レア曲も満載! みんなで作り上げたKANA-BOON初のリクエストライブ
KANA-BOON 撮影=高田梓
『KANA-BOON冬のワンマンライブ ~セットリストはぼく・わたしにまかせな祭~』東京公演 2016.11.24 Zepp Tokyo
「今日は雨バンドが雪バンドに進化しました」(谷口鮪(Vo・G))。
東京では54年ぶりに11月の積雪を記録した11月24日。KANA-BOONが東名阪ツアー『KANA-BOON冬のワンマンライブ ~セットリストはぼく・わたしにまかせな祭~』の東京公演をZepp Tokyoで開催した。今回のツアーはそのタイトルどおり、ファンの人気投票による上位曲を披露するというKANA-BOON初のリクエストライブ。通常のツアーでは過去曲をあまり披露しないバンドだけに、この企画自体がプレミアムなものになることは予想していたが、それは結果としてバンドのヒストリーを総括するような内容になり、同時に彼らがどれほど真摯に音楽と向き合ってきたか、その軌跡と情熱を改めて感じることのできるライブとなった。
KANA-BOON 撮影=高田梓
開演時間、メンバー4人が一列に並び、手を繋いでステージに登場すると、会場からは割れんばかりの歓声が湧き上がった。1曲目はアッパーチューン「1.2. step to you」からスタート。誰もが体を動かしたくなるような小泉貴裕(Dr)の軽快なビートに、飯田祐馬(B)が繰り出す強靭なベースライン、我こそはギタリストと主張をする古賀隼斗(G)の鮮烈なギターリフ、聴き手の心を一瞬にして鷲掴みにするKANA-BOONのキャッチーな楽曲が、この日もフロアを瞬く間に最高点へと導いていく。そして、早くも披露された久々のナンバー「LOL」を皮切りに、「見たくないもの」(インディーズ時代のミニアルバム『僕がCDを出したら』収録)、「レピドシレン」(3rd single「フルドライブ」c/w)など、ふだんはライブで聴けないレアな楽曲が続々と披露された。なかでも<悲しみ苦しみ乗り越えてゆこう>と歌う「見たくないもの」で加速していくバンドのエモーショナルに触れると、こんな隠れた名曲が滅多にライブで披露されていないなんて、もったいないと純粋に思ってしまう。
KANA-BOON 撮影=高田梓
「懐かしいね」と今回のセットリストに新鮮な手応えを感じている様子のメンバー。先ほど披露された「レピドシレン」が上位にランクインしたことをお客さんに伝えると、「投票したよー!」という声がフロアからも飛んだ。この日は文字通り、バンドとお客さんとが一緒に作りあげるライブだ。中盤に披露された「MUSiC」と「街色」は比較的最近のナンバー。リクエスト結果の上位には、歌詞に強いメッセージが込められた曲が多い。<君が忘れられない歌を作って、歌おうと思う>と決意を綴る「MUSiC」も、<僕らの軌道線上に明日はあるかい>と問いかける「街色」も、バンドが音楽を鳴らす意味が詰まった曲だ。ちなみに「街色」は谷口のプッシュ曲でもあり、今回ライブで初披露。この曲がランクインしたことに、谷口は「KANA-BOONのことめっちゃわかってるやん」と嬉しそうな表情を見せた。
KANA-BOON 撮影=高田梓
「いま、僕らがいちばん好きな曲です」と紹介した最新ナンバー「Wake up」では<目を覚ませ>と、聴き手を鼓舞するように熱く歌い上げると、「冬が終わったら、春ですね」という谷口の短い言葉から、次の曲をいち早く察したファンから歓声があがった「さくらのうた」と、それに続く「桜の詩」。男女の視点でひとつのストーリーを書き分ける印象的な2曲をつなげた粋なセットリストだった。さらにセンチメンタルなメロディに失恋の忘れられない想いを綴った「羽虫と自販機」へと、谷口が描くストレートで素朴なラブソングでは、手をあげたり、頷いたり、思い思いのやり方で聴くフロアの雰囲気も心地好かった。
KANA-BOON 撮影=高田梓
あっと言う間に最後のMC。春のツアーからしばらくは吸収期間として、他のアーティストのライブを見に行っていたという谷口。ライブを見ながら、「悔しいなと思うこともあった。あそこは俺らが立つ場所なのに……」という、負けず嫌いなバンドマンらしい感情を滲ませながら、最後は「俺らの音楽を浴びることで、明日からもがんばってほしい」と真摯に語りかけた。ラスト2曲は「シルエット」と「A.oh!!」。一瞬のライブに少しでも何かを残したいとでも言うような4人の一丸となった演奏に応えるように、会場からも全力で返すシンガロングは、みんなで作るライブの締めくくりにあまりにも相応しかった。
KANA-BOON 撮影=高田梓
アンコールでは古賀以外のメンバーがツアーTシャツに着替えてステージに登場。ここで古賀のトレードマークである黒でデザインされたニューギターが紹介され、それを古賀が肩にかけると、「いよいよ古賀本体とギターの境目がわからんくなってきた(笑)」と、谷口。早速そのギターを使って繰り出した「ないものねだり」では、フロントの3人がステージ前列に歩み出て会場を煽ると、会場の盛り上がりはピークへ。そして、ラストナンバーは谷口がギターの弾き語りから歌い出したバラード曲「眠れぬ森の君のため」だった。2年前に地元・大阪の泉大津フェニックスで開催した初の野外ワンマンライブでもラストで披露されたこの曲は、インディーズ時代の葛藤がリアルに綴られたバンドにとって大切な1曲だ。そんなメンバーの想いを汲むようにこの曲がリクエスト1位に選ばれたことは、KANA-BOONとお客さんとが強い絆が結ばれていることの証のようだった。
KANA-BOON 撮影=高田梓
今回のリクエストライブの上位曲は、シングル曲ではなく、カップリングやアルバム曲が多かった。当然、投票したファンはKANA-BOONのシングル曲も大好きなはずだが、あえてそれを外して、「ここぞ!」という1曲を選んで投票したのだろう。それは「わたしたちはKANA-BOONの深いところをちゃんと理解している」という意志表示だ。そんな熱い想いがあったからこそ、今回のライブはとても素晴らしいものになったのだと思う。
KANA-BOON 撮影=高田梓
谷口はMCでこうも言った。「こういう機会があって昔を思い出した。実は10年を越えてるバンドで、そりゃあ生きてればしんどいこともあった。でも、いまバンドが楽しくて、音楽が楽しくて、良い曲もできてる。アルバムを出したくてしょうがない。楽しみに待っててください」と。メジャーデビューから3年。あまりにも早くシーンを駆け抜けたがゆえに、一時は純粋に音楽を“楽しい”とは言えない時期もあったKANA-BOON。だが、今回こうして信頼できるリスナーに囲まれて、自分たちが歩んできた道のりの尊さを改めて確認できたからこそ、ここからKANA-BOONは地に足着けて揺るぎない歩みを続けるだろう。
取材・文=秦理絵 撮影=高田梓
KANA-BOON 撮影=高田梓
1. 1.2. step to you
2. LOL
3. 盛者必衰の理、お断り
4. 見たくないもの
5. レピドシレン
6. 白夜
7. talking
8. MUSiC
9. 街色
10. Wake Up
11. 結晶星
12. スノーグローブ
13. フルドライブ
14. さくらのうた
15. 桜の詩
16. 羽虫と自販機
17. シルエット
18. A.oh!!
[ENCORE]
19. ないものねだり
20. 眠れぬ森の君のため