中村佑介インタビュー アジカン新アルバム『ソルファ』ジャケットは「すごく難しかった」

インタビュー
音楽
アート
2016.12.16
中村佑介

中村佑介

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音楽ジャケットのアートワークを担当するクリエイターを取り上げてゆく連載企画『アートとミュージックが出会う場所』、記念すべき第一弾はイラストレーター・中村佑介氏が登場する。

2016年11月30日に再録盤が発売されたASIAN KUNG-FU GENERATION(以降、アジカン)の『ソルファ』。2004年バージョンと同様に、今回もジャケットは中村佑介が手掛けている。これまで、アジカンのほぼすべてのCDジャケットを担当してきた中村氏ではあるが、この再録盤イラストについては「すごく難しかった」と語る。その"難しさ"が意味するものとは何なのか。またどのようにしてそれを乗り越え、この新『ソルファ』のデザインへと帰結していったのか。たっぷりと語ってもらった。

 

――中村さんは、もともとCDジャケットがお好きだったそうですね。

はい。でも、仕事にできるとは思っていませんでした。中学生の頃から現在に至るまで、音楽を聴くのも好きですけど、CDというパッケージがすごく好きだったんです。特に90年代は、国内では凝ったCDジャケットがたくさんありました。外に出る時はカセットテープに録音した音楽を聴いていたんですが、そのカセットのラベルにCDと同じデザインを描いていたんですよ。そのうち、特殊ジャケットみたいなものはカラーペンだけでは再現不可能だから、自分でオリジナルの絵を描いたりもしだして。でも、ただ好きなだけで、実際に自分がジャケットのイラストを仕事にすることは想像してなかったんです。信藤三雄さんや木村豊さんなど、好きなデザイナーさんもいましたが、そこに自分が入っていくとは、あんまり考えたことはありませんでした。

――なかでも、特に思い入れのあるCDジャケットは?

パッケージ込みで宝物になったCDは、スピッツの『ハチミツ』初回限定版と、コーネリアスの『69/96』っていうアルバムの初回限定版。ほかにもたくさん好きな音楽はあるけど、パッケージって言われてすぐに思い浮かぶのは、その2枚ですね。

――個人的にもお好きだったCDジャケットというパッケージを、描く側になった時に最も意識することはなんでしょうか。

CDジャケットとは、中身となる音楽の説明であり、ほかの商品との差別化のためについているんです。だから、別に僕の表現ではないんですよ。僕のやりたいことはどうでもいいから、わかりやすく中身を説明して、ほかのものより目立って売ることができればいいと思っています。なので第一は、CD屋さんで目立って手にとってもらえるような仕組みを作ることですかね。遠くからパッと見てイメージが伝わって、近づいてみるとより細かいところが見えてくるという、二段階で楽しめる絵にしています。さらに言うと、レジに持って行きたくなるものにするっていうことも意識してます。

――かなりマーケター的な意識をもって描いているということですね。

普段イラストを描くときは、脳内の"営業やマーケター的な中村さん"が指令を出して、絵を描くのが好きな"子どもの時の佑介くん"に描かせている感じなんです。二人の僕がいて、どれだけの情報を詰め込めばどれだけの価値が出るかということを、きちんと踏まえてやっています。子どもの僕だけで描いたものは、親と愛好家にしか届かないものになってしまうので。CDジャケットなどのパッケージは、そんな一部に向けた創作ではなく、不特定多数に気に入ってもらわなくてはならない"商品"ですからね。

――そんな"商品"として他にも書籍の表紙なども手掛けられている中村さんですが、なかでも音楽CDというメディアが持つ良さ、特色は何だとお考えですか。

僕はCDが一番パッケージングとして丁度いいメディアだと思うんです。カバンに入るし、友達に貸せるし、プラケースが付いているから傷つかないし、棚に並べてタイトルも見やすい。すべてにおいて完成されたメディアだと思っています。だから、とにかく僕は、中古屋に売りに行きにくいようなジャケットを作りたいんですよね。手放そうと思ったときも後ろ髪を引かれるような。一枚でも誰かのそんな存在にできればと常に考えています。特に、お小遣いが少ない子の宝物になればと思っているのですが、それは、CDが大好きだった過去の自分に対する恩返しなのかもしれないですね。

――今回『ソルファ』の再録が決定した際に、まずはじめに思ったことはどんなことだったのでしょうか。

再録の話は、アジカン自身が昔からじわじわ言っていたんです。だから、納得したっていうか。すごくアジカンらしい、音楽に対して真摯に姿勢だと思いました。たとえば、クラシックやジャズ、落語の世界でも、新曲や新作はあまりないわけですよ。スタンダードと呼ばれるものを、新解釈で繰り返していっているんですね。音楽の元々の魅力ってそういうところにあると思うし、創作とエンターテイメントは、実は全然違うところに存在しているんだと思います。だから、別に今後アジカンが新曲を作らなくても……たとえば来年もう一回ソルファを録り直すとかでもいいと思うし。なので、びっくりはしなかったですね。納得したし、彼らは真面目だなと思いました。

――そんな新解釈で生みだされた新たな『ソルファ』、楽曲を聞かれた時の第一印象は?

