山中千尋(ピアノ) ジャズと現代音楽のフィールドを超えて

インタビュー
2016.11.18
山中千尋

山中千尋


 山下洋輔や小曽根真らの活動により、クラシックとジャズの距離が近くなっているという印象は強い。しかし、単にクラシックの曲をジャズ風にアレンジするだけでは物足りない! という聴き手もいるだろうし、ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチほか、ジャズにインスパイアされた曲を楽しむ聴き手も多いだろう。そうした方たちはもちろん、ジャンルを超えた新しい音楽へ注目している本誌の読者に、山中千尋の存在を伝えたい。

 ジャズというフィールドにあってオリジナル曲を中心にプレイする一方、ビートルズやスタンダード・ナンバーを自分流に料理。さらにはCD『モルト・カンタービレ』でプーランクやフォーレ、カプースチンや三宅榛名らの曲をアレンジし、彼女流のジャンル横断を成し遂げてきた。

 今年の12月21日、その“千尋イズム”とでも言うべき美学が、2台のピアノによって表出される(共演はバークリー音楽院時代の恩師であるラズロ・ガードニー)。予告されている曲は彼女自身のナンバーほか、アルバン・ベルクやフレデリック・ジェフスキー、武満徹らのコンテンポラリー・ミュージック。もちろん曲をそのまま演奏するわけではない。

「クラシックを勉強していた高校生の頃から並々ならぬ興味を持って現代音楽を聴いており、自分が習ってこなかったハーモニーなどを聴きながらワクワクしていました。当時はまだ楽譜が容易に手に入らない曲も多かったですし、今回演奏するコーネリアス・カーデューの曲は、まったく面識がなかった高橋悠治さんにいきなりお電話をして情報を教えていただいたほど。『音楽のおしえ』や『ことばをもって音をたちきれ』といったご著書も読み、水牛楽団の曲も好きでしたから、とても影響を受けた音楽家の一人です。ジェフスキーの『《不屈の民》変奏曲』もカーデューの『ブラヴォーグ』も民衆のために書いたシンプルな主題を変奏していく構成ですし(註:両曲とも主題には大衆運動歌の旋律を用いている)、テーマと即興というジャズのスタイルと共通する部分も多いですね。現代音楽をただジャズの形式で演奏するわけではなく、あくまでも原曲の味わいを尊重し、即興演奏によって音楽を展開したり、新しい美しさを引き出したりできれば、と思っています」

 自身のコンサートツアーで訪れたヨーロッパ各地、ドイツのデュッセルドルフやドナウエッシンゲンなどでは現代音楽祭の盛り上がりを実感。会場ではジャズ・ミュージシャンに会うこともあり、(ジャンルの区別なく)同時代を生きている進行形の音楽だと感じることも多いようだ。こうした体験も今回のコンサートを実現する後押しになったという。

「現代音楽というと難しそうに感じられるかもしれませんが、ベルクのピアノ・ソナタなどは美しいモティーフと対位法によって独特の緊張感を作り出している音楽ですし、ジェフスキーやカーデューの曲、そして武満徹さんの『死んだ男の残したものは』は、誰もが歌えそうなメロディを主題に使ったもの。武満さんはご自身がジャズの大ファンでいらっしゃいましたし、いろいろな曲を聴くと親しみさえおぼえます。今回は2台のピアノによる演奏ですから、ハーモニーの重なりやそこから生まれる響きが華やかになるでしょうし、私にとっては憧れの場所ともいえる東京オペラシティのコンサートホールで、豊かな音楽を味わっていただきたいですね」

 コンサートでは他に、美音のジャズ・ピアニストとしてファンも多いローランド・ハナの「シーズンズ」(クリスマス・シーズンにふさわしいナンバー)や、情景が浮かぶような山中自身のオリジナル曲も演奏。2016年のフィナーレ、ジャズ・ファンかクラシック・ファンか…といったことは忘れ、新鮮な感覚の音楽が誕生する場へ足を運んで“発見”を楽しみたい。

取材・文:オヤマダアツシ 写真:武藤 章
(ぶらあぼ 2016年12月号から) 


山中千尋 クリスマス・ジャズ・コンサート
2台のピアノによるコンテンポラリー・ジャズ

出演/山中千尋(ピアノ)、ラズロ・ガードニー(ピアノ)
12/21(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問合せ 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
http://www.operacity.jp/


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