大阪・梅田で『UNKNOWN ASIA』開催 日本とアジアから160組のクリエーターが集結
『UNKNOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA 2016』 撮影=kazuyatanaka
去る10月1日(土)、10月2日(日)と大阪・梅田のハービスホールで、日本とアジアのクリエーターが集結したアートフェア『UNKNOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA 2016』(以下、『UNKNOWN ASIA』)が開催された。その模様をリポートする。
『UNKNOWN ASIA』は、国内外のクリエーター160組が参加し、会場内に設けられた180ものブースでそれぞれの作品を展示販売するイベント。その特徴は、クリエーターの国籍が、日本、中国、台湾、香港、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアとアジア圏全体にわたっていることだ(海外からは43組が参加)。ジャンルも、アート、デザイン、写真、イラスト、ファッション、インスタレーションと幅広い。
『UNKNOWN ASIA』ブース 撮影=kazuyatanaka
『UNKNOWN ASIA』ブース 撮影=kazuyatanaka
また審査員も国際的で、国内の著名なクリエイティブ業界関係者と、中国、台湾、韓国、タイ、インドネシアで活躍しているアートディレクターや編集者などが務めている。他にも協賛企業や、アート、広告、メディアなどの関係者によるレビュアーが50名以上おり、それぞれの視点で優れた才能を発掘するのだ。昨年の受賞者の中には、海外での展覧会、企業とのコラボレーション、商品展開に繋がる例が多数あった。一般的な公募展では、賞を選出してもその後の展開までフォローする例は少ない。ビジネスマッチングの可能性を前面に押し出し、クリエーターがチャンスをつかむ場として機能しているのが『UNKNOWN ASIA』の強みである。
『UNKNOWN ASIA』ブース 撮影=kazuyatanaka
さて、会場の様子をリポートしよう。会場のハービスホールには熱気が渦巻いていた。床面積914㎡の室内に160組・180ものブースがひしめき合っているのだから当然とも言えるが、それ以上に作家の熱意、チャンスをものにしてやろうという意気込み伝わってくる。この祝祭的な雰囲気は、美術館やギャラリーでは味わえない独特のものだ。また、ブースによっては壁面に審査員やレビュアーのステッカーが貼られている場合があり、その枚数が多いほど関係者の注目度が高いブースであることがわかる。そのことが、会場を巡る観客にとって一つの目安になっていた。
『UNKNOWN ASIA』ブース 撮影=kazuyatanaka
会場には、作家と観客がお互いに声をかけやすい雰囲気が出来上がっていた。美術館のような静まりかえった空間が苦手な人には、この気軽な感じが良かっただろう。また会場内には約20名もの通訳を常駐しており、外国人作家とも臆せず会話ができるのがありがたかった。もちろん、たどたどしい英語や身振り手振りで意思疎通するのも、この手のイベントならではの楽しさだ。
『UNKNOWN ASIA』ブース 撮影=kazuyatanaka
続いて個々のクリエーターに移ろう。Tunlaya DunnvatanachitとNuttapong Daovichitr(ともにタイ)は、洗練された上質なイラストレーションを展示していた。どちらも既に地元で活躍している作家だが、存在さえ知られれば日本でもそのまますぐに通用するクオリティだ。なお、Nuttapong はブース展示のほかライブペインティングも手掛けていた。
Tunlaya Dunnvatanachit 撮影=kazuyatanaka
Nuttapong Daovichitr 撮影=tanakakazuya
ファッションイラストでは、日本のRina Iwaiと茶薗大暉を挙げておこう。Rina Iwaiの作品は割り箸で描いた表情豊かな線が特徴。文字や写真と組み合わせたレイアウトも完成度が高い。茶薗大暉は障害を持つ作家で、もっぱらファッション雑誌の画像から描き起こしているが、いわゆるアール・ブリュット的な作風と一線を画しているのが興味深い。また彼の他にも障害を持つ作家が複数名おり、『UNKNOWN ASIA』を大きなチャンスと捉えているのがよく分かった。
Rina Iwai 撮影=kazuyatanaka
Rina Iwai 撮影=kazuyatanaka
茶薗大暉 撮影=kazuyatanaka
写真ジャンルの出展者としては、本業はスタイリストながら、しばしば撮影まで手掛けているNICK SHADEと、盆栽と和装の女性を組み合わせた作品を生み出す堀川雄一(ともに日本)に注目した。NICKはスタイリングから撮影までを一貫して行う点がユニークで、堀川はモチーフの色彩や質感の表現、光のコントロールの巧みさと、コンセプトの面白さが際立っていた。写真、映像は近年の技術革新が最も顕著に表れている分野だ。近い将来、今の我々が思いもつかないような新しい表現が登場するに違いない。
NICK SHADE 撮影=kazuyatanaka
堀川雄一 撮影=kazuyatanaka
歴史や社会問題を扱った作品も、少数ながらエントリーしていた。宮原野乃実(日本)は、第2次大戦末期の日本で作られた陶製手榴弾(外側の陶器部分のみ)を素材にしたインスタレーションを行い、黄雪冬(中国)は公害で働けなくなった人々に刺繍を教え、自分のデザインを商品にして収入源にするプロジェクトの記録を出展していた。
宮原野乃実 撮影=kazuyatanaka
黄雪冬 撮影=kazuyatanaka
またHey Yiyang(中国)は、中国の紙幣を切り刻んで貼り合わせた円形の平面作品を発表した。イラストなど仕事に結びつきやすい作品が多い『UNKNOWN ASIA』だが、こうしたメッセージ性の強い作品もあることを忘れてはいけない。
Hey Yiyang 撮影=kazuyatanaka
そして、10月1日(土)の午後にはグランプリをはじめとする受賞作品の表彰式が行われた。グランプリを受賞したのはインドネシアのArdneks。彼の作品は細い線のペン画をスキャンし、コンピューターで着色してプリントしたもの。様々な国の文化がミックスしたモチーフや、ポップでカラフルな色遣いが特徴だ。表彰式で彼の名前が呼ばれた瞬間、外国人クリエーターたちから大歓声が巻き起こったのも印象深かった。彼らにとって『UNKNOWN ASIA』は、日本で活動するきっかけとなる大きなチャンスなのだ。その事実がはっきりわかった。
Ardneks 撮影=kazuyatanaka
Ardneks 撮影=kazuyatanaka
また、スポンサー賞のうち、イープラス賞を受賞したのは、先にも紹介したRina Iwaiだ。彼女の作品が持つファッショナブルなセンスと完成度は評価が高く、他にも2社からスポンサー賞が贈られた。表彰式では彼女の名が何度も呼ばれたため、「今日はリナ祭りだ」とどよめきが起こったほど。今後イープラスとコラボした仕事などで、彼女の作品を目にする機会が増えるだろう。これからの活躍が大いに楽しみだ。
Rina Iwai 撮影=kazuyatanaka
Rina Iwai 撮影=kazuyatanaka
2015年から始まった『UNKNOWN ASIA』はまだ2回しか行われていないが、既に国内外で独自の地位を確立しつつあるように思う。将来的にはアジアのクリエイティブ・シーンにおけるハブ的な存在を目指しているのではないか。今後もアジアのアート界を牽引するイベントであり続けられるよう、優れたクリエーターの発掘に努めてほしい。
『UNKNOWN ASIA』授賞式 撮影=kazuyatanaka
レポート・文=小吹隆文・美術ライター 撮影=kazuyatanaka
開催期間:
・2016年10月1日(土)10:00~20:00
・2016年10月2日(日)10:00~17:00
会 場 : ハービスホール
入場料 : 2日間共通 1,000円(税込・高校生以下無料)