広瀬すず主演「ちはやふる」の千早たちが住む街“府中”
■ 【連載】聖地巡礼さんぽ~あの作品の街を歩く~Vol.18
漫画や映画、ドラマなど、人気作品の舞台となった街を散策し、“住みたい街”としての魅力を深堀していく本連載。ここからみんなの“住みたい街”が見つかるかも?
第18回で取り上げるのは、累計発行1700万部を超える末次由紀の人気少女コミックを、広瀬すず主演で実写化した映画「ちはやふる」。「上の句」「下の句」と題して二部作連続公開され、合計で興行収入30億円に迫る大ヒットを記録。早くも続編の製作が決定し話題を集めている。
物語のテーマは、小倉百人一首を用いた“競技かるた”。千早(広瀬すず)、太一(野村周平)、新(真剣佑)の幼なじみ3人の関係を軸に、競技かるたに情熱をかける高校生たちの友情や恋、成長が描かれた青春ストーリーだ。
家庭の事情で新は福井県に引っ越してしまうが、千早と太一が暮らす街は東京都府中市。原作漫画やアニメ版(2011年と2013年に2度テレビアニメ化)にも府中の風景がたびたび登場していることから、すでに府中は“ちはやふるの聖地”として盛り上がっている。
原作の世界観を活かすため、映画でも府中市の各所で撮影を敢行。ストーリーと共に、作品に登場するスポットや街の魅力を紹介する。
■ 「清水下小路」
高校生になり、“競技かるた部”を創るため部員集めに奮闘する千早は、「日曜日の大会で優勝したら創部を手伝って」と太一に無理やり約束を取り付ける。その大会を終え、疲れ切って寝入ってしまった千早を太一がおぶって上がるのが「清水下小路」の坂だ。
「清水下小路」は、分倍河原駅と府中本町駅の間を、ほぼ南武線の線路に沿って続く何気ない小道で、「分倍河原駅方面」「府中本町駅方面」と方角を示した看板が目印になっている。
分倍河原から府中本町方面へ進むと、道幅がより一層狭くなり、件のシーンの舞台となった上り坂にたどり着く。勾配はなかなかに急なので、おんぶして上る太一が「これはなんの苦行だ…」とつぶやくのも納得。
このおんぶシーンは、恋愛よりむしろ“スポ根”要素の強い本作において、数少ない恋愛ムードが高まる場面。撮影時にはキュンキュンする女性スタッフが続出し、スタッフの間で“おんぶ坂”と命名されたそう。
「(ロケハンで見つけた)特になんてこともない坂。でも雰囲気がとてもよかった」(小泉徳宏監督)と語るように普通の坂ではあるが、これを機に“おんぶ坂”として有名になるかも。
■ 「東府中駅」
千早の必死の思いも報われ、なんとか部員5名が集まり“競技かるた部”が誕生。
その放課後、部員となった奏(上白石萌音)と“肉まんくん”こと西田(矢本悠馬)を見送り、千早と太一が電車を待っているのが東府中駅のホームだ。
「かるた部ができたら電話するって決めてたの!」と言って、緊張しながら新に電話する千早を、太一が複雑な表情で見つめるという印象的なシーンが映されている。
原作とは少し異なるが、京王線独特の雰囲気を監督が気に入り、千早たちが通う都立瑞沢高校の最寄り駅として使われている京王線の東府中駅。府中競馬正門前駅を結ぶ競馬場線の起点にもなっており、音楽ライブや吹奏楽のコンクールなどが開催される「府中の森芸術劇場」の最寄り駅としても知られる。ファミリーレストランや書店などが入った商業施設「京王リトナード東府中」が駅に直結しているのも便利。
■ 「下河原緑道」
いよいよ東京都大会を明日に控えた学校の帰り道、千早と太一が薄暗い道を並んで歩いているのが「下河原緑道」。
別れ際、「ありがとう、かるたを好きでいてくれて。それが一番うれしい」と話す千早に、連絡先を教えておいてと新から託されたメッセージを、伝えるか悩む太一の姿がせつない。
1976(昭和51)年に廃線となった旧国鉄下河原線の跡地を利用して、自転車・歩行者専用道として整備した「下河原緑道」は、田園風景の中を南北にまっすぐと走り、四季折々の花や木を楽しむことができる。
緑道を南へ進むとたどり着くのが、府中の自然と歴史が学べるフィールドミュージアム「郷土の森博物館」だ。
梅やあじさいなど季節を彩る花々が有名で、直径23mの巨大ドームスクリーンに1万2000個の星々を映す迫力のプラネタリウムも人気が高い。
