戦慄のトークライブをレポート「夏だ!ビールだ!クリムゾンだ!!スターレス髙嶋やっててもいいですか?」……いいとも!
髙嶋政宏(a.k.a スターレス髙嶋)@LOFT9 (撮影:飯盛 大)
その男には二つの顔がある。スターレス髙嶋。俳優・髙嶋政宏の、もう一つの顔である。
私がスターレス髙嶋(以下スターレス)のことを初めて見たのは、テレビ東京の音楽番組「ROCK FUJIYAMA」である。この番組のコンセプトが、既存の音楽番組では拾いきれない、ゲストのマニアックな話を聞き出すというものだったが、スターレスのロックへの熱い想いは、この番組ですら十分に受け止め切れていなかった。そのスターレスがついに自らの舞台を用意し、ロックへの愛を語り尽くすというイベントを開催するという情報を耳にした。
私事になるが、十代の一時期、日本のキング・クリムゾンと言われるバンド、美狂乱の名曲「二重人格」が好きすぎて「二重人格・深見」を名乗っていたことがある。後に髙嶋氏がスターレスの二つ名を名乗っていたことを知り、勝手ながら精神的なつながりを感じ、心の師と仰いできた。そのスターレスのリミッターが解除される舞台が用意されていると聞き、会場となったLOFT9に向かった。
渋谷道玄坂のほど近く、O-Eastなどのライブハウスとエロスの館が犇めく円山町に目指すLOFT9はある。周囲の淫靡な雰囲気とは、趣を異にする瀟洒なカフェ風(昼間は本当にカフェ)の会場だ。到着したのは開演二時間前。二時間後に、ここが日本で一番プログレッシブな場所になるとは俄かには信じられなかった。
平成28年7月22日18時30分。総キャパ百名ほどの会場は既に満席(男性率高し)。そして開演。聞き手の吉留大貴氏の呼び込みに合わせ会場内に「21st century schizoid man」が大音量で流れる。スターレスが登場。万雷の拍手に迎えられたスターレスが壇上に設えられたソファーに座る。スターレスを名乗りながら光輝くスターのオーラを纏った男がそこにいた。何かが起こる予感。
その男はラッパを吹き鳴らしながら客席内を駆け回って現れた (撮影:飯盛 大)
トークを始める前に今回のタイトル『スターレス髙嶋やっててもいいですか? ~夏だ!ビールだ!クリムゾンだ!!~』に合わせ、会場全員で乾杯。出だしの会話はスターレスとロックとの出会い。セックス・ピストルズに衝撃を受け、ロック世界の入り口に立つ。その後ロックTシャツを初めて買った小学生時の思い出や、新宿ロフトに向かったが新宿の暴力的な雰囲気に怖じ気付いて帰った思い出など、微笑ましい会話が繰り広げられる。客席は優しい笑顔でいっぱいだ。
やがて、カップルシートのようなソファーに、吉留氏と男二人で体を寄せ合うように坐っていることに気付いたスターレス。そこから会話は“そちら”のほうに向かい、俳優デビュー後、間もないころに出演したドラマ「同窓会」の話題へと移った。
さらにミュージカルに出演していた時期、打上げで新宿2丁目に行った時のこと。ある店で、2丁目初心者風の若者が店のオネエサンに誘惑されて、嬉しそうに震えていた。その震えていた若者が、5年後に若手俳優のホープとしてデビューするという思い出話。会場は爆笑の渦に包まれ、スターレスのトークも俄然熱のこもったものになる。この段階で開始20分を経過していた。キング・クリムゾンの話題はほぼ出ていない。話は、ゲイやバイセクシャルの、より専門的な話に突入するが、吉留氏がしっかり軌道修正し、「スターレスの名前の由来」という本筋の流れに持っていく。この後もかなりの頻度で会話が脱線するが、吉留氏が見事な手綱さばきで軌道修正を図る。
なぜ、「スターレス髙嶋」という名前になったのかという話に。10代の頃、友人の家でキング・クリムゾンやピンク・フロイドなどのバンドを聴かされ、プログレッシブ・ロックの啓示を受けることになる。中でもキング・クリムゾンのアルバム『レッド』の最終曲「スターレス」に大きな衝撃を受けることになる。「世の中にはこんな素晴らしい曲があるのか」と。その後、俳優としてデビュー。ある仕事で一緒になった俳優のベンガル氏の命名逸話を訊いた際に「そんな好きならスターレスと名乗れば?」と言われたことがきっかけとなった。