今年3月に発売された「Re:Re:」再録シングルの時点からそうでしたけど、あんまり余計なことをしていないですよね。普通のアーティストの再録だと、昔はハードロックだったのが、いきなりボサノバみたいなセルフカバーになっていて、ファンはがっかり、みたいなことも結構ありますよね(笑)。そうやって別のベクトルに置き直すのではなくて、演奏は基本的にそのままで、主にグルーヴ感と演奏技術だけで大きな成長を見せるというのがすごく面白いと思いました。

ただ、音楽は”作品”なので、それで良いのですが、この場合は”商品”であるジャケットってすごく難しいなって思いましたね。前のジャケットと並べた時に、一瞬で見てわかる違いをどう出すかが肝でした。だけど、アルバムのタイトルも収録曲も同じだから、前と全く違うイラストを描いてもしょうがない。この相反するものをどうやって表現したらいいのかっていうことは、もうずっと考えていましたね。

――具体的に、その違いはどのようにして表現していかれたのでしょうか。

今回、僕個人のこだわりで描き直しをしましたが、前回と同じイメージに寄せているので、「あ、よく見ればぜんぶ描き直ししてるんだ!」と感じるくらいのバランスに仕上げています。その上で、背景には銀箔を貼ったり、ケースをスライドして、背景が見えるようにする。平面の世界ではあるんだけど、レイヤーが何層にも重なって、奥行きを感じられるようにしました。これはアジカンも言っていることなのですが、僕も、2004年当時の技術ではできなかったことをこのCDに詰め込もうと思ったんです。

 

――前回のジャケットと比べて、新たに追加されているモチーフも多く見受けられます。

当時の絵を見た時に、シンプルでイメージは強いんだけど、えらい殺風景だなと思って。うまい絵だとは思うんだけど、気持ち良くはないんですよ。そこで、単純に楽曲の世界をより反映することと、見ている人がより気持ち良くなることを目指して色々追加しました。それぞれのモチーフが持つ意味合いについては、実際に手に取った方がそれぞれ考えていただければなと思っています。

『ソルファ』(2016年)初回生産限定盤

『ソルファ』(2016年)初回生産限定盤

『ソルファ』(2004年)

『ソルファ』(2004年)

――御自身のTwitterで「おそらく今後これ以上凝ったパッケージは作れない」との発言がありました。この言葉の意味するところを詳しく聞かせてください。

レコードがテープになったように、CDも別のメディアへと移ってゆきますので、今回のようにビジュアルに予算をかける機会も少なくなっていくんじゃないのかなと思ったんです。洋楽のCDみたく、歌詞カードすら作れなくなるんじゃないかと。その意味で、「多分作れないですよ」と言いました。

――CDが売れなくなって、予算的にもパッケージ制作がどんどん難しくなる未来が来るとも言われていますね。

CDを好きで買い続ける人も一定数いなくならないと思うので、ジャケットの仕事がなくなるってことはないと思います。ただ、アニメと同じように、制作側は本当に好きじゃないとやっていけないような未来になることは予想されますね。

――新しい『ソルファ』を手に取られる方へむけて、メッセージをいただけますでしょうか。

昔のソルファを持っていて、再録盤をまだ買っていないという方に関して言うと、「昔の思い出が壊れそう」とか、「今はアジカンを聴いてないから」とか、そういう理由もたくさんあると思うんです。でも、心配しなくてもきちんと満足できるような内容になっているので、そこは安心してまずは視聴してほしいです。あとは、初回限定盤のパッケージはそんなに作っていないので、迷われている場合は、在庫があるうちに買っておいた方が良いです。昔のアルバムを買って、CDが傷だらけになるほど聴いてくれた人たちへの恩返しのつもりで作ったので、大人になったその人たちにとっても宝物になるようなパッケージを心がけました。その人だけの所有物にできるよう、スマホやパソコンから見た画像データでは、今回のパッケージの魅力は十分に伝わらない(共有できない)ような作りにしましたので、ぜひCD屋さんに行って実物で確かめてください。それで、騙されたと思って行ったら、きっと帰りはレジ袋を持っていると思います(笑)。そして人生の宝物が増えることを、僕は祈っています。

 

プロフィール情報
中村佑介
 


1978年生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、『セーラー服と機関銃』、『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。作品集『Blue』と『NOW』は13万部を記録中。初の教則本『みんなのイラスト教室』も話題に。
http://www.yusukenakamura.net/

 

リリース情報
ALBUM『ソルファ』

発売日:2016年11月30日(水)
『ソルファ』(2016年)初回生産限定盤

『ソルファ』(2016年)初回生産限定盤

『ソルファ』(2016年)通常盤

『ソルファ』(2016年)通常盤

[初回生産限定盤 (CD+DVD)] KSCL-2809~2810 ¥3,700+税
<仕様>透明スリーブ&銀箔
[通常盤 (CD)] KSCL-2811 ¥2,913+税

【CD】
01.振動覚
02.リライト
03.ループ&ループ
04.君の街まで
05.マイワールド
06.夜の向こう
07.ラストシーン
08.サイレン
09.Re:Re:
10.24時
11.真夜中と真昼の夢
12.海岸通り
 
【DVD】(初回生産限定盤Disc 2)
『ソルファプラス』- a day with AKG - 
1.「夕暮れの紅」Recording Documentary 
2.「夕暮れの紅」Music Clip

 

イベント情報
ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2016-2017『20th Anniversary Live』
 
2016年12月17日(土) 幕張メッセ・イベントホール
OPEN 17:00 / START 18:00
2016年12月22日(木) 神戸 ワールド記念ホール
OPEN 18:00 / START 19:00
2016年12月23日(金) 神戸 ワールド記念ホール
OPEN 16:00 / START 17:00
2016年12月27日(火) 名古屋 日本ガイシホール
OPEN 18:00 / START 19:00
2017年1月10日(火) 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2017年1月11日(水) 日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
2017年1月14日(土) 福岡国際センター
OPEN 17:00 / START 18:00
 
全席指定¥6,480(税込)
*3歳以上チケット必要
*高校生以下対象当日会場にて\1,000キャッシュバックあり
www.akglive.com/20th/

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