楽壇の重鎮 外山雄三がミュージック・アドバイザーに就任した大阪交響楽団に注目!
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4月に大阪交響楽団ミュージック・アドバイザーに就任した外山雄三 (C)飯島隆
今年4月、日本楽壇の重鎮にして現役最高齢指揮者、外山雄三(85歳)がミュージック・アドバイザーに就任した大阪交響楽団。5月の就任披露を兼ねた定期演奏会は、外山雄三自作自演の「オーケストラのための‘玄奥’」から始まり、正統派スタイルの堂々としたベートーヴェンの「英雄」交響曲がザ・シンフォニーホールに鳴り響いた。
ミュージック・アドバイザー外山雄三と大阪交響楽団 (C)飯島隆
8年続いた前音楽監督 児玉宏時代には、アッテルベリやタニェエフ、ミャスコフスキー、スヴェンセン、ヴェッツといったあまり世に知られていない作曲家の作品を定期演奏会で次々取り上げ、「演奏機会の少ない曲は音楽的価値がないのか?名曲とはいったい何なのか?作品の価値は聴いた者に委ねたい!」とクラシック界に一石を投じ、他のオーケストラの取り上げるプログラムとの明確な差別化が話題となった。
大阪交響楽団といえば尖がったプログラム!そんなイメージが強かったが、今シーズンの定期演奏会のラインナップを見て驚いた。そこにはベートーヴェンやチャイコフスキー、メンデルスゾーン、ショスタコーヴィチといった広く知られた作曲家が並んでいる。定期以外の主催公演でもモーツァルト、シューマン、ブラームス、シベリウスが並び、外山雄三をミュージック・アドバイザーに迎えた意図がそこに見て取れる気がした。
大阪交響楽団は変わろうとしている!
外山雄三のミュージック・アドバイザー就任から半年、楽団における様々な変化について楽団長・インテンダントの二宮光由と事務局長の赤穂正秀に聞いた。
--思い切った路線変更には驚きましたが、半年経ってみていかがですか?
二宮光由 : 「これまでの挑戦的なプログラムを評価していただいたファンの皆さまの陰には、オーソドックスなクラシック音楽を、スタンダードな名曲を聴きたいというファンがおられた事も見逃せない事実です。珍しい曲を求めて東京や地方から私たちのコンサートに来ていただくのは大変ありがたいことですが、問題は楽団経営が予断を許さない状況にあると云う事です。集客に期待が持てないプログラムをいつまでもやり続けるわけにはいきません。私が楽団を預かる立場になった以上、問題点を変える必要がある。路線変更する事で、残念がられるお客さまと、それならコンサートに行ってみようと思っていただけるお客さまの両方を考えた結果、この方向でいくことになりました。シーズン半ばですが、ファンの皆さまには概ね喜んでいただいているように感じています。」
日本指揮者界の重鎮 外山雄三がこれまでの経験を踏まえ様々なアドバイスを与える。 (C)飯島隆
--ミュージック・アドバイザーにベテランの外山雄三を起用した理由もその辺りにあるのでしょうか。
二宮 : 「ここ数年、あまり取り上げてこなかったスタンダードな曲をしっかり演奏できるオーケストラに鍛え直していただきたいと思い、経験豊富な外山先生にお願いしました。この3年間、徹底的に土台作りをやって、次の指揮者にはその上に音楽を構築してもらいたい。マエストロにはそのことも含めてご相談に乗っていただきたいと思っています。5月定期のエロイカは、流行とは無関係な堂々としたオールドスタイルの音楽でした。早くも狙い通りの演奏が出来ていて嬉しかったです。
常任指揮者の寺岡清高は、ウィーン後期ロマン派の醍醐味を伝えてくれる。 (C)飯島隆
一方、常任指揮者の寺岡清高さんにはこれまでの集大成となる「ウィーン世紀末のルーツ」というテーマで、フックスやコルンゴルト、ツェムリンスキーといった大阪交響楽団らしい作曲家の作品を中心に指揮をお願いしています。ですので、演奏機会の少ない作曲家の作品がプログラムから消えてしまう訳ではありません(笑)。」
--実際の観客動員数はいかがですか?
赤穂正秀 : 「ここ最近の定期演奏会、名曲コンサート、ゼロ歳児からの音楽会と、主催コンサートはどれもほぼ満杯の状況が続いています。路線変更がプラスに出ている事の現れだと思います。また、これまで力を入れてきた法人営業の強化が実りつつあることも大きな要因の一つですね。」
--9年ぶりに「いずみホール定期演奏会」が復活しました。こちらも「名曲コンサート」同様、驚きの1日2回まわし。1日に2公演するというのは、他のオーケストラでは制約もあり難しいと思うのですが、凄いですね。
二宮 : 「そうですね。大阪交響楽団独自のシステムで、他では真似出来ないかもしれません(笑)。「名曲コンサート」では20年近く、1日2公演やっていてすっかり定着しています。今回、「いずみホール定期演奏会」を平日に行うのは、シルバー層や主婦層に向けた昼公演と、ビジネスマンに向けた夜公演と、両方のターゲットに向けて訴求できるのが特徴です。楽員はこの形態を自然に受け止めてくれています。」
赤穂 : 「いずみ定期が、ザ・シンフォニーホールでやっている「定期演奏会」や「名曲コンサート」と同じものでは意味がありません。プログラムにもこだわって、「昼間のコンサートなら外出しやすいので‘定期会員’になれるかも!」とステータスを感じて貰おうと定期演奏会という名称にしました。なんと、昼公演のほうが夜公演より倍近く売れていて、私たちも驚いています。」
--今月の定期演奏会は、外山雄三がシーズン2度目の登場ですね。来月にはいずみホール定期演奏会にも登場。聴きどころをお願いします。
「第205回定期演奏会」のソリストは、ヴァイオリニストの有希 マヌエラ・ヤンケ (C)井村重人
二宮 : 「今月開催の「第205回定期演奏会」は、ロシアものを得意とする外山先生にぴったりのプログラム、オールショスタコーヴィチです。マエストロはショスタコーヴィチとも面識があるそうで、作曲家の視点でとらえた明晰な第5交響曲をお聴きいただけるはずです。ソリストとしてマエストロが全幅の信頼を置いている有紀マヌエラ・ヤンケさんが登場。彼女が奏でるスケールの大きなヴァイオリン協奏曲第1番も楽しみです。
11月のいずみホール定期は、‘世界音楽紀行’と題して、「誰もが知っている曲だが、演奏会ではなかなか聴けない曲を集めた」とマエストロが語る、名曲揃いのプログラムです。もしかすると、マエストロ自身の曲目解説が聞けるかもしれません。どうぞお楽しみに。
「第208回定期演奏会」のソリストはピアニストの横山幸雄 (C)ミューズエンターテインメント
その後も、12月のベートーヴェン「感動の第九」はマエストロにお願いをしていますし、シーズン締め括り、2月の「第208回定期演奏会」は、横山幸雄さんをお迎えしベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番とチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を指揮していただきます。どの曲も名曲ぞろいです。どうぞ大阪交響楽団の演奏する会場に足をお運びください!」
現役最高齢指揮者 外山雄三が長きにわたるオーケストラの現場で培ったすべてを、若き感性を持つ大阪交響楽団に伝えようと動き始めた。ベテランマエストロの経験に裏打ちされた貴重なアドバイスが、無限の可能性を持つオーケストラをどう変えていくのか。
当分の間、大阪交響楽団から目が離せない。
並河寿美(ソプラノ)、福原寿美枝(アルト)