映画プロデューサー 吉武美知子|こんな日本アーティストがパリで活躍中 【第11回】
吉武美知子
映画プロデューサー 吉武美知子
フランスで映画プロデューサーとして活躍し、近年では黒沢清監督作品『ダゲレオタイプの女』にも携わる、吉武美知子さんにお話を伺ってきました。日本から遠く離れ、映画産業にかかわることになったきっかけは? また、フランスと日本の「映画観」の違いとは? フランス在住だからこそわかる、彼女の視点を存分に語っていただきました。
――パリで映画プロデューサーになられた経緯を教えてください。
子供のころから海外に出てみたいなとは思っていたのですが、ちょっとしたなりゆきで、フランス語を勉強をすることになりました。その後、アルバイト代を貯めてパリに来てみたのが始まりです。最初は、貯金がなくなったら日本に帰ろうという軽い気持ちでした。
もともと映画が大好きだったこともあり、徐々に映画に関する記事を日本の雑誌に寄稿したり、日本映画をフランスで紹介したり、フランス映画を日本へ紹介する仕事をするようになりました。そして、映画を紹介するだけでなく映画を作る側にいたいと思うようになったのです。その中で「日本人の私だからこそできることは何だろう?」と考えて、日本とフランスの監督が、フランスや日本で撮影できる環境づくりに携わるようになりました。そしてプロデューサーとして独立し、自分の会社を作ったのが7年前になります。
映画製作は大変です! 完成までにいくつものステップをクリアして行かなければなりません。企画開発、特に難関な製作資金の調達、撮影、仕上げ作業であるポストプロダクション、公開……と、観客に届くまで長い道のりです。でも、撮影までこぎつけて現場に立てると幸せです。なので現場が好きでよく足をはこびます。最初は見知らぬ人だった大勢のスタッフが、何日間も同じ釜の飯を食べなら、一つの目的のために邁進するのはとても素敵な時間です。
なんと、吉武さんが企画から携わった映画は、東京をテーマに(仏)ミッシェル・ゴンドリー監督らが撮影した『TOKYO!』
――フランスと日本で、「映画」に関する違いを何か感じますか?
日本では、「映画を観に行く」というのはちょっとしたイベントのようなところがあると思います。映画を観に行くためにわざわざ電車に乗ってを買って……という風に、何か特別な感じがしますよね。でも、パリでは街のいたるところに映画館があって、誰でも気軽にいつでも観に行きます。映画を観に行くことが日常生活に根づいていると感じます。また、フランスは映画製作を国が支援しています。映画のファン層が厚く、新しい才能を支持するというような意識もあります。映画というものがこの国では市民権を得ているなと感じます。
――これからの活動予定を教えてください。
長年お仕事を一緒にさせてもらっている諏訪敦彦監督の新しい映画の撮影がちょうど終わったところで、公開に向けてこれから編集などの段階に入ります。
諏訪敦彦 監督
そして、同じく携わらせてもらった黒沢清監督の映画が間もなく日本で公開されます。この映画はフランスで、フランス人キャスト&スタッフとともに制作された黒沢清監督初のフランス映画です。黒沢監督の新しい挑戦がどのように結実されているのかが見所です。
黒沢清 監督
あとがき
ライター・中村綾花
インタビュー中、吉武さんが「私がこの仕事をしているのは、惚れ込んだ映画監督のためなの!」とおっしゃった言葉に、彼女の映画と監督へのパッションを感じることができました。パリで日本人女性が、こうしたフランス映画の大切な一端を担っていることに驚かされ、また、同じ女性としても勇気づけられるインタビューとなりました。
10月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開。
© FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS – LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
キャスト(順不同):
タハール・ラヒム
コンスタンス・ルソー
オリビエ・グルメ
マチュー・アマルリック
マリック・ジディ
映画サイト:http://www.bitters.co.jp/dagereo/