謎の新進劇団「虫会」 稽古場レポート&インタビューでその正体に迫る

インタビュー
舞台
2015.8.20
(上段左から)むらのほなみ、佐藤礼奈、金子美咲、小野涼平、久保田隆寛、細井準、大宮二郎、細谷聡希(下段左から)板橋優里、松坂貴大、黒澤多生、伊藤拓、本橋龍、大木菜摘、宮崎ひとみ

(上段左から)むらのほなみ、佐藤礼奈、金子美咲、小野涼平、久保田隆寛、細井準、大宮二郎、細谷聡希(下段左から)板橋優里、松坂貴大、黒澤多生、伊藤拓、本橋龍、大木菜摘、宮崎ひとみ

夏だ!フェスだ!SAFだ!

……え?「SAF」なんてフェス、知らない?

この記事を開いてしまったあなたには、ぜひ知っていてほしい、若者たちの熱い“演劇フェス”。それが「SAF(サフ)」こと、シアターグリーン学生芸術祭(Student Art Festival)だ。

SAFは、毎年夏、池袋の劇場「シアターグリーン」にて開催される学生劇団限定の演劇コンテストだ。過去の出場団体には、範宙遊泳、カムヰヤッセン、おぼんろなど現在の演劇界で大きく羽ばたいている団体も存在する。未来の演劇界の萌芽を目撃することのできる演劇フェスといえるだろう。

そして、今年のSAF出場団体の中で、唯一「チラシステージ」(※1)にチラシをアップさせたことで、SPICEに見出されたのが「虫会」だった。劇団名もいい。そこで、稽古場に突撃取材をかけ、「虫会」会長(=主宰)の伊藤拓氏&制作・むらのほなみ氏へのインタビューを敢行した。SAF出場団体の中でも異彩を放つ彼等は一体何者なのか
 


 

劇団SHOW出身、伊藤拓の演出家魂を見た

左:佐藤礼奈 右:金子美咲 

左:佐藤礼奈 右:金子美咲 

 
左:板橋優里 右:小野涼平

左:板橋優里 右:小野涼平


8月某日の稽古場に足を踏み入れると、女性2人組・男性2人組それぞれの会話シーンの稽古真っ最中だった。二組とも地べたに座り込み、いわゆる「だべり」の空気感が漂う。

時折、役者のアドリブが入り、稽古を見守る役者陣・スタッフ陣の笑みがこぼれる。終始和やかな空気が流れる稽古場だ。しかし、虫会主宰・演出の伊藤拓は微笑をたたえながらもメモを取る手を休めない。穏やかな口調ながら客観的な目線で役者に指示を出す伊藤の立ち姿には「演出家」としての「風格」が既にして備わっている。

伊藤は虫会の母体団体「劇団SHOW」で4度の作・演出を手掛けた経験の持ち主だ。劇団SHOWとは、尚美学園大学を活動拠点とする演劇サークルで、いま最も勢いのある学生演劇団体の一つと言われている。昨年のSAF最優秀賞団体も劇団SHOWを母体としていた。伊藤の、役者を冷静にみつめるまなざしは、劇団SHOWでの経験からくるものなのだろう。役者たちも皆、伊藤の言葉を真剣な表情で受け止めている。これなら伊藤のエッセンスが存分に注ぎ込まれた本番を見ることができるだろう。

虫会主宰・作演出の伊藤拓

虫会主宰・作演出の伊藤拓

影響をうけた作品は五反田団『宮本武蔵』

――「チラシステージ」で虫会を知りました。

むらのほなみ(以下、むらの):「チラシステージ」はイープラスからの告知メールで知りました。公演の宣伝になるかな、と思い登録しました。初めてでしたが、全然普通に登録することができました。いろんなチラシが見られていいですよね。

――効果テキメンでしたね。ところで、虫会結成のいきさつは?また劇団の雰囲気は?

