サッカー部を舞台に若手俳優32名が青春を繰り広げる! 舞台『露出狂』

2016.9.12
インタビュー
舞台

(左から)陣内将、市川知宏、中屋敷法仁

画像を全て表示(9件)

劇団「柿喰う客」では女子高校を舞台に上演され、その後オール男性キャストでパルコ劇場にて上演され好評を博した舞台『露出狂』が、4年ぶりに再演されることになった。今回は、新進気鋭の演出家として各方面から注目を集めている本舞台の作・演出家・中屋敷法仁が、オーディションで新たなキャストを選抜。2016年9月30日~10月10日まで、Zeppブルーシアター六本木にて、総勢32名、3チームで上演する運びとなった。

物語の舞台は、新興強豪高校として名を馳せる、天ヶ原高校サッカー部。驚異的な結束力を誇るこのサッカー部には、チームワークを維持する“鉄の掟”が存在するが、男子たちのプライドと痴情、感情は、複雑に絡み合い、様々な事件が起こっていく。部活という閉鎖的社会で巻き起こる、愛憎×群像×スポ魂を、「アンチ・スポ魂」の視点から描いていくというという点も、実に興味深いところだ。

リオ五輪が終了したばかりの8月29日、東京稽古場に総勢32名の男性キャストが集まった。初の本読み稽古を終えたばかりの、主演の市川知宏陳内将、演出家の中屋敷法仁に、本作にかける意気込みを伺ってきた。聞けば聞くほど斬新なスポーツ観をテーマにした作品でありながら、稽古場では部活さながらの熱気溢れる練習がくり広げられていた。「露」「出」「狂」の3チームに分けて進んでいる稽古場の模様、そして本作の魅力について、ひと足早く、チェックしてみて欲しい。 


――3チームでの上演とのことですが、なぜそうなったのでしょうか。

中屋敷:オーディションをしてみたら、思った以上に、魅力的な俳優が集まってきてくれたんですよね。僕としては、これは既に上演したことがある作品なので、自分の中で、『こうあるべき』みたいな固定観念が出来てしまっている部分もあります。できればそれを崩してくれるような、豊かな彩りを持った俳優さんとやりたいなと思っていたんですよ。そしたら、役のイメージにぴったり、なだけではなく、そのイメージをさらに更新してくれそうな俳優さんが、たくさん集まってくれました。可能なら、4~5チーム作ってもいいんじゃないかっていうくらいな感じです。

中屋敷法仁

――今回のオーディションで選ばれた方の、ポイントは何でしょう。

中屋敷:オーディションは2012年にも実施したんですけれど、今回4年ぶりにやってみたら「器用な人が多いな」という印象でした。技術面でも優れている、若いのにすごく勉強されていて、実力がある人がスゴくたくさんいる。その中で、今回は、芯のある『ココロ』『カラダ』『声』を持った人を選びました。バラエティ豊かで、ドンチャン騒ぎのお芝居なんですけど、スポーツに懸ける思いとか、人への愛情に関して、しっかりとしたものを持っている人、上っ面だけじゃない、ハートのある人を選んだつもりですので、みんな、舞台でどれくらい力を出してくれるのか、とても期待しています。

――実際にお稽古が始まってみて、市川さんと陳内さんはいかがですか。

市川:本読みの時に3チームで一緒にやってみたんですけど、その時にさっきまで自分がやっていた役を、陳内君が演じているのを見ると、「そういう考え方もあるんだな」と、発見がありました。それが新鮮でしたね。他の役の方を見ていても、それぞれ「この人はこの役をこう演るんだな」というのが見えたりもして。今までにない本読みでした。

:僕は、家でずっと台本を読んでいたんですけど、2役をやるとなるとどうしても、「サソリマチって役を演るぞ」と思って読んでいたのに、シラミネというもう一個の役が出てきたら、そっちも声出して読んじゃう……みたいなことが続いていたんですよね(笑)。だから1人で「あああー」ってなって、「誰かと一緒に練習したい」と思っていたから、今日みんなと出会えてやっと誰かと一緒に読み合わせできる!ということが、純粋に嬉しくて、楽しかったです。 

