LITE・武田信幸が語る、インストゥルメンタルの枠組みを飛び越えた快作『Cubic』誕生の背景
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LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
「自分たちがインストバンドだって意識はそんなにない」そう語ってくれたLITE・武田信幸。国内外を問わず高い評価を受け、多くのリスナーを魅了してきた彼らの5thアルバム『Cubic』は、その言葉通りポストロックやインストゥルメンタルといったジャンルの枠――既成の概念をも軽々と飛び越えている。
実に3年半もの間熟成されて生まれたという本作を通して、音楽面/精神面の双方から今のLITEがどのような姿勢・在り方でシーンに臨んでいるか、その実像に迫る。
――資料を拝見したら、この取材の3日後にはサンディエゴでライブをしてらっしゃるという。
ははは。直前までバタバタとやってます。旅の用意もまったくしてないですね。
――しかしシアトルの次に仙台が普通に並ぶこのツアースケジュールこそ、LITEの活動を象徴している感じがして。
あぁ、まさに。あんまりボーターを感じてないっていうか、身軽にどこででも活動してきた感はありますね。日本だろうが、海外だろうが、フラットな感じで。
――LITEはかなり早い段階から海外に行かれてましたよね。
そうなんですよ。結成して、ミニアルバムを出した翌年からもう海外へ行ってて。初回がアイルランドだったんですけど。
――そのセレクトも渋い。
アメリカでもイギリスでもなく、アイルランドツアーっていう。そこにはレーベルオーナーとの出会いがあったんです。彼はいわゆる日本好きの外国人なんですね。ただ、オタクとかそういう文化だけじゃなく、ボアダムスとか日本のいわゆるアバンギャルドな音楽が好きで。だからけっこう波長が合って、意気投合して朝まで飲んでいたら“俺、これからレーベルやりたいんだ”みたいな話になって、“第一弾はLITEで出したい”って言われて。
――その流れでですか? しかも“俺のレーベル”はこれから作るんだ(笑)。
そう。これから始めるから本当にお金のないレーベルじゃないですか。そのまま素人な感じで始めて、ど素人ツアーに僕たちも同行みたいな(笑)。当然、現地での知名度はまったくないし、プロモーションもね、みんな手探り状態だったので。……いろいろこう、期待してたことはあったわけですよ、海外での活動に対して。けど現実を知ったし、やり甲斐も感じたし、本当にすごく若くてよかったなって感じです。
――海外での活動も10年以上になります。私が初めてLITEのライブを観たのも2006年、ちょうど10年前で。そこから日本の音楽シーンも、海外との距離も、そしてLITEの音楽も、大きく変化したと思うんですね。
あぁ、あそこからだと大分変わってますね。『Phantasia』というアルバムを出す前で、4人でできる限界値だったんですよね。時代的にもポストロックが飽和してて、作る曲、作る曲、なんか○○っぽいとか、今までのLITEだよなぁとかいう話になっていって。なのでまぁ活動は続いてたんですけど、僕らの中では途切れたんです。1年くらい丸っと止まってしまって。暗中模索状態でピアノを入れてみたり、歌を入れてみたり、最終的にシンセだなって行き着いて、その方向性の集大成としてできたのが前作『Installation』だっていう。
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
――それから3年5ヶ月、ついにニューアルバム『Cubic』が届きました。
長い旅でした。でも作品に困ってた印象はあまりなくて。この3年で海外の活動が増えたんですよね。前のアルバムのツアーで各国を廻って、そうするとまた新たな話が飛び込んできたりっていうのが続いて。だからライヴに時間を費やしたっていう印象は残ってますが、すべて必要な時間だったというか。
――具体的に今作の制作に動き出したのはいつ頃だったのでしょう?
3年半前のアルバムをリリースした直後です。
――まさかの構想3年半!