伊藤拓(以下、伊藤):僕が大学一年生のときに、母体の劇団SHOWで仲のいいよく遊びにいくメンツがいて、最初の活動が虫取りだったことに由来してそれを「虫会」と呼んでいました。で、今回はシアターグリーン出ようぜーっていう感じでやっているっていう。劇団って感じで旗揚げしたわけでもなく、自分たちでなんて言うかもわからなかったんで、レジャーサークルと自称してます。虫会の会員(=劇団員)は全員僕より年上で、そういった意味でも僕が率いて、というよりかは持ちつ持たれつな感じでやらせてもらってます。雰囲気は、ぬるま湯ぐらいの自由な感じです(笑)

――影響を受けた劇団や作品は?

伊藤:一年生の時に初めて小劇場に行ったときに観た五反田団の『宮本武蔵』です。

――ご自身でも劇団SHOWで上演されていますね。

伊藤:はい。台本は原作に忠実にやりました。ただ役者は絶対に違うので、劇団SHOWの役者に寄せる形で上演しました。

稽古を見つめる伊藤拓(左)と演出助手の大木菜摘(右)

稽古を見つめる伊藤拓(左)と演出助手の大木菜摘(右)

 

”バックれていなくなった人”に対して結構冗談ぽく捉えていたんですけれど、ふと、ほんとに裏でなにか凄いことが起きていたら面白いなって。

――今回の作品『ザムザニアン』はどういった話になりますか?

伊藤:はじめは宣伝で「社会派」とか書いていたんですけれど書きあがってみれば全然違う感じに…… (笑)

――というと?

伊藤:もっと「社会派!!!!!」とかにしてもうちょいギャグにしておけばよかったなって(笑) 好き勝手やっています。

――コメディっていう感じ?

伊藤:半々くらい?まあでもコメディよりかな。

むらの:いまちょっと稽古を見たら、コメディかな、って思います(笑)

――今回の作品、尚美学園大学のキャンパスで消えていく人、バックれる人、蒸発する人を題材にしてるとか。それを扱おうと思ったきっかけは?

伊藤:劇団SHOWの後輩がバックれるっていうのが結構多くて。なんにも言わずスッといなくなっちゃう。丁度その蒸発されたときに、エボラが流行っていて。去年の9月くらいなんですけれど。……エボラかなあと思って(笑) 

――(笑)

伊藤:でも、ふと、ほんとに裏でなにか凄いことが起きていたら面白いなって思って。冗談でエボラって言っていたのも無きにしもあらずかな……みたいな。そういう発想から作り始めました。

――普段どういった方法で作品を作ってる?

伊藤:ああどうしてんだろうな(笑) ふとした日常の中で人と話していて、あ、この会話舞台に乗せたらおもしろいなっていう感じでそこから膨らませて作っていますね。テーマは後から乗せる感じです。脚本作りには苦労していますが(笑)

左:本橋龍 中央:細井準 右:黒澤多生 

左:本橋龍 中央:細井準 右:黒澤多生 

SAF出場団体の中では一番自由にやらせてもらってます。各方面から怒られないか心配なんです(苦笑)

――毎ステージ、アフターイベントをやるんですか。

むらの:一応、虫会の活動報告みたいな感じで。稽古合宿の時にホラースポットにいった様子を映像にして流すようなものが二つ。あと虫怪談という怪談話を予定しています。三回ほどメンバーかえたりゲスト呼んだりとか……。

伊藤:あとは、あそこにいる眼鏡のひと(松坂貴大)が警察好きなんで、警察について話したり。全然『ザムザニアン』については触れないで(笑)

――自由だな…

むらの:あとは、来週板橋と伊藤が出る芝居の主宰の小田尚稔さんを呼んでトークするっていう。それから、あと私のアイドル化計画の回があります(笑) とりあえず衣装を調達する予定です。

――結構本格的!

