世界を震撼させた傑作に、至高の実力派俳優たちが挑む!舞台『DISGRACED/ディスグレイスト―恥辱』稽古場レポート

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2016.8.31

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2013年にピュリッツアー賞(戯曲部門)を受賞。さらに2015年にはトニー賞(ベストプレイ部門)にもノミネートされたアヤド・アフタルの傑作『DISGRACED/ディスグレイスト―恥辱』がついに日本初上演となる。

演出は、次々と話題作を手がける名匠・栗山民也。現代アメリカを舞台に、パキンスタン系アメリカ人の男と白人の妻、ユダヤ人の男とアフリカ系アメリカ人の妻という、信仰も文化も社会思想も異なる人々の交流と対立を通じて、人間の本質と現代社会が抱える問題を浮き彫りにする。

そんな注目作に挑むのは、小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成の5人。今回は、その稽古場の模様をレポートする。

この日、稽古が行われたのは、第二場。パキスタン系アメリカ人の弁護士・アミール(小日向)と、その妻で白人の画家・エミリー(秋山)の家へ、ユダヤ人の美術館キュレーター・アイザック(安田)が訪ねてくるという場面だ。画家であるエミリーにとっては千載一遇のチャンス。浮き足立つ妻を横目にアミールの顔色は冴えない。その原因は、その日の新聞の内容だ。甥のエイブ(平埜)に請われ、アミールは裁判中のイスラム教指導者の審問に立ち会い、擁護するコメントを発表した。その発言が新聞に断片的に切り取られたことから、アミールは自らの立場を案じているのだ。

タイトルである“disgraced”とは、“辱める、地位や名誉などを失わせる”の意味。今なお世界にくすぶり続ける人種差別や宗教差別を題材にした本作らしい、デリケートな場面だ。

これまで通しで読み合わせなどは行ってきたが、この場を集中的に稽古するのは今日が初めて。まずは小日向、秋山、安田の3人が流れを通して演じてみせる。弁護士として成功を手中におさめながらも、小心ぶりが目立つアミール。少し神経質そうなキャラクターを、小日向が人間味たっぷりに表現する。一方、秋山演じる妻のエミリーはサバサバとしていて、肝が据わっている。夫婦ながら好対照な性格で、ふたりの掛け合いは自然と盛り上がる。立ち稽古がスタートしてまだ数日という状況だが、さすがベテランらしくすでに呼吸はぴったりだ。

そんな夫婦の間に割り込んでくるのが、安田演じるアイザック。彼はホイットニー美術館のキュレーターをしている。つまり、アイザックに認められれば、エミリーは一躍その名をあげることができるのだ。普段は、どちらかと言えばライトな作品の印象が強い安田。本格的な翻訳劇は本作が初めてだと言う。お茶の間でおなじみのコミカルな顔を封印し、その表情は凛々しく色気がある。まだ序盤だけに、そのキャラクターの全貌は明かされないが、含みのある演技で一筋縄ではいかない人間模様への期待を膨らませる。

ひとまず場を通したところで、演出の栗山から細かい指導が入る。本作の人物相関は、まさに現代世界の縮図となっているが、アメリカに比べても宗教問題や民族問題に関する馴染みが薄い日本人にとっては、なかなか理解し得ない部分もある。その認識をしっかり共有するため、栗山は台詞ひとつひとつを汲み取りながら、丁寧に俳優たちに説明していく。台詞のタイミング、反応すべきポイント、立ち上がるきっかけ。そうした細かいところにまで神経を注ぎ、意味づけを話しながら、指示をする。

無駄をそぎ落とした静かな会話劇だけに、台詞が流れすぎることを栗山は懸念した。「テンポが良すぎて流れている」と栗山が述べると、すかさず小日向は自分の台詞について「もうちょっと泣きが入っている方がいいかなあ」と提案。しきりに互いの意見を交換し合った。さらに、妻・エミリーに不安を訴える場面で、栗山は小日向に机を指の関節部分で短く何度も叩くようにオーダー。何気ない所作で、強調すべきポイントを観客の意識に残す仕掛けをつくってみせた。

休憩中も、小日向と秋山はセットに立ち、先ほど栗山から指示された動きを確認。一方、安田は頭の中を整理するように椅子に腰かけ思案に耽っている。これまでいくつもの大作・難役をものにしてきた演技派たちにとっても、本作はそう容易くは組み伏せることのできない挑戦作のようだ。

栗山は、小日向演じるアミールについて「守るべきものはどちらか」と話した。自らの正義か、それとも保身か。宗教に背き、その代償として成功を得たアミールの揺れ動く内面をどう捉えていくか。そこに、アミールという人間を理解する鍵が隠されているのだろう。そして、きっと観客も、彼らを取り巻くあらゆる事情にアンテナを張りながら、やがて『DISGRACED/ディスグレイスト―恥辱』というタイトルの意味を問われることとなる。人間のプライド、名声欲、嫉妬。普段は厳重に蓋をし、目を背けている本性に向き合わされることになるだろう。

物語は、この第二場から、アミール、エミリー、アイザック、そしてアイザックの妻・ジョリー(小島)が一同に会するホームパーティーの場面へとなだれ込んでいく。このホームパーティーでのスリリングな会話こそが、本作の真骨頂だ。華も実力も備えた演技派4人が、祝福のパーティーの裏側でどんな真実の顔を見せるか。それは劇場でその目で確かめてほしい。

公演情報
『DISGRACED/ディスグレイスト―恥辱

■作:アヤド・アフタル
■翻訳:小田島恒志、小田島則子
■演出:栗山民也
■出演:小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成

<東京公演>
■日程:2016年9月10日(土)~25日(日)
■会場:世田谷パブリックシアター
料金:S席 8,800円(全席指定・税込) A席 7,800円(全席指定・税込)

<名古屋公演>
■日程:9月27日(火)
■会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
料金:9,000円(全席指定・税込) U-25 4,500円(全席指定・税込)

<兵庫公演>
■日程:9月30日(金)~10月2日(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金:A席 8,000円(全席指定・税込) B席 5,000円(全席指定・税込)


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