海老蔵と巨大エビが歌舞伎座に夏を運ぶ!『七月大歌舞伎』初日レポート

レポート
2016.7.3
「景清」景清=市川海老蔵

「景清」景清=市川海老蔵


夏の始まりを彩る七月大歌舞伎が7月2日(土)歌舞伎座にて始まった。

今回の演目は市川海老蔵、市川猿之助、市川右近、市川中車のそろい踏み。歌舞伎十八番のうちの「鎌髭」「景清」、そして「荒川の佐吉」ほか。早速、初日の夜公演を観てきた。

「荒川の佐吉」(あらかわのさきち)は明治から昭和にかけて活躍した劇作家・真山青果の作品をもとに、青果の娘で劇作家・演出家の真山美保が手掛けた作品。

両国界隈を束ねるやくざの子分、佐吉(猿之助)が、ひょんなことから親分の娘が産んだ盲目の子を預かり育てることに。ところがその子が長じてから産みの母がどうしても子を返してほしいと懇願する。流れ者・成川(海老蔵)との縄張り争いに負け、さらには博打で身を滅ぼした親分はとうに亡く、以降、貧しい男手一つでどれだけ苦労して、そして実子のようにかわいがって育ててきたかを切々と語る語る佐吉。そして…。

『荒川の佐吉』左より佐吉=市川猿之助、辰五郎=坂東巳之助

『荒川の佐吉』左より佐吉=市川猿之助、辰五郎=坂東巳之助

親の身勝手で子どもが受難し、胸につまされる事件が相次ぐ中、佐吉が子にかけた愛情の深さが猿之助の名演により観るものの心に染み入ってくる。また、産みの母の苦しい思いをわかってほしい、子どもの将来も考えろと仲を取り持つ政五郎(中車)の存在も重要。終盤では劇場のあちらこちらから鼻をすする音が聞こえてきた。四幕八場、通常の演劇と同様の2時間超えという大作だが、時代や表現の仕方が変わっても親子の愛、人の情は変わらないのだと訴えてくる一作。薄暗い夜明け前から徐々に朝日がさしてくる、時の流れを感じさせる終盤の照明にもぜひご注目を。

30分の幕間のあとは、歌舞伎十八番のひとつ「鎌髭」(かまひげ)

鍛冶屋の四郎兵衛…本当の姿は源氏方の三保谷四郎(左團次)らが、修行者に身をやつした平家方の落人、悪七兵衛景清(海老蔵)に「髭を剃ってやる」という理由をつけ、鎌でその首をはねようとする。ところが景清は不死身の体。なにをどうやっても首を落とせない…。

「鎌髭」左より景清=市川海老蔵、三保谷四郎=市川左團次

「鎌髭」左より景清=市川海老蔵、三保谷四郎=市川左團次

舞台上にずらりと並ぶ源氏方の諸氏の鮮やかな姿、そしてそこに質素ないで立ちだが、なんともいえぬ凛々しさと強さを放つ景清。源氏と平家の力関係が逆転したこと、だがその中で景清がどれだけ脅威の存在であるかも伝わってくる。

とはいえ、実はこの演目はシリアスな話ではなく、要所要所で笑わせてくるのだ。修行者が景清であることはバレているのに、ワザと気が付いていないフリをする源氏方が、「あれ、誰かに似てんじゃない?景清とかさー」「今、歌舞伎座で七月歌舞伎に出ている海老蔵ってヤツにも似てなくね?」(※現代語訳)と、冷やかすので観客は都度大笑い。また、自分が景清の首をはねてやる、とやる気満々な猪熊入道(市川右近)が景清に振り回される姿はビエロのよう。景清が源氏の総大将・頼朝を小馬鹿にして挑発する様といい、それに対して源氏方が「ムムムムム…!」と分かりやすく不快感を表す動作といい、おもしろい場面がてんこ盛りだ。歌舞伎のセリフ回しがいまいちわからないという方や海外からのお客様でも十分楽しめる演目だろう。

そして同じく歌舞伎十八番のひとつ「景清」(かげきよ)

捕まって土牢に入った景清(海老蔵)は、源氏方が尋問するも全く口を割ろうとしない。そこで源氏方・岩永(猿弥)は、景清の妻であり花魁の阿古屋(笑三郎)と子の人丸(福之助)を連れてきて、牢前で尋問をしようとする。阿古屋と人丸もすぐ隣に景清がいるとわかり、話しかけるが一向に口を利かない景清。やがて言い寄ってくる岩永を袖にして怒らせた阿古屋が処分されそうになったところに、同じく源氏方の重忠(猿之助)がやってきて、岩永の言動を叱る。その後重忠はたった一人で景清と話がしたいと呼びかける。万民の平和と安寧を考えているのはお前だけではない、と。

舞台上の隅から隅までが景清を捕らえる巨大な牢屋。檻には巨大な鎖が張られている。冒頭はやや「鎌髭」の余韻が残るような笑いどころもあるが、阿古屋の命が危うくなるあたりから、徐々に話はシリアスに。

たった一人、舞台のど真ん中で景清を説得する重忠に観客すべての目が注がれる。これを受け止める猿之助の空間コントロール力、そして劇場の隅々までに響き渡る通りのいい声質。実力・人気ともに今が旬、という言葉にふさわしい存在感だった。

そして、もう一人。ずっと土牢の奥にいるこの演目の主役である海老蔵。彼が舞台に出てきただけでそこにすべての光が集まるかのような「ザ・主役」のオーラは、他の役者ではそうそう出せるものではないもの。「景清」の最後で切った大見得は、背後に設置した巨大エビのセットにまったく引けを取らない迫力だった。

今更の話で恐縮だが、筆者は今回、新しくなった歌舞伎座を初めて利用した。2階席の奥からでも舞台は映画館の大スクリーンのように見易く、よっぽどの座高の高いお客が前にいない限りほぼ舞台を邪魔することはない。外は30度を超える暑さだったが中は暑すぎず、冷えすぎず、そして乾きすぎずな空調。おそらくお手洗いの個室数も増えたのだろう。ずらりと並ぶ姿は幕間直後のごく一瞬。館内スタッフの観客への声掛けも丁寧。お土産もふんだん。英語表記も至る所で見かけ、「観客が利用しやすい劇場」という点では都内でも指折りのものとなっていた。

七月大歌舞伎は、海老蔵ほか、TVでもお目にかかる演者もいるので、初心者でも敷居が低め。夏の遊興先の一つとしても歌舞伎座をおすすめしたい。全幕通しで満喫するもよし、全席自由の一幕見席からチャレンジするのもまた一興だ。

公演情報
七月大歌舞伎
■日時:2016年7月2日(土)~26日(火)
昼の部 午前11時~/夜の部 午後4時30分~
【貸切】9日(土)昼の部、23日(土)昼の部 ※幕見席は営業
■会場:歌舞伎座

シェア / 保存先を選択