ある日、自分がスターレスと名乗ることを知るはずのない山田五郎氏に「スターレス!!」と呼ばれたことがあり、その時に音楽の仕事はスターレスと名乗ることを決心したとのこと。会場全体が「へぇ~」となる。
その後、レコード会社との逸話を挟み、昨年のキング・クリムゾン来日公演の話へ。知り合いのM氏からヨーロッパツアーの芳しくない評判を聞き、全公演の予約を躊躇してしまったとのこと。しかし、初日の出来が素晴らしく、2日目以降はいきなりソールドアウト。その後、トリプルドラムのポリリズムの素晴らしさ、ギャヴィン・ハリソンの素晴らしさ、ツインドラム時のしっくり来ない感じを熱く語るスターレス。
2015年キング・クリムゾン来日公演(公式に許可された撮影) (撮影:高木大地)
今回のライブの素晴らしさは、1981年の浅草国際劇場でのキング・クリムゾン初来日公演で感じた素晴らしさに並ぶものであったとのこと。
そして、通りすがりの人からもらった、件の浅草国際劇場でのライブ音源が流れる。曲は「エレファント・トーク」。曲を聞きながらスターレスが浅草国際劇場の思い出を語る。キング・クリムゾンのメンバーに「太陽と戦慄!!」「太陽と戦慄!!」と叫ぶ大人に戦慄しながらも、「太陽と戦慄」を演奏されて自分もテンション上がり、ステージ近くに駆け寄った。が、その隙に座席に残してきたパンフを盗まれた。でも、公演を3日間予約していたからダメージは少なかった、というジェットコースターエピソードを披露。会場は爆笑に包まれる。
このあたりから、クリムゾントークが本格的にグルーブし始める。エイドリアン・ブリューやボズ・バレル、メル・コリンズなどのメンバー評を熱く、優しく語るスターレス。
話は、内田裕也氏の、ニューイヤーロックフェスティバルに移行。10代のスターレスは最初受付のお兄さんに入場を禁止されたが、友人と深夜に会場に進入。受付のお兄さんがゲイ雑誌を見ていたというエピソードが披露される。ここでまさかの軌道修正!!
ここで、ゲストの祖父尼淳氏が『レッド』Tシャツを着て登場。するとスターレスが、それまで着ていた『太陽と戦慄』Tシャツをおもむろに脱ぎだす。Tシャツの下にはもう一枚のTシャツが隠れており、『レッド』が登場する。前段の話から二人の関係を邪推する声もあがったが「何もない」とのこと。
プログレ音源の世界的コレクター、祖父尼淳氏 (撮影:飯盛 大)
祖父尼氏が好きなアルバムを紹介。好悪の分かれ目になっていることが多いが、『アイランズ』や『リザード』が好きとのこと。あらゆる音楽を聴いている祖父尼氏の言葉は重みがある。『アイランズ』と『リザード』を聴きなおそうと誓った人間は私だけではあるまい。話は、キング・クリムゾンの多様性に広がる。
スターレスはコレクターズシリーズを聴いてみたところ、ライブではファンク、ジャズ、ブルースの要素が盛り込まれており、その演奏が素晴らしく、日本のファンはクリムゾンに正統派なプログレッシブ・ロックを期待しているが、海外のファンは、多様性を受け入れ、踊りながら聴いているのではないか?その多様性からクリムゾンは最高のライブバンドであることに最近気付いたとのこと。
祖父尼氏の所有する、今回の来日公演初日の音源や、1974年の解散直前の最後のライブの最後の「スターレス」の音源を聴きながら前半戦終了。……となる予定であったが、話はプログレッシブ・ロックとSMの話へ。ここも吉留氏がしっかりまとめて、前半戦終了。
第二部スタート。難波弘之氏が登場。第二部も乾杯でスタート。スターレスは『リザード』のTシャツを着て登場。
プロデビュー40周年を迎えた難波弘之氏 (撮影:飯盛 大)