市川知宏

――今回の舞台で楽しみにしていることや、挑戦してみたいことは、ありますか。

陳内:先程、中屋敷さんが「役者の魅力を丸裸にする」と、おっしゃっていたので僕自身も、一個でも殻をやぶれたらと思っています。資料用VTRで前回の舞台を観させていただいたんですけれど、一回観てる分、模倣は絶対したくないなと。もちろん、リスペクトはあるのですが、出演者が変われば役の関係性も変わってくると思うので、自分がやってきたことも信じて、中屋敷さんを信じて、新しいチームを作っていけたらなって思っています。

市川:32人を3チームに分けて上演するので、チームごとに、そのチームワークによって、どれだけ作品が変わるのか、というのも楽しみです。僕は、ここまでガッツリした役を同時期に2つ演じさせていただくことが初めてなので、それに対する不安とワクワク感があります。また、今回は初共演の方が多いので、「どういう感じでくるんだろう?」、「そこに自分はどういうふうに乗っかれるんだろう?」と、台詞の掛け合いで生まれてくるものも大切にしたいと思ってます。

中屋敷:なるほどね。僕的には、みんなを露出させるために、「これは、世間がまだ見たことがないキャラクターだな」という部分を出していきたいんですよね。そのためには、今までどういうイメージの役を演じてきたか、どういう見られ方をしてきたかっていうのを知ることも、すごく大事なのでとても研究しています。今回は、若干のミスキャストというか、本人にピッタリの役じゃなくて1割くらいちょっとズレている役になるように、キャスティングしてみました。「この人のこういう役、どっかで見たことあるな」みたいには、絶対にしたくないというか。だから、2役ある人は、2役の差をどうつけようかというところにも、力を入れたいと思っています。

陣内将

――では、中屋敷さんが、今回、お2人に期待することを、教えてください。

中屋敷:陳内君をずっと見て来て思うのは、そろそろ実力を使って遊んだり、ふざけたりできるんじゃないかなということですね(笑)。実力があるので、いつも作品を成立させるために力を尽くしてくれるんだけど、そろそろ一番の壊し役になってもいいんじゃないかなって、勝手な求め方をしています。市川君は、どれくらい今回の責任を飲み込んでくれて、頭がおかしくなってくれるのかっていうのを期待しています(笑)。台詞も多いし、人の台詞もちゃんと聞かなきゃいけない役だし、共演者も多い芝居だしで、今回やることがとっても多いんですよね。ひと皮向けるというより、破裂するくらいブレイクしてくれるといいなって思ってます(笑)。

――ちなみに、今回は結構広い劇場ですが、サッカーの試合のシーンなども出てきたりするのでしょうか。

中屋敷:スケールは大きくなるけど、広い場所でいかにみみっちい話をやるかというのがテーマなんです(笑)。サッカー部の話ですけど、ほとんどが部室のロッカールームでの話とか、ミーティングとか、細かいことをやっているシーンが多いんです。こんな大きい劇場で、サッカーの試合のシーンをやれば絶対盛り上がるのに何故だかやらない、走らない、ボールも蹴らないかもしれないという……(笑)。

(左から)陣内将、中屋敷法仁、市川知宏

――そうなんですか!? 

中屋敷:はい。これはもともとあった僕のスポーツ青春モノに対するアンチテーゼなんですけど、試合のシーンがメインではなく、部活という閉鎖的な社会を試合の前後のシーンをメインに描いていく、すごく演劇的な作りの舞台なんです。お客さまからは、スケールが大きな芝居にも見えるかもしれないけれど、実は内容が細かかったり、感情のブレが絶妙だったりする部分を楽しんで欲しいです。

市川知宏

――今回、Uー23の『狂』という、23歳以下のチームもありますよね。あえて若手のみのチームを作ったのは何故でしょうか。

中屋敷:一応、未成年が5人もいて初舞台の人もいるので、冒険してみたかったというのがあります。あと、現場としても大きな意味があると思います。こういう若いキャストたちが出してくるものが、どんどん作品の幅や可能性を広げていくってことも、よくあることなので。

陳内:確かに、U-23の『狂』のチームの本読みは、僕にはない発想が結構あったりして面白かったです。年齢で言うと、きっと通ってきたはずの感覚なんですけど、勢いもあるし、読み方がすごく素直な点に、刺激を受けました。ああ、僕はもう、素直じゃなくなってしまったのか、大人になってしまったのか、と思ってしまったりもして(笑)。

今後の稽古で、一番化ける振り幅が大きいんじゃないかと思います。『狂』の人たちって、まだしっかりとはキャラ付けをしてない人が多かったんですが、稽古を重ねるにつれて集団での勢いも増してくるんじゃないですかね。彼らは、3ステージだけなのでそこにギュッとパワーを込めてきたら……、ちょっと脅威も感じています!