伊藤:出たがり制作なんで(笑)

むらの:もともと私は役者やってて。栗☆兎ズ(※3)の外公演始めたときや、鬼フェス(※4)参加作品のたすいち(※5)にも出ていて。ただ今回は私が役者で出られなかったので、「どこかで出るタイミングないか!?」みたいな感じで始まりました。

――毎回アフターイベントってなかなかないですよね。大変だろうなって思うんですけれど、結構自由に独自路線でやられている雰囲気ですか。

むらの:そうですね。今回SAF出場団体の中では一番自由にやらせてもらっているというのはありますね。客席もいつも舞台として使っているところを逆にしたりして。

――え!?そうなんですか!?

むらの:結構わがままをいってやらせてもらっています。

伊藤:各方面から怒られないか心配なんです(苦笑)

お酒とか飲みながら見てもらうくらいの気持ちできてくれたら

虫会『ザムザニアン』公演チラシ

虫会『ザムザニアン』公演チラシ

――『ザムザニアン』のチラシ、すごく楽しんで作られた感じが伝わってくるいいチラシだなと思います。伊藤さんも描かれているとか。

伊藤:僕ここの左上のイラスト描きました。

むらの:ロゴと虫たちは上原愛っていう、劇団SHOWの先輩にお願いしました。役者の似顔絵は、渡邊まな実さんっていう知り合いの方に。

――チラシ制作はどういった流れで作っていかれましたか?

伊藤:まず予算が少なかったんで白黒にしようっていう……。

――なるほど(笑)!

伊藤:で、がちゃがちゃさせようっていう。

むらの:あとチラシ大きいほうがいいねってなって。新聞みたいな感じでやろうかっていう。これ折り込まれていたら結構面白いよね、っていう発想ですね。『ザムザニアン』ていう題字は役者の本橋が書いて。ちょっと忍び寄る感がでたら面白いなっていう感じですね。

――それでは、虫会が気になっている!という方に向けてメッセージを。

伊藤:キッチュなお芝居です。人を選ぶかと思うんですけれど、まあお酒とか飲みながら見てもらうくらいの気持ちできてくれたら。ゆるく、気張らずに来てくださいという感じです。


虫会は、いまどきのゆるい空気感をもった学生たちだ。ただ、その自由気ままさを持ちながら、それまでの常識をひょいと飛び越えて新しい試みに挑戦してしまう、その密かなギャップが虫会の魅力だ。ぜひ、実際の公演に足を運び、虫会の面々が脱力しながらSAFを破壊していくさまを目撃していただきたい。


※1:全国の舞台公演のチラシをカタログのように閲覧&検索できる無料アプリ。公演主催者は主催者アカウントの登録(無料)をし、チラシ・公演情報を登録することでアプリに掲載することができる。(http://eplus.jp/cst

※2::尚美学園大学の演劇サークル。高校演劇の強豪、埼玉県立秩父農工科学高校の元顧問、若林一男氏を中心に結成。

※3:本橋龍が創作活動をする上で使う名前。

※4:ロ字ックが主催企画を手がける小劇場劇団発信としては異例の夏フェス企画。

※5:カムカムミニキーナ、ポツドール等を輩出した早稲田大学演劇倶楽部から、2007年に目崎剛が旗揚げしたユニット。

イベント情報
虫会『ザムザニアン』 シアターグリーン学生芸術祭vol.9 参加作品 

いつもと変わらないキャンパス。
だけどその裏には、陰謀が渦巻くのだった。
奴らは少しずつ着実に忍び寄る・・・。
ザムザニアン。
この夏、虫会が送る社会派ストーリー。

日時:2015年8月20日(木)~8月23日(日)
会場:シアターグリーン BASE THEATER
脚本・演出:伊藤拓
出演:黒澤多生 本橋龍 松坂貴大 伊藤拓(以上虫会) 板橋優里(劇団SHOW) 大宮二郎(第参校舎)細井準(どろんこのキキ) 佐藤礼奈(劇団SHOW) 金子美咲(劇団くるめるシアター/くらやみダンス)小野涼平(白いキリン計画) 久保田隆宏 
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