はい(笑)。メンバーで合宿に入って、「Balloon」と「D」はそのときに原型ができたんですね。詳しく言うと、「Balloon」が一番始めにできて、これはいわゆる僕らLITEのオールドスクールな感じなんです。LITEっぽい手法を使って、曲構成とか、雰囲気や響きっていうのもなんとなく今までやってきたことだったので、自信を持ってできるんだけど次の方向性にはならないなって思ったんですよね。そして「Else」ができて、そこでキュッとアルバムが固まっていったっていう……うん。軸であることは間違いないです。
――それにしても衝撃的です。3年以上前に合宿に入られていたとは。
なんで早く始めたかっていうところなんですけど、前作ってどちらかというとラップトップで完結する曲が多くて――要はシンセを入れたり、ギター3、4本重ねてみたり、まず曲を作って、そこでやれることっていう、引き算の作品だったんですね。でもそれを持って海外に行ったときに、「自分の言葉、自分の演奏じゃない感じがする」みたいなディスカッションがメンバーの中であって。もっと攻撃力があるバンドの音で直接的にお客さんと繋がりたい、次はそういう作品にしていこうっていう話になって。となると早い段階で曲を作って、それを自分のフレーズに落とし込んでいく期間とプロセスが必要だなと思ったんです。だから「Balloon」は海外ツアーを通して改善していったし。
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
――なるほど。海外のライブでそう思ったということは、やはり日本と海外のオーディエンスでは全然違いますか?
反応はやっぱり違います。もっと違うところを言うと、音環境の違いはけっこう大きいかもしれない。アメリカだと小さいバーでもやったりするんで、そういうサウンドシステムがしっかりしてない中でシンセ音を出しても、分離しちゃってやりたいことが表現しきれなかったっていうのもあって。ある意味、わかりやすさが求められる気がするんですよ。ストップしてゴーする、みたいな演奏のタイトさはもちろん、派手なテクニックもたまには必要だし。いかにお客さんを取り込んで喜んでもらうかを考えるとそういう手法に行き着いたっていう感じですかね。
――そう考えるとここに至る道のりには、リリース、ツアーを含めて海外での活動は絶対に必要だったんだなって思いますね。
うん。絶対必要でした。特にその、行き来するプロセスですよね。まぁちょっと話は逸れるんですけど、マイク・ワットっていう……
――アメリカのパンクのレジェンドの?
そうそう。彼のお父さんは漁師で、横須賀に寄ったりもしてるらしいんですけど。マイク・ワット自身も、“俺はセーラーだ”という話をしてて。それはなぜかと言うと、自分の国の文化や荷物を乗せて異国へ行き、そこで文化を吸収してまた別のところへ行くみたいな存在でありたいっていう。それには到底及ばないですけど、僕たちもそういう方向に自然と向かっていくんだろうなと感じながら、海外ツアーをやってましたよね。
――面白いのは、そうやって異国と行き来していくうちにほぼほぼ洋楽みたいな音楽を鳴らすようになるバンドも少なくない中、LITEの音楽って日本人の血が騒ぐものが常に根っこにある気がするんです。
その感覚はすごく嬉しいです。僕たちには日本で育ってきた音楽だって自覚があるし、日本のポストロックのバンドってけっこう海外で評価されていて、envyとか、MONOとか、方向性は違えど日本でしか表現できない何かがあって、そこに対して誇りも持っているので。海外に出て100%影響されて帰ってくるというよりは、日本のカッコ良さ、ここで育ったものが海外でどう評価されるのか?っていうことに興味がある。それをどんどん海外で根付かせていきたいし、日本のポストロックってすごい!って思われたら一番いいなぁと思ったりします。
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
――作品に関しては「Else」、「Balloon」、「Warp」、「Square」……って聴き進めていくと、脳みそがくすぐったくなるんですよね。