中屋敷:キャラといえば、普通はキャラクターって1人で成立するんですよね。でも、この『露出狂』に出てくる人達のキャラクターは、独立できないんです。関係性の中で成立するキャラクターばかりなので、人と作っていないといけない役なんです。これは僕の演劇のテーマでもあるんですけど、いかに共演者に興味を持てるか。いかに共演者の芝居にアジャストできるか、は大事な部分だと思っています。その中でどんどんそれぞれの芝居も変わっていくと思いますので、皆さん、何回も観て、楽しんで欲しいです。

陣内将

――なるほど。楽しみですね。ちなみに皆さんは、部活は何をされていたのでしょうか。

中屋敷:僕は高校では演劇部だったんですけど、スポーツは卓球をやってましたね。卓球が一番、筋力がなくても動体視力があれば勝てるスポーツだと聞いたので。自分が本当に好きなスポーツを選ばず、自分が勝てそうな、疲れなさそうなスポーツを選んでました(笑)。

陳内:僕は小学生の時は、夏はソフトボール部、冬はサッカー部に。中学では野球部、高校では陸上部でした。どんどん競技人口が少ない部活をするようになって、最終的には1人になりました(笑)。

市川:僕はサッカー部でした。ポジションは、一応サイドバックのディフェンダー。でも本当に下手だったので、2年続けて、やめました(笑)。

中屋敷:ははは。でも、部活経験者に聞くと部活って結局、試合の思い出よりも試合にいたるまでの何ヶ月もの朝練の記憶とか、ユニフォームをもらうまで頑張った記憶とか、ユニフォームをもらえなかった奴が部室で暴れるとか(笑)、そういう体験の方が鮮明に覚えてるんですよね。通常のスポ魂ドラマは、勝ったら「めでたし、めでたし」で終わっちゃうけど、勝った後でドロドロするとか、勝つ前に悩むとか、そっちの方に人間としてのクライマックスがあるんじゃないかと、僕は思うんです。

たとえば『ハムレット』だと、復讐劇だけど復讐できない話ですよね。『ロミオとジュリエット』も恋愛モノだけど、恋愛したいのに成就出来ない。そう考えるとスポ魂ドラマも、スポーツしたいのに出来ないというところに、一番ドラマを感じるべきなんじゃないかと。なのでこの『露出狂』でも、スポーツしたいのに、色々な人が絡んできて、なかなか出来ない、みたいな部分を楽しんでいただければと思っています。試合のシーンは2秒くらいで!(笑) 試合展開や結果はさておき、その前と後のドラマを妄想も含めながらしっかり描いてみたいと思います。

(左から)陣内将、市川知宏、中屋敷法仁

今後の活躍や成長著しい有望株の若手俳優が多数出演する舞台『露出狂』。今年の秋は、彼らの成長ぶりを確かめつつ、舞台を観ながら「スポーツの秋」「芸術の秋」を体感してみては、いかがだろうか。

公演情報
パルコ・プロデュース公演『露出狂』

日時:2016年9月30日(金)~2016年10月10日(月・祝)
会場:Zeppブルーシアター六本木
作・演出:中屋敷法仁
<出演者>
【チーム露(あらわ)】
市川知宏、陳内将、小沢道成、永島敬三/川合諒、紺野真、渋谷謙人、鈴木勝大、砂原健佑、田中穂先、松井薫平、赤楚衛二、井藤瞬、小松直樹
【チーム出(いずる)】
市川知宏、陳内将、小沢道成、永島敬三/小野一貴、ケイン鈴木、高良亘、坂口涼太郎、畠山遼、松井勇歩、見雪太亮、石賀和輝、佐藤信長、三原大樹
【チーム狂(くるう)】
赤楚衛ニ、石賀和輝、井藤瞬、小松直樹、佐藤信長、三原大樹、井澤巧麻、池本啓太、菊池修司、鈴木翔吾、髙橋里恩、中山龍也、飛葉大樹、三永武明