出だしは難波氏が音楽を聴き始めたころの話。中学生、高校生の時はザ・ザ・ゴールデン・カップスが好きで、ザ・ゴールデン・カップスがカバーしている洋楽をよく聴いており、洋楽ではキャプテン・ビヨンドが好きだったとのこと。次にキーボーディストから見たキング・クリムゾン評に突入。ロバート・フリップが選んだキーボーディストのブッキング力を評価していた。キース・エマーソンなどの、いわゆるスターキーボーディストはいないが、後に影響を与える素晴らしい曲が多く、そこに、ロバート・フリップのブッキング力を見るとのこと。日本を代表するプレーヤー視点の興味深い考察に、会場全体が深くうなずく。
ここで、吉留氏から俳優であるスターレスにこんな質問が飛んだ。「ロバート・フリップに近い日本の演出家はいるのか?」。スターレス曰く規律に厳しい一方で、奥さんと一緒にバラエティ番組出たりするような超越した多様性を持つ人はなかなか見当たらないとのこと。役者として数多くの作品に登場しているスターレス、いやここは「俳優:髙嶋政宏」として語っていたに違いない。多くの経験と知識に基づいた彼にしかできない深い洞察に会場全体が感動。しかし、徐々にスターレスの顔が表出し、ロバート・フリップの奥さん(トーヤ・ウィルコックス)のアルバム評や映画『さらば青春の光』(トーヤ出演)から見るロバート・フリップ夫妻の関係を解説し始め、会場全体を置き去りにしていく。
続いてのゲストは、プログレッシブ・ロックバンドの金属恵比須。スターレスは次世代のバンドとして大変高い評価をしているとのこと。オマージュ、というかパクりもあるけど、実はそれが大事という話から、SMの話に突入。バラ鞭の素晴らしさを語り始めたが、吉留氏がきちんと軌道修正。金属恵比須登場。メンバー紹介。リーダーでギターの高木大地氏、艶やかな和装のボーカルの稲益宏美氏。キーボードの宮嶋健一氏。
スターレスが改めて金属恵比須を推す理由を説明。「紅葉狩」を聴いた時に「これだ!!」と思ったとのこと。「無理矢理に自分の色を出すというのではなく、シンプルにやりたいことをやる」ことの大切さを力説。
そして、ここで金属恵比須初となるアンプラグド・ライブが始まる。曲は「紅葉狩」からの抜粋。いつもより、伸びやかな稲益氏のボーカルが会場全体を制圧する。見慣れぬアコースティックスタイルの高木氏のギターのリズムが曲を引っ張り、宮嶋氏のキーボードの音色が会場全体を優しく包み込む。スターレスは目を瞑り曲に没入。たった数分の演奏であったが、現在進行形で進化しているバンドの力を見せつけられた。
「紅葉狩」アンプラグド・ヴァージョンを初演奏する金属恵比須(トリオver.) (撮影:飯盛 大)
金属恵比須はトークにも参加。「ギターを持って歩いていたら、髙嶋さんがトークライブをやっていたので、入ってみた。たまたまです」という無理矢理な偶然を装う高木氏。事前にフライヤー配付しといてそれはないでしょ(笑)。
高木氏が「金属恵比須がアネクドテンのパクりといわれている」というと、スターレスは「ツェッペリンも入っているけど、パクりじゃなくてオマージュだ!!」とフォロー。
話は金属恵比須とキング・クリムゾンに。高木氏はロバート・フリップの『エクスポージャー』が好きであり、このアルバムにはキング・クリムゾンが凝縮されていると力説。会場内でも頷いている人が多かったのが印象的。
ここで、祖父尼氏と難波氏が改めて登場する。このあたりになると、檀上のトークはアルコールの影響もあるのか、ドリーム・シアター への厳しい意見や、キング・クリムゾンのバンドスコアの酷さについてなどを各々が自由に発言。
プログレ談義はConfusionへと向かう…… (撮影:飯盛 大)
トークライブは最終盤に差し掛かり何故か質疑応答が始まる。ここでスターレスが『リザード』Tシャツを脱ぎ、その下から『ディシプリン』Tシャツが登場。質問は以下の4つ。
質問1。ジェイミー・ミューア在籍時の映像を見ると、のちのビル・ブルーフォードへの影響は顕著にうかがえるが、ジェイミー・ミューア脱退直後のビル・ブルーフォードの演奏には若干の無理があったと思うがいかがか?
質問2。というか指摘。前半戦に出てきた昔の音楽番組の内容について。
質問3。デヴィッド・シルヴィアンとロバート・フリップの関係についてどう思うか?
質問4。ロバート・フリップのキング・クリムゾン外の活動についてどう思うか?