■ 「片町文化センター」
映画には登場しないものの、千早が競技かるたにのめりこむ原点となった場所として原作で描かれる「片町文化センター」は、現在、建物の外観をアニメ「ちはやふる」のイラストでラッピング中。
千早、太一、新と一緒に写れる記念撮影スポットなども用意されている。
また、千早と太一が所属している競技かるた団体「府中白波会」のモデルが、「片町文化センター」の大広間を練習場としている「府中白妙会」。さらには、國村隼演じる「府中白波会」会長・原田先生も、この「府中白妙会」の前田秀彦前会長をモデルにしているそう。
■ 「菓子の青木屋 府中けやき並木通り店」
1893(明治26)年、府中の地に創業し、多摩・武蔵野エリアに店舗展開する「菓子の青木屋」。かつては大國魂神社の境内に店を構え、アイスキャンディーやお団子などを販売していたという、府中を代表する菓子店だ。
100年以上培った文化や技術、味を受け継ぎ、北海道産小豆など材料にもこだわり抜いた自家製餡「百年製餡」を主軸に、季節を伝える和菓子を販売している。
そして映画と直接関係はないが、劇場公開時には連日売り切れるほど人気だったという商品が、「菓子の青木屋 府中けやき並木通り店」限定で販売されている。
その一つが、「ダディベアどら焼き」。“ダディベア”とは、映画の中でも千早の持つタオルに描かれているクマのキャラクター。沖縄県産の黒糖が香るふんわり生地で“百年製餡”のつぶ餡をたっぷり包んだ同店の人気商品「日々是 くろどら」に、“ダディベア”の顔が焼き印されている。購入するには、5日前までに電話で注文しよう。
もう一つが、「ちはやふるサブレ」。バターの風味がいいサクサク生地に、千早や太一、新、ダディベア、スノー丸といったアニメのキャラクターが描かれている。
「若い方からご年配の方まで、幅広い方々に関心を持っていただいています。府中のお菓子として、プレゼントやおみやげにとまとめて買ってくださる方も多いです」と語ってくれたのは、「ダディベアどら焼き」と「ちはやふるサブレ」を同店で販売するため尽力されたという副店長の塔本今日子さん。
10年ほど住んでいるという府中の魅力についても、「自然が多くてのんびりと落ち着いた街でありながら、都心にも出やすく便利です。人も温かくて活気があり、特に5月の大きなお祭りの時には街がとても活気づきますよ」(副店長の塔本さん)と語ってくれた。
「府中市は、緑が豊かで、大國魂神社の境内や天然記念物のケヤキ並木のほか、公園や緑地が多くあり、ほっとする街です。府中駅前には伊勢丹やフォーリス・くるるなどのショッピングセンターがあり、買い物にも便利です。また、市内には鉄道の駅が14もあり、京王線で新宿から特急で3駅、約20分ほどと、交通の便も大変いいので、とても住みやすい街です」と、街自慢が止まらないのは府中市経済観光課の藤原裕司さん。
確かに、街のどこを歩いていても、「視界に必ず緑が入って来る」と思うほど緑が豊か。それでいて、自然が野放しにされている風でもなく、日ごろからきちんと整備されているのを感じる洗練された雰囲気に好感が持てる。
そして今回特に感じたのは、市をあげて盛り上げに盛り上げている「ちはやふる」フィーバー。キャンペーン冊子やお菓子だけでなく、文化センターのラッピングまで、あふれる「ちはやふる」愛&府中愛に、原作漫画ファンとしてはうれしい限り。
また、「毎年70万人以上の観光客が訪れる大國魂神社の例大祭『くらやみ祭』のほか、よさこいやジャズin府中、府中マルシェなど、さまざまなイベントが一年を通じて開催されていてにぎやかです」(府中市経済観光課の藤原裕司さん)とも。
「ちはやふる」のにぎわいも、祭り好きで活気ある市民性によるものなのかもしれない。
そして府中といえば、大化の改新によって武蔵国の中心となる国府が置かれるなど、古くから栄えた地で、歴史的な遺跡なども多く残っている。そんな歴史ある街だからこそ、百人一首というモチーフがしっくりとはまっているのだろう。
品があるのに、盛り上がる時にはとことん盛り上がる。一度訪れてみると、そんな府中の魅力についついひかれてしまうはず。【東京ウォーカー/小林未亜】
第19弾は9月上旬配信予定