演出家・長塚圭史と夫婦役を演じる田中哲司と原田夏希が緊張感ただよう稽古場で『浮標』を語る
(左から)田中哲司、原田夏希、長塚圭史
6月下旬の東京で、長塚圭史による演劇プロジェクトであり葛河思潮社の第五回公演『浮標』の本読み稽古が始まった。2011年、劇作家の三好十郎が1940年に発表した戯曲である『浮標』を、号泣しながら読んだという長塚圭史が、新プロジェクト・葛河思潮社の旗揚げ公演として本作を上演し、大きな反響を呼んだ。その後、2012年に再演されるもその人気は衰えず、ついに今年、一部新たなキャストを迎えての再々演が発表された。台詞の一言一句に細かく耳を傾ける演出家の元で、緊張感ただよう演者と稽古場。夫婦役を演じる田中哲司と原田夏希、そして演出の長塚圭史から話を伺った。
――今回の再々演を迎えるにあたって。
長塚:『浮標』を再々演するにあたり、もちろん田中哲司さん演じる久我五郎ありきで考えていました。ただいつどのように3回目のオファーをするかが難しくて、かなりタイミングを伺いました。何せ大変な芝居ですからね。
田中:長塚さんからお話をいただき、「やるならやろうか」とお受けしました。新しい共演者と新しい作品を創り上げていくのはとても楽しみです。
長塚:面子が随分とまた変わったので、作品の“色”もまたぐんと変わってくると思います。濃くなると思いますよ、また一層。いずれにしても全員でこの作品をシェアしながら改めて真摯に創作してゆくのですけど。
原田:再演の『浮標』は観ました。静かでとても印象的な作品でした。その時に美緒を演じた松雪泰子さんが語った言葉が今でも心に残っています。舞台に出たいと思っていましたが、まさか『浮標』に出演できるとは思いませんでした。田中哲司さんとは以前テレビドラマで一度兄妹役としてご一緒したことがありますが、舞台では初めてです。ご出演の舞台は何度か拝見したことがあり、物静かで穏やかなイメージがあります。
田中:以前の兄妹役も原田さんは自分より「若いな」と思いましたが、今回は夫婦役でどのように見えるか期待しています。
長塚:演劇としては二人の実年齢の差は関係なく、気にならないものと考えています。上演を繰り返す中で、新しい世代をどんどん加えて上演していくことで、現在の『浮標』像がみえてくると考えていまして、それは初演からブレないコンセプトです。
長塚圭史
――自分が演じる「人物像」について。
原田:猛勉強中です。美緒が置かれた状況を一生懸命理解しようとしています。本を読んでいるだけで泣けてきます。ただ、泣けてくるのは客観的に感じているからであり、本当にこのような環境だと自分なら「泣いている場合ではない」と感じると思います。
美緒が患う結核についても調べました。今でこそ「不治の病」ではなくなっていますが、当時この病気を患い、死を迎え揺れ動く境地を如何に顕していくか、考えながら取り組んでいます。美緒は舞台上でほとんど動きがなく、横になっています。前回美緒役の松雪泰子さんとは映画でご一緒したご縁もあり、「腹筋が大事」とアドバイスをいただきました。そして、砂埃が凄いので「喉に気を付けて」とも言われました。
長塚:動作は演じるにあたり大きな助けになるのですが、それがないわけですからね。物凄い集中力を要求されるとても大変な役です。
田中:芸術創作活動に携わる人間として久我五郎に共感できるところはありますが、自分と久我五郎は全くの別人です。でも別人を演じるほうが楽しいですね。あと僕は久我五郎ほど怒りっぽい人間ではありません(笑)。
田中哲司
――『浮標』の魅力とは。
田中:一つ一つの台詞がとても力強く感じます。古い文体で書かれているので喋りづらいのですが、体に馴染んでくると快感を覚えます。現代では使われないような台詞回しも出てきます。昭和感溢れる、和の言葉です。
長塚:日本の戯曲でこれだけ哲学が込められている本があるということ。今の日本で日常的には実感しにくい「死」に強烈に向き合い、それが故に「生きること」が輝いてきます。三好十郎の言葉は詩情あふれる言葉使いをされている訳ではありません。いってみれば、状況を淡々と説明しているようなイメージですが、ひとつひとつの台詞がとても“熱い”ので、想いを乗せやすいのです。手強い台詞も多く、最初はみんな翻弄されましたが、ある時ぐんと世界に連れて行かれるような不思議な魅力があります。
田中:『浮標』の久我五郎は、カンパニー全体を背負わざるを得ない存在で、これほど自分の役割を求められる作品に向き合ったことはほとんどありません。台詞量も多く、どこかでセーブしたくても全力で立ち向かわなければ乗り越えられない。くれぐれも体調管理だけはしっかりしていきたいです。また3回目の出演に臨み、新たな課題を持ち、取り組みたいです。前回の感じをなぞるのはたやすいことですが、2回の上演を経て自分に取り込まれたものを表現できるようしたいです。
原田夏希
――お客様にひとこと。
原田:実は昨日まで神戸で撮影の仕事をしており、今朝東京に戻ってきました。これまでも兵庫県にはNHKの連続テレビ小説「わかば」のロケ等で何度も伺っており、港町特有の大好きな風景でとても親しみのある懐かしい場所です。井戸知事とも震災関連のセレモニーでお会いしたことがあります。今回この舞台で兵庫にお伺いできること、とても楽しみにしております。
田中:とにかく、頑張ります。それしかないです。
■作:三好十郎
■演出:長塚圭史
■出演:田中哲司、原田夏希、佐藤直子、谷田歩、木下あかり、池谷のぶえ、山崎薫(崎のつくりは立と可)、柳下大、長塚圭史、中別府葵、菅原永二、深貝大輔(戯曲登場順)
■公式サイト:http://www.kuzukawa-shichosha.jp
●8/4~7◎KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
〈問い合わせ〉ゴーチ・ブラザーズ 03-6809-7125 (平日10時~18時)
●8/11◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
〈問い合わせ〉プラットチケセンター 0532-39-3090(休館日を除く10 時~19 時)
●8/13、14◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
〈問い合わせ〉芸術文化センターオフィス 0798-68 -0255
●8/20、21◎ 四日市地域総合会館 あさけプラザホール
〈問い合わせ〉『浮標』三重公演実行委員会 070-5407-3925 (担当ウエダ 10時~18時)
●8/28◎北九州芸術劇場 大ホール
〈問い合わせ〉ピクニックセンター 050-3359-8330 (平日11 時~17 時)
●8/30◎佐賀市文化会館 中ホール
〈問い合わせ〉佐賀市文化会館 0952-32-3000/ピクニックセンター 050-3359-8330 (平日11 時~17 時)
●9/2~4◎世田谷パブリックシアター
〈問い合わせ〉ゴーチ・ブラザーズ 03 -6809 -7125 (平日10時~18時)