ドライフラワーとさつまいもとビーフジャーキーについて

コラム
アート
2016.9.24

拝啓

 

 今何をしているかというと、この手紙を書きながら壁をじーっと眺めて、あなたにふさわしい花について考えています。あなたのことですからどんな花を携えていてもミュシャの「四季」のように優美な佇まいとなるのでしょうが、あえてあなたにこそふさわしい一輪とはなにかを慎重に思索しているのです。

 といっても、キャンバスみたいに真っ白でなにもない壁を見つめ、そこに想像力を駆使して色とりどりの花やあなたの横顔を描写しうっとりするほど僕は芸術家ではありません。

 

 それではなにをしているのかというと、想像ではなく実在する花を眺めているのです。

 実は僕の家の壁一面には様々な種類の花が吊るされて、ドライフラワーになっているんですね。バラとかヒマワリとかカスミソウとかその他いろいろが壁いっぱいにひっくり返ってぶら下がっています。これは結構見ものですよ。僕の家を訪ねてきた友人は大抵驚きます。ひとりは驚きのあまり玄関でびっくりした顔のまま硬直し、しばらくしてから家には上がらずにそのまま帰ってしまいました。

 

 たしかにこうしてじっくり花の壁を見ていると、なるほど結構不気味です。カラフルな衣装を身につけたたくさんの異星人が逆さ吊りにされているようにも見えます。

 先ほどの友人は不幸なことにその敏感すぎる感受性で以って、この場所にただならぬ宇宙的恐怖を感じたのかもしれません。

 

 かなり見た目の怪しい友人(先ほどの友人とは別人です)に聞いたのですが、風水的にもドライフラワーを自宅に置くことはあまり良くないことのようです。

 風水というのは物の配置で気の流れをコントロールする古代中国の思想らしく、まあ実のところまったく興味がないのでほとんど聞いていなかったのですが、曰く「生気を吸われる」らしいんですね。ふうん。

 僕の解釈は違います。僕の考えたオリジナル風水では、ドライフラワーは「永遠の命」の意味です。ですので、家の壁一面に吊るしておくことは、健康的にもなんかいいじゃんって感じで推奨されています。あなたもその美しさを永遠に保つために、ぜひドライフラワーをお家に飾ってみてください。

 

 実際のところ、ドライフラワーは長い間美しさを保ち続けます。また生花と違って世話をする必要がないので、僕のような生来の面倒くさがりにも向いています。

 それに壁に逆さ吊りにされた色々な種類の花を眺めていると、美女を捕まえては氷漬けにして自分のコレクションにしている品のない悪党の親玉になった気分がしていいですよ。カーボン凍結されたハン・ソロを宮殿に飾るジャバ・ザ・ハットの気持ちもわかるというものです。

 あなた自身もぜひこの壁のコレクションに加えたいところです。

 ……冗談ですよ。

 

 そうだ。あなたにふさわしい花を思いつきました。デンドロビウムがいいんじゃないでしょうか。ランの一種でたくさんの花をつけるとても美しくて華やかな花です。花言葉は「わがままな美人」。どうです。ぴったりでしょう。

 気を悪くしないでくださいね。褒めているんですから。

 

 ところで、花言葉は花だけではなくて野菜や果物にもあるのを知っていましたか?

 かぼちゃの花言葉が「大きさ」なのは腑に落ちますね。りんごは「誘惑」だそうです。なるほど。とうもろこしの花言葉が「財宝」なのはまあわかるとして、ごぼうが「私に触れないで」とかさつまいもが「乙女の純情」だっていうはよく理解できないですよね。

 卒業式の帰りに後輩の女の子が頬を赤らめながらさつまいもを渡してきたりしても、なんだかよく意味がわからないし。でもそれは少しかわいいかもしれませんね。

 

 しかし、さんざん花の話をしてきましたが、もしかしてあなたは花の話なんかちっとも興味ないんじゃないかと少し不安になってきました。「女性はみんな花が好き」なんて古い価値観ですよね。

 だいたいあなたは僕なんかよりずっと男らしいし(もちろん褒め言葉です)、ドライフラワーよりも干物の話をしたほうがよかったかもしれませんね。今度は壁一面にビーフジャーキーを吊り下げておくのでぜひうちに遊びに来てください。ビールもたくさん用意しておきますよ。

 

 じゃあこのへんで失礼します。

 それでは。

 いつかまた宇宙のどこかで。

 

                                                                                                                                                                    敬具 


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。
 
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