どうだろう、この質問の濃さ。スターレスはこれらの質問に対し、当意即妙に回答。「仮にまた、トークライブを開催するとしたら、次回は質疑応答からやろう!!」という無双ぶりを発揮した。
最後にゲストから一言づつ。
祖父尼氏。スターレスさんと「ゴブリン ナイト」というイベントをやり、その前はジャーマンプログレのイベントをやった。次は全世界のキング・クリムゾンのカバーの紹介をやってみたいとのこと。
高木氏。スターレスさんと一緒に「スターレス」を演奏したい。
難波氏。音楽雑誌「レコード・コレクターズ」で書いたキング・クリムゾンの記事の裏話を披露。
宮嶋氏。5年ほど前に、友人とベロベロに酔いながら、“いつか本物のメロトロンを使ってスターレスさんと「スターレス」を演奏したい”と話していた。今回の縁をきっかけに、その夢を実現させたい。また、次回のトークライブのアイデアとして「僕たちの嫌いなキング・クリムゾン(のアルバム)」を募るというのは、どうか。そのワーストアルバムについてスターレスさんに、みんなが好きになるようなトークをしてもらいたい。その時には自分も生演奏で参加する。
大団円は会場全員で「笑っていいとも!」風に「世界に広げようプログレの輪」をおこない、3時間を超えるイベントが終了した。
スターレス髙嶋「プログレのプログレは皆プログレだ!世界に広げよう……」 (撮影:飯盛 大)
イベントは大成功だったと思う。タイトルのキング・クリムゾンのみならず、その他の音楽やSMなどの深く、楽しいトークは会場全体を大満足させたと思う。ただ、3時間程度ではスターレスの話は収まるはずがない。スターレスが超多忙なのは分かるが、ぜひ1年に1回は自ら主催のトークイベントを開催してほしい。実は、今回のライブレポでは「スターレスが本物のロバート・フリップに会った話」や「エリック・クラプトンのライブで出会ったトニー・レヴィンの話」など、超絶に面白い話の内容はカットした。これらの話は、次回以降に本人の口から、より多くの人に語られるべき話であると思ったからだ。
今回キング・クリムゾンファンの心に染み入る深い話をしているスターレスを見て、分かったことがある。キング・クリムゾンのみならず、ロックに対する深い愛を持っていることについては彼のパーソナルな資質に由来することが大きいと思う。一方で、今回のイベントで見られたロックに対する深すぎる洞察力や分析力は、一流の俳優として、常に表現行為の最前線に立ち続けた経験や努力から来るものだと推察される。他の誰とも違う、迫力のあるトークは一朝一夕で出来上がるものではない。
イベントでは、私自身が知らない音楽の話も多数出てきており、より深く音楽を知るきっかけになりそうだが、私はむしろスターレスの出演している作品に興味を持った。彼の出ている作品を見ることで、手元にある音楽やこれから出会う音楽に対する見方や聴き方がより広がる可能性を感じたからだ。
最後になるが、私は今回、運良くリハーサルに立ち会うことができた。嗚呼このリハーサルのすばらしさといったらなかった。実は、金属恵比須の面々が「紅葉狩」を演奏したあと、スターレスと金属恵比須による、「スターレス」セッションが披露されたのだ。残念ながら本番では披露されることがなかったが、鳥肌ものの演奏風景であった。いつか、「髙嶋恵比須」で「スターレス」が披露されることを夢見ながら筆を置くこととしたい。
本番では披露されなかった幻のパフォーマンス(リハーサル風景より) (撮影:飯盛 大)
■日時:2016年7月22日(金)OPEN 18:30 / START 19:30
■会場:LOFT9 Shibuya (東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F TEL.03-5784-1239)
■出演:髙嶋政宏(俳優)【聞き手】吉留大貴(文筆業)
■公式サイト:http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/46789
■日時:9月10日(土)18:00
■会場:EX THEATER ROPPONGI
■料金:全席指定 6,500円(税込・入場時ドリンク代別途必要)
(※年齢制限なし 就学児必要。未就学児は保護者膝上での鑑賞無料。)
■出演:
SENSE OF WONDER 〈 難波弘之(Key,Vo)、そうる透(D)、松本慎二(B) 〉
ゲスト:髙嶋政宏 / Burny 日下部 / 玲里 / シークレットゲスト
■公式サイト:http://nambahiroyuki.com/
■問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (10:00-18:00)
プログレッシヴ・ロックは語る
■日時:7月31日(日) OPEN 18:00 / START 19:00
■会場:LOFT9 Shibuya (東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F TEL.03-5784-1239) http://www.loft-prj.co.jp/loft9/
■出演:難波弘之(ミュージシャン)、巽孝之(批評家)、岩本晃市郎(音楽批評)、吉留大貴(文筆業)他
■料金:前売¥1600 / 当日¥1900(飲食代別)
■公式サイト:http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/47196
■内容:巽孝之著『プログレッシヴ・ロックの哲学 増補決定版』、文藝別冊『エマーソン・レイク&パーマー』の発売を記念して、プログレッシヴ・ロックを語り尽くすイベントを開催。プログレを哲学し、プログレで文学・マンガを横断して、音楽批評に新たな地平を開く夜。
■日時:9月18日(日)18:30開演(17:30開場)
■会場:高円寺High
東京都杉並区高円寺南4-30-1 http://koenji-high.com/access/
■出演:金属恵比須
■:前売 3,000円 / 当日 3,500円 +1drink(整理番号順)
■一般発売:7月16日(土)
■公式サイト:http://yebis-jp.com/post-711/