ちがーう!」って言われたくないし。

――イケテツさんの脚本に板垣さんの演出が加わることで、ここからさらに大きく膨らんでいくと思いますが、今の段階でこのあたりが見どころになりそう、と思う場面は?

帝の大祓(おおはらえ)の検非違使(けびいし)たちが歌い踊るところは、かなりショーアップしてほしいなと思ってます。タイやヒラメの舞い踊りとかも。板垣さんだからこそ思いっきりやってくださると思いますよ。かわいい子たちがダンスして歌うというのも「る・ひまわり」ならではですし。

あの明治座で、大人も子どももキャーキャーしてほしいですね。明治座はもともとお客さんがキャーキャー言っていい空間なんだろうな、と感じています。

僕が初めて明治座で観たのは風間杜夫さんの「居残り佐平次」。割と声を出して笑いながら観ても許される、王道の演劇を上演してきた劇場なので、「今回もそういう場にしなさいよ!」って誰かに言われているような気がします。

池田鉄洋

池田鉄洋

(取材・撮影=こむらさき)

公演情報
『TARO URASHIMA』​

■日時:2016年8月11日(木・祝)~15日(月)
■会場:明治座

■脚本:池田鉄洋
■演出:板垣恭一
■音楽:伊藤靖浩

■出演:
浦島太郎=木村了
乙姫
上原多香子
カメ
斉藤暁
ムサシ
崎本大海
甲太子
滝口幸広
ダイオウグソクムシ参謀
辻本祐樹
深海王子
原田優一
アンコー
土屋シオン
ヒラメン
碕理人
丙姫
森田涼花
クロダ氏/アイ鯛
竹内寿
ダテ氏/キスシ鯛
中村太郎
ウエスギ氏/ツメタクシ鯛
月岡弘一
カワイ氏/チョーネク鯛
桝井賢斗
タケダ氏/ウバイ鯛
香山佳祐
シタスギ氏/ヘン鯛
塩川渉
海豚妃/ムサシの彼女
角島美緒
貴族ヒダリ麻呂
二瓶拓也
コバンザ
高木稟
貴族ミギ麻呂
大堀こういち
タカアシガ二将軍
舘形比呂一
竜王
坂元健児
和泉元彌(特別出演)
鯱妃
とよた真帆

【第二部】
鯛や平目の舞踊りショー
司会:三上真史

■公式サイト:
http://www.meijiza.co.jp/info/2016_08_urashima/special-special/​
 
 
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