あははははは(笑)。それ、初めて聞いた。
――ゾワゾワっと刺激される感じがして。それは洋楽を聴いて心躍るのとはまた違う。
ノスタルジーなのかなんなのか、日本人がこれを歌ってるんだな、弾いてるんだなっていう曲には民族意識的な、ちょっとこそばゆい感じがあるのかもしれない。うん。なんとなくわかる気がします。その中でも今回、「Warp」では歌ってるわけですよ。
――それはもう驚愕の展開でした。
ある意味、僕もです(笑)。こうやって完全に歌入れたのは初めてて、ボーダーレスにいろいろやっていきたいっていう想いの中で生まれてきたからこそ、あえて日本語で歌っているんですけど。仮歌を乗せたときは英語のそれっぽい響きだったし、ネイティヴに翻訳してもらって発音も完璧に教えてもらったらまぁ海外仕様になるだろうけども、そのプロセスがかっこいいのかどうか?っていう葛藤が僕の中にあって。さっき言ってた、日本語をこういうバンドに入れたときに海外でどう評価されるのかとか、日本語ってクールなんだなって感じてもらえたらすごく嬉しいことなので、そういうチャレンジをしてみました。
――<新しい世界へ>というフレーズ通り、新たな扉を感じつつ。ご自身の歌が入ったことで改めて気づいたのは、4人とも今までもずっと楽器で歌ってたんだっていうことで。
うんうんうん。個々のキャラクターをすごく大事にしているというか、今回はそれが出てこないと意味がなかったんですよね。で、曲を作るときにはこのフレーズを生かしたいなっていうのが絶対にあって、そこからすべてがスタートしていく。けど、そのフレーズがギターだけだと面白くなくて。ドラムのフレーズを生かしたい曲があってもいいし、ベースを響かせたい曲があってもいいって考えると、それぞれの楽器がスポットライトを浴びる瞬間があるというか。すべての曲がそういうふうにして成り立っていると思います。
――資料には「Zero」への根本潤さんのボーカル参加がトピックスとして書かれてますけど。根本さんの歌声のほうがよっぼど音的な感覚で発せられていますからね(笑)。
後ろから読んでる歌なので、完全にクレイジーですよね(笑)。でもそれをあえて日本語でやってるっていうのも、今作にマッチしていると思いますし。逆から読む手法に対する、なんだこれは?! っていう感覚はLITEの演奏でも持ってほしいし、驚かせたい。
――その「Zero」で終わるから、押し寄せる余韻の振り幅がものすごくて。
有無も言わさずバスッと終わりますからね。実は「Zero」のあとにもう1曲、幻の曲があったんです。アメリカでレコーデイングして、ミックスまでやって、ギリギリ粘ったんですけど、今作にはそぐわないっていう判断を最終的に下したわけです。それはミドルテンポで、「Warp」とはまた違う雰囲気の歌が思いきり入ってる曲なんですね。ただこう、LITEとしては「Warp」はかなりのチャレンジであり、トピックスでもあり、歌をこうやって入れていくんだっていう方向性を示すもので。けど幻の曲はまったく異なるアプローチだったので、同時に出しちゃうとブレが生じるような気がして、これはネクストステップなのかなっていう判断で入れないことにして。
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
――結果、「Zero」で終わることで、次はもうどこへでも行けるなという気がしました。
うん。そう思わせたいっていう狙いは確かにあったと思います。
――だって歌モノ曲ありな時点で、ほぼ無いものないっていうか。
出すもの出しちゃった感じですよね(笑)。だからまぁ、今回いろいろやって手ごたえを感じているところがあるので、次作は歌が全部入っていても面白いと思うし、管楽器がもっと入ってても面白いかなぁとも思うし、ゲストミュージシャンだけにしても面白いしっていう。本当に可能性の振り幅を感じてもらえる作品になっているんじゃないかと思いますね。
――スタート時は定まらず、少しずつ見極めて行って一個の道を貫くバンドもいますけど、どんどん広くなっていく感じがしますよね。
確かに確かに。
――実際の幅は変わってないのかもしれないけど、遠近法で広く感じる、みたいな。
(笑)。遠近法、面白い。本当にそうなんですよ。やってることはシンプルで、多分立ってる位置も変わらなくて。4人の絡みとか、4人のキャラクターを追求してるっていう芯があって、それをどう色付けしていくか。だから見え方で広がりっていうのは、確かに的を得ている話です。
――あとは、舞台や小説然り、いや、それ以上に音楽には「ここは海だ」って言ったら海にしてしまえるエネルギーがあるじゃないですか。ライブ中、演奏している4人の後ろに夕陽が見える瞬間もあるし。
それってその場で鳴ってる音でも想像できるんですけど、この過去を経たからこういうことをやってるんだなっていう、バックグラウンドをも見透かした風景っていうのもあるような気がしてますね。今この瞬間の奥に、バンドがここまで積み重ねてきたものから滲む風景というか。
――だから言葉がなかろうと4人には同じ景色が見えてるんだろうなと思う。
そう。それがインストだからって歌っちゃいけないわけでもないし、ってところに繋がっていく。
――そこが本当に面白いんです。
そもそも自由だからこそインストをやってるはずなんですよね。歌のキーに縛られなくてもいいし、転調だって何回したって構わない。そういうものの中で勝手に枠を作っちゃうのはもったいないなぁと思ってて。もっと言えば、自分たちがインストバンドだって意識もそんなにないんです。さっき話してたみたいに、ギターやベースが歌ってるっていうのもそうだと思うんですけど。あ、そう言えば俺たち歌がなかったね、くらいの軽いノリで考えてる節があります。
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
――自分たちがワクワクできることをやりたい、面白い音楽を作ろうよっていうことを13年積み重ねてきたらこうなったんだなって、今日、お話を聞いて思いました。
それを音の裏のバックボーンで感じてもらえればいいのかな。『Cubic』は全体を見ないでやりたいことを詰め込みまくったところもあるんですけど。最終的には散らばってるからこそ、散らばってるっていうジャンルの中でまとまっている、絶妙なバランスなんじゃないかと思います。
――「Angled」から「D」の流れ、ここが来るたびに私は、クスッとしちゃうんです。うわっ、キタキタキター!って。
それを想像すると 僕もフフフってなります。狙い通りだぜ、みたいな感じです。うん。曲の並びは相当こだわりましたね。何回も並べ直して、インタールードがここに必要だろうっていう選択肢が生まれたり。いや、本当に笑えるような要素って音楽にはすごく大事で。僕が影響受けた54-71というバンドは完全に歌詞がふざけてるし、一見さんが聴いたら、相当ヤバい人たちなんですけど(笑)。実は全部“これやったら絶対ウケるから”っていう考えでやってる。その音に対するファニーさ加減がものすごく自由だし、カッコいい。LITEでいうと、「すげぇ絡みやっててなんか笑っちゃう」っていう捉えられ方をしてもいいし、「いきなり日本語で歌い出したよ、コイツらウケる」って聴き方されてもいいし。そういう笑える衝撃を与え続けていきたいなっていうのは思ってます。
――すごく大事だと思います。
そう。決してコミックじゃないんだけど。
――コミカルにしようとするのではなく、アンサンブルのキワキワを攻め込んだら、ものすんごいカッコいいんだけど、なんかギャグ感が沁み出しちゃったっていう。
そうそうそう! そこですよね。それが今回は特に満載なんじゃないかと思うので、遠慮せずにクスッとしてほしいです。
取材・文=山本祥子 撮影=風間大洋
LITE・武田信幸 撮影=風間大洋
発売中
(CD)IWTM-1008 / ¥2,300(+税)
(CD+12 inchアナログ盤)IWTM-1009 / ¥3,500(+税)
1. Else
2. Balloon
3. Warp
4. Square
5. Inside The Silence
6. Angled
7. D
8. Prism
9. Black Box
